「西野警視正、もし宜しければ運転しましょうか?」
 キーを手に持って駐車場に向かって歩いて来る飄々とした感じの西野警視正に――多分、何も知らない人が見たら、警察関係者とは思われないだろう、な。なんか財布とかを落としてこの署に預かってもらっていて、それを取りに来て気分はスッキリしている一般人って感じだった――幸樹が声を掛けている。
 この気遣いとか大人の対応は「まだ」いつもの幸樹だった。
 それは嬉しいんだけど、え?と内心目をぱちくりしてしまった。
 とはいえ、俺が運転したらかなりの確率で税金が投入されている(んだろう、きっと)車に傷を付けて修理費とかで税金の無駄遣いをさせそうなので敢えて声は出さなかったんだけど。
 ウチの母さんはベンツを――そういえばN宮市のK戸屋というレストランに置きっぱなしだけど、きっと西野警視正の有能な部下がレストランの人に言ってくれているか気を利かして西野警視正が署長を務める署の駐車場にでも動かしてくれているかのどっちかだろうなと思う――幸樹が運転するなら快く貸し出すクセに俺には緊急事態じゃないとキーをくれないという点からも分かるように運転技術は雲泥の差がある。
「あのな、幸樹君……。自分がどんな薬を摂取したのかもう忘れたのかい?
 頭痛薬ですら『車の運転はしないでください』と注意書きに書いてあるだろう?
 いくら半減期が早い薬とはいえ、身体にどんな作用が残っているか分からない人間に運転なんてさせられると思うのかい?
 そんな身体で事故った場合は――アルコールだったら明確に法律違反だが、薬物は明文化されていないがね――私の保護者としての管理責任まで問われることになるのだよ」
 あ!という顔をしている幸樹だったけれど、そういう普通の人だったら間抜けに見える表情までもがカッコイイと思うのは恋人の贔屓目じゃないと思う。
「ああ、オレそういえば薬飲んでいましたよね。アドレナリンが分泌されているせいかすっかり身体は忘れてしまっていました。
 ただ、薬は余り飲まないので、市販の頭痛薬でもぼうっとしてしまうことが有ります。
 言って下さって有難うございます」
 幸樹がペコリと頭を下げている。
 俺も「幸樹、薬飲んでいるけど良いの?」って思っていただけに西野警視正の大人の判断にホッとした。
「助手席に座りたいのですが、まだぼうっとしているので、後部座席で遼に凭れ掛かっていて良いですか?」
 西野警視正は意味ありげに俺達二人を見て不思議の国のアリスに出てくる猫のような笑みを浮かべている。
 ――これはもしかして……。でも下手に弁解したら逆にドツボにハマってしまうダメなヤツのような気がして全力でスルーすることにした。
「確かに警察車両には色々なモノが装備されているからね。薬の作用でフラッとしてどこかにぶつけたら大変だ。だからそういう物がない後部座席に座りなさい。クラっと来たら遼君の身体をクッションにするんだよ?」
 どこまでが本当か分からないことを言っている。ドラマで観た警察車両でパトカーじゃないヤツって普通の乗用車と変わらないんだけどな。
「幸樹、お薬そんなに苦手だったの!?それは知らなかった!!」
 そう言えば幸樹が薬を服用している――「あの」合宿で大野さんに飲まされていたのは別にして――のを見たことがない。正露〇は匂いがダメで飲めないというのは知っていたけれど、薬全般だったとは知らなかったな。
「ああ、オレはバファリ〇とかもダメなんだ。これはガチ……」
 幸樹が俺の耳元で小さく告げてくれた。その呼吸が耳朶を赤くしていくのを自覚してしまった。
 今夜――まだ未確定だけどさ、これ以上の緊急事態は起こりそうにないと思うんだけれどもまだ分からない。まだ生き残ったゼミの全員が然るべき施設に保護されたという報告は来ていない。多分「緊配」とかいう警察署で最も優先順位が高いとかいう配備が解かれていないのだろう。コンビニ強盗の身柄の確保が出来ていないってコトなのだろうけれど、H庫県を超えてO阪府に入ったら龍崎さんも色々と厄介なことが起こるらしいので待機中とか根回し中なのかな――俺の部屋でHをするという約束は出来ている。
 そういうことを嫌でも意識してしまう幸樹の低くなった声に身体が反応してしまっていて、慌てて他のことを考えた。
「あのさ、谷崎君の方が大量に薬を摂取したのに何故薬が効かないのかとか、幸樹は薬入りの缶コーヒーを三口しか飲んでないのに直ぐに効果が出たのかな?って考えていたんだけど、幸樹の体質が薬にそれほど耐性がなくてさ、谷崎君には有ったってことじゃないかな?
 それが谷崎君の体内にあるハズの『闇に囚われた薬』のせいかどうかは分からないけどさ……」
 この考えは物凄く魅力的だった。谷崎君の「闇に囚われる薬」が大野さんのニンニクみたいなアマゾン由来の薬のせいだったら、幸樹は同じように耐性が出来ているハズだ。
 と言っても、新種の薬(?)なので全然的外れかもしれないし、バファリ〇とかの製薬会社が作ったお薬と天然物由来のモノとでは違うのかもしれないし。
 個人的に思うんだけど「植物由来だから身体に安心」とかっていうCMがテレビとかYouTubeなんかで良く流れているけど、トリカブトとかいう植物を――どんな形をしているのかとかは全く知らないんだけど――使って殺人事件も起こっているし、植物だからといって人体に優しいなんてことはない。
 ああ、そういえば法律で禁止されている大麻も普通に栽培出来るとかテレビで見た覚えがあるし、法律で禁止されていないけれども、依存度では大麻よりも有害なタバコだって葉っぱを乾燥させて作っていたんじゃなかったっけ?
 あ!大麻は滅茶苦茶ハイテンションになるとかワイドショーで芸能人とかが捕まった時に言ってたけれども……、それって脳に何らかのパルスって言うのかな?とにかくハイテンションになるように!っていう信号を送っているんだろう。
 だったら、谷崎君とか有吉さんが「闇に囚われた」状態もお薬が脳にヘンテコな情報を送り続けているんだろうなって思う。
 幸樹が、駐車場で交わしていた二人だけの会話を西野警視正にテキパキと的確に伝えている。
「なるほど……。確かにK都大の研究室に残っている人間が私の見た厚労省のリストの中に含まれている可能性は高いな。
 二人のお蔭だよ。これは東野副部長――もちろんホンモノのほうだがね――あれ?」
 西野警視正が運転しながら変なトコで言葉を切った。
「あれ?」って何か思いついたのかな?





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