「この度は不肖の愚息がとんでもないご迷惑をお掛け致しまして、お詫びの言葉も見つかりません。

 もう……なんと申し上げたら良いのか……」

 「平身低頭」というよりも土下座しそうな勢いのお母さまに西野警視正が宥めるような笑みを浮かべている。

 幸樹も俺もそうだろうけれど、西野警視正だって谷崎君があんなになってしまったのは、上野教授の怪しい薬のせいだと推測している。だから谷崎君が好き好んで仕出かしたわけでもないってことも分かっているので、本人にも、そしてお母さまにもそれほど責める気持ちは皆無かもって思う。

 まだ幸樹は俺の膝の上に頭を乗せていて――それはお医者さんの処方したお薬のせいだと信じたい!!!上野教授の怪しげな薬のせいだったらと思うと背中に冷たい汗がツーっと流れてしまっている――それは睡眠薬のせいで、幸樹が寝てもそれはお薬のせいだし、そのことを責めるような人がいるだろうか?

 そりゃあ、覚せい剤とかの麻薬を興味本位で試してみた!とかだったら「それはダメだろ」とか思うけど、ワインにワケの分からない薬を混入されて、しかも無理やりに飲ませられたのだからそんなの本人の責任じゃないような気がする。

 でも、その薬がどんなものかも分かっていないし、今そういう慰めを言える段階じゃないことも西野警視正も分かっているようだった。

「いえ、雄太君は無事ですし、他にけが人もいません。結果論ですが、誰も傷付いていないのですからそのように謝る必要はないかと思いますが……、個人的に」

 西野警視正もお母さまの平身低頭振りをむしろ気の毒そうに眺めていた。

「それよりも、ご子息の変化についてお母さまがお気づきになられたのはいつ頃のことかとか、具体的にあんな北の某国についての、いささか変わった思い込みをお家でも叫んでいたのかどうかとか、そういったことをお伺いしたいのですが……?」

 飄々とした感じは相変わらずなんだけど、西野警視正の話し方ってだれかに似ているなって思ったら俺のかかりつけの心療内科の菊地先生だった。

 もしかしたらこういう話し方が相手の心を開いたりリラックスさせたりする効果があるのかもしれないなぁって思ってしまう。

 菊地先生も西野警視正も――と言っても目的はゼンゼン違うけど――相手の話を聞き出すという点では同じなんだろうなぁ。

「ああ、コーヒーと紅茶どちらが良いですか?甘い物を飲むと落ち着きますよ?何ならジュースも有りますが?」

 コーヒーという単語を聞いてお母さまが泣き出しそうになったのは、谷崎君のことを思い出してしまったからだろうな……。

「カフェインは興奮作用もあるので、ジュースかお水が良いかと思います」

 さっきよりも明瞭な声で幸樹が言った。

 相変わらず俺の膝に頭を乗っけているけど、少しはお薬の効果も薄れてきたのだろうか?

 でも「幸樹君て……本当に礼儀正しいわよねぇ」とウチのお母さんが語尾にハートマークが散っているような話し方で褒めるのはいつものことなんだけれど、今は谷崎君のお母さまの前で体を倒したままってことは相当疲れているか、まだお薬が効いているからだろう。

 まあ、あれだけの交渉を――プラス演技――見事にやり遂げたんだから精神的にもかなり疲れているのは分かるんだけど。

 俺としては、幸樹が「普通の薬」でこうなっているだけだと無理やりにでも思いたい!!

「では……お言葉に甘えて申し訳ないのですが、お水を戴けませんか?」

 息子が5歳の雄太君を人質に立てこもっていた場面をモニター越しで見るだけでも緊張で喉が渇くだろうし、その前は確か谷崎君の説得もしていたとか聞いている。だったら物凄く喉が乾燥しているんだろうな……と思って見ていると、制服の警官が差し出したアクエリアスをゴクゴクと飲んでいる。

「高寄君、池上君わざわざ説得に来て下さって、そして雄太君を助けて下さって本当に有難うございました。

 もう、雄太君を――手にかけようとした時には、死んでお詫びをするしかないとまで思いました。

 あんな大それたことが出来る子ではないと思っていましたが…………。母親失格ですね、本当に……。申し訳ありません」

 涙を流しながら謝っているんだけれど、却ってそれが心苦しい。

 確かに谷崎君が仕出かしたことは表面的に見たらニュース沙汰になるようなことだけど、実際は「闇に囚われる」薬のせいなんだから、お母さまは何にも悪くないと思う。

 そう言って慰めたいけど、あくまでも推論に過ぎないし証拠もないので口に出来ないのだろう、口から先に生まれてきたような西野警視正ですら。

「いえ、お母さま。谷崎君と全然連絡が取れなくなってしまっていたのです。どうしたのかなと心配していました。

 谷崎君はきちんとメールとかを返信するタイプだと思っていたので余計に……。

 それっていつからですか?お母さまが『異変』を感じられたのは?」

 幸樹がテキパキとした口調で聞いている。

「あれは、何日だったか……高寄君も池上君も参列したと思いますが、小川君のお葬式から帰って来た日からだったと……。

 ただ、大学のゼミのお友達が交通事故で亡くなったのがショックだったのだろうと思っていました。

 それまでは普通に生活――朝起きて、私の作った朝ご飯を食べてから部屋とかリビングで勉強とかゲームをしたり雑誌をめくったりして、その後昼ご飯を一緒に食べて……夜も同じような感じでした。

 もう大学生なのでそれほど口数も多くはなかったですし――家で、で大学とかではどうなのか分かりませんけれど……。

 しかし、どこにでもいる普通の大学生ってそんな生活ですよね。今は夏休みですし。

 ただ、小川君のお葬式から帰った日はお風呂にも入らずに自室にこもってしまいました。

 この暑さですし、もともと汗っかきな体質を本人も気にしていて、一日二回のシャワーかお風呂は絶対に欠かさない息子が浴室を経由しないで部屋に入ったことに内心は驚いたのですが、小川君の死がショックだったのだろうなと軽く考えていました……」

 思いつくままに喋っているという感じで重なっているところとかも多かったけど、こんな時に理路整然と話せる人のほうが少ないだろう。

 その時だった。鈴木警部がいかつい顔が真っ青になって引きつった表情で西野警視正の方に走り寄って来たのは。

 また、何かあったのだろうか?心の中に氷の欠片が滑っていくような気がした。だって鈴木警部があんな表情を浮かべているのを見た覚えがない。まあ、この「犯行現場」でしか会ったことのない人だったけど。







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