腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

学会準備編の後→飛行場編

気分は下剋上 アメリカ編 29

「ああ、着いたな。ココがそうだ。

 運転手さんお釣りは必要ない」

 ケンはしっかり手すりに掴まっているので難を免れたのだが、祐樹は危うくメガネを割ってしまいそうになった。

 身体は最大の資本であることは普通の職業でも同じだが、外科医の場合腕と目は致命的なモノだ。

 大人っぽくかつクレバーそうに見えるという最愛の人の心遣いを最悪の事態で返してしまわなかったことを神に感謝したい。祐樹は無神論者だったが、こういう時は現金にも神様のご加護に感謝したい。

 飛行場からモーテルまで乗った英語が流暢な運転手さんには20ドルしか支払っていなかったのに、祐樹の見間違いでなければ100ドル紙幣のようだった。距離もそんなに違うとも感じなかたが。

 まあ、見慣れた日本円の紙幣とは異なって馴染みがないので気のせいかもしれないけれども。

 ただ約一万円というのは多すぎるような気がした。ただ、ケンなりの思惑が有るのだろう。

「半額出しますけれども……」

 開くかどうかも分からないオンボロのドアを手動で何とか開けて車外に出た瞬間に提案した。

 正直なところ経費で落とせるとは思っていなかったがこの場合、自腹でもやむを得ないだろう。

 コンベンションホールは現代風かつアメリカらしく恐ろしく巨大な建物だった。

「いや、良いよ。そういうことは気にしないでくれ。ははあ、料金のことが気になるのかい?」

 不審な思いが表情に出てしまったのだろうか。ポーカーフェイスとか笑顔をキープすることに慣れているハズだったが外国に来て、しかもこれから世界の医師に向けて発信するのだと思うと流石に緊張していて平常心ではないのだろう。

「ああいうタクシーの運転手は――いや差別する積りは毛頭なくて単なる区別で誤解しないで欲しいのだが?」

 差別主義者でないことは分かっている。最愛の人が異性に興味を持てないと知ったら「そういう人」が集まるクラブに付き合ったことでもそれは分かる。

「誤解はしていませんよ。ただ単純に何故だろうと思っていて……」

 ケンは大袈裟なガッツポーズを決めている。そんなに嬉しいことでもないようだけれど。

「メーターも動いているのが不思議なくらいだっただろう?」

 異臭のせいでそこまでは見ていなかったが、ドアも壊れないのが不思議なほどの年期の入り方だったので、そこから容易に推測出来た。

「それに、お釣りの計算も出来ない人が多くてね。指を使って数えるとか普通だし、途中で頭がこんがらがってしまって不機嫌になるとか物凄く時間が掛かるという経験則が有るので。

 サトシから聞いたことがあるが、日本では小学校の時に掛け算を暗記させられるだろう。アメリカの場合は州にもよるが、フランスは全く習わないので例えば7ユーロのモノを8個買った場合、一々足していく。それと同じようなモノなんだ」

 色々なことを話し込んだせいで――祐樹の知らない顔を持つ最愛の人の情報が最も得難かったのはある意味当然だろう――時間も押している。それにお釣りで手間取るくらいなら約一万円を出しても良いのかもしれない。

 お釣り問題という些細なことでトラブルになって下手に時間を食うよりも、その方が合理的なような。

「それにね、彼らは異国で必死に生きている。だから少しでも援助出来ればとも思っている側面もある」

 ケンという人は本当に良い人らしい。

 最後の理由が最大の要因のような感触だったので。

「そうなのですね。たしかに遅刻ギリギリで入って、心の準備もロクに出来ないまま初めての講演会の演者をつつがなく務められるかは祐樹も完璧な自信はないので、お心遣い有難う御座います。

 確かに日本では9×9までは暗記させられますが、インドは99×99までだったと思います。上には上があるということで……」

 ケンは感心したように口笛を吹いた後に、鼻歌交じりで受付のブロンドの美女へと近寄って行った。

「これが入館証で、許可されたエリアならどこでもカードを通せばドアが開く仕組みだ。ユーキの控室はこちらだな」

 場馴れした感じなのは色々な学会に出席したり、時には講演もしていたりしているからだろう。

 ブロンドの美人嬢とも顔見知りのような感じだったし、祐樹最愛の人が所属していた病院はアメリカでも屈指の成果を誇っているので内科医としては世界レベルなのだろう。最愛の人が心臓外科ではそういう評価をずっとキープしているのと同様に。

「有難うございます。京都にいらした時には――私なんかでは無理ですが――芸者ガールを呼んで日本舞踊を踊って貰ったりお酌してもらったりするように手配しておきます」

 一晩で幾ら掛かるのか見当もつかないものの、「あの」プラザホテルとかのスイートを予約してくれるらしいので、その程度は何とか病院長に泣きつくしかない。

 最愛の人もそういう席に嫌々ながらも同席することは有るが、舞妓や芸子さんを呼ぶ方法とかは知らないだろうし。

「では、私は最前列に座るとするか……。

 ああ、サトシもリアルタイムで動画は観るんだろう?だったらカメラの前でパフォーマンスでもしようかな……」

 最愛の人もケンには良い印象を抱いているようなのでそれも良いかも知れない。

「それは良いアイデアですね。明朗闊達なアメリカではそういうのも許されるのですか……」 

 それに比べれば厚労省の研究会とかはお通夜のようなしめやかさが漂っているのはお国柄の違いだろう。

「ああ、それと……」

 講演が無事に終わったらまた一つミッションが有ることを思い出した。

 顔が広そうなケンならばうまく紹介してくれるような気がして相談してみる気になった。

 動画の配信を身じろぎもせずに待っている最愛の人にPCの画面越しとはいえ、元気な顔を見せたく思った。

 いよいよ、檜舞台の第一歩が待っているのかと思うと心地よい緊張感で身も心も引き締まる思いだった。

 前髪は最愛の人が器用に整えてくれていたし、モーテルの鏡で確認したが崩れていなかった。

 ただ、最終チェックをした方が良いだろうが。

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気分は下剋上 アメリカ編 28

 アメリカのタクシー事情のことは薄々聞いていたものの、メキシコ料理の香辛料と安い香水だか芳香剤だか知らないが、それらが入り混じった悪臭というか異臭というかが日本のタクシーとは比べ物にならないくらいに酷い。

 これで良く料金が取れるなと却って感心してしまうくらいのレベルだった。

 ケンは「ハズレだったな」と言わんばかりに肩を竦めてバックミラーの死角になるように目をグルリと回すという陽気さだった。

 と言ってもミラーも(いつ拭いたのですか?)と真顔で聞きたいくらいに曇っているのでそんな配慮は必要ないのではと思ったが。

 スペイン語混じりの英語でコンベンションセンターと告げているケンを尊敬の眼差しで見てしまう。

 最愛の人はこういうタクシーにも乗っていたのだろうか……?と危惧というか心配までしてしまった。

 この国の富豪で知られた大統領が「壁を作る」と言っていたのを(大人げない)と批判的に眺めていただけだったが、何となく彼の気持ちが分かってしまうような気がした。

「こういう体験もアメリカならではのようですね。実に得難いです……」

 タクシーは芳香剤くらいしか匂いがしない日本では有り得ない体験だ。ただ、最愛の人は成功するまではそれほどお金に余裕があったわけでもないし、それ以降は病院の近くに部屋を借りていたと聞いている。祐樹が誘うようになって初めて色々な場所に行くようになったが、それ以前は京都の街から出なかったという人なので多分タクシーを使うという経験はなかったと思いたい。

 病院もVIP御用達だったらしいし、手術が無事に終わったお祝いには招待されたという話を聞いたことも有るけれども、そういう場合は運転手付のリムジンででもお迎えが来るのが「普通」だったようだし。

「ハハハ!日本のとは違うのかい?」

 ケンはこういうタクシーに乗り慣れている感じだったので平気そうだが、祐樹的には車酔いを――悪臭酔いと言う方が正解かも知れないが――しそうだった。三半規管は人並み以上だと自負していたがこれは想定外だった。

「かなり異なりますね……。異国情緒に触れた思いです、むしろ発展途上国のような感じの……」

 タクシーの運転手は簡単な英語しか解さない雰囲気なのでワザと難しい言い回しにしてしまってはいたが、祐樹の偽らざる本音なので仕方ないだろう。

「ハハハ!発展途上国か、面白いことを言うね。マスクとかも持って来れば良かったかな?」

 マスクよりもオーム真理教のドキュメンタリー番組で観た記憶がある、警察だか自衛隊だかが着けていた毒ガス用のマスクが切実に欲しいと思ってしまう。それかファブリーズのようなモノでも良い。

「マスクと言えば……メガネをかけるようにとアドバイスを受けました」

 視力の弱い人は起きたらすぐにメガネを探す習慣が有るらしいが祐樹はその必要がないのでうっかりするところだった。

 学会に登録している人間しか閲覧出来ない動画の配信を日本で待ち侘びている最愛の人のためにもメガネは必需品だ。

 せっかく買って貰ったのだから着けないと失望されるだろう。

「ああ、それが良い。東洋人は年齢不詳に見えてしまいがちなので、少しでも威厳が加わった方が聞く耳を更にそばだてるだろう……。

 ただ、あの素晴らしい手技の画像が有るので、大きなスクリーンで見せればそれで納得はするだろうがね」

 最愛の人は「気紛れな医療の神が降り立ったような神憑り的な手技だった」と褒めてくれたし、祐樹もその点は完全に同意していたが、演壇に立つ時には先ず挨拶をしなければならない。

 気の利いた挨拶、しかも冗談を巧みに織り込みながらと考えていたが、嗅覚が邪魔をしてしまう。

「学会はLAと決まっているわけではないですよね?一番多いのはどこですか?」

 饐えたような臭いを遮断するのは難しいが、話をすることで少しでも気が紛れるだろうと思いつつ話題を振った。

「やはりNYだろうな……。首都ではないけれどあそこが世界のある意味中心だし、アクセスも良いので」

 メガネが鼻まで覆ってくれれば良いのにとワガママなことを内心思いながらNYのホテルは一つしか知らない。調べたら名前を知っているホテルもたくさんあるだろうが。

「サトシとNYの学会とか……国際公開手術に招待された時にはホテルのリクエストが有ります。

 プラザホテルのスイートが良いですね」

 経済の授業だったか講義だったかで「プラザ合意」というものが締結されたのは知っていた。

 各国の首相達が集まるホテルなだけに格式とホスピタリティも良いのだろう。

 何よりも歴史に名を残したホテルの名前だけに、一度は泊まってみたいホテルだった。内装とか雰囲気は知らないが。

「プラザホテルかい?分かった。国際公開手術の術者に呼ばれる日も近いと思う。

 外科は専門ではないが、それでもあの映像を見た人間ならばそう判断するハズだ」

 ケンの言葉に背中を押されたような気がした。

「ああ、メガネをかけるとやはり雰囲気が変わるな……。サトシが細心の注意を払ってセレクトしたのだろうが。

 彼も外見で随分損をしていたので、そういう苦い経験をユーキに味あわせたくなかったのだろうが」

 ケンの言葉に、最愛の人のサクセスストーリーを間近に見て来た重みを感じた。

 その時、急ブレーキが掛かって思わず前につんのめってしまった。

 事故か何かだろうか?



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気分は下剋上 アメリカ編 27

「サトシはああ見えて、自分で指揮を執るタイプなんだ。少なくとも私が見ていた彼はそうだったな。他人に任せるよりも自分で動いた方が早いだろうと判断したのだろうと思ったのだろうし、彼は素晴らしく頭が切れるタイプだ。だからその姿勢は正しいと当時は思っていた。

 しかし、自分が先に立って指揮を執っていない彼を見て、ユーキのことを本当に信頼しているのだろうなと思ってしまったよ」

 祐樹が見て来た最愛の人はいつも一歩下がった位置にいるというのが――病院内ではポジションの関係上からも先に立っているものの――「当たり前」だと思っていたのでケンの発言には心の底から驚いた。

「え?そうなのですか?」

 祐樹も自分の顔が「驚愕」という絵画の――ムンクの「叫び」のように――モデルになってもおかしくない表情を浮かべてしまっていることは自覚していた。

 ケンが他のゲストの――祐樹の学生時代からの下宿と同じような壁の薄さだとしたら――迷惑になりそうなほどの大きな声で笑っている。まあ、この中途半端な時間帯にモーテルに居る人間の有無までは知らないが。

「ああ、だからそう言う意味でも国営放送にチラッと映った時には目が飛び出るかと思うほど驚いて、テレビにかじりついたよ。

 そして、そんな風に変わったのは――サトシは自己顕示欲など皆無だが、妙に頑固なところとか他人を寄せ付けないところがあるだろう?――ユーキの存在のお蔭だと思うと何だかこちらまで嬉しくなった。

 それがわざわざ空港に出迎えて直接話したいと思った理由だな。

 こんな話は学会の会場では出来ないし……。

 ま、サトシを良い方向に変えてくれたユーキに感謝を込めてアメリカに来た時にはあんなウサギ部屋ではなくて5つ星ホテルのスイートを提供することにする。

 まあ、私が一緒に泊まるかどうかは別問題ということにしよう。他の部屋でも充分なので……」

 5つ星のスイートは嬉しいものの、同じ部屋は――多分お正月休暇の時に「新婚旅行」の時のペニンシュ○香港のマルコポー○スイートも二つ寝室が有ると予約サイトに書いてあったが、間取りなどはなかったのでどの程度離れているのかサッパリ分からない点では同様だった――正直微妙だなと思ってしまったのが表情に出たらしい。胃の底から可笑しそうに笑われてしまった。

 普段はそれほど気持ちが表情に出るタイプではないと思っていたが、アメリカの開放的な雰囲気のせいか――これが文字通りの摩天楼でもあるNYならば異なるのかもしれないが――ケンに読み取られてしまっていた。

 まあ、最愛の人がリーダーシップを執りたがるのは安心して任せられるだけの人間が居なかったからということも有ったのではないかとも思ってしまったが。

「ユーキの英語はとても上手だし、クイーンズイングリッシュ風の発音まで混じっているお上品さだが、どこかに留学でもしたのかな?

 そしてスペイン語は話せるかい?」

 日本人の医師がアメリカに来ているとケンは先程言っていたので、日本の医師は留学することが多いとか思われていそうだ。

 そして何故スペイン語?と思ったがそう言えばスペイン語を話す移民が多いし、それがアメリカの社会問題にもなっていることを思い出した。

 タクシーなど――職業差別をする積もりは毛頭ないが――言葉よりも運転技術が優先される職種に就く人間も多いのだろう、多分。

 病院の付添婦とか――アメリカの病院のシステムも祐樹は全く知らない――そういう職種が存在するなら、二昔前以上に日本の病院にも普通に居たらしい。担当する患者さんの身の回りの世話だけを24時間体制で行うという激務なのだが、そしてこういう言い方は失礼なのは承知の上だけれど、最低限の教育しか受けていない女性にとって最も稼げたと何かで読んだ覚えが有る。

 だからスペイン語しか話せなくてもそういう仕事はありそうだな……と思ってしまう。

 後は片言の英語で対応出来るようになるまで頑張ると時給的には良いだろう。

「いえ、私は日本の大学卒ですし、そのままその大学病院に就職しましたから留学は考えていなかったです。

 しかもそんなお金もなかったですし、そして半人前の医師で居た頃に彼が帰国して来たので……留学しなくてもアメリカ式の最新の手技を学べましたし。

 ただ、彼に負けないように国際公開手術の術者を目指しているので英語は独学で学びました。クイーンズイングリッシュが入っているのは例の6歳の女の子の主治医を務めていて、そのお嬢さんの影響ですね」

 百合香ちゃんとは英語の知識も教え合いっこしている。もう手術が出来るほどに体力は付いてきたが、そういえばケンの言っていたことが気になった。

 ケンが促すままに黄色のタクシーに乗り込んだ祐樹は内心でかなり驚いてしまったが。




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気分は下剋上 アメリカ編 26

「ウサギ小屋って言いますが、日本の学生はこういう場所に住んでいるモノです。地価は高い上に山地もたくさん有るので居住地域が限られていますから、ま、こんなクールな外観ではないですけれどもね」

 「クール」の辞書的意味は「冷たい」だが、アメリカでは褒め言葉として使われる。ただ、百合香ちゃんに――英国の外交官夫人が家庭教師に来てくれる例の患者さんだ――確かめたわけでもないのでイギリス英語では使うかどうか分からない。ただ、若干皮肉な響きを持たせたのはケンも分かったのだろう。

 予算1万円が病院の規則なので選択の余地がほぼ無いなかで、日本だとファッション・ホテルかと見まがうような派手派手しさだった。

「今度サトシも一緒に来ても、こんなウサギ部屋なのかい?」

 レシート類を大切に財布へ入れていると――何しろ領収書がないと自腹というシビアさだ、ウチの事務局は――興味津々といった感じで聞いて来た。

「出張費はポジションによって異なります。ミレニアムビルトモアホテルほどの良いホテルは多分無理でしょうけど……」

 祐樹も一応ホテルの情報も調べた上で、イタリア風の瀟洒な重厚さの漂うホテルの内装に心惹かれるモノがあったのがこのホテルだった。ただ、英国式のコロニアムスタイルの好きな最愛の人の評価は聞いていないので分からない。

「サトシも来るのならビルトモアの部屋を取ろう。ああ、寝室は二つで良いのだろう。そういう部屋を押さえるので。ああ、心配しなくとも良い。あそこのオーナーは旧知の仲なので。

 ああ、それともお邪魔かな……」

 祐樹が調べた限りではまるでイタリアの王様とか執政官が住むような豪華な質素さが上手く調和しているホテルだったが、ホテルに泊まるイコール「そういう行為」をして来た最愛の人がいくら自分の性的嗜好を知っている友人とはいえ、「愛の交歓」をするかは別問題のような気がする。自分達は少数派だが、多数の異性愛者だって恋人なり夫婦なりとその友達がいくら広いとはいえホテルの同じ部屋で行為をするかというとしないような気がする。そんなデリケート過ぎる話しはしたことがないのであくまでも憶測だが。

 ただ、以前愛の交歓の最中に身体の位置を変えるという、祐樹的には当たり前のことをしただけで物凄く不安そうな表情を浮かべていたので、自宅ではなくてわざわざホテルのベッドに来ているのに何故「そういう行為」をしないのかと思われてしまいそうな気がする。

 最愛の人は――最近になってようやく気持ちを遠慮なく話してくれるようになった――どう思うのかは分からない。そういうシュチュエーションになったこともないので。

 ああ、道後温泉の時には医局の皆が同じ旅館だったな……とセピア色に煌めく想い出の宝箱を開けた想いがした。

 ただ、あの時は幹事という特権を活かして医局員とは思いっきり部屋を離した上に、寝室は扉からかなり離れた広い部屋に「一人」で泊まるという設定だった。その上で夜這いを敢行したのも今となっては本当に懐かしい。祐樹を待つ間に手慰みで折った鶴は祐樹の宝物の一つで、今も部屋に飾ってあるが。

「それは彼に聞いてみないと何とも……」

 医局を代表してアメリカの学会にもコネクションを作ろうという下心も有って来たことは確かだが、当然ながら学会はNYでもサンフランシスコやボストンでも開かれるので最愛の人と訪れるのは此処とは限らないし。

 それに遠藤先生の論文が学会の審査に通って、それを執刀医としての立場からサポートするということにでもなれば祐樹は間違いなく日本で留守番だろうから。

 今回だって、主治医を務めている患者さんを他の医師に引き継いできた。だから二人が来ることも当分はないだろうな……と半ば寂しく思ったが、社会人なので仕方ない。

「まあ、そうだな……。サトシがユーキの隣で幸せそうに笑っているの絶対に見たいと思うが、寝室まで覗こうとは流石に思わない。覗いてもイイと言うなら喜んで見に行くが、ハハハ」

 何が「ハハハ」だよと思ってしまうが、この底抜けに明るいアメリカ人に、かつての最愛の人の心がどれだけ癒されたか分かるような気がした。

 もともと悲観的な思考の持ち主な上に――祐樹が意図したわけでもないし、そもそも存在すら知らなかった――「祐樹が綺麗な人(彼基準)を口説いているのを見た」せいで傷心とショックの余りアメリカに旅立つような人なのだから。

 思い込みが激しいというか、普段の理知的かつ落ち着いた気持ちの持ち主だが――それは心の底から好ましいと想っている――衝動的になにをするのか分からない怖さも持ち合わせている。その突発的な行動が全て祐樹絡みというのは嬉しい限りだったが、これからは最愛の人にそんな思いはさせたくない。思いだけでも駄目なのに、行動に移されたらと思うと身の毛がよだつ由々しき事態だ。

 まあ、今では祐樹の永久の愛情を疑ってはいなさそうなので大丈夫だろうが。

「いやあ、サトシがご執心のことはあるなと思った。

 あのキョウトの地震を報じる日本の国営放送の映像を――と言っても、割かれた時間は僅かしかなかったが――見た時のサトシの変わり方に正直驚いた。そしてその隣にいるユーキは自信過剰のようにも見えたのも事実だが、上手く付き合っていることだけは分かったので、テレビの画面そのままの鼻っ柱の強そうな人間だったらガツンと言ってやらなくてはならないなとも思って空港まで行ったのだが、どうもそんな感じはしない。テレビ映りのせいだろうか?」

 NH〇は国営放送ではないが、それを説明してもしなくてもどうでもいい問題なのでスルーした。

「自意識過剰と見えたのは、多分、彼のサポートを必死でこなそうとしていて我武者羅にボランティアの学生とか医師団へと指示を飛ばしていたからだと思います。

 あの場の責任者はサトシでしたが、彼が泰然自若とした指揮官に映るように私が色々動いていたせいかと……」

 ケンはこの狭い――そして確かめたわけでもないが――壁も薄そうな部屋には不似合いなほどの大きな笑い声を上げている。

 祐樹としては何がそんなに楽しいのだ?と思ってしまったが。



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気分は下剋上 アメリカ編 25

「そうなのですが、その権利を声高に主張することは難しいのが日本の現況です。

『医は仁術』つまり、医師には自分の楽しみを捨ててでも、他人に尽くすというほどの意味の言葉も昔から今までずっと有ります。その固定観念に医師も患者も囚われてしまっているので。

 また、サトシや私が所属する病院は元国立病院で、税金で運営されていたのですが日本の経済が落ち込んでいるので独立採算制になりました。しかも診療科目が多い病院なので、赤字の補填もしないといけないために、職員の宿泊費がこの『ウサギ小屋』になってしまっているのが現状ですね。サトシの腕を慕って日本全国、いや世界中から患者さんが押し寄せて来ているので、ウチの科は『稼ぎ頭』の座に君臨してはいるのですが、救急救命室などは性質上収益化が計れないのが悩みのタネです……。

 それこそ、こちらのように救急車の段階から支払い能力が有るかどうかをチェックしたらいいのでしょうけれど……」

 ただ、そんなことをすればそれこそ「仁」に反するとか物凄い反発を食らいそうだが。

 そう思いつつ、肩を竦めた。

「そうなのかい?しかし、日本では警察とか消防なども国家が面倒を見てくれると読んだ覚えが有る。警察官や消防士だって出番のない日が有るだろう?それでも日本人は文句を言うのかい?」

 質問の意味が良く分からない。祐樹の語学力のせいでは決してないだろうが。

「いえ、そういう声は上がっていませんね。イザとなったら駆けつけてくれれば良いと思っているでしょう、多分」

 国民全体がどう思っているかは知らないが、祐樹の知る限りそういう不満めいたものは聞いたことも見たこともない。

「日本では消防も税金で賄われているのだろう。だったら、イザと言う時に対応してくれる救急救命にも税金を投入すべきだし、そういう仕組みがないのがおかしい。

 医師の義務感とか公共心に頼りきりなのは甘えだと思うがね」

 確かにケンの指摘通りで祐樹も常々思ってはいた。しかし、世論に訴えるとか、それこそ医師や病院の待遇改善に動くには時間がなさすぎる。

 仕事と私生活だけで精一杯だし、最愛の人と過ごす幸せな時間を割いてまで「医師全体のための運動」をする気にはなれない。

 森技官などはそういう矛盾に気付いて色々と動いているらしいが、それは彼の能力の高さも有るものの遊軍的な動きをしている任務の都合上時間も有るのだろう。

 呉先生の薔薇屋敷にも出張中とかで帰宅しない夜も多いらしいし、彼ら二人はそれで良いのだろうが自分達は違うので。

「そうですね……。働き過ぎで疲弊したと心の底から感じた時にはアメリカとかに就職しようかと思います。

 それまでは日本の病院でキャリアを積みます。

 たまたま生まれた国が日本という漠然とした愛着は有りますが、何が何でも日本に拘る必要もないですし……」

 病院改革、そして最愛の人が病院長兼医学部長になるのは心の底から見たい。それは確固とした信念ではあるし、そのための戦いというか病院内政治を祐樹が行おうとは思っていたが。

 ただ、そういう「情」の部分はケンには通じないだろうな……とも思ったし、こうした学会に呼ばれる身の上になった今の祐樹には以前のような大学病院一択ではなくなっている。

 生粋の病院育ちの祐樹は最愛の人と立っていたステージが異なっていたのだな……とも思った。

 付き合ってから随分と後になって「祐樹にフラれたら即座にアメリカに帰ろうと思っていた」と聞かされたが、それは彼が元々アメリカやヨーロッパでも通用する手技を持っていたからに違いない。

「それはそれとして、サトシの私生活がハッピーなのは良く分かった。それを確かめられたことだけでも休暇を取った意義は有る。ユーキが誠実な人間だということも分かって本当に良かった。

 バイバス術の権威なのは知っているが、他の手術はしないのかい?」

 ケンの意見には反論できるほどの材料は持ち合わせていない。そのコトが彼にも分かったのだろう。話題が変わったことに何となく安堵した。

 そして、ケンが最愛の人をどれだけ案じていたかも分かって何だかとても嬉しかった。

「最近は6歳の女の子の心臓弁膜症の手術を引き受けていましたね。バイバス術の方は新しい術式を――ええと、教授の部下の一人が論文として発表します」

 医局制度は日本にしかないので当然ながらその単語は英語にはないのでそう言ったが、ケンは当惑と期待が入り混じったような表情を浮かべていた。一体何故なのだろう。

「6歳の女の子の手術か……。

 日本ではどうか知らないが世界基準では――と言ってもアメリカとかの先進国だが――大人の手術を専門とするよりもよりも小児心臓の方がよりいっそう尊敬される。難易度が高いからな。

 当たり前だが、子供の方が心臓を始めとして臓器も身体も小さいだろう。

 だからそれ相応の高度な手技を求められる。実際、日本の病院では手術不可能だからとウチの国に来るケースも多々ある。

 サトシならば大丈夫だろうが、普段以上の緻密さと細心さが求められる」

 そんなに小児心臓外科医の評判が良いのかと内心驚いたが、確かに小さな心臓なだけに難易度も高そうだ。

「分かりました。私は仕事の都合で講演とその後のセレモニーに出た後に日本に帰りますが、その件は伝えます。ただ、私よりも彼の方がそういう事情にも詳しいので大丈夫だとは思いますが念のために……」

 吉田百合香ちゃんの出自は「華麗なる政治家一族」という側面も有ったが、最愛の人はそういう忖度はしない人だ。ただ、そういう難易度の高い手術だと知った上でご両親がご指名して下さったのだろう。言うまでもないが、政治家なので国内外問わず色々な人脈の持ち主だろう。その上で白羽の矢を立てられた名誉なのは分かるが、最愛の人は今のところ術死ゼロという驚異の記録を持っている。記録が止まると、最愛の人への精神的なダメ―ジがきついだろう。

「おっと、そろそろこのウサギ小屋から出る時間だ。会場に移動しようか?」

 ケンがロレックスを見て言った。

 いよいよ自分の出番だと思うと心地よい緊張感がわきあがってきた。

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