腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

気分は下剋上 主な登場人物紹介小説

気分は下剋上 登場人物紹介小説 10

「田中先生、お元気そうで何よりです。もう、香川教授や田中先生の家の方角には足を向けて寝られません。本当にお世話になっていますし、先の事件では……」

 白河教授が平身低頭といった感じで祐樹に挨拶してきた。脳外科の狂気の研修医が仕出かした「夏」の事件のことに未だ罪悪感を抱いている。

 祐樹も予兆を察知しながら最愛の人を危険にさらしてしまったことに忸怩(じくじ)たる思いを引きずっている。

「白河先生も田中先生も外科医だろう。過ぎてしまったことは取り返しがつかないことくらい分かっているだろ?もうサッサと切り替えろ。切り替えの早さは優秀な外科医としてのバロメーターなんだよっ!!」

 「夏の事件」は病院長が「脳外科の白河准教授(当時)そして教授職しか知らせてはいけないと箝口令(かんこうれい)を敷いている。

 最愛の人の精神的ケアを直接担当した呉先生は別だったが。

 おそらく桜木先生は白河教授から聞いたに違いない。

「あの時はさ、香川教授も右腕にケガしたんだろ?でも、何だか厳戒態勢っていう感じの月曜日のオペはいつも通りの華麗かつ大胆だった。

 手術室スタッフの多さとか表情で何かが起こったのだろうな……とは思ったが、黒木のおっさんまで出張ってきてたもんな……。

 教授は大丈夫なのだから、そんなに悲観することはないだろ?」

 祐樹と白河教授の背中をバンバンと叩きながら――多分フォローしてくれているのだろう――真剣な声でそう教えてくれた。

「痛いですよ。

 そうですね。切り替えます」

 祐樹とか森技官が踏み込むのが遅れたら、無理やり最後までされていたことは病院長以下の教授職には伏せてある。

 だから、白河教授経由で聞いたと思しき桜木先生が知らないのも無理はない。

 当時の厚労省ナンバー2に唇を奪われただけでも取り乱していた最愛の人だから、極上の花園を蹂躙されたらどうなるのか分からない。それを防いだだけでも良しとしよう。

 肉厚の手が祐樹を力付けるために背中を叩いてくれているのは明白だった。

「ま、過ぎたことはスルーして、次に活かせばいいさ。

 で、俺はもうここから退散しても良いんだろ?病院長室ではケツが痒かったし「、教授執務室ではムズムズした。ま、香川教授のトコのコーヒーはすげえ美味かったけどな。

 そろそろ手術室の空気が吸いたい。こんな場所は似合わないし、さ」

 頑固な手術職人というあだ名に相応しい言葉に笑ってしまった。

「いえ、今度は論文執筆の手伝いをしてもらいたいのですが」

 ポリポリと頭を掻く桜木先生はあからさまに迷惑がっている。

 白河教授もそれは分かったのだろう。

「口述で構いません。それを私が論文形式に纏めますから。悪性新生物科の教授には許可を貰っていますし。

 今日のオペはあのヘボ教授でも充分可能でしょう」

 有無を言わせずといった感じで白河教授の部屋まで連行されていった。

 白河教授も最愛の彼と同じく学生時代から救急救命室に入りびたっているほど職務熱心な人だと聞いている。

 生粋の外科医として職務にまい進していた結果、実力で准教授職まで上り詰めた人だ。

 そして、いずれ行われる病院長選挙には「絶対に香川教授を押します。病院内に蔓延る旧態依然な悪しき慣習、教授のお気に入りとかではなくて実力で評価される病院を作りたいのです」と言っていたので信頼は出来る。最愛の人が病院長の椅子に座ったら、教授に嫌われてとか、逆らったら飛ばされるといったことを無くすのが目的だろう。

 そう言えば精神科の真殿教授は。彼視点からすると「古き良き大学病院が良い」と思っているフシが有る。

 もしかして森技官は病院長に「そういうのは古いです」といった釘を刺しに来たのではないだろうか?

 そんなことを考えて時間潰しに佇んでいると、最愛の人の秘書が出て来た。当然ランチを摂るためだろう。

「香川教授がお待ちかねでらっしゃいます。出来れば急いでくださいね」孫も居る――実際に存在するのかは聞いていない――年齢の人なのだが、実務能力という点ではピカ一だ。

 最愛の人は美人秘書を侍らしている斎藤病院長とは異なって「仕事さえ優秀ならばどんな人でも大歓迎」といった人なので、プライベートでは色々仕出かしてくれる超優秀な内科医という点だけで医局に迎えたと聞いている。

「香川教授、田中です。お呼びにより参上いたしました」

 緊張した表情を取り繕ってノックをした。何しろランチタイムなので廊下には教授とか教授秘書といった人が歩いている

 この表情だと、職務でミスをしたとかで教授に呼び出された医局員にしか見えないだろう。

「どうぞ」

 怜悧な声が室内から聞こえた。

「入ります」

 声を掛けて入室した最愛の人の大輪のピンクの薔薇のような笑みと応接用のテーブルに用意された料理に見惚れた。

 正確には最愛の人が9で料理は1だ。





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気分は下剋上 登場人物紹介小説 9

「よ、田中先生。執刀見ているぜ。香川教授とは全く違ってはいるが……、豪快というか天衣無縫というか、とにかく見ていて飽きないな。また時間が空いたら見に行く価値は充分有る見事な手技だ」

 (教授執務階でエレベーターが停まっているよな……?)思わず階数表示を確かめた。

 この階には近付きもしない――悪性新生物科の教授に叱責を受ける時くらいだろう、多分――桜木先生が親しげに話しかけてきていた。

 彼は「手術室の(ぬし)」とか「頑固な手術職人」と呼ばれていて手術室では有名人だし、表向きは教授執刀とされている難易度の高い手術をこっそりと執刀していることは外科医の中では公然の秘密だった。

 出世には一切興味がなくて、趣味は優れた手技をモニタールームで見学するという根っからの手術職人だ。

 ただ、祐樹も最愛の人が凱旋帰国をしなければ、ひねくれた研修医から日の当たらない手術職人になっていた可能性は高いので他人事(ひとごと)とは思えないし、帰国直後の医局トラブルの一環として――考えるのも腹立たしいが――当時の手術室ナースを買収してメスなどを渡すタイミングをワザとずらして妨害させていた。その件で最大の証人になってくれたのは桜木先生と当時は学生だった久米先生だった。

「お褒めに与って恐縮です。桜木先生の期待を裏切らないようにより一層精進します」

 この先生は外科医を手技でしか判断しないし、お世辞なども一切言わない人なのも知っている。

 だから純粋に嬉しかった。

「いつもの雰囲気とはまるっきり異なっていらっしゃったので少し吃驚(びっくり)しました」

 手術室から出ないのでぼさぼさの髪に無精ひげという恰好は見慣れていたが、髪もそれなりに整えているし、無精ひげはなくなっていたので雰囲気が全く異なる。

「ああ、これか……。脳外科の白河教授と共に病院長に呼び出されたんで、仕方なくだ」

 何だか不快そうにかつて無精ひげが生えていた場所を指で弄っていたが、何だか達成感に満ち溢れているような表情だった。

「脳外科の白河教授と?では、悪性脳腫瘍の切除方法をついに突き止められたのですか?」

 外科的アプローチ不可能だった悪性脳腫瘍の術式を模索していることは知っていた。
 何しろ手術職人だったせいで執刀歴は長いし、脳にまで転移したガン細胞を取り除く手術をしているうちに閃いたらしい。

 ただ、脳外科の白河教授と――前任の野田教授は「夏の事件」で狂気の研修医から金銭的な援助を受けて特別扱いしていた件などで引責辞任している――桜木先生を引き合わせたというか「あんたなら病院を変えてくれそうな気がするので全面協力をする」と最愛の人の病院長就任に向けて陰で動いてくれている。

 最愛の人、しかも教授職に向かって「あんた」呼ばわりは一瞬ムッとしたものの、桜木先生の性格は知っていたし実力という点で尊敬に値する人なのでスルーしたが。

 「披露宴」で白河教授とも意気投合して、共同研究及び執刀をしていたのは知っている。

「ああ、何とか目途はついた。患者の状態にも依るが、な。

 で、そもそも切っ掛けを作ってくれた香川教授にも挨拶に来た」

 なるほど、だから教授執務室がずらりと並ぶこの階に来たのかと納得した。

「白河教授ももう直ぐ香川教授の部屋から出て来るぜ?

 何でも医局運営の件で折り入って相談が有るとかで……。

 ただ、香川教授は『ランチタイムは秘書が居ないので……』とか言って12時までの時間指定していたからもう直ぐ出て来るハズだ」

 ぶっきらぼうな感じでそう教えてくれた。ただ、この先生はいつもこんな感じなので全く気にならない。チラリと腕時計を見ると11時58分だった。

 昼食の時間がマチマチで場合によっては食べ損ねる場合もある医師とは異なって教授秘書などの場合ランチタイムは普通の職場と同じく12時から一時間きっちりと休める。

 ただ、最愛の人は「祐樹が来るから12時までには退出して欲しい」という遠回しの言い方ではなかったかと思ってしまう。

 ウソがつけない人が必死に考えてくれたのかと思うと愛おしさが募った。

「そうですか。医局運営の話でしたら両教授のお二人でなさるのが良いと思います。

 白河教授が出て来られるまでお待ちします。

 私も患者さんのことで緊急に報告したいことが有ったので、黒木准教授の代理で参ったのです」

 ウソをつくと口数が多くなるのは人間として普通だろう。

「そうか、田中先生の手技は天衣無縫だとさっき言ったが、道具出しのナースが異なると一秒ほどのタイムラグが有る。あれは改めた方が良いぜ?

 道具出しのナースちゃんそれぞれのペースというか癖に合わせるともっと良い手術が出来る。一人一人のクセを把握すべきだろうな」

 思ってもいないことを言われてハッとしてしまった。だが、桜木先生が親切心からアドバイスしてくれているのは分かったので素直に頭を下げた。ナースに「ちゃん」付けをする辺り(ごう)(がん)不遜(ふそん)を絵に描いたような桜木先生らしい。

 最愛の人は手術室ナースを――しかも最も重要な道具出し――選べる権限は持っているが、桜木先生や――同列に並べるのもおこがましい気はするものの――祐樹は持ち合わせていない。

「有難うございます。確かにそうですね……。一人一人のクセというか反射神経を把握するように努めます。

 手術室の先輩のアドバイス、本当にためになります。これからもお気づきの点は遠慮なくご教示ください」

 深々と頭を下げていると、最愛の彼の執務室のドアが開いて、白河教授が深々とお辞儀をした後にこちらに向かって来た。

 何だかとてもスッキリした表情なのは医局運営についても的確なアドバイスを貰ったに違いない。最愛の人がどんな助言をしたのか気になった。





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気分は下剋上 登場人物紹介小説 8

 録音アプリをタップして再生してみた。さて吉と出るか凶と出るかの博打(ばくち)打ちの心境だった。

 彼らは多分お金のためだろうが、祐樹の場合は森技官への兵器として使用する。今の祐樹にとってお金よりも大切なモノだ。

「ウチの~」とスマホから流れて来た音声はハッキリくっきり森技官の声だと分かった。

 自然と唇に笑みが浮かぶ。

 ちなみにスマホには標準装備のではなくてアプリを入れている。というのも、他人様の命の掛かった仕事だし、香川外科では彼の手技を(ワラ)にも縋る思いでくる患者さんが多いのでトラブルが発生したことはない。しかし、救急救命室では「支払う」と言って逃げたり、健康保険証を後で持ってくるので、一括は勘弁して欲しい」と言って――医療費10割負担は祐樹もキツいモノが有るのでその気持ちだけは分かる――二割しか支払わずにバックれたりする患者さんも割と居る。

 その防御策として導入したアプリの在り処を山勘でタップし、録音開始の丸いボタン(?)を押したのが見事に結実していた。

 祐樹の場合は、アプリをそんなに入手していない点が助かったと思う。

久米先生などは恋愛シュミレーションゲームアプリとか預金通帳アプリとかその他もろもろのアプリの入れ過ぎで「あれ?マリンちゃんはどこに消えた?」とか言いながらスマホを一分以上も掛けてマリンちゃんとやらを探すこともザラにあった。ちなみにマリンちゃんは恋愛シュミレーションゲームの「彼女」の名前だ。名前(?)は任意に決められるらしくて、婚約者のアクアマリン姫から拝借したと聞いている。

久米先生のことだからアクとかアクアマとかヘンテコな名前にするのではないだろうかと思っていたが、どうやら恋愛は人を変えるらしくマリンというマトモな名前にしたらしい。

それはともかく、祐樹は対森技官専用の強力な武器を手に入れることが出来た。

我ながら日本語が変だと思うが、森技官は「仲の良いケンカ友達」だ。

国や国民を本気で守ろうとしている数少ない良心的な官僚の一人だという点は評価している。 

しかし、相性の問題という点は如何(いかん)ともし難い。だから弱みを握っておくに越したことはない。

核兵器と同じで実際は使わないけれども抑止力になる武器を一つ入手出来た。

あの場では最愛の人に攻撃の矛先が向くのは必至なので辛うじて自制したけれど、今度森技官が祐樹を怒らせることが有ったら絶対に仄めかしてやろうと決意した。

祐樹にとっての弱点と同じで森技官の弱点は呉先生なのだから。その呉先生は怒らせるとかなり怖い。

最愛の人が当時の厚労省ナンバー2にセクハラされた時に仕返しの方法を伝授してもらいに呉先生のお屋敷に行った。その時の怒鳴り声はいまだに鮮明に覚えている。

愛する人から罵声を浴びせられると流石の森技官でも多少はダメージを負うだろうし。

祐樹最愛の人は元々の性格が平坦なのか「怒る」という感情をお母さまの体内に置いて生まれて来たのではないかと真剣に考えている。

外科医には短気な性格の人も多いのに――祐樹もその中の一人だと自覚はしている――彼の場合、付き合ってもうかなり経つ祐樹にすら怒らないのだから、正直もっと厚かましくなっても良いのではとすら思う。あれだけ生涯の愛を誓い合った仲なのだから「自分は祐樹にとって特別な存在なので、こうする権利があるだろう」とか思っても良さそうなのにと。

ただ、彼の場合は他の人間にも怒ることはない。明らかに彼が被害者だった「夏の事件」でも狂気の研修医に対しての怒りは全く覚えなかったようなので。

怒った顔も魅力的だろうな……とも思うが、怒らせる気にはならない、全く。

それよりもいつも祐樹の傍で笑っていて欲しい。

 そんなことを考えながら録音が完璧に出来ていることを確かめて会心の笑みを浮かべた。

「患者さんからの差し入れが届いたので昼食を一緒にどうだ?」

「了解です。受け持ちの患者さんの病床を回った後に行きますね」

大学病院の悪しき慣例の一つに執刀医へ金品を渡すというものがある。最愛の人は着任以降断固として受け取りを拒んでいて、感謝の意を表するために患者さん達が考え出したのは「食事や生物(なまもの)といった、返そうにも返せないものを教授執務室に送る」という戦法で、最愛の彼は「その程度なら」と受け入れている。

 名だたる老舗料亭とか一流ホテルなどからの差し入れのお弁当などはザラで、生きた伊勢海老を送り付けて来た患者さんさえ存在した。

 料理の得意な最愛の人だから良かったものの、他の人だったら新手の嫌がらせと誤解されそうだ。彼の公表しているパーソナルデータでは独身とまでしか書いていない。大学病院の職員一覧にはそこまで詳しく載っていないが。

 当たり前のことだが「特技 料理」とかそんな情報は開示していない。ナースから聞いた婚活アプリなどにはそういうコトを書く欄があるらしいが。

 祐樹が彼のマンションではなくて、アパートに毛が生えた下宿先の台所では伊勢海老を料理出来ないのは言うまでもない。それに独身だと知らなかったとしても奥さんが料理上手だったら大歓迎だろうが――教授職の場合ほとんどが専業主婦らしい――料理が苦手という奥さんだったらどうする積りだったのだろうか……。

 Aiセンターの鍵を弾んだ気持ちで掛けながらそんなことを思った。最愛の人と向かい合って食べるランチはどんなものでも美味しい。




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気分は下剋上 登場人物紹介小説 7

「そんな願望、いや妄想かも知れないですが久米先生!それを脳外科のアクアマリン姫に言っても良いですか?」

 久米先生も救急救命に派遣されている、最愛の人が選んだ将来有望な外科医の一人だ。

 ただ、搬送がない(なぎ)の時間にポテトチップスやコーラといったモノを常に食べているので――祐樹は最愛の人に嫌われないようにコンビニのおでんでもコンニャクとか大根などしか食さない――ダイエットするする詐欺を働いている。

 だからポヨンとした肉が肩にも付いている。

 アクアマリン姫というあだ名は祐樹が付けたもので、清楚な美貌の持ち主のナースで久米先生の婚約者だ。

 言った途端に久米先生の顔色がサーっと蒼褪めた。

「田中先生、それだけは!それだけは止めて下さい。

 さっきの言葉はジョークですっ!!!

 彼女に知られたら、もう最悪ですっ!!!

 えと、柏木先生や田中先生にデートのプランや会話の流れをみっちり教えて下さいましたよね。それは本当に感謝していますっ!!その両先生の貴重な時間までが無駄になるんですよっ!!

 お願いですから止めて下さいっ!!」

 泣き出しそうな顔をしながらの力説だったが、久米先生がすると何だかコントじみていしまっている。医局のあちこちで小さな笑い声が聞こえている。

「ゆ……田中先生、流石にそれは久米先生が可哀そうなので許してあげて下さい。婚約破棄などになった場合、医局の雰囲気どころか患者さんにまで影響しますので。

 久米先生もつい口が滑っただけでしょうから」

 最愛の人が綺麗な眉を微かに寄せて怜悧な声で割って入った。

「分かりました。この件は聞かなかったことにします。香川教授に感謝して下さいね」

 久米先生は患者さんの評判がすこぶる良いのも事実だった。「孫を見ているみたい」とか「ワガママを聞いてくれる」とかで。

 だからアクアマリン姫こと岡田看護師に振られたら、久米先生のテンションは大幅にダウンすることは必至だろう。彼も優秀な外科医なので手術の時にはミスを仕出かさないだろうが、患者さんへの接し方が変わってしまったら大変だ。

 祐樹も患者さんに「冗談を交わせる親しみやすい先生」として医局一の信頼度を誇っているけれども、久米先生の親しみやすさとはベクトルが異なっていると信じたい。

「孫みたい」と言われたことは一回もなかったが――心疾患は高齢者の方が多いので――真剣な表情で「孫と見合いをしてくれないか?」と写真を見せられたり「()()き」が入った封筒を渡されたりしたことは何度も有った。

 最愛の人に執刀してもらいに患者さんは日本中いや海外からも押し寄せてきているし、政財界人も多い。そういう人に「孫と結婚してくれたら」と言われるのは正直イヤではない。

 ただ、最近ではそれほどではなくなったものの、あれだけの実力の持ち主の最愛の人は悲観的に物事を考えるタイプで「田中先生が駄目なら教授からも頼んでもらおう」と言い出した人には「心に決めた人が居ます」とか「生涯に亘ってのパートナーは既に居ますので、ご厚意は有り難いのですが」とか言って丁重にお断りしている。祐樹が一切女性に関心がないことは最愛の人も知っているし、バレンタインの日の祐樹宛の山盛りのチョコには「祐樹はモテるのだな……」と笑っていてくれたが、縁談となると最愛の人の心を乱すかもしれない。それは最も避けたい事態だ。

「おお、こちらにおられましたか?こちらの書類を確認してハンコを押して頂きたいのですが」

 黒木准教授がいかにも温厚そうな笑顔でドアをスライドさせて入ってきた。

 電子カルテが導入されたとはいえ、旧態依然の紙の文化もまだまだ蔓延(はびこ)っている。

「分かりました。いつもながら有難うございます」

 目算で60枚は有るだろうか?重そうな書類を持つ最愛の人のしなやかで長い指に見惚れてしまう。

 手術室では手袋(グローブ)だし、二人きりの時は薄紅に染まっているので仕事中の白魚も裸足で逃げそうな綺麗な指を見るのも祐樹の密かな楽しみだ。

 あ!と思い出して「少し抜けます。患者さんからの呼び出しが有ったら連絡下さい」と柏木先生に言って――この場の最高責任者は言うまでもなく祐樹最愛の人だが、黒木准教授と書類を前に何か真剣に話している。ただ、集中力を多分割出来る人なので本当にマズかったら祐樹を止めるハズだ――医局から抜け出した。

 どこだったら他人に聞こえないかな?と一瞬考えて「Aiセンター」を選んだ。

 死亡時画像診断はご遺体の死因をCTやMRIを使って調べる仕組みで、厚労省のお声掛けで開設された新センターだ。

 たまたま手術中に亡くなった患者さんの――つまりは最愛の人にとって初めての手術失敗を意味する――死因を放射線科に頼み込んで調べて貰った過去があった祐樹にセンター長の話が舞い込んで来た。本来なら畑違いなので断っても良かったのだが、MRIやCTでも未知の大動脈は見つかるかもしれないとまず思った。もちろん最愛の人の役に立つために。次にセンター長は准教授のやや上、教授職の下と言った立場なので病院内の発言力も増すだろうと引き受けた。

 各病院からの依頼が有れば稼働するセンターなので二足、いや救急救命を入れれば三足の草鞋(わらじ)だが、それほどの仕事量はない。それに救急救命室に運ばれて来る患者さんは一刻を争う事態がまま有るけれどもご遺体は待ってくれるし。

 放射線科の野口准教授がハイスペックの機械を――病院内の予算縮小でどこも財政的はどの科も厳しいけれども、Aiセンターは厚労省のご威光というか国家予算という強力な後ろ盾がある――使いに来ているかも……とは思っていた。

 以前、AiセンターのハイスペックCTやMRIを放射線科も使いたいといつもは言いたい放題の野口准教授がおずおずといった感じで頼んで来たこともあった。

「使っても減るものではないので、どんどん使って下さい。空いている時には、ですけれど。

 この稼働率だと宝の持ち腐れです」

 その祐樹の言葉に研究オタク……いや研究熱心な放射線科の先生達は涙を流して喜んだとか聞いている。ホントかどうかは知らないが。

 鍵が掛かっているということは無人なのだろうと思って会心の笑みを漏らす。そしてスマホを取り出した。






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気分は下剋上 登場人物紹介小説 6

「ドラマでチョーじゃなくてですね、とても人気の出た職業って目指す学生が多くなるんですよ」

 久米先生の屈託のない声が医局の中に響いている。他の医局員達は「また久米先生のどうでも良い話が始まった」とでも言わんばかりに、敬愛する教授に会釈をしてはPCに向かったり電子カルテの整理をしたりしている。久米先生はまだ見ぬ――存在すら危うい――女性に興奮したのか、言葉遣いまでイマドキの若者に成り下がっているようだった。

 容態が急変した患者さんはどうやら居ないようで、弛緩した空気が漂っている。

「香川……教授、田中先生お疲れ様です。そのご様子だと入学式は無事に済んだみたいですね」

 柏木先生が祐樹最愛の人を呼ぶ時には少し()めがある。二人は元同級生で、学生時代は仲が良かったらしい。というか進んで人と交わらなかった最愛の人にゼミの飲み会とか旅行とかに誘っていたと聞いている。

 凱旋帰国の(のち)、一介の医局員と教授職という天と地ほどの差が出来て、柏木先生も遠巻きにしていた。大学病院のヒエラルキー制度からすれば、ある意味当たり前の反応だが。

 祐樹も最初はムカついていたものの、彼の本質を知るにつれ立場の違いなどを顧慮せずに――というか出来ずに――ぐっと距離を詰めて、そしてどんどん好きになった。

 凱旋帰国後の医局トラブルが収束した後にはプライベートな呑みに行っているし、柏木先生の二度目の結婚披露宴では最愛の彼にスピーチを頼むほどの仲になっていった。

「お蔭様で、特に問題はなかったです。医局の方は如何でしたか?何か問題でも起こりましたか?」

 最愛の人は教授職に就いていても医療従事者には「です・ます」体で話している。呑みに行った時のことは知らない。というか、祐樹が夜勤とか救急救命室での勤務で居ない時に限ってスケジューリングしてくれているので。

「報告すべきようなことは何もないです。今日は手術もなくて、皆は通常業務といった感じでした。黒木准教授は執務室で書類整理をされていますし、長岡先生は内科の内田教授に呼ばれてレクチャーしに行きました。レクチャーではなくて相談かも知れないですが……内田教授が先生を呼びにいらして」

 黒木准教授は――本来ならば順送りで教授になってもおかしくなかったのに――文字通り教授の女房役として誠実かつ黙々と職務に励んでいる。

 長岡先生は通称香川外科の唯一の内科医で、アメリカから最愛の人が連れ帰るほど優秀だ。しかし、その話は後にしよう。

 一安心といった淡い笑みを浮かべた最愛の人に会釈をして久米先生の方へと向き直る。

「ああ、あれだろ?『倍返しだ!』が決めセリフの銀行員のドラマが流行った時は銀行志望の学生が増えたとかそういう感じで」

 就職活動の志望動機に――医学部の場合は殆どが医師になるが――ドラマの影響でというのは薄っぺらい上にライバルが増えるだろうに……と全く他人事(ひとごと)ながらも心配になって来る。

「そうなんですよ。フリーランスの天才外科医、しかも美人が活躍するドラマが有ったじゃないですか?

 実際は大学病院にフリーランスなんて絶対に呼べませんが、まぁそこはドラマとして面白ければ良いんじゃないかと……。で、ヒロインのようになりたい!と思った綺麗な女の子が外科を志してくれればいいなぁと……」

 ああ、あのドラマねと祐樹も思い出した。たまたま二人で観る機会があり、ヒロイン演じる美人女優が「私、失敗しないので」の決めセリフを言った時に最愛の人は心底不思議そうな顔で「そんな当たり前のことをどうして自信満々で……医師全員の前で言えるのだろう?」と呟いていた。彼にとっても、そして祐樹も「失敗しない」自信と自負は持ち合わせている、当たり前だが。

 特に最愛の人は術死ゼロ記録をアメリカ時代からずっと継続していて記録は日々更新されている。その実績を持っているので尚更変に思ったのだろう。

「絶望的な数字を教えてやろう、青年。外科医の9割以上が男性という統計結果が厚労省のサイトか何かで出ていたんだ。

 実際、外科医は体力的にも精神的にもキツい仕事なのは久米先生だって知っているだろう?

 美人かどうかは別として女性は皮膚科とかに流れるぞ。それが現実だ」

 9割か……祐樹の体感ではもっと少ないイメージだった。だから一割も女性がいたとは知らなかった。

「えぇっ!そうなんですかぁ……。あの女医さんみたいに綺麗で凄腕――なのは困るんですけど、だって香川教授って実力主義ですよね。万が一手術スタッフのご指名が外れるのは絶対にイヤなんですけど――とにかく綺麗な女の子が『久米先輩』とか言って頼って来たら最高なのに……」

 普段は癒しキャラだが、久米先生は祐樹が内心危惧するほどの潜在力(ポテンシャル)の持ち主だ。ただ、一介の医局員時代はともかく、執刀を任された今の祐樹の――ちなみに、最愛の人の計らいで長岡先生の婚約者の私立病院で執刀させてもらったことは何度も有るが絶対に口外できない類いのものだ――場数の多さからして久米先生より次の次元に立っているハズだが。

「『久米センセィ!教えて下さい♡』とか可愛い後輩に囲まれたら……」

 祐樹がワザと高い裏声――久米先生が救急救命室の凪の時間にハマっていた美少女育成ゲームとやらの声を真似てみた積りだった――意外にもウケて、医局中に暖かい笑い声が響いた。

 祐樹最愛の人も唇に笑みを刻んでいる。

「田中先生、今度の医局の慰安旅行の時の宴会芸は決まりだな……」

 柏木先生が思いっきり笑いながら祐樹の背中を叩いた。

「絶対に嫌です!声はともかく、女装とか無理ですよ!!」

 祐樹の女装姿なんて気持ち悪いに違いない。最愛の人のなら少しは見てみたいような気がするが、他人の目に晒したくはない。

「それはともかく……」

 柏木先生に「余計なことは言うな」という強い眼差しを注ぐと、白衣に包まれた肩を怖そうに竦めている。

 久米先生のぜい肉の付いた肩を叩いた。




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