腐女子の小説部屋

創作BL小説を綴っています。ご理解の有る方【18歳以上】のみ歓迎致します

気分は 学会準備編の直後

気分は下剋上 公認カップル騒動 110

 最愛の人は震える紅色の指で祐樹のキスを受けている。
 そして見上げると滑らかな頬に涙の雫を零し続けていた。若干華奢な肢体も泣いているせいなのか震えていた。ただ、彼の全体の雰囲気は月の柔らかな光を纏っているような感じだったが。
「今日は貴方のご両親にご挨拶だけでもと思いまして。
 初対面ですからスーツ姿なのは当然のマナーですよね。
 極楽浄土にいらっしゃる貴方のご両親は、私達のこともずっとご覧になると思います。
 そのためのご挨拶を兼ねたお墓参りですので。
 今は貴方の仰る通り、俄かには受け入れがたいとは思いますが、これからのぴったり重なった二人の人生の軌跡を見て下さればきっとお墓に入ることも許して下さると思います。
 ずっとご覧になってその後の判断で『受け入れる』と言って下さるのではないでしょうか?」
 涙の膜を張った切れ長の綺麗な瞳を見つめてそう言って彼のしなやかな長い指に祐樹の指を付け根近くまで絡ませた。祐樹も無神論者ではあったが、何だか極楽浄土が本当にあるような気がしていたのも事実だった。
 そして彼のご両親が見守って下さっていることも。
 周囲のマンションのベランダなどに人が居ないことはキチンと確認してからだったが。
 最愛の人が立てたお線香と祐樹が少しだけ距離を置いて立てたお線香が風もないのに急に揺れて、8割は灰になってしまっている最愛の人のお線香が祐樹の方へと凭れ掛かるように傾いでいるのが目に入った。
「貴方のお父様とお母様が許して下さるという合図でしょうかね……。器用な貴方が几帳面に立てたのを見ていましたから倒れるようなことはないと思うので」
 もしかして他の要因が有ったのかも知れないけれども、今はそう信じたい。
「そうだな……。母は私に何の要求もしなかった人だったから。
 もちろん、成績が物凄く良かった時とか大学に受かった時には本当に嬉しそうに笑ってくれたのを覚えている。
 だから今も祐樹が正式に挨拶をしてくれたので喜んでくれていると思う。
 区役所だかで公認のパートナーとして認められるよりも、私の両親にこうして公認をされるほうが心の底から嬉しいと思う。
 祐樹のお母様もこのダイアの指輪――」
 そう言って精緻な美しさを持っている薄紅の指を宙にかざしてピンと伸ばして確かめるように見ていた。
 そのダイアの煌めきが月の光と街灯の僅かな光に反射してとても綺麗だった。いやダイアモンドだけではなくて最愛の人の長くてしなやかな指とも相俟って相乗効果――いやそれ以上かもだが――映画のワンシーンのような無垢で艶やかな光を放っているような感じだった。
「このダイアモンドの指輪で私達の仲を公認して下さったし、その時は有り難すぎて涙が出た。
 今日は祐樹が両親の墓前で誓いの言葉を言ってくれて、その上お線香が祐樹の立てた物に傾いだだろう?
 あれは、両親が『この人に一生連れ添って生きなさい』と公認してくれた証しだろう、な」
 そう言葉を紡ぐ最愛の人の唇は咲き誇る大輪の薔薇よりも綺麗な笑みを浮かべていた。
 そして月の雫のような涙の痕もダイアモンドよりも神聖な光を艶やかに放っている。
「そうですね。
 役所とかの公的機関に認められなくても、貴方の両親に認められたほうが私も良いです。
 そして、その願いは叶ったと思っています。
 ――それに役所で認められてもご両親に認められない方が心情的に辛いでしょうし、そもそもごく少数派の性的嗜好の持ち主だと両親に露見した段階で勘当されたとかはグレイスで割と聞いた話です。
 社会に肯定されても肉親に認められない方が正直精神的に参るでしょうし、これで良かったのだと思います」
 真率な声と表情で告げると最愛の人は黙って頷いてくれた。
 その拍子に涙の雫が灯りに照らされて滴っていくのも月の欠片が液体になったような煌めきを放っている。
「あ、祐樹……お線香が完全に祐樹の方へと凭れ掛かってまるで一本のお線香みたいだ……」
 病院から貰って来たものなので――多分より長持ちするためにこういうサイズのモノを購入しているのだろう――祐樹が親戚だか母の友達のお母様だかは覚えていないけれどお葬式の時に見たモノとは長さが異なってはいた。
 しかし、その長いお線香がこうして凭れ掛かって一本のお線香のようになるのは初めて見た。
「『比翼連理』と白居易の詩に有ったと思うが、比翼の鳥、連理の枝という『連理』の木は元々、別の木が枝で繋がって連続した木のように見える様子、なのだろう。
 その連理にお線香は似ているな。
 きっと私の両親も『こうやって生きるように』とメッセージを送ってくれたに違いない。
 両親に公認されたと思うことにする。
 そして、祐樹これからも比翼連理という言葉を考え出した白居易も驚くような仲の良さで一生を暮らしたいと心の底から思っている」
 薄紅色の唇が祐樹の口へと近づいて来た。
 何度も誓いの言葉は述べたが、最愛の人からの自発的なキスは初めてだったような気がして、ご両親の前で口づけを交わした。 
 色々騒然としたが、そんなモノがなかったような静謐で、そして体中に月の光が染み込むような清らかな接吻だった。
                               <了>






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気分は下剋上 公認カップル騒動 109

「私も貴方のご両親に語り掛けますから、どうか聞いていて下さいね……。
 これから申し上げるのは全て本心です。
 無神論者とか普段は言っていますが、こういう時には墓前で報告したら極楽にいらっしゃる貴方のご両親にも届くかと心の底から思いますので……」
 傍らに佇む最愛の人はコクンと頷いてくれた。
 彼だって無神論者のハズだが、やはりお墓の中にはご両親のお骨が眠っているとなると話は別なのだろう。唯物論者の祐樹でも何だかお骨には特別な何かが宿っているような気がした。特にそれが最愛の人のご両親のものなので。
 最愛の人がお線香に火を点けようとすると風が邪魔をしてマッチの火が消える。
 次に擦ったマッチを掌で包み込むようにした。マッチ特有の香りがしめやかな空気の中で薫っているのも良い感じだった。
 風を除ける方法は非喫煙者の最愛の人よりも祐樹の方が場慣れしているからか、炎が赤く黄色く煌めいている。
 その小さな火に照らされた最愛の人も厳粛そうな表情だった。
 大切そうに手に持っていた菊の花を墓前に供えた彼は墓石に向かっている。
「お父さんお母さん、ご無沙汰していて本当に申し訳ないと思っている。そのご無沙汰をお詫びにやっと来ることが出来た。
 お母さんに最後にした報告は『第一志望に受かった』だったよね。
 その後、無事に大学を卒業して立派な医師になれた。そして今は大学病院で教授のポストにいる。
 これもお母さんが必死に働いて、そして入院先の院長先生に引き合わせてくれたお蔭だと思っている。
 院長先生は良くしてくれたよ……。お嬢さんと結婚する代わりにウチでは分不相応な予備校代とかも快く出して下さって。
 お母さんはそちらの世界でもう会ったかも知れないけど、令嬢が事故死した後も援助を打ち切らずにいてくれた。それで無事に卒業出来たんだ。
 そちらの世界から見守ってくれていてもう知っているかとも思うんだけど、アメリカに行ってそれなりの実績を築いてから帰国した。
 その段階で、会いに来るべきだったよね。
 ただ――どうしても報告出来ないことがあって……。そちらの世界じゃお見通しなのかも知れないんだけど……。
 僕はどうしても異性を愛することが出来ない性質で……。もうそれは揺るぎのない事実なんだ……。
 そして、令嬢が亡くなった後にキャンパスで見たこの人に一目惚れをした。一度は叶わない恋だと絶望してアメリカに行ったんだけれども、どうしても忘れられなくて一目だけでも会いたくて日本に帰って来たんだ。
 そしたら予想外にも僕の愛を受け入れてくれて……。生涯に亘るパートナーだと言ってくれるようになった。
 お父さんやお母さんみたいに子孫は残せないけれど、それでもこの人と一緒ならそれで良いと思っているんだ。
 こんなワガママな息子だし、今までお墓に参れなかったのは仕事が忙しいという以外にそういう引け目も有ったからなんだ。
 で、生涯に亘るパートナーが『お墓参り』の背中を押してくれて、今こうしています。
 ご無沙汰も、そしてこの人とこういう関係を続けることをどうか許して下さい」
 最愛の人の声と肩が震えているのはおそらく泣きながら語りかけているせいだろう。
 そして先ほどの映画の俳優さんのように言葉に感情が切々とこもっていた。ベクトルは異なるにせよ。
 ただ、最愛の人でなくとも、同性のパートナーというのは両親に報告し辛いことなのも知っていた。
 それに、性癖をカミングアウトした段階で親子の縁を切られたという話はゲイバー・グレイスでちょくちょく聞く話だったし。
 そして言葉遣いも若干異なるのはご両親に向けてそういう言葉で話していたからなのだろう。
 しばらく若干華奢な震える肩とか頭を下げている最愛の人を見ていた。
 言葉を紡いだ後にも心の中で何かを言っているかも知れなかったので。
 こういう時にはむやみに話しかけない方が良いような気がした。
 彼が立てた線香が半分くらいになったのを確かめた後に、肩を優しく抱きしめて祐樹の方へと顔を向けるように手で誘導した。
 涙の雫を優しく拭きとってから「代わります」と小声で告げた。
「初めまして。田中祐樹と申します。まずはお父様、お母様この人を産んで下さって有難うございます。
 極楽浄土の蓮の上で見守って下さっていたとは思いますが、この人の全てを愛しています。
 聡さんと大学病院で会わなかったら私はロクでもない医師になっていたと思います。
 今は一介の外科医にしか過ぎませんが、この人と一緒に人生を歩みそして生涯愛しぬくことを誓います。
 聡さんが仰っていたようにご両親にとっては不本意なパートナーかも知れません。
 しかし、世界中で最も聡さんを愛しているのは私だと自負しています。だからその愛情に免じて許して下さいませんか?
 生涯をかけて愛しぬく自信は有ります。それはお約束致します。
 いずれそちらの世界に行く段階で、パートナーとしての実績を評価していただいて、及第点ならばこの墓にも少しだけでも良いので私の居場所を作って欲しいと存じます。
 勝手なお願いで申し訳ないと思いますが、どうか宜しくお願い致します。
 その代わり……聡さんのことは一生大事にしますし、必ず幸せにします。それはお約束致しますのでどうか許して下さい。
 今日はご挨拶と、そしてご両親の前で誓いの言葉を述べに参りました。
 聡さんが付けてくれている指輪は私の母から『この人ならば良い』と託されたエンゲージリングです。
 私の今の経済状況ならばもっと大きいのも買えますが、聡さんはこのダイアが最も気に入ってくれているので、それは控えています」
 祐樹も切々とした感情を込めてご両親の許しが下りるようにと語り掛けた。
 そして傍らに立って泣き声を出さずにただ涙をとめどなく流している最愛の人の左手を恭しく上げた。
「このダイアとご両親の墓前に誓います。
 永遠にパートナーとして尊重しつつも愛することを。
 結果論で良いですが、私達がそちらの世界に行く時に、お二人に公認して貰えるように致しますので……。どうかお許し願いたいです」
 そう言って左手の薬指に丁重極まりない仕草で口づけを落とした。






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連休が終わったと思ったら仕事と相続手続きのトラブルがダブルで……。体調不良も治っていないので、更新はいつも以上に綱渡り&不定期になります。

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     こうやま みか拝



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気分は下剋上 公認カップル騒動 108

「お墓、綺麗な状態ですよね?ここはお寺さんの境内でもなさそうですし。
 もしかしたらご親戚が手入れに通って下さっているのかも知れないです」
 街路灯の白い光を朧に受けている最愛の人は目を瞠っている。
「藤井さんという患者さんのことを覚えていますか?」
 藤井さんというのは祐樹が主治医を務めて手術終了後無事に退院していった人だが、職業は住職で金閣寺とかの国宝級の寺ではないもののそれなりの檀家さんを持つ人だった。
「もちろん覚えているが……?」
 涼しげな眼を瞠ったまま最愛の人が密やかな言葉を紡いでいる。
「おの方に聞いたのですが、境内にあるお墓はお寺が管理する場合も多いそうです。しかし、ここはそうでもないみたいなので――その上、隣のお墓は草も生えていて、手入れが行き届いていません。
 だから香川家にゆかりのある人が定期的に通っていらっしゃるのでは?
 母が言いだして来た時には内心『無駄じゃないか?』とも思いましたが、このお墓の綺麗さを見ると定期的にお参りと掃除をなさっている方が居るようなので、その人が誰なのかも突き止めた方が良いでしょうね……。
 それに『親戚です』と貴方に申し出なかった点でお金目的という線は外れますね。
 黙ってお墓の掃除をして下さっているだけという遠縁の方がいらっしゃるのではないでしょうか?
 そういう方は多分母が取り寄せてくれる戸籍謄本で分かると思いますよ。
 その方が御幾つなのかは分からないですが、お身体に不自由な点はない方みたいですよね……」
 お墓全体に手入れは行き届いているような感じだった。祐樹などはお墓の各部分の正式名称は知らないものの、屋根部分までキチンと綺麗になっていた。
 足腰が不自由になった人なら無理だろうなと思う高さなので、ご高齢でもピンピンしている人か、それともその人の意を汲んで墓守をしている――例えばその家のお嫁さんとか――人が居るのだろう。
「ずっとそうして手入れして下さった人が居たのだと思うと有難さと共に何だか済まなさが募るな……。
 私が日常の忙しさに紛れてしまって参っていない不義理を穴埋めして下さっていた人が居るということだろう?」
 最愛の人の律儀な性格を考えるとそう思うのも尤もだと思った。
「母が戸籍を全部取得してくれるそうなので、お墓参りを欠かさずしてくれている方を探し出すのも難しくないでしょう。
 その人に『お墓を綺麗にしてくれて有難うございます』的なお金を振り込んでみては如何でしょう?
 相場は私にも分からないのですが、検索したら大丈夫だと思いますし。
 あ、幾ら綺麗だといっても、やはり手を加える必要も有りますよね。
 まずはお水を汲んで来ますので、それでもっと綺麗にしましょう」
 祐樹が覚えている限りでは母がお墓参りの儀式(?)めいたものをして居る時、お墓を綺麗に掃除した後にお花やお線香を供えていたような気がする。
「それは任せるが、祐樹はスーツだろう?お墓の掃除は私が一人でする方が良くないか?」
 最愛の人が祐樹の服装を慮ってくれるのも嬉しかった。
「これ言いましたっけ?某ナースが元患者さんと婚約して、そのご挨拶に未来の夫の田舎に挨拶に赴いたのです。もちろん、そういう席なので白いワンピースで行ったらしいのですが、ウチ以上のド田舎だったらしくて『嫁となる人はまず、お墓に挨拶するのが筋だ!!』とか言われてご挨拶のために買ったワンピースでお墓掃除をさせられたとか言っていましたよ。しかもその墓地は風通しの良い高台に位置していたらしくて、半そでのワンピースしか着ていなくて物凄く寒かったし、真っ白なワンピースが悲惨な状態になったとか言っていました。それにご挨拶がメインだと思っていたので、ヒールの有る靴を履いていて……。
 しかも他のお墓は草ぼうぼうという有様だったようで蚊が飛んで来て思いっきり刺されたらしいです。
 田舎の人間との――ま、ウチも田舎ですが――結婚あるある話らしいですよ。
 白いワンピースでそういうことをさせられたのも悲劇ですが、私の場合はスーツで作業することも慣れていますし、この季節は蚊もいないので大丈夫ですよ。
 貴方のご両親にご挨拶に来たのですから、その程度はさせて下さい。
 では柄杓とバケツを取って来ますね……」
 街路灯の光が辛うじて届く両親のお墓を見ながら祐樹に向けて僅かな笑みを浮かべてくれていた。
「分かった。祐樹が水を汲みに行っている間に、水がなくても出来そうなことをしておく。
 正式な掃除は――というほど汚れてはいないが――二人でしよう」
 蛍の光に照らされたような綺麗な笑みが一際印象的だった。
「これで完璧に綺麗になりましたよね……?この墓地内のお墓の中で最もピカピカです」
 二人して励んだ結果――もともと几帳面で綺麗好きの最愛の人と、その気になれば几帳面になれる職業の祐樹だ――本気を出せばこんなモノだろう。
「そうだな。では花とお線香を手向けようか……」
 ピカピカといっても、御影石とか大理石ではないのでそこまで光り輝いてはいなかったが。そもそも大理石がお墓に使われるかどうかは知らなかったが。御影石は水を汲みに行った道すがら見かけたので使用出来るのだろう。
「当然貴方が先にご挨拶して下さいね。
 あと……」
 どう言えば効果的かと思いながら言葉を続けた。
 誰も居ない墓地で街路灯だけが仄かな光で照らしている。世界に二人しかいないような錯覚を覚えながら。





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気分は下剋上 公認カップル騒動 107

 まあ、仮に気付かれたとしても、祐樹が知っている事務局の女性陣は割とキャピキャピしている感じで、若い男にしか興味がなさそうな感じだった。
 本来は無神論者だし霊なんてものを全く信じていない祐樹には――菊の花を抱えて隣を歩む最愛の人もそうだろうが――全く平気な場所の霊安室にもオカルト系のウワサは漏れなく付いていることは知っていた。
 だから霊安室勤務の初老の山田さんとは接点がないだろうな……とも思うし、山田さんも若い女性に積極的に近づきそうなタイプでもなかったので大丈夫だろう、指輪の件は。
 まあ、万が一山田さんが素朴な疑問として指輪のことを誰かに話したら、それなりの説得力のあるエピソードをでっち上げないとな……と思っていた。
 ――祐樹が今パッと考え付くエピソードがないのは内心残念だったが、男性の薬指にプラチナのシンプルなリングだけではなくて祐樹の母から託して貰った上で彼に贈ったダイア付きの指輪は言い訳が面倒そうだなとは思ってしまったが。
 森技官に相談してみようか?と思う。昼間に散々迷惑を掛けられたのだから――そして「大人のおもちゃ」の具体的名称を呉先生に畳み込まれた最愛の人の当惑具合とかも加味すると――その程度は許されるような気がした。絶対に口から先に生まれて来た森技官のことだからそういうのも得意のハズだし。
 万が一のことにも備えなければ、最愛の人と祐樹の真実の関係がこれ以上知る人がないようにするという二人の口に出さない願いは叶わないのも分かっていた。
「祐樹、この小路を右に曲がればすぐに墓地がある」
 最愛の人の息も乱していない怜悧な声に我に返った。
 彼が言っていた通り、街灯がかなり明るく点いていて単身者用と思しきアパートがあちらこちらに建っているからだろう。祐樹が学生時代から住んでいたのもこんな感じの部屋だったので何だか懐かしい気がした。ただ、間取りは医学部生の宿命で専門書などを買わなければならないと聞かされていたのでもっと広いような感触だった、ざっと見た限り。
 ただ、昨今の雇用形態の変化で派遣とか非正規とかで働いていて、月収20万円以下という人が多くなったという記事を読んだことが有ったので、そういう人が墓地近くでも良いので住みたいという需要があるのだろうかとかついつい余計なことを考えてしまう。
 祐樹の実家は京都の日本海側でハッキリ言えば田舎なこともあって墓地の周りに普通の民家とかはない。
「ああ、この程度の明るさだったらお墓を探せますよね……」
 安堵の吐息交じりの言葉を何となく雰囲気に飲まれて小声で告げると、菊の花を胸に抱えた最愛の人は怪訝そうな表情を浮かべていた。
「街灯が消えていても、道は以前と同じだから記憶を辿れば多分お墓の前まで行けるかと思っていたのだが……」
 ――この人の驚異的な記憶力をうっかり忘れていた。確かに彼ならばその程度は容易いハズだし、イザとなればスマホのライトを使って道を照らすことも出来るし、お墓も大体の場所が分かったらライトで探せるだろう。
「貴方の記憶力にはいつも助けられてばかりですね……。私の欠けたところを補って下さって嬉しいです」
 実感というか心の声を唇に載せた。
「いや私の欠けたところは祐樹に補って貰っているので、それはお互い様だと思うのだが……。ただ、祐樹の役に立てて嬉しいけれど……」
 二人とも墓地の静謐な空気を搔き乱すようなことをしたくないのだろう、自然と小声になっている。
「こっちだ……」
 迷う様子もなく墓地の中を歩んでいる最愛の人が祐樹の腕を掴んで道案内をしてくれる。
 二階以上の――といっても京都は殆どの場所が低層階しか建てられないように条例で決まっているし、この辺りもそうなのだろう四階以上の建物はない感じだ――ベランダに出ていたり窓の外を見ていたりした人が居れば見つかってしまうだろうが、こんな夜にお墓を観察するようなモノ好きな人間は居ないと信じたい。まあ、部屋の壁などを汚したくないスモーカーならベランダで吸っているという可能性は有ったものの、上から眺められた場合は顔が見えないという利点に気付いた。
 それに何かの拍子に顔を上にしても、最愛の人は前髪も下ろしているし、スーツ姿ではないのでテレビに出た時とは全く雰囲気が違うので人違いだと思ってくれるだろう、多分。
「ああ、このお墓ですか。割と綺麗に掃除されていますよね。お花は枯れてしまっていますが。 
 えっと、お水を汲むヒ……ヒシャクでしたっけ?それも要りますよね?あとバケツ状の物も。水道が有るところにそういうのも置いてあったハズですが……?」
 もっと難航するかと思っていた香川家重代の墓が彼の記憶力のお蔭で最短時間と距離で着けたのでうっかりしていた。
 それに、二階以上の部屋から灯りが漏れていないよな?とかタバコ特有の光を密かに探していたという事情もあったのだけれども。ただ最近は電子タバコが普及しているので分かりにくくなっているのも事実だった。
 祐樹は時々――特に救急救命室勤務の時は格好の息抜きに―タバコを吸う程度にまで少なくなったものの、電子タバコという選択肢はなかったが。何だか昔から馴染んだモノしか吸いたくないという思いが理由だった。
「あ!それはうっかりしていた。
 お墓参りに来たのは先ほども言った通り納骨の時が最後だったので。息子失格だな……」
 少し恥じた感じの小さな声に、被せてしまった。
「いえ、ウチは父が眠っていますがそこに行ったのはいつだったかもう覚えていないので……。同じ程度だと思いますよ、息子失格具合は。
 それよりも……」
 気付いたことを言ってから、バケツ状の物と柄杓とやらを取りに行こうと思った。





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最後まで読んで下さいまして誠に有難うございます!!取り敢えず二話更新出来ました!!
「心は闇に~」は正直微妙ですが、一応リンク貼っておきます。
「七夕編」よりもこちらの方が早く終わりそうです。もうお彼岸なのに何やっているんだか……と。
本当に済みません!!



     こうやま みか拝


◆◆◆




小説家になろう様「心は闇に囚われる」こちらで更新出来ていたら正午にブログもアップされます。なければ力尽きたなと生暖かく見守って下されば嬉しいです。







小説家になろう様「気分は下剋上 秋」まだまだ恋人同士になって間もない二人が思いっきり遠回りしております。宜しければ是非♡







 








小説家になろう版 「気分は~」1stシリーズ 一気読みにどうぞ!












 









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気分は下剋上 公認カップル騒動 106

「斜めに切った方が切断面積も大きくなるので、花が水を吸う量も多くなるのですね?」
 最愛の人が確認するような感じで山田さんに聞いていた。ラフな私服かつ前髪を下ろしているにも関わらず病院に来たからか怜悧かつ理知的な「公的」な声と表情だった。
「そうです。流石、香川教授ですね。ウワサ通りで感服致しました」
 ああ、そういうコトかとやっと思い至る。確かに茎を真っ直ぐに切ると(多分)円の面積しか確保出来ないが斜めに切ると変形の長方形の給水が可能なのだろう。
「いえ、適切なアドバイス有難うございました。やはり餅は餅屋と言いますか……、とても参考になりました」
 最愛の人は祐樹が見る限り切断面を最大の大きさに切りそろえてから山田さんに深々と頭を下げている。
「――そんな、私ごときに勿体ないです。
 お役に立てて幸いではありますが、香川教授から頭を下げられるとは今の今まで思いも寄らない事態でして……恐縮しきりです」
 慌てたような嬉しそうな感じで山田さんは言っている。
 最愛の人のことを公私に亘って知っている祐樹は彼の誰にでも丁寧な態度を取ることは知っているが、アメリカの名門大学のMBA(経営学修士号)ホルダーを誇る事務局長クラスならばともかく――祐樹は全く良い印象を抱いていないけれど――霊安室の職員には衝撃だったらしい。事務局のヒエラルキーは良く知らないものの、霊安室勤務というのは出世の道は閉ざされているような気がする。しかも杉田師長の旧姓を知っていたということはここの部屋での勤務年数も長いに違いないし。
「いえいえ、いきなりお邪魔してお願いを聞いて頂いてその上貴重なアドバイスまで頂いたので当然です。
 本当に有難うございます。ではお言葉に甘えて頂いて行きますね」
 もう一度お辞儀をしている最愛の人にそれ以上に深々とお辞儀を返している山田さんは感心しきりといった感じだった。まあ、傍若無人に振る舞う教授も多いので最愛の人がごくごく普通に振る舞っているのが逆に珍しいのだろう。
 お線香は持ったし――そして本当は良いのかどうか分からないがライターは習慣でポケットに入っている。ただ、母はお仏壇とかお墓にお線香を上げる時はライターではなくて絶対にマッチを使っていたことを思い出した――念のために聞いてみた。
「あのう、お墓参りなどの場合は――いえ、どうしてもこのような非常識な時間しか捻出出来なくてですね……。ご遺族も了承済みなので大丈夫だと思います――ライターではなくてマッチの方が良いのでしょうか?」
 (ああ、だから菊の花か)とでも思ったのだろうか山田さんは納得したように頷いている。
「礼儀作法の本とか仏教のお作法ではマッチが良いと書かれていますね。
 宜しければお分け致しましょうか?」
 マッチを購入したことはないものの、喫茶店ではマッチはタダでくれる店が多いがライターの場合は貸し出してくれる店にしか行ったことがない。多分価格の問題だろう。
「お願いしても宜しいですか?お墓に失礼な、いや不作法なのかもしれませんがそういう義理を欠いたことはしたくないので」
 祐樹がキッパリと言い切ると山田さんは戸棚の中からマッチを出してくれた。
 そして隣に菊の花を持って佇む最愛の人は内心驚いているような感じで涼しげな目を瞠っていたのが印象的だった。
 お礼を言って霊安室から辞去してから「お墓の道案内、お願いしますね」と囁いた。
 この辺りは昼でも人通りの少ない――霊安室なのである意味当たり前だし、隠すように院内から運び出すのだろう救急救命室が救急車を停めるスペースと同じように霊柩車(?)だかの葬儀屋さんの車が出入り出来るように設計されている。その門から出るとあ!と思った。
「この暗闇ではお墓を探し当てるのは大変ではないでしょうか?」
 お寺の境内にあるのかそれとも墓地専用なのかは知らないが、墓石が多数立っているので間違えて縁もゆかりもないお墓にお参りするのは避けたい。
「ああ、それは大丈夫だと思う。母の納骨で行った時は当然昼間だったが、街灯が割と明るくお墓を照らしているような感じで近くの道路に有ったのを覚えている。
 多分、お墓という夜は訪れる人も少ない場所ではあるが、周りにアパートとか単身者用と思しきマンションが建っているので夜でも物騒にならないようにしているのだろうな、今思えば……」
 最愛の人のお母様が亡くなった時は彼が18歳の時らしいが、その時から驚異的な記憶力を持っていたのだろう。
「それは良かったです。確かに人の気配がない所だと逆に悪さをしそうな人間も居ますからね。
 それに明るい道だと一人暮らしの女性も安心して――まあ、霊感が有るとか思い込んでいる人は別かと思いますが――部屋に帰り着くでしょうね」
 普段のペースで歩いているものの――普通の人にはウオーキング用というかかなりの速足と判断されるだろう――会話も普通に出来る。
 まあ、今ダイエット中の――と言っても三歩進んで二歩下がるという感じだった――久米先生なら息切れしそうな速さだったが、最愛の人も祐樹もこの速さが普通だし、しかも映画の時とか呉先生の薔薇屋敷で余分に摂取したカロリー消費も兼ねているのでデートの時のようにゆっくりと歩くことはしていない。
「京都はお寺とお墓、そして神社もたくさん有るのでオカルトマニアとかも観光に来ているとか聞いているな。
 ただ、他の地方のようにお墓が近くてもそんなに家賃は安くならないらしいが。
 霊感か……あれもほとんどが脳の中で勝手に変換されているらしいな。それでもまだ説明がついていないのも多いと読んだ覚えは有るが」
 菊の花を持った最愛の人の指には祐樹が最初に贈ったダイアのリングが慎ましやかな煌めきを放っていた。
 山田さんは当然見ている可能性も有ったが、まさかの病院の至宝とも呼ばれている香川教授が霊安室に来たということで彼のオーダーに応えるのに必死だったと思いたい。それに女性ならばそういう装身具に目敏いだろうとも思うが、山田さんの初老かそれ以上に見える男性は気にしないでいて欲しいなと切実に思った。
 ただ、祐樹が密かに企んでいるコトからすると最愛の人がリングを外していない方が都合も良いのも事実だったが。




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最後までお読みくださいまして誠に有難うございます!!

今日は仕事が割とサクサク運んだので「心は闇に~」も更新出来ると思います、た、多分ですが。


リンク貼っておきますので興味のある方は「小説家になろう」様にタップ(クリック)お願い致しますm(__)m


    こうやま みか拝








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◆◆◆









小説家になろう様「心は闇に囚われる」諸般の事情でこのブログよりも数時間、早く更新しております。続きが気になる方はこちらをどうぞ。






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