薔薇の花束をお祝いに選んだのは森技官だか呉先生だかは分からないが、あの二人が出会って――というか、今薔薇色の唇で焼きティラミスを食べている最愛の人の手術ミスの画像をでっち上げて呉先生に身体の関係を迫って、そしてその画像が本物かどうかを確かめにありったけの勇気を振り絞って救急救命室に来た呉先生と知り合った時だ――お悩み相談を受けていた祐樹は呉先生が自分のセクシュアリティに何の疑問を抱いていないし、同性同士の恋愛にも全く疎いという点を説得するためと、そして世界でも超一流の外科医と呼ばれる登竜門でもある国際公開手術の時間が迫っていて、その成否に気が気でなかった祐樹は自分の恋人がどんなに素晴らしいかを呉先生に打ち明けたことがあった。同性同士でも充分に恋愛は可能だということを知らしめるためにも。
 その時は大輪の胡蝶蘭のような人だと評した覚えがあった。
 今でもその印象は全く変わってないが、予算の都合か花屋の都合かは知らないが薔薇の花束で良かったなと思ってしまう。
 最愛の人が「幸せな花嫁」になるジンクスの一つとして「青いモノ」を身に着けて「披露宴」に臨んでくれた。
 その「青いモノ」はジャケットを羽織ると純白に青の縁取りがあるネクタイにしか見えないが、ワイシャツ姿になると、世界中の薔薇好きの人が咲いて欲しいと心の底から願っている奇跡の蒼い薔薇とはきっとこんな色なのだろうな……と思える空の青と、ロケットや人工衛星から見た地球の青さを混ぜ合わせた発色が見事な逸品だった。
 その空よりも地球よりも青い薔薇の花びらに水滴が宿っている意匠も見事だったが、祐樹はもっと綺麗なモノを思い付いていた。
 胡蝶蘭だと目論み通りにならなかったので真っ赤な薔薇の花束は呉先生と森技官のクリーンヒットだと内心感謝していた。
「この花びらにね……。ああ、素肌が物凄く敏感になっていますね……。すっと撫でると紅を刷いたように滑らかな素肌がより一層艶めきを煌めかせてとても綺麗です……。
 こういう状態になった聡の素肌を、肝心な場所をワザとずらして孔雀の羽でただ撫でるだけというのも愉しそうですね……」
 鎖骨の窪みとか胸の尖りから滑らかな腹部へと薔薇の花びらを下ろしていく。
「孔雀の……羽?
 祐樹が望むなら別に構わないが、もどかしい快楽しか……得られないだろう……?
 キチンと最後は強くきつく抱いてくれると約束した上ならば……という条件付きだな……。
 そうでないと、生殺しのような快楽しか得られないので……」
 愛の交歓へのスイッチが入った感じで、先ほど焼きティラミスを食べていた時の声よりも艶やかで甘やかな響きに変わっていた。
 そして、祐樹の薔薇の花びらを持った指が何をするのかを艶めいた煌めきを放つ眼差しで見ている。
「この紅色に染まった滑らかな腹部に飛び散った真珠の飛沫をね、薔薇の上に宿らせたらきっと真珠以上に綺麗ですよ。 
 聡がこの夜のために用意して下さった青い薔薇のネクタイも物凄く綺麗ですが、私はこちらの方が、よりいっそう魅惑的な光を放ってくれていると思います」
 もう片方の指で平らな腹部に飛び散った月の雫のような真珠の粒を細心の注意を払って掬い上げると、深紅の薔薇の花びらの上に落とした。
「聡のネクタイのデザインと同じですよね。
 あちらは青い薔薇に水の雫が宿っているという『初夜』の新床に入る前の花嫁の白無垢といった趣きが有りますが、こちらは肌を合わせて晴れて夫婦になった証のように艶やかでそして、どこか無垢な感じの色香に満ちています。
 紅い薔薇の上に載った真珠……。何度見ても飽きないですね。
 とても綺麗です」
 本人は大丈夫だと言っているが、もう少し休憩めいた愛の行為を続けたい。
 最愛の人の素肌を愛するのも大好きだったし、彼も祐樹に素肌を愛されることを殊の外悦んでくれるのは狂おしいほど愛おしいが、必然的に体力を消耗するのも確かだった。
 だからせめて言葉と視覚、そして想像力という体力とは関係ない部分で最愛の人を「そういう」興奮に駆り立てたいと思ってしまう。
「聡の極上の花園の奥処もきっと同じ色に染まっていますよ……。そして私がばら撒いた真珠の迸りがこんな感じで紅く煌めいていると思います。
 奥処は舌で確かめることは出来ないので、その代わりに……愛を込めて……」
 深紅の薔薇の花びらの上に宿した真珠の雫を舌全体で舐めた。
「ゆ……祐樹っ……。それはっ……それほど美味しくないというか……」
 慌てたような、恥じ入る声に艶が混じっていてとても綺麗な響きが寝室に小さく響いた。
 祐樹の耳には先ほどの銀のトレーやミルク入れが触れ合う音よりも綺麗な音のような気がした。
「聡が私の愛の技でばら撒いた……いわば共同作業の賜物ですから……。甘くて美味しいですよ?
 グラスのタワーに二人してシャンパンを注ぎましたよね?金や銀の粉を浴びながら。
 その時のシャンパンの泡のような味がします。
 共同作業という点では同じですから……」
 生物学上は決して美味ではないが、多分愛情のせいで甘さに舌が変換――いや誤変換かもだが――してくれていて甘露とはこういう味を言うのではないだろうかと思ってしまった。
「孔雀の羽も微細な快楽しか素肌に与えないですが、ね?
 もっと淫らな孔雀の羽根の使い方をご存知ですか……?」
 祐樹の舌ですっかり濡れた薔薇の花びらを最愛の人の紅色の長い指がしなやかに奪い取ってくれた。
 祐樹も淫らな質問をしたが、多分答えられないだろう。
 そして、祐樹が綺麗に舐め取った深紅の濡れた薔薇の花びらを最愛の人も愛の小道具に使う積もりだろう。
 身体を繋げていなくとも、寝室の空気が淫らでいながら瑞々しい空気に染まっていくことを初めて知ったような気がした。




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