『お骨って何個にでも分けられるのよ。分骨って言ってね……。

 それはまあ良いとして、聡さんに煩い親戚が居ないようだったら、田中家のお墓に入ってもらうっていうのはどうかしらと思いついてね。

 それで電話したのだけれども……』

 祐樹も絶対に結婚はしない積りだったし、生涯に亘るパートナーとして最愛の人のことは大切にしたいと思っている。

 まだまだ先の話だが、お墓に一緒に入るというのは確かにナイスアイディアかも知れない。

 偕老同穴という四字熟語には「共に老いて同じお墓に入りたいと願う仲の良い夫婦」という意味があったような気がしたし。

「彼が良ければという前提がつくけど、そして多分喜んでくれると思うけどさ、煩い親戚の有無なんてどうやって調べるのか、母さん知ってる?」

 こういうコトに関しては亀の甲より年の劫だろう。

 調べる方法を知っているからこそ祐樹のスマホに掛けてきたのだろうが。

 顔とかは似ていないと異口同音に言われるが――最愛の人も前からそう言っていたし「披露宴」で会った呉先生は「なんとなく雰囲気は似ているような、いないような……」と言葉を濁していたし、久米先生や岡田看護師は「似ていない」と――性格は割と似ている。

 だから無駄なことでは電話してこないだろう。

「そんなの簡単よ。

 祐樹も立派なお医者さんになったのに、そんな常識も知らないのかと思うと母親として情けないわね……。聡さんが積極的に調べないのは祐樹に遠慮しているからってどうして考えてあげないのかしら……?」

 そうだろうか?最愛の人は――最近は随分マシになったものの人間関係構築能力よりも手技などのデータ化出来るものの方に重点を置いていた。しかもその上お母さまや名ばかりの婚約者を立て続けに亡くしたことで「関わる人間を不幸にする」と頑なに思い込んでいた――その思い込みは祐樹と恋人になって春の淡雪のように溶けて消えてしまったのは愛する者としては喜ばしいものの、根雪のように彼の心の中に残っているような気がする。

 だから、彼曰く「太陽のオーラを纏った」祐樹に惹かれてくれたのだし、病院関係者とかで彼が親しくしているのはある意味「殺しても死ななそうな人」限定のような気がする。もしくは殺しても化けて出てきそうな森技官とか。森技官の恋人は野のスミレを彷彿とさせる可憐な容姿をしているが、スミレだって雑草なので意外に頑丈だし、しかも森技官よりも実際のところ精神的な逞しさを感じる。

「だってさ、心臓外科の執刀は全員元気になって退院していった患者さんしかいないし、救急救命室で力を尽くしてもダメだった患者さんはさ、ナースが目立たないように霊安室に運んで行った後は葬儀屋さんにバトンタッチなんだよ?

 他の科だって、患者さんがお亡くなりになった場合、駆け付けたご家族に主治医として丁寧かつ真摯な一礼を施した後は霊安室に粛々と運ばれるのを見送って終わりなんだ。

 だから、その後のことなんて分からないのは大学病院だけじゃなくて入院患者さんを受け入れている病院の医師全員じゃないかな?」

 母も思い当たることがあるらしく黙り込んでいた。

「ま、そうかもしれないわね。それに親戚が亡くなった時とかも他の子供連れで来てくださった人のお子さんと仲良く遊ぶことに夢中で、そっちばっかり覚えているんでしょうから……」

 そうか?とも思ったが、敢えて反論はしない。昔から人見知りをしない祐樹だったので、お通夜の席で初めて会った年の近い子供と直ぐに打ち解けて遊んでいたのだろう。

 ただ、そういう幼い時の記憶はそれほど覚えているわけでもなかったし、昔を懐かしがる年齢でもない。

 それよりも最愛の人が喜んでくれそうなことを考える方が建設的だろうし。

「聡さんの戸籍を辿ったら分かるわよ。それこそ三代以上前まで記録が残っているから。

 まあ、大規模な災害で市役所ごと無くなってとかじゃない限りはね……」

 戸籍というものが有ることは常識として知っていたが、管轄しているのが市役所とは知らなかった。

 それに病院に勤務する時に提出を求められたのは住民票だけで、その用紙には住所・氏名が書かれているだけだった。

 まあ、婚姻届けとかを出す場合だったら相手の戸籍も見る機会があるのだろうがあいにくそういうモノとは縁がないので全然知らない。

「へえ、そうなんだ。ただ、彼は生まれも育ちも京都なのでそういう大規模災害には遭ってないと思うよ」

 日本は地震が多いし、実際に救急救命に当たったこともあったが、市役所が甚大な被害に遭ったとは聞いていない。

 それに「大地震に於ける救急救命」をメインテーマにしている北教授は災害史にも詳しい。

 救急救命室が凪の時間で、かつ北教授が論文執筆の気晴らしをしたいと思った時に姿を現した時にそういう歴史を聞くこともあった。枕崎台風とか伊勢湾台風とかで市役所ごと無くなったとかそういう話は全くの他人事として聞いていたが、戸籍まで吹っ飛んでしまうんだなと。そういえば「砂の器」というハンセン氏病患者が偏見と差別に遭っていた時の小説を――医学会の対応も酷いもので人権侵害だろうと密かに考えていたが――読んだ時には空襲で戸籍が燃えて、自己申告で戸籍が復活することを知った人間が別人になりすましたというくだりがあったなとぼんやりと考えていた。

「具体的にはどうすれば良いのかな?戸籍って他人のは取れないだろう?それに市役所が複数県にまたがっていたりしたら、いちいちその地方まで行くの?」

 京都生まれ、京都育ちとは聞いていたが、最愛の人のお父さんやお母さんがどこ出身なのかまでは知らない。

 もしかしたら最愛の人もそこまで詳しく知らないのかも。

 祐樹の母だって祐樹を医師にするために頑張って働いてくれていて、その点には感謝しているが、最愛の人のお母さまはもっと苦労して生活していたらしい。

 それに最愛の人と同じで、多くのことを語るタイプの女性だったとも思えないし。



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    こうやま みか拝












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