「幸樹君、……このスマホ相手に聞こえないようにしてくれるかい?」
 スマホを思いっきり離した西野警視正が耳元で囁いた。
 同じキャリア組とはいえ、西野警視正はN宮K警察署の署長さんで、龍崎さんはH庫県で一番偉い人なのでやっぱり遠慮というか超えられない壁が有るのだろう。
「ああ、だったらオレが龍崎さんと話しておきますから、谷崎君のお母さまを別室に連れて行ってください……」
 ああ、そっかぁ。言い方は悪いかもしれないけれど、谷崎君が覚せい剤とかそういう自業自得で犯行に及んだ場合はそんな配慮なんてしないんじゃないかな?って素人ながら思ってしまう。でも西野警視正も「闇に囚われた」薬が有ることを知っている。だからこういう特別な配慮をしてくれたんだろう。
 でも谷崎君の場合は得体の知れない薬を無理やりに呑まされたわけで、本人に罪はない。
 まあ、雄太君を人質にしたっていう事件は引き起こしたにせよ、心神喪失が認定される――まあ、そのクスリがキチンと証明されて裁判官が納得してくれればの話だろうけれど。
 ただ、西野警視正もその辺りのことは良く分かっている。
 問題はその「闇に囚われる」薬が頑張って研究というか解析はしているんだろうけど未知なもので全然解明出来ていないことだろうな。
 西野警視正も麻薬関係で厚労省に出向だかで行ったことがあって、そのツテを使って研究所に分析を依頼しているようだったし、国見君の血液や尿、そして……有吉さんの遺体とかも検視解剖に回されている。
 遺体を切り刻む――たとえ、それが事件を解明するためというれっきとした理由があっても――なんだか惨くてイヤだなぁと思ってしまうのは俺のワガママなんだろう、な。
 ああ、そっかぁ、俺は伝聞でしか知らないのであまりピンと来ていなかったけど、八木君や麻田さんもK戸大学医学部付属病院で検視を受けているハズだった。
 西野警視正のことだから――そして幸樹と俺が眠っている時とかに緻密に連携プレーをしている感じだった――進展があり次第、すぐに知らせてもらうように手配しているハズだ。
 その連絡がない以上、谷崎君のお母さまには滅多なことを聞かせたくはないのだろう。
 秘密は守ってくれそうな雰囲気だけれども、それでもやっぱり秘密を知っている人間は少ない方が良いって幸樹も西野警視正も判断したのだろう。
 それに、そんなワケの分からない薬を聞いただけで信じろって方が無理だよな……とも思う。
 幸樹や俺は今まで助けることが出来なかったゼミの友達が次々と「望まない」自殺を遂げていることを知っているし、有吉さんの証言とか――そして思い出すと涙が溢れそうな遺書とかから――常識ではあり得そうにない薬の存在を知っている。
 けれども幸樹や俺の体験を話しても作り話だ!とかって一蹴されそうだ。
「了解した。まだ谷崎……君のことを聞かなければならないからね。
 お母さま、さぞかしお疲れのことと思います。警官はなるべく近寄らせないようにしますので少しお休みになられた方が良いかと思います。
 なにぶん、事件が事件なだけに。証言は多い方が良いもので、もう少しお付き合いくださればと思います」
 谷崎君のお母さまはなんだか不思議そうな表情を浮かべていた。
「あのう、事情聴取っていうのですか?それとも取り調べですか?そういう警察用語に疎くて申し訳ないのですが……、警察署に参らなくても良いのでしょうか……」
 飄々とした感じの西野警視正に――いい意味で警察官に見えない――すっかりと心を許したのだろうか?お母さまが聞いている。
「ああ、龍崎さんお久しぶりです。
 国見氏からの身元照会に応じてくださって有難うございました。
 権威主義は嫌いなのですが、向こうがその線で攻めてくるのでやむを得ず……。
 え?
 あ、少し待ってもらって良いですか?
 西野警視正は今谷崎――はい……」
 幸樹は西野警視正がお母さまを連れて公民館を出て行ったのを確かめていた。
 というよりもお母さまの耳には入れたくないので主語が違うかもだけど。
「高橋雄太君は無事です。素人判断ですが、解放後至って元気でした。まあ、念のために近所の心療内科クリニックにお母さまと一緒に診て貰いに行っていますが。
 被害は結果としてはなかったですが、まかり間違えばけが人も出ていたと思います。
 被害者はオレかゼミの仲間でもあり、オ、いえすみません……僕の友達でもある池上遼君のどちらか、いや両方かもしれなかったです……。
 西野警視正からお話がある程度行っているとは思いますが、K学院大学法学部二回生のゼミで――まあ、高校でいうクラブみたいなものですが――〇チ高原で合宿が行われたのが発端ですね。
 ゼミ合宿の一日目の食事では上野教授……憲法学者です。ああ、ご存知ならば話は早いです。はい、ハ〇高原でカツオのタタキと上野教授が手作りしたというワインが怪しいのですが、それを飲んだり食べたりした学生が現在のところ――え?オ……僕はあいにくというか幸いというか体調不良でして両方とも口にしてはいないのですが」
 幸樹が一方的に話しているという感じだったけれど、要所要所で竜崎県警本部長からの質問が入るって感じの話し方だった。
 幸樹は「苦手だ」とか言っていたけれど、一人称を「オレ」じゃなくて「僕」って言いかえているところからすると本当に苦手なんだろうなって思ってしまう。
 秀でた眉もギュッと顰められているし。ただ、俺は幸樹の言う通りその両方とも口にしてはいない。
 そして幸樹もそれは同じなんだけれど、怪しいなって思っている大野さんから執拗に勧められた正露〇なんてメじゃないほどにキツい匂いのする「薬」を飲んでいる。
 しかも、俺には大野さんはカツオのタタキを強引に勧められたのに――幸樹の機転で食べずに済んだけど――大野さんは幸樹のカツオのタタキはスルーしていた。
 だからあの幸樹が飲まされた薬も、もしかして……って思うと胃の中に冷たい氷の欠片が入っているような気になってしまう。
 「まだ」大丈夫っぽいけど、いつ何時幸樹が「闇に囚われる」か分からない。俺の杞憂だったら良いんだけれど……。



--------------------------------------------------
二個のランキングに参加させて頂いています。
クリック(タップ)して頂けると更新のモチベーションが劇的に上がりますので、どうか宜しくお願い致します!!




にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村





小説(BL)ランキング

























腐女子の小説部屋 ライブドアブログ - にほんブログ村





PVアクセスランキング にほんブログ村