最愛の人は震える紅色の指で祐樹のキスを受けている。
そして見上げると滑らかな頬に涙の雫を零し続けていた。若干華奢な肢体も泣いているせいなのか震えていた。ただ、彼の全体の雰囲気は月の柔らかな光を纏っているような感じだったが。
「今日は貴方のご両親にご挨拶だけでもと思いまして。
初対面ですからスーツ姿なのは当然のマナーですよね。
極楽浄土にいらっしゃる貴方のご両親は、私達のこともずっとご覧になると思います。
そのためのご挨拶を兼ねたお墓参りですので。
今は貴方の仰る通り、俄かには受け入れがたいとは思いますが、これからのぴったり重なった二人の人生の軌跡を見て下さればきっとお墓に入ることも許して下さると思います。
ずっとご覧になってその後の判断で『受け入れる』と言って下さるのではないでしょうか?」
涙の膜を張った切れ長の綺麗な瞳を見つめてそう言って彼のしなやかな長い指に祐樹の指を付け根近くまで絡ませた。祐樹も無神論者ではあったが、何だか極楽浄土が本当にあるような気がしていたのも事実だった。
そして彼のご両親が見守って下さっていることも。
周囲のマンションのベランダなどに人が居ないことはキチンと確認してからだったが。
最愛の人が立てたお線香と祐樹が少しだけ距離を置いて立てたお線香が風もないのに急に揺れて、8割は灰になってしまっている最愛の人のお線香が祐樹の方へと凭れ掛かるように傾いでいるのが目に入った。
「貴方のお父様とお母様が許して下さるという合図でしょうかね……。器用な貴方が几帳面に立てたのを見ていましたから倒れるようなことはないと思うので」
もしかして他の要因が有ったのかも知れないけれども、今はそう信じたい。
「そうだな……。母は私に何の要求もしなかった人だったから。
もちろん、成績が物凄く良かった時とか大学に受かった時には本当に嬉しそうに笑ってくれたのを覚えている。
だから今も祐樹が正式に挨拶をしてくれたので喜んでくれていると思う。
区役所だかで公認のパートナーとして認められるよりも、私の両親にこうして公認をされるほうが心の底から嬉しいと思う。
祐樹のお母様もこのダイアの指輪――」
そう言って精緻な美しさを持っている薄紅の指を宙にかざしてピンと伸ばして確かめるように見ていた。
そのダイアの煌めきが月の光と街灯の僅かな光に反射してとても綺麗だった。いやダイアモンドだけではなくて最愛の人の長くてしなやかな指とも相俟って相乗効果――いやそれ以上かもだが――映画のワンシーンのような無垢で艶やかな光を放っているような感じだった。
「このダイアモンドの指輪で私達の仲を公認して下さったし、その時は有り難すぎて涙が出た。
今日は祐樹が両親の墓前で誓いの言葉を言ってくれて、その上お線香が祐樹の立てた物に傾いだだろう?
あれは、両親が『この人に一生連れ添って生きなさい』と公認してくれた証しだろう、な」
そう言葉を紡ぐ最愛の人の唇は咲き誇る大輪の薔薇よりも綺麗な笑みを浮かべていた。
そして月の雫のような涙の痕もダイアモンドよりも神聖な光を艶やかに放っている。
「そうですね。
役所とかの公的機関に認められなくても、貴方の両親に認められたほうが私も良いです。
そして、その願いは叶ったと思っています。
――それに役所で認められてもご両親に認められない方が心情的に辛いでしょうし、そもそもごく少数派の性的嗜好の持ち主だと両親に露見した段階で勘当されたとかはグレイスで割と聞いた話です。
社会に肯定されても肉親に認められない方が正直精神的に参るでしょうし、これで良かったのだと思います」
真率な声と表情で告げると最愛の人は黙って頷いてくれた。
その拍子に涙の雫が灯りに照らされて滴っていくのも月の欠片が液体になったような煌めきを放っている。
「あ、祐樹……お線香が完全に祐樹の方へと凭れ掛かってまるで一本のお線香みたいだ……」
病院から貰って来たものなので――多分より長持ちするためにこういうサイズのモノを購入しているのだろう――祐樹が親戚だか母の友達のお母様だかは覚えていないけれどお葬式の時に見たモノとは長さが異なってはいた。
しかし、その長いお線香がこうして凭れ掛かって一本のお線香のようになるのは初めて見た。
「『比翼連理』と白居易の詩に有ったと思うが、比翼の鳥、連理の枝という『連理』の木は元々、別の木が枝で繋がって連続した木のように見える様子、なのだろう。
その連理にお線香は似ているな。
きっと私の両親も『こうやって生きるように』とメッセージを送ってくれたに違いない。
両親に公認されたと思うことにする。
そして、祐樹これからも比翼連理という言葉を考え出した白居易も驚くような仲の良さで一生を暮らしたいと心の底から思っている」
薄紅色の唇が祐樹の口へと近づいて来た。
何度も誓いの言葉は述べたが、最愛の人からの自発的なキスは初めてだったような気がして、ご両親の前で口づけを交わした。
色々騒然としたが、そんなモノがなかったような静謐で、そして体中に月の光が染み込むような清らかな接吻だった。
色々騒然としたが、そんなモノがなかったような静謐で、そして体中に月の光が染み込むような清らかな接吻だった。
<了>
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