「――はい。上野教授のデータを精査してくださるそうです。
 何か出てくればと願ってやみませんが……。 
 龍崎さんは、有吉さんの遺書とか谷崎君の言動が……言葉は悪いかもしれないですが攻撃的で、それ以前に『自殺』した人とは違うこと。
 そして、有吉さん・谷崎君は現在のことを『妄想』――しかも本人が知らないような知識まで加わっていましたよね――しているのに反して国見君はジャングルの闇という第二次世界大戦の時の日本兵のような幻覚を見ているという異なった点があるというご指摘を……」
 西野警視正は幸樹の言葉を聞いてさっきのチャラい感じから警察官僚そのものみたいな真剣かつ賢そうな表情に変わっていた。
 幸樹も男らしく整った顔に鋭い目の光を宿して必死に何かを考えている。
 その研ぎ澄まされた日本刀のような目を見ると俺の心臓がトクトクと音を立てている。
 俺を抱きしめて愛の言葉を告げる時の幸樹の甘い笑みも大好きだったけど、こういう凛々しい表情にも見惚れてしまっていて。
「それに、これは遼の発案なのですが、龍崎警視正はウチの親父と同じ階級なので――いや、西野警視正とかオレはその事実を当たり前というか既成事実だったので『特別』とは思っていなかったですよね。だからこそ思いつかなかったというか――」
 幸樹の笑みに苦いモノが混ざっている。
 多分「どうしてオレが気付かなかったのだろう」という自責の念に苛まれているんだろうなって思ってしまった。
「幸樹はさ、さっき龍崎さんが言った通りにグラスの中の嵐に思いっきり翻弄されてるんだよ。
 それは俺も同じだけどさ、警察の内部のことに関しては、俺にとっては違うグラスの中の出来事というのかな?金魚鉢を覗いて『うわぁ、こんな世界なんだぁ……』って感心して見てる部分があったから多分気付けたんだと思う。
 幸樹はお父様を通して綺麗な金魚鉢の中に居る人間なんだと思う。俺達は同じ大学で、同じゼミっていう点では住んでる世界は一緒だし……。一緒だからこそ、こうして分かち合える部分がいっぱい有るんだけど。
 でも、俺の父さんの小さな会社の経営のコトは幸樹には分からないだろ?――実際、俺も100%分かっているわけじゃないけどさ――ウチのお父さんの会社経営について幸樹も『へぇ、こんな世界が有ったんだな』とかって新鮮な気分で見ると思う、よ?
 俺が龍崎さんと幸樹のお父さんが同じ階級だから、同じ情報にアクセス出来るんじゃ?って外野の判断で上野教授のことを言ってみたらたまたまビンゴだっただけでさ……。
 西野警視正には下りて来ない情報でも警視監ならアクセス出来るかもって、ふっと閃いたんだ。
 幸樹のようにさ、緻密な頭脳は持ってないから、それは幸樹を頼りにしてしまっているけど、俺だって咄嗟の閃きという長所が有るんだから、幸樹からしたらちっぽけな協力かも知れないけど、少しは役に立ったら物凄く嬉しいんだけど、な……」
 西野警視正は俺の言葉で何となく状況を察したらしかった。
「二人は良いコンビだと思うよ。
 警視監サマほど偉くはないのも事実だが、私は私なりの情報を集めることにする。
 それでね、谷崎君のお母様から事情を聴いた。
 あ、龍崎警視監、誠に貴重なお時間を無駄にして申し訳ありませんでした」
 スマホの向こうで龍崎さんが聞いていることにやっと思い至ったのか、西野警視正はしても無駄かもって思える敬礼をしている。
 ただ、電話越しでも相手に行動までが伝わるので、謝罪する時はひたすら平身低頭しろ!ってウチのお父さんが会社の人に言っていたので社会人としては当たり前のことなのかも知れないんだけど……。
『いや、現場がバタつくのは仕方ないし、現場指揮官が足を使って動き回れば現場の士気も上がるので警視正の行動は間違ってはいない。
 上野教授のデータにアクセスしてみたのだが、北朝鮮との繋がりは明らかだ。
 谷崎や有吉裕子さんのご遺体はK戸大学医学部病院だろう?
 そちらにもデータを私の一存で送ることにする。
 ただ、薬物と思しき名前しか分からないが、専門医が調べたら何か分かるかも知れないな……。
 幸樹君もキチンとしたデータは欲しいだろう?西野警視正にも送っておくのでそれをコピーしてくれて構わない』
 龍崎さんの一存でそんな貴重なデータが手に入るなんて物凄くラッキーだった。
 まあ、幸樹だって精神医学に詳しいとはいえ専門ではないからヒントくらいにしかならないだろうけど……。
「有難う御座います。龍崎さんが兵庫県警のトップで本当に良かったです。
 薬物関係はまるっきりの素人なので、どなたか精神をコントロール可能な薬物の研究をしている方がいらっしゃればご紹介をお願いしたいのですが……。
 ただ、オレの知る限りですけれども……、本人も知らないことを『啓示』みたいに脳に入ってくる薬物なんてないですよね……?」
 幸樹がイラついた感じで長くて男らしい指でこめかみの辺りをトントンと叩いている。
『ううむ……。そういう研究は私の母校ではなくて、K都大学が世界屈指と言われていたのだが、この不況だろう?税収も下がっていることとか、そしてそれほど儲かる研究ではないということもあって……予算が下りなくなってしまって縮小されたと聞いているが……研究室には問い合わせてみることにするし、なんなら内部の人間を顧問として県警本部に呼ぶように手配するが?』
 K都大学!そして、薬物研究!しかも、日本でトップクラス!?
 そのキーワードに当てはまる人間に心当たりがあった。
「大野さん!?」
 幸樹も同じことを考えたのか、二人の声が綺麗にハモった。
 その瞬間に西野警視正が「あっ!!」って何かを思い出したような声と表情を浮かべている。





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初盆の準備とかでダウン寸前です。

しかし、隙間時間は有るので「小説家になろう様」に「気分は下剋上<秋>」を投稿しました。

これは最後まで行ったと早とちりにも思い込んでいたのですが、途中でした(泣)あちらで「了」が付くまで更新したいと思いますので、読んで下さると嬉しいです。

  こうやま みか拝




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