『今日のランチなのですが、執務室に患者さんからのお弁当などが届いていなければ、ご一緒しませんか?
 取って置きのお店を教えて貰ったので、仮予約しておきますね。ダメならキャンセル出来ますのでその点はご遠慮』
「ってタップミスで送ってしまいましたよ。いきなり甲高い声で私の鼓膜を痛めたばかりかラインの文章までぶった切ってしまったんですが、一体何なのですか?」
 最愛の人に「自分よりも早く帰さない」妙案を思い付いてタップしていたら、久米先生の「田中先生~~!!」という普段よりも一オクターブくらい高い声でうっかり送信してしまった。
 ラインは便利だが、指の操作を一つ間違うとこの有様になってしまう。
「えっ?もしかして、彼女さん宛てのを全然違うナースとかに送ったとかですか?」
 久米先生が丸っこい目に済まなそうな感じと興味津々といった感じの光を宿していた。
「宛名間違いなんて初歩的なミスを私がするとでも思っているのですか?
 久米先生、手軽に見られてしかも時間が短いからってYouTubeの『すかっとライン』チャンネルでしたっけ?あれの見過ぎでは?
 妻のラインに恋人に宛てた文面を送り付けるような間抜けな人間がそうそう居るとは思わない方が良いでしょう。普通は細心の注意を払って、もう宛名は何回も確かめて送りますよ、私はまだ独身ですが、あんな不注意なことをするほど馬鹿としか思えないです。
 というか、一体何の用事ですか?」
 今日の手術は珍しく脳外科のオペがなかったせいで祐樹が執刀医、そして久米先生が第一助手だった。
 その見事な助手っぷりは瞠目に値するほどの進化を遂げていたのだが、控室に戻ると「いつもの」久米先生に戻ってしまう。
 というか、祐樹最愛の人は仕事以外の完璧さを求めないので――逆に言うと仕事で完璧でなければならないということでもある。祐樹だってドラマでしか観たことはないが、口の上手さとかおべっかで上司に取り入って実際の仕事は出来ないのに覚えが目出度いという部下は居ないので医局の中がシンプルにまとまっているような気がする――私生活が破天荒といった人が多くなっているような気がする。
「姫がですね……。貴船神社に行こうって誘ってくれたんです!!」
 アクアマリンのような清楚で慎ましやかな光を放っているような容姿を持っていた脳外科の新人ナースなのでアクアマリン姫というあだ名を付けたのは他ならぬ祐樹だったが、久米先生はお姫様扱いをしているので――順調に交際しているようなので姫から女王様に昇格する可能性は高い――姫で通じる。
「貴船神社ですか……。ああ、もしかして丑の刻参りを見に行くとか?」
 そういうモノ好きも居るだろうなとも思ったが、半分は嫌がらせだった。
 せっかく気の利いた愛の言葉でラインの文章の結びにしようと思っていたのに、久米先生の甲高い声で忘れ果ててしまっていたので。
 ああいう「思いつき」の言葉というか脳裏に浮かんだ宝石のような言葉は油断するとどこかに蒸発してしまう。
 大学入試の時に無理やり読んだ文章だかにベートーヴェンが趣味と創作活動を兼ねて散歩の途中に天啓のように降って来たメロディを聴覚障害のために持っていたスケッチブックには書き切れずベンチに書き殴ったという話も今は他人事とは思えない。
 ちなみにその時は狭いウイーンの街で成功を収めていた――どうも音楽家は尊敬されていたらしい――ベートーヴェンがベンチに書き切れなくなるのを見た散歩中の市民の皆さんがどんどんとベンチを集めて創作の手伝いをしたとウソか本当かは知らないものの、祐樹が読まされた文章には書かれていた。
 そしてインスピレーションは「霊感」とか「神の啓示」というのが本来の意味で、今の使い方とは少々異なるので要注意とか祐樹の提出した通信添削の会社の小冊子に書いてあった。
 その祐樹自身が珠玉の愛の言葉が降って来たというのに久米先生の雑音で雲散霧消してしまったのだからある意味報復というか細やかな嫌がらせくらいは良いだろう。
「ああ!その手が有りましたね……あれって丑の刻、えと今だったら――ね・うし……ああ子の刻が0時ですから夜中の2時くらいですよね……に毎日貴船神社に呪いの藁人形を打ちに行ったら鬼になれるんですよね。
 その瞬間を見たいなぁって……違いますよっ!! 
 姫は今頃の貴船神社は蛍が見ごろだから一緒に行こうって誘って下さったのです!!
 それは大歓迎なのですが、風情が有るので折角だから浴衣で行こうって話になって。
 浴衣姿の姫も綺麗だと思いませんか?満天の星と蛍の光、そしてそれよりも綺麗なアクアマリン姫、しかも七夕ですよね!!ロマンティックですよね。きっと星よりも蛍よりも姫が綺麗だと思います!!」
 熱を帯びる気持ちは分かるし、最愛の人の手技は既に終わっていて、そちらに回っている医師は身支度を整えて医局に戻っているような感じだった。
 そして悪性新生物科の桜木先生の手術は続行中のランプが灯っている。
 つまりこの部屋には祐樹と久米先生しか居ないのでこういう話が出来るのだろう。
「ああ、きっと綺麗でしょうね……」
 他人の彼女が浴衣だろうがドレスだろうがどうでも良いので熱の全く籠っていない声で返した。
「でも田中先生の言葉がふと脳裏に甦ったんです……。花火大会か何かで、帯が解けてしまって、下着丸見えで、浴衣も肩から掛けただけの間抜けな姿を晒していた男性が居たとかっていう話を……。 
 そんな無様な姿を姫に晒したくないんですよ……。でも!姫の浴衣姿は見たいのでどうしようかと……」
 そんなことを言ったかな?と思ったが、どうでも良いことは忘れないと祐樹の脳の容量がパンクしそうになるのも事実だったので、久米先生の壮大な勘違いでなければそんなことを言ったのだろう。
 忘れ果ててはいたが。
 いくら記憶容量に――最愛の人に比べれば――劣っているとはいえ、並み以上はキチンと持っている。本気でうんざりして久米先生を見た。







--------------------------------------------------
二個のランキングに参加させて頂いています。
クリック(タップ)して頂けると更新のモチベーションが劇的にそれはもう打ち上げ花火のように上がりますので、どうか宜しくお願い致します!!




にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村





小説(BL)ランキング





















最後まで読んで下さいまして誠に有難う御座います!今日は予定通り初盆の買い出しに行ったのですが、荷物がかさばり過ぎて疲れました……。
明日は大掃除…。。。更新出来る気力が残っているかどうかナゾですが、何とか頑張りたいと思います。。。

「心は闇に~」は予約投稿していますが、それ以外の更新が無かったら「準備で疲れ果てたな」と察して下されば嬉しいです。。。

残暑とは名ばかりの暑い日が続きますが、読者様もくれぐれもご自愛ください。


   こうやま みか拝
















小説家になろう版 「気分は~」1stシリーズ こちらの方が圧倒的に進んでいますので、なろう様のアカウントをお持ちの方はブックマークとか感想などを頂ければ嬉しいです。



◇◇◇











小説家になろう版 「心は闇に囚われる」 諸般の事情で先行公開しています。宜しければ是非♡








腐女子の小説部屋 ライブドアブログ - にほんブログ村







PVアクセスランキング にほんブログ村