腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

気分は下剋上 香川教授の煩悶 <夏休み>の後

気分は下克上 香川教授の小さな煩悶 最終話

「今回の件は、まさか貴方が聞いていらっしゃるとは思ってもいなかった私のミスもありますので『仕方ない』の一言で済む話なのです。しかし、今後も職務上患者さんと雑談をして信頼を深めることもあるハズです。

しかし、その時どんなに耳を疑うような言葉を耳にしても、可及的速やかに私に直接聞いてください!それだけは約束ですからね」

太陽のような眼差しが真剣な光を放って(まぶ)しくすら感じる。ただ、この視線だけは真っ直ぐに受け止めなければならないと思った。

「約束する。これからは絶対に祐樹に聞くことを」

 祐樹の眼差しが春の光のように和らいだ。

「では、そうですね……。指切りげんまんでもして気分転換しましょうか?」

 ソファーから立ち上がった祐樹が小指を差し出してきた。

 弾む気持ちを持て余しつつソファーから腰を上げて祐樹の小指に自分の小指を絡ませた。

 ささやかな儀式が済むと、祐樹は時計をちらっと見て、苦い笑みを浮かべている。

「もう、行かなくてはならないのではないか?」

 先に確かめることにした。

「いえ、黒木准教授の指示が明らかに不審だったので、貴方が『良い意味で』会いたがってくださっているのかと考えていました。単なる報告だけではないことも何となく察していました。逆の意味で思惑が的中してしまって残念ですが、私が遅れることは柏木先生に説明してある程度はカバーしてくださると約束して来たので、もう少し時間があります。

 繰り返しになりますが……今回の件はもう終わった話なのですけれど、これから貴方を不安や悩みで――しかも身に覚えがない程度のことなら尚更(なおさら)のことです――この頭をいっぱいにしないでください。

 貴方の頭の中で私へのポジティブな想いに(ふけ)るのは大歓迎ですが、その反対は絶対に嫌なのです」

 真摯な光を宿す祐樹の眼差しに射すくめられて、その光ですら愛おしく思ってしまう。

「約束する、絶対に今後は祐樹に真っ先に聞くことを。

……正直なところ、悩みというか……正直どうしていいのか分からなくて一人で煩悶(はんもん)していた。祐樹の声で『好きです……愛していると言っても……』みたいな言葉を聞いた時には頭の中が真っ白になったというか、ハンマーで殴られたような気持ちになった。

 そして、呉先生に相談しようと思いついて……診察中だったので、消去法で長岡先生の意見を聞きに行って、二人から色々とアドバイスを受けたのでだいぶ気持ちが楽になった。

 それに二人とも祐樹の気持ちが全く色()せていないと言わんばかりだったな……。あれでかなり救われた」

 祐樹の秀でた眉が少し寄せられる。

「貴方の気持ちが救われたこととか、お二人の観察眼とか状況判断能力には素直に感謝するしかないですけれども……最初に聞かせて貰う権利を誰にも譲る積りはないです。

 浮気をする積りは金輪際ないですけれど、伝聞とか断片だけの言葉だけで判断しないでくださいね」

 要するに祐樹はまず本人に確認しろと言いたいのだろう。自然と項垂(うなだ)れてしまった。

「顔を上げてください。貴方の笑顔が私にとって一番の癒しなのですから……」

 宝物(たからもの)を扱うような手つきで祐樹の両手が頬を包んでくれている。祐樹の暖かな愛情が(てのひら)や男らしい指から伝わってくるようだった。

「煩悶なんてしなければ良かったなと、今となってはそう思う。

 こんなにも愛されている私なのに、祐樹のことだけは不安定に揺れてしまう心がどうしても存在していて……。それでつい……」

 自嘲の笑みを浮かべると、祐樹の指が額を軽く弾いた。

「『恋愛感情は目に見えないから信じられない』と付き合い始めた頃はよく(おっしゃ)っていましたよね。その頃に比べると随分変わられたので、これからは煩悶などなさらないようになりますよ、きっと。そうなるように私も努めますので、貴方も私の愛をもっと信じて不安定さを徐々に削っていきましょう、ね?」

 祐樹の唇が近づいて、自分の唇にそっと重ねられた。

 凍り付いた心が溶けるような優しいキスに陶然と目を閉じた。今までの重い気持ちが氷解して、春の陽だまりに祐樹と二人で佇んでいるような軽やかな気持ちになった。

            <完>


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気分は下剋上 香川教授の小さな煩悶 15

「あれはオペラの話です。篠原さんは商社勤務が長かったので、ヨーロッパの名だたる劇場にも何度も足を運んだとかで大のオペラ通になったらしくて。
 それで『田中先生はどのオペラが好きですか?』と聞かれたので『見てくれだけのバカ娘です。曲が好きで、愛していると言っても良い』と答えました」
 え?と思った。今度は自分こそ鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべているに違いない。
「……もしかしなくとも、断片だけお聞きになって、それで誤解なさったのですね?」
 篠原さんと雑談などはしない、というか出来ないので彼がオペラ通なのも初耳だった。そういえば、モーツアルトにそんな題名のオペラ曲が有ったような気がする。
 どっと、身体から力が抜けていく。出来れば椅子から腰をずらしたいくらいに。そういうだらしのない恰好はしたことがなかったけれど。自分の手技を頼って来てくれる患者さんは国内外に存在して、比較的裕福な方が多い。祐樹は元々オペラに興味も関心もなかったらしいが、患者さんと話す必要性を感じて夜勤の合間に聴いているという話は知っていた。
「……オペラの話だったのか……。てっきり祐樹が『見てくれだけのバカが好き』なのだと思って切ないほど悩んでいた……。
 祐樹、コーヒーを淹れる……な」
 立ち上がって祐樹の前まで行くと白衣の上から腕を掴まれた。
「私は貴方のことを死ぬほど愛しているというのに、そして言葉でも行動でも充分示していた積りでしたが……まだ足りないようですね」
 強く抱きしめられて唇を重ねられた。祐樹の舌が唇を濡らしてくれたので誘うように先端を舐めた。
 深まる口づけに心の底から安堵して、心も体も祐樹に委ねていく気持ち良さに浸ってしまう。祐樹の身体からは清らかな消毒薬の香りが漂ってくる。
 口づけを交わしながら祐樹が壁に掛かった時計にチラリと視線を向けてから「そこに座って下さい」と応接セットの椅子を長い指で示した。
「土下座でなくて良いのか……?」
 祐樹のことを信じ切れていなかった自分を恥じながら聞いてみた。
「愛する貴方にそういう行為は求めていません……。とにかく座って下さい」
 コーヒーを淹れるのは中止して指示されていた場所に腰を下ろした。
 すると祐樹は膝の上に頭を乗せて膝枕状態になる。ただ、ソファーがそんなに広くはないので、足ははみ出ていたが。
 そして、頭の重さも全部乗せるのではなくて僅かに浮いているのが祐樹の優しさだろう。せめてものつぐないにサラリとした前髪を梳いた。
……まぁ、早い段階で直接聞いて下さったのは大進歩ですね、貴方としては、ですが……」
 指先から零れていく髪の毛の感触とか膝の上の心地よい重さを受け止めながら祐樹と視線を合わせている。
「実は長岡先生と呉先生に相談した……。相談しなければ、祐樹が家に帰ってくる二日後まではずっと悩み続けていたと思う。
 祐樹のことは愛しているし、信じてもいる。いるけれども、やはり不安で……」
 祐樹の目が優しさに溢れた光を宿していて、見つめ合っているだけで幸せだった。
「あの二人なら大丈夫でしょう。
 ちなみに二人にはどうアドバイスされたのですか?」
 祐樹の前髪を梳きながら多幸感で眩暈めまいがしそうだったのだが。
長岡先生に『教授は人類を二つにくっきりと分けて考えている』と言われた」
 男らしく整った眉を僅かに寄せた祐樹は「どういう意味です?」と呟いた。
「つまり、私の頭の中で、人類には二種類居て、祐樹とそれ以外とにくっきりハッキリ分けて考えていると言われたな」
 祐樹は快活かつ優しそうな声で笑っている。
「彼女からそう見えるのでしたら、そうなのでしょうね。特別な一人に選ばれて光栄です。生涯、いえ命が無くなってもその地位を誰にも譲る気はないです」
 可笑しそうに笑う祐樹の顔を見ているだけで幸福な気分になった。そして告げられた言葉にも。
「その話をしてくれたくらいで……後は、内田教授の医局員の鈴木先生が彼女を呼びに来て結論は『大丈夫です』で話は終わった」
 祐樹は思い当たったという感じの表情を浮かべている。相変わらず唇は笑みを浮かべていたが。
「鈴木先生とは少し話しました。彼も内田教授の信奉者みたいな感じでしたね。ちなみにウチの大学出身者なので、色々な伝手つては有りそうです。まあ、今回の話には関係ないのでそれは居ておくとして……」
 話の先を促している眼差しが太陽のように輝いていた。
「呉先生に長岡先生の先ほどの話をしたら大爆笑されてしまった……。
 その後、断片的にしか話を聞いていないのではないかという点と、即座に祐樹と話すべきだと言われたな……。
 アドバイスに従って本当に良かったと思う……呉先生の判断が当たっていたし、不定愁訴外来に黒木准教授からの電話が有った時に『田中先生を執務室に呼び出せ』とちょうど向かっていたPCの画面上で指示された」
 祐樹が成る程といった感じで頷いている。
「黒木准教授も何だか不思議そうな感じで私に指示を出していたので少し不審感を抱いたのですが……、私はてっきり執務室で逢瀬かと期待して来ましたけれど……。患者さんとの世間話なんて、その患者さんが退院するまでは覚えていますけれど、それ以降は脳から消去してしまいます。
 その程度の――と言うとせっかく悩んで下さった貴方には失礼ですが――問題で呼び出されるとは思いも寄らなかったです。
 ただ、これだけは約束して下さい」
 祐樹は膝の上から頭を離して座り直した。睫毛が触れ合うほどの近さで見つめ合った。
 真摯な瞳の光も太陽を彷彿とさせて、その眩しさに魅せられてしまう。





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気分は下剋上 香川教授の小さな煩悶 14

「あ……『一応上司として状況を把握したいので、執務室に田中先生を呼んで貰えますか?』」
 画面の文字を読んだだけなので棒読みになっていないと良いけれども。
『承りました。では15分後を目途めどに田中先生が執務室に行くように調整致します』
 特に不審は抱かれていない感じで電話が切れた。
「香川教授、田中先生の手術オペを聞くというのは口実ですよ。こういう絶好の機会にキチンと本人から聞いてスッキリして帰宅して下さい」
 「手術オペ」という言葉だけで蒼褪めていた呉先生が力付けるように背中を叩いてくれた。
分かりました。行ってしっかり聞いて来ます」
 内心ではひるむ気持ちがなかったわけでもない。しかし、このまま帰宅しても色々悪い方へと考えてしまうのは目に見えている。即断即決が外科医としての適性の一つで、周囲の人間から「その才能にも恵まれている」と称賛されたことは数えきれないけれども、祐樹のこととなると話は全く別になってしまう。
では!行って参ります」
 呉先生はスミレ色の笑みを満面に浮かべてもう一度背中を叩いてくれた。
「頑張ってくださいね。そんなに心配しなくても大丈夫だと考えますが、気になるので宜しければ結果を教えてくださいね」
 呉先生の激励の言葉に笑みを浮かべて辞去の挨拶をした後に、決然とした足取りで旧館を後にした。
 先ほどの旧館と異なって人ごみの絶えない新館の廊下を歩いていると、病院関係者は親し気な笑みを浮かべてお辞儀をしたり会釈をしたりしてくれた。
 病院改革のために次期病院長を目指すと決心してから、なるべく話しかけるように努力はしていたものの、今はそんな余裕がこれっぽっちもない。
 長岡先生や呉先生のおかげでかなり気持ちは楽になった。なったのは事実だが内心の不安はまだ存在していた。
 祐樹は自分の外見こそ「好みのタイプ」と言ってくれてはいた。性格も褒めてくれている。暗記力も。暗記力はバカの範疇内なのだろうか?ただ、一般的に記憶力が良い人は「賢い」とされているような気がする。
 秘書が帰宅した執務室に入って、執務用の椅子に座る。キチンと片付けられた机上の物を意味もなく並べなおしたり、ネクタイを結びなおしたりして刻々と迫りくる時間を息詰まる気持ちで過ごした。
 扉が軽快な感じでノックされると共に「田中です。お呼びにより参上致しました」と声がする。
 いつもなら弾む気持ちを抑えて事務的に聞こえるように「どうぞ」と即座に言っていた。しかし、今日は大きく深呼吸をした後に「入って下さい」と平静を繕って返事をした。
 普段と変わらない祐樹の男らしく整った顔と淡い笑みを唇に浮かべた顔を見ても、笑みが浮かべられない。
「手術報告書など一式お持ちいたしました」
 ドアの前で活舌よくテキパキとした感じの耳に心地よい声で言っている。この時間は帰宅する教授や教授秘書などが多いので、祐樹もそんな耳を警戒しているのだろう。
「確認するので、こちらに持って来て欲しい」
 声は震えていなかっただろうか?そして表情が硬いと思われなかっただろうかと思いながら。
 患者さんから差し入れのランチが届いた時などは応接セットに向かい合って座るが、とてもそんな気持ちにはなれなかった。
 震えそうになる指で祐樹から書類一式を受け取って、素早くチェックした。黒木准教授と祐樹の処置は、自分でもそうするだろうと思った。
 電子カルテが主流になったとはいえ、教授職への報告はまだ紙ベースだ。
 その紙の束をデスクの上にパサリと置いた。その次の瞬間に、清水の舞台から飛び降りる気持ちで口を開いた。
「素晴らしいです。処置としては完璧ですね。
 ところで…………」
 息が苦しい気がしてネクタイのノットを緩めてしまった。祐樹が怪訝そうに自分を見ている。どこに座ってもらえれば良いのか全く分からなかったので立ったままだ。祐樹も多分、いや絶対に自分の様子がおかしいことに気づいている。他人の耳がある場所以外で自分が祐樹に丁寧語など使わない。「素晴らしいです」と言った時に秀でた眉が不審そうに寄せられていたのがその証拠だろう。
「何でしょうか?」

 むしろ心配そうな表情を浮かべて祐樹が促してくれた。
「今日の16時頃、篠原さんのベッドに行ったな?」
 本題になかなか入れず、外堀から埋めていくようなまどろっこしいことを言ってしまった。ちなみに篠原さんは患者さんの名前で、一部上場商社の専務で気難しいところも有る人のようだった。だから祐樹を担当医にしたのだが。
 そしてあんなに談笑していたのだから祐樹のことを大変気に入ったのだろう。
「はい?参りました。久米先生と一緒に様子を見に……。ただ容体は安定しているようでして……単に機嫌が悪かったようですけれど……」
 祐樹は何故そんなことを聞かれるのか分からないといった表情を浮かべている。
 確かに、容体の急変などがない限り報告は必要ない。
「その時に……こう言っていたな……『見てくれだけのバカ……好きです。愛していると言っても良い』と。
 ……祐樹の好みは、本当はそうなの……か?」
 机を挟んで前に立った祐樹は鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべている。
 普通の人なら間抜けな顔になるハズなのに、祐樹の端整な眉とか引き締まった口元などでそうはならない。
「聞いていらっしゃったのですか?確かに言いました。言いましたけれど……」
「けれど」の後に何が続くのか聞きたいような聞きたくないような気持で綺麗なラインを描く口元を見上げていた。



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気分は下剋上 香川教授の小さな煩悶 13

「彼女のバックを一個でも良いのでこっそり盗んで、ヤフーオークションなどでこっそり売ってしまいたいという誘惑に駆られます。

 特にクロコダイルとかだと物凄く高値からの出品なので、あの値段で売れれば税金を分割払いではなくて一気に支払ってしまえるのに……とね」

 どこか遠い目をして(はかな)げに笑う呉先生はよほど税金に悩まされているのだろう。固定資産税は一括で支払うモノだとばかり思っていたが――ただ、あのマンションの名義は祐樹なので祐樹の口座に入金するようにPB(プライベートバンク)の担当者に指図はしてある。機械的に振り込まれるようにしたので祐樹はお礼を言ってくれたし負い目を感じることもなさそうだった――そんなに高いとは思ってもみなかった。確か、森技官も家賃としてお金を払っていると聞いていたが、それでもまだ不足しているということなのだろう。

自分のマンションと呉先生の祐樹(いわ)く薔薇屋敷の差について考えてみた。答えは土地の大きさだろう、多分。ただ具体的な金額まで立ち入って聞くのも憚られた。

「そんなに高値で売買されているのですか?」

 定価は知っていた。自分も40センチの牛革のバーキンを個室で見せられたことが有ったので。バックの話をして、呉先生の負担額を類推するしかない。

 長岡先生が言っていた「エルパト」なるモノがどの程度の人数居るのかは知らないが、毎日店舗に行って収穫もなく帰るよりも多少高くても――ただ偽物のリスクは高まる――インターネット取引で買おうとする人は一定数居るだろうなとも思う。

「ご覧になりますか?」

 取り敢えず頷くと、呉先生がPCのキーを叩いている音が部屋に響いた。旧館のノスタルジックな趣きの有る部屋には少し似つかわしくないのは、細い指が強くPCのキーボードを叩いているからだろう。

「これですね……」

 画面を見るようにと眼差しで指図されて呉先生のデスクに移動して画面にずらっと並んだ商品の値段を見て驚いた。

 新品で200万円以上とか普通で、80万円はいかにも古いといった感じだった。

「こんなに高いとは思っていなかったです。物の値段は需要と供給のバランスで決まるのは知っていましたが、需要の方が明らかに多いみたいですね……。これ定価は140万円ですよ……」

 呉先生の固定資産税は年に100万円から200万円くらいなのだろうと推測しながら話した。

「定価ってそんなに安いのですか……。長岡先生から盗むというのは勿論、冗談です。でも140万円で買って200万円以上で売れたらそれだけで60万の儲けが出ます。

 固定資産税用の口座に60万も入ったら……とても嬉しいのですが……」

 スミレ色の溜め息をついた呉先生を力付けたくて。

「私も店舗に行きますので、担当者に聞いてみます。購入して定価でお分けしますので。後はお好きなようになさってください……。ただ在庫がない状況が続いているみたいなので何時(いつ)になるか全く分かりませんし、お分け出来ない可能性も高いですが……」

 いつもお世話になっている呉先生の細い肩に掛かっている負担を少しでも減らしたくてそう言ってみた。

 大学病院の給料はポジションで決まるので助手の呉先生よりも教授職の自分の方が多い。

祐樹はAiセンター長などを兼務している上に夜勤手当も付いている。

 しかし、呉先生の場合は定時で上がることの方が多いので、残業手当も出ないのだろう。

「図々しいお願いですが、宜しくお願いします」

 呉先生の可憐な笑みが少し寂し気だった。

「そう言えば、長岡先生に言われました。私は人類を明確に二分割して把握していると。つまり、ゆ……田中先生と、それ以外の人間に分けて考えていると」

 重くなりがちな空気を紛らわせるために咄嗟(とっさ)に口に出したのだが呉先生は細い肩を揺らして笑い転げている。

 そんなに面白いことを言ったとは思えなかったのだが。

「まさに至言ですね。長岡先生に対する、ただし一方的なモノなのですが……認識を変えなければ。

 良く教授のことを見ていらっしゃる女性なのですね」

 笑い過ぎて息が苦しそうだったけれどもそう感想を伝えてくれた。

 呉先生にもそう見えていたのだろう、多分。

「あ、電話ですね。多分教授では?」

 内線電話の受話器を細い指で取りながら呉先生が独り言のように呟いている。

「香川教授、黒木准教授からです」

 スマホは鳴らなかったので、自分の出番ではなくて単なる事後報告のような内容だろうなと思いながら受け取った。

「お電話替わりました。香川ですが、どうなりましたか?」

『香川教授、内田教授の要請を受けて田中先生が処置に当たりました。手術(オペ)の予後は順調ですので教授のお手を煩わせることはないと思います。ご報告をと思いまして』

 温厚そうな声が電話越しに伝わって来る。手技の腕は可もなく不可もないといった人だけれども人を見る目とか医局の采配についてなどは全面的に信頼している。

「田中先生が手術を……。分かりました。ご報告有難うございます」

 「田中先生」と口に出した瞬間に、呉先生の細い指がPCのキーボードを叩きつつ画面を見ろというふうに眼差しで伝えて来た。怪訝に思いながらも画面を見て驚いた。


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気分は下剋上 香川教授の小さな煩悶 12

「教授はご自分のことに対して決断は素早くて的確ですが、田中先生が絡むとお一人で悩んで解決しようという傾向に有りますよね……。悩んでご自分を追い込むよりも、田中先生に直接聞いた方が建設的です。帰宅は無理でも病院内でも良いではないですか?

 田中先生も少しくらい時間、取れますよね?私の個人的感触からしてそんな深刻な問題にはならないような気がします。

 同居人なんて……、新宿二丁目に詳しいということで……とある大臣の案内役(ガイド)というか接待して、良い感じにカップルになった某大臣をお見送りした後――まあ、バレれば物凄いスキャンダルになりますので某大臣は同居人に頭が上がらないハズなのは良いのですけど――声を掛けられた人間がタイプだったようで、一緒に一杯呑んだ後にラインを交換してやり取りしていたのですよ!!

 もうアイツ信じられないと思って」

 新宿二丁目は確か自分のような性的嗜好を持った人間が集まる場所だと聞いている。実際に行ったことはないし興味も皆無だが、森技官が詳しいというのも知っていた。 

 厚労省のナンバー2だった人に何故か「そういう」厚意を持たれてしまって料亭で唇を奪われた覚えがある。その後必死に逃げたものの、祐樹に申し訳ない気持ちでいっぱいだったし別れを覚悟した。

 呉先生の言う「自分を追い込む」性格なのも分かっている。

「ラインの交換って何故分かったのですか?」

 呉先生には絶対に言えないことだけれども、祐樹が幹事を務めた医局の慰安旅行の宴会の日時と旅館が厚労省ご一行様と恐怖のバッティングをしていたことがあった。

 色々と無理難題を言ってくる厚労省に対して良い感情を持っている医師はいないだろう。

 呉先生だって個人としての森技官に対しては恋愛感情を抱いているだろうが、厚労省は大嫌いだったハズだ。とある薬剤に認可取り消し決定が厚労省から降ってきて「あの薬が使えなくなると、却って入院患者が増える」とかで。

 自分の医局も皆が日ごろは口に出さないだけで、思うところはたくさんあった。旅先の宴会場は(ふすま)で仕切られただけだったので隣の宴会の様子など筒抜けだ。会話の端々で相手が憎き厚労省の人間だと分かったら酒の勢いも加勢して大乱闘に成りかねない。

 そうなったら幹事役の祐樹も事態の収拾に忙しくなるだろうし、警察沙汰になった場合は医局の名誉にも関わるし、個人的には祐樹が深夜に夜這(よば)いに来てくれるという約束が果たされないのは嫌だった。

 なので、日程を替えて欲しいという交渉に一人で森技官と会ったことが有る。もちろんその時も呉先生と森技官が恋人同士だった。交渉成立した後に、森技官は祐樹がナースをお茶に誘う程度の感じで――実際に祐樹がナースをお茶に誘うところは見たことがないけれど――ホテルへと誘われた。

 誘われたけれども断ったのは言うまでもないが、呉先生には黙っておこうと思っていて、今更そんな話を蒸し返す積りもなかったけれど、森技官なら呉先生に露見しないような火遊び程度はしてそうだ。

 国家公務員なので職業柄全国を飛び回っているみたいだし、東京にずっと居る時も有って呉先生の目をかすめる程度は森技官も出来るだろうし。

「たまたまスマホをテーブルの上に置いたまま、トイレに行ったのです。そしてそのスマホが振動したので何気なく見たのです。

 アプリを起動させなくても始めの数行は読めますよね?既読も付かないし……。(職場関係の緊急の用件だったら早く知らせないと)という思いも有りました……」

 思い出しても腹立たしいのか先ほどとは違って焼き栗の袋を華奢な指が強い力で破っている。親の仇と言った風に焼き栗の洋菓子を三個も口の中に入れている。スミレの花のような可憐な唇が自棄(やけ)になったかのように動いていた。

 多分だが、呉先生の愚痴を祐樹も聞いたのだろう。あの時の会話を録音していたのであれば、それを聞かせると火に油を注ぐようなものだと思って自重したのかもしれないなと思う。

「……それでね、文面が『会えてチョーうれしい今度はホテル』までが読めて、問い詰めたのです」

 お菓子の欠片を付けたままの唇が悔しそうに震えていた。いや、怒りなのかも知れないけれど。

「なるほど……。即座に聞くのがコツなのですね……。

 ちなみに森技官はどう言い訳を?」

 祐樹とも仲の良い口喧嘩友達な森技官は口も良く回るし頭脳も明晰な人だが、怒った呉先生の場合理屈で納得させるのは無理だろうなとも思う。

「『一杯呑んで話が弾んだのも事実だけれど、ラインを交換したのはその場のノリで。そして、自分は見た目がゲイっぽい人には興味がないので、ホテルに行く気など全くなかったし、これからも行く気は一切ない』と。一応は納得しましたけれど……10日間は許す積りはなかったのですが、二日の間見ているこちらが噴き出すほど悄然とした雰囲気というか、叱られた犬がそのまま家から飛び出して、ゲリラ豪雨に打たれてしょんぼりと家に帰ってきたみたいな雰囲気を醸し出していて……。

 思いっきり笑ってすっきりした後……そのう……恋人としての『語らい』をベッドの上でした……というか……。

 それで仲直りをしました。香川教授もあれだけ田中先生に愛されているのですから本音をぶつけても良いと思いますよ」

 あれだけというのが具体的にどの数字を指すのかは分からないけれども、目の前でコーヒーを飲んでいる呉先生も先ほど相談に行った長岡先生も自分に対する祐樹の愛情については全く疑ってはいないようだった。

「そういえば、うちの医局の唯一の内科医である長岡先生にも相談に行ったのです……。あいにく呉先生が診察中でして……」

 呉先生の細い眉が怪訝そうに寄せられたが、直ぐに花が開くように微笑んだ。

「ああ、あの優秀な先生ですか。

 そして、エルメスのバーキンを腐るほど持っているというウワサの……」

 言葉を切ってなんだか秘密めいた口調に変わった。

「固定資産税通知書が来て、年四回の納税日が迫って来た時などはね……」

 次の言葉に思わず耳を疑ってしまった。


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