「そして、まずは谷崎容疑者――いや、逮捕前だから参考人だな、正確には。
 K戸大学附属病院に警察病院の医師を派遣させることにする。
 実は警察官には精神を病む人間が多くてね。なまじの精神科医よりも――と言ってもK戸大学病院の先生達が頼りないとかではない」
 幸樹がパチリと指を鳴らした。
 何気ない仕草なんだけれど、幸樹がするとドラマのワンシーンみたいに決まっている。
 それよりも嬉しかったのは「いつも通り」の幸樹の反応だった。
 「まだ」薬の影響は出ていないんだと心の底から安堵してしまう。
「警察病院の特性上、麻薬関係も強いですよね。薬物中毒者が事件を起こした時に留置所や拘置所、そして場合によっては刑務所からも『患者さん』として収容可能なエリアも有りますから薬物関係にも強いお医者さんがたくさんいますよね。
 それらの先生達を派遣して下さるのですか?」
 へぇ……警察病院って警察官用の病院だと思っていたんだけれど、犯罪者とか容疑者とかも収容可能なんだ……。
「ベテランの医師を差し向けるように指図はした。大学病院も――まあ、内心はどう思っているかは分からないが――『勉強になります』と快諾してくれた。K戸大学は知っての通り私の管轄内なので色々と繋がりは有るので、病院長とは懇意にしている」
 そっかぁ、西野警視正はN宮市のK署長さんで、N宮市だったら何とかなるとか言っていたけれど龍崎さんはH庫県全体で一番偉い警察官僚なんだなぁ。だからK戸市とか合宿所がある兵庫県の真ん中も網羅しているんだなぁっと今更ながら思っている。
「さすがは龍崎さんですね。ウチの親父が褒めていましたよ。
 てっきり同じ穴のムジ……、いえ、The警察官僚だと思っていたのですが認識を新たにしました」
 幸樹が真っ白な歯を見せて心から嬉しそうな笑顔になっている。
 俺に向ける笑みとは違ったニュアンスを持った表情や目の輝きだったけど、幸樹が笑っていてくれると俺も物凄く幸せになった。
「いや、私は無辜の市民がどんな形であれ犯罪によって不幸になるのを防ぐ義務があるのでね。それに高橋雄太君が無事で本当に良かったと思っている。
 その最大の功労者かつ身体を張った幸樹君や池上君には感謝してもしきれない。感謝状でも出そうか?」
 幸樹はそう思っていなかったみたいだけど、そして幸樹のお父様と話したこともないんだけど――東京の幸樹の実家に遊びに行った時にも出張中とかで全く姿を見ていない――だから幸樹の話しか判断材料はないものの、何だか龍崎さんて幸樹のお父様というよりも西野警視正と同じ匂い(?)がするような気がした。
 幸樹はお年賀の時に会ったとか言っていたけれども、それってお父様に合わせていたんじゃないかなかぁ?
「また、幸樹君は西野警視正にゼミ生の名簿を送ってくれただろう?それを転送してもらったよ。何しろ四人は西宮市以外の住民なので西野警視正が管轄の各署長に一々話を通すよりも私が動いた方が早いと踏んだのでね。
 そして、その四名はいわゆる引きこもりの生活をしているらしいので、親御さんと本人を説得させるために精神科医を順次差し向ける予定だ」
 え!?と幸樹と俺は目を見合わせた。お互いの瞳の中にまん丸に目を開いた顔が映っている。
 じゃあ、四人は「闇に囚われる」こともなく、谷崎君や有吉さんみたいにならなくて済むんだぁと思うと嬉しかった。少なくとも自分や他人を傷つけることはないんだなって思うと何だか身体中の力が抜けていくような安堵感だった。
「遼、気を抜くのは早いぞ……。気持ちは痛いほど分かるけど、予定だろう、まだサ……。
 龍崎さんの意を汲んだ警官と精神科のお医者さんが四人を漏れなく「しかるべき施設」に入れるまではさ、安心出来ない。
 まあ、龍崎さんのコトだから一安心なのは確かだけどな
 後は解毒剤があるかどうかとかを上野教授から頑張って吐かせるしかないだろうな。けど突破口がないですよね?
 この際別件逮捕とかで、適当な罪状を付けて引っ張れないのですか?
 ほら転び公安みたいなやり方もあるでしょう?」
 転び公安?公安は分かる。というか上野教授をマークしている部署(?)だし、ドラマでも見た覚えがある。
 転びバテレンというのは日本史の時に暗記した覚えがあったけど、それとは関係ないだろうしな……。
「幸樹君、あまり無茶を言わないでくれ……。
 あれは君たちの生まれていないというか、私も正直生まれてなかったがね、学生運動華やかなりし時に過激派の学生達の身体にワザと触れて大袈裟に転倒する。そして『身体を押した!公務執行妨害罪だ』と逮捕ってするある意味自作自演の荒業だ。
 N川市在住の新垣晃平君とA崎市在住の魚崎翔君のお宅にはそろそろ警官と精神科医が到着するハズだが、本人の同意なしに身柄を拘束出来るかどうか……。もし抵抗されてマスコミにでもリークされたり鼻の利くマスコミが嗅ぎ付けたりしたらそれだけで私の首も飛ぶんだぞ?
 それだけ危ない橋を渡るのも、谷崎のように人質を取って暴れた挙句に取り返しのつかない事態を招きかねないという危惧を強く覚えたからだ……。
 それにしても西野警視正はまだ帰って来ないのかね?」
 龍崎さんの話に夢中になっていたせいで――本人には悪いんだけど――すっかり西野警視正のことを忘れ果ててしまっていた。
 そして俺よりも遥かに気が回る幸樹も「ハゲ頑固親父官僚」だと思い込んでいたらしい龍崎さんの意外な一面を聞かされてビックリしたあまり忘れてた感じだった。
「そういえばそうですね……。ただ、谷崎君のお母さまの憔悴が酷いようでしたので、もしかしてそちらの方で忙殺されているのかも知れません」
 そういえば、救急車のサイレンが鳴っていたような気がする。
 俺も幸樹の「闇に囚われる薬」の忌まわしい効果が出てこないように祈ったり龍崎さんの話を聞いたりしていたのでそれどころではなかった――だって西野警視正って上野教授の怪しげな薬を飲んでないし、その上頭も切れるし心配する要素なんてなかったのだから。
「池上遼と申します。幸樹……君の親友の。
 ついさっき救急車のサイレンの音がしたので、西野警視正はそちらの指図で忙しいのかも知れないです……」
 キャリア官僚って何だか冷徹非情というイメージが有ったんだけど、龍崎さんは違う感じだし、その程度のことは打ち明けても良いような気がした。



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