「ん!美味しいっ……。
 普段から好きな味だが、こうして祐樹に食べさせて貰っているからより一層美味しく感じる……」
 愛の交歓の後の甘く薫る肢体の上半身を起こして――ちなみに肝心な場所というか、行為の後の真珠や水晶の雫が飛び散っている素肌は最愛の人がシーツで隠そうとしていたが、祐樹が「初夜」とはこうしてすべてを見せるモノです!と言い切って色香と雫で煌めいている肢体は全てを寝室の空気に晒している――祐樹が口に運んだ焼き菓子を紅色の唇が開いて祐樹の指を舌でチラリと舐めた後にお菓子が口の中に入っていくのも目の保養以外の何物でもない。
 英語では「そういう」時の用語が飲食の用語と似ていることが多いが、その言葉を連想したイギリス人だかアメリカ人は二つの行為が似ていることに気付いたのは本当に慧眼だったのだろうな……とシミジミと思ってしまう。
 詩人とかそういう言葉の芸術家が考えたのかもしれないなと思いながら紅色の唇の端に付いた焼き色も美しいお菓子の欠片を指で優しく拭うと祐樹の唇へと運ぶ。
「貴方の雫の甘さが加わって甘露とでも表現したくなる味になっていますね。
 本当に美味しいです」
 散々喘ぎ声を出していたのは最愛の人の方で祐樹はそれほどでもない。
 ただ、甘くてほろ苦い味に最愛の人の口の中の雫がより一層の甘みを添えてくれるような気がした。
「このホテルのアイスコーヒー、氷までがコーヒーなのですね。
 流石はウチの大学病院御用達です。ルームサービスの場合、ゲストがいつ飲んでもコーヒーが薄くならないようにとの配慮でしょうか……?」
 銀のトレーを充分に大きいベッドの上に置いて――その下のシーツはすっかり乱れていたのも「初夜」には相応しいような気がする――壮絶な色香しか身に纏っていない最愛の人の肢体を目で堪能しながら唇に焼き菓子を運んではコーヒーのグラスを傾けた。
「そのコーヒーも飲みたいな……」
 薔薇色の唇に笑みの花を咲かせている最愛の人の唇の輪郭を指で辿った、愛しさのあまりに。
「ストローで?それとも口移しでですか?」
 祐樹はグラスのまま飲んでいたが、白くて普通よりも少し太いストローでも薔薇色の唇には良く映えるだろうなと思ってしまう。
「祐樹の唇で飲ませて欲しいな……。馴染んだ恋人が迎える『初夜』とはそういうモノなのだろう?」
 祐樹が先ほど言った殆ど口から出まかせの言葉を――ただ、そういう体験記じみたモノは読んだ覚えが有るのであながちウソとは言えないだろうが――本気にしている最愛の人が愛おし過ぎる。
 以前から祐樹の言うことを絶対だと思っているフシが有ったが、その信頼感も嬉しい。
 ルビーよりも紅く煌めく胸の尖りを始めとする肢体は祐樹との濃厚な熱い夜を過ごしたせいで妖艶に花開いていったのも悦ばしいことだったが、無垢な精神は知り合ってから不変の煌めきを放っている。そのギャップがより一層祐樹を惹きつけているのを多分この人は知らないだろうなと思うと唇に笑みが浮かんでしまう。
「承りました。
 キスをたくさん交わしたせいで、真っ赤に色づいた唇に白いストローも良く映えると思いましたが、もっと映えるモノを思い付いたので、そちらにします……」
 潤んだ瞳に一瞬だけ不審そうな煌めきを宿した最愛の人だったが、コーヒーを口に含んだ祐樹が身体を近づけると上を向いてコーヒーが零れないようにしてから瞳を閉じてくれた。
 砂糖抜きのコーヒーだったが、最愛の人の唇の甘さなのか爽やかな甘みを唇に残してくれた。
 紅色の喉の動きがとても蠱惑的で見惚れてしまう。
「休憩出来ましたか?
 この『初夜』を迎えるために激務続きだったでしょう?」
 最初の激しい情動のまま振る舞ってしまった――まあ「初夜」に興奮しない方がおかしいと思うが――熱い時が過ぎて、今は凪いだ海のような深い愛情が祐樹の心を満たしていく。
「それは祐樹も同じだと思うが……?
 それに普段はこういうふうな濃密でそして甘い夜をゆっくり過ごすこともなかなか出来ないので、私は充分幸せだが……。
 毎日がこんなふうに過ごせたらとも思うが、仕事という気の抜けない日々を過ごした上だからこそ宝石のように貴重な時間だとも思えるのだろうな……」
 祐樹も全く同感だったので「降参」のキスを紅色の唇に落とした。
 毎日こうやって過ごすというのも、手に入らないから渇望しているだけで――ちなみに祐樹がヒモの生活に甘んじれば生涯遊んで暮らせるだけの資産は有るらしい――そんな生活を過ごしたらそれが「日常」に成り下がってしまいそうだ。
 もちろん、最愛の人の資産にぶら下がるヒモのような存在に成り果てる気は毛頭なかったが。
「そうですね。夜はまだまだ長いので、これからはゆっくり愉しみましょう……。
 呉先生と森技官がお祝いにと贈ってくれた薔薇の花をベッドに撒き散らすというロマンティックな趣向も考えたのですが……手間も掛かりますし、しかも客室係の方に要らない手間を掛けさせるのも不本意です……。
 だから、せめて……」
 まあ、このベッドの状態を見れば何をしていたのかは一目瞭然だろうが、どうせ森技官の名前で取って貰った部屋なのでその点は見ないというか考えないことにしよう。
 ベッドサイドに置いた薔薇の花束に手を伸ばした。
「聡のこの日のために選んで下さったネクタイの――といってもジャケットを脱がなければ分からないのがポイントですよね――薔薇の花と、こちらではどちらが綺麗か確かめましょう……。
 私は絶対に後者だと思いますが……」
 そう言いながら深紅の薔薇の花びらを指で丁寧に剥がした。
 最愛の人は、潤んで艶っぽさを増している切れ長の目を瞠って祐樹の指と薔薇の花びらを見ている。
 その様子は瑞々しい大輪の薔薇よりも綺麗だったが。




--------------------------------------------------
二個のランキングに参加させて頂いています。
クリック(タップ)して頂けると更新のモチベーションが劇的にそれこそ打ち上げ花火のように上がりますので、どうか宜しくお願い致します!!





にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村






小説(BL)ランキング






















最後まで読んで下さいまして誠に有難う御座います!!
うっかり途中で寝落ちしてしまいましたが、何とか起きて続きを書けました。

全部読んで下さる読者様だけではないと思いますので、再度告知です。

仕事・相続・初盆と慣れないこと尽くしで昼間は色々走り回っているので、更新はマチマチになります。落ち着くのは母の月命日が過ぎる21日になります。

それまでいきなり更新が途絶えることもあるかもと思いますがご理解とご寛恕くださいますようお願いいたします。

   こうやま みか拝











小説家になろう」版 気分は~1st 隙間時間に更新しています。





◇◇◇








小説家になろう版「心は闇に~」こちらの方がブログより若干進んでいます。宜しければ是非~!






腐女子の小説部屋 ライブドアブログ - にほんブログ村






PVアクセスランキング にほんブログ村