「私も貴方のご両親に語り掛けますから、どうか聞いていて下さいね……。
これから申し上げるのは全て本心です。
無神論者とか普段は言っていますが、こういう時には墓前で報告したら極楽にいらっしゃる貴方のご両親にも届くかと心の底から思いますので……」
傍らに佇む最愛の人はコクンと頷いてくれた。
彼だって無神論者のハズだが、やはりお墓の中にはご両親のお骨が眠っているとなると話は別なのだろう。唯物論者の祐樹でも何だかお骨には特別な何かが宿っているような気がした。特にそれが最愛の人のご両親のものなので。
最愛の人がお線香に火を点けようとすると風が邪魔をしてマッチの火が消える。
次に擦ったマッチを掌で包み込むようにした。マッチ特有の香りがしめやかな空気の中で薫っているのも良い感じだった。
風を除ける方法は非喫煙者の最愛の人よりも祐樹の方が場慣れしているからか、炎が赤く黄色く煌めいている。
その小さな火に照らされた最愛の人も厳粛そうな表情だった。
大切そうに手に持っていた菊の花を墓前に供えた彼は墓石に向かっている。
「お父さんお母さん、ご無沙汰していて本当に申し訳ないと思っている。そのご無沙汰をお詫びにやっと来ることが出来た。
お母さんに最後にした報告は『第一志望に受かった』だったよね。
その後、無事に大学を卒業して立派な医師になれた。そして今は大学病院で教授のポストにいる。
これもお母さんが必死に働いて、そして入院先の院長先生に引き合わせてくれたお蔭だと思っている。
院長先生は良くしてくれたよ……。お嬢さんと結婚する代わりにウチでは分不相応な予備校代とかも快く出して下さって。
お母さんはそちらの世界でもう会ったかも知れないけど、令嬢が事故死した後も援助を打ち切らずにいてくれた。それで無事に卒業出来たんだ。
そちらの世界から見守ってくれていてもう知っているかとも思うんだけど、アメリカに行ってそれなりの実績を築いてから帰国した。
その段階で、会いに来るべきだったよね。
ただ――どうしても報告出来ないことがあって……。そちらの世界じゃお見通しなのかも知れないんだけど……。
僕はどうしても異性を愛することが出来ない性質で……。もうそれは揺るぎのない事実なんだ……。
そして、令嬢が亡くなった後にキャンパスで見たこの人に一目惚れをした。一度は叶わない恋だと絶望してアメリカに行ったんだけれども、どうしても忘れられなくて一目だけでも会いたくて日本に帰って来たんだ。
そしたら予想外にも僕の愛を受け入れてくれて……。生涯に亘るパートナーだと言ってくれるようになった。
お父さんやお母さんみたいに子孫は残せないけれど、それでもこの人と一緒ならそれで良いと思っているんだ。
こんなワガママな息子だし、今までお墓に参れなかったのは仕事が忙しいという以外にそういう引け目も有ったからなんだ。
で、生涯に亘るパートナーが『お墓参り』の背中を押してくれて、今こうしています。
ご無沙汰も、そしてこの人とこういう関係を続けることをどうか許して下さい」
最愛の人の声と肩が震えているのはおそらく泣きながら語りかけているせいだろう。
そして先ほどの映画の俳優さんのように言葉に感情が切々とこもっていた。ベクトルは異なるにせよ。
ただ、最愛の人でなくとも、同性のパートナーというのは両親に報告し辛いことなのも知っていた。
それに、性癖をカミングアウトした段階で親子の縁を切られたという話はゲイバー・グレイスでちょくちょく聞く話だったし。
そして言葉遣いも若干異なるのはご両親に向けてそういう言葉で話していたからなのだろう。
しばらく若干華奢な震える肩とか頭を下げている最愛の人を見ていた。
言葉を紡いだ後にも心の中で何かを言っているかも知れなかったので。
こういう時にはむやみに話しかけない方が良いような気がした。
彼が立てた線香が半分くらいになったのを確かめた後に、肩を優しく抱きしめて祐樹の方へと顔を向けるように手で誘導した。
涙の雫を優しく拭きとってから「代わります」と小声で告げた。
「初めまして。田中祐樹と申します。まずはお父様、お母様この人を産んで下さって有難うございます。
極楽浄土の蓮の上で見守って下さっていたとは思いますが、この人の全てを愛しています。
聡さんと大学病院で会わなかったら私はロクでもない医師になっていたと思います。
今は一介の外科医にしか過ぎませんが、この人と一緒に人生を歩みそして生涯愛しぬくことを誓います。
聡さんが仰っていたようにご両親にとっては不本意なパートナーかも知れません。
しかし、世界中で最も聡さんを愛しているのは私だと自負しています。だからその愛情に免じて許して下さいませんか?
生涯をかけて愛しぬく自信は有ります。それはお約束致します。
いずれそちらの世界に行く段階で、パートナーとしての実績を評価していただいて、及第点ならばこの墓にも少しだけでも良いので私の居場所を作って欲しいと存じます。
勝手なお願いで申し訳ないと思いますが、どうか宜しくお願い致します。
その代わり……聡さんのことは一生大事にしますし、必ず幸せにします。それはお約束致しますのでどうか許して下さい。
今日はご挨拶と、そしてご両親の前で誓いの言葉を述べに参りました。
聡さんが付けてくれている指輪は私の母から『この人ならば良い』と託されたエンゲージリングです。
私の今の経済状況ならばもっと大きいのも買えますが、聡さんはこのダイアが最も気に入ってくれているので、それは控えています」
祐樹も切々とした感情を込めてご両親の許しが下りるようにと語り掛けた。
そして傍らに立って泣き声を出さずにただ涙をとめどなく流している最愛の人の左手を恭しく上げた。
「このダイアとご両親の墓前に誓います。
永遠にパートナーとして尊重しつつも愛することを。
結果論で良いですが、私達がそちらの世界に行く時に、お二人に公認して貰えるように致しますので……。どうかお許し願いたいです」
そう言って左手の薬指に丁重極まりない仕草で口づけを落とした。
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