「ああ、久米先生からのラインです。噂をすれば……という感じですが、実際は私が送っていたのです。

 久米先生は以前、映画のエキストラに参加したらしいのです。

 まあ、その『貴重』なシーンはカットされて放映されなかったという悲劇的な目に遭ったらしいのですが。

 まあ、久米先生の場合は映画のサイトの中にあった『エキストラ募集』というところにメアドとか名前とかを登録して『何日の何時にどこそこ駅に集まれる人は返信ください』みたいな一斉メールが随時送られてきて、その日時や指定された場所に行けそうだったらメールして、合格者というか必要とされた人数分だけはさらに具体的な集合場所などが送られてくる仕組みのようですね。

 割と気軽な感じで参加できるエキストラのようでしたよ」

 最愛の人は珍しそうに涼しげな眼を瞠って聞いている。

 祐樹もエキストラの経験はもちろんないが、最愛の人はさらに縁遠い話なので興味をそそられたのだろう。

「割と気軽って……エキストラはそもそもその他大勢役でセリフはないものなのだろう?

 それに対価としてのお金も発生しないとかどこかで読んだ覚えがある。

 ボランティアというか記念というか……いわゆる記念みたいな感じで参加するものだと思っていた。

 そういうのに気軽とか大切とかあるのか?」

 興味深そうに聞いてくるのは「知らない世界」を知る喜びなのかもしれないなと思ってしまう。

「それがあるんです。患者さんと世間話をしていた時に……ほら京都って時代劇の映画のロケ地に良く使われますよね。

 だからエキストラ専門の事務所まであるようですよ。

 タレント事務所とは異なってコストパフォーマンスはそれほど良くないらしいですが、一応『お車代』程度は出るらしいです。

 その事務所に登録しておけば、割とオファーがもらえるみたいですよ」

 少子高齢化が声高に叫ばれている今、定年退職してシルバーライフを満喫中といったご高齢の方は多い。

 ただ、心臓の狭窄が起こってしまうとすぐに息切れがして――もちろん命の危険もあるが――活動的な暮らしは出来なくなる。そういう生活の質を劇的に向上させるのが最愛の人が得意とする心臓バイパス術だ。

 手術が済んで無事に退院した患者さんは若い時と同じような――まあ年齢的な衰えも多少はあるものの――活動的な生活に戻れる。

 そして手術の前というのは誰だって不安にさいなまれるのも仕方のないことだろう。

 外科の手術の中では最も簡単と言われる虫垂炎のごくごく一般的な手術でさえも前日は緊張して眠れない患者さんもいると聞いた覚えがある。

 その不安を紛らわせる目的もあって、祐樹は患者さんに「退院したら何をしたいのか?」などを聞いて手術のその先に待っている生き生きとした生活を具体的にイメージさせている。

 そんな感じで話していくと「スイミングに行きたい」とか「ヨーロッパ一周」とかの実現出来る夢を思い浮かべて患者さんの気分がものすごく前向きになる。そんな風に手術に対する不安を取り除くのも主治医の務めだと思っているのでそういう世間話はよくしている。

「そんな事務所まであるのか?それは知らなかったな……。まあもともと芸能関係にも疎いので……」

 襟ぐりの深い室内着に包まれた肩を竦めた最愛の人は、綺麗なカーブを描く鎖骨のラインがくっきりと浮かび上がっている。

 そんな寛いだ姿を見ることが出来るのは祐樹だけだと思うと物凄く嬉しかったし、第一目の保養になる。

「それで事務所所属のエキストラと久米先生のようなボランティアとどう違うのだ?」

 興味津々といった感じで身を乗り出してきた最愛の人の澄んだ眼差しもダイアモンドよりも綺麗な煌めきを放っていたし。

「時代劇だと衣装を着たりカツラを被ったりしなければならないので、その準備が必要なのです。

 寺島さんを覚えていらっしゃいますか?その人から聞いた話なのですが……」

 最愛の人の卓抜した記憶力は祐樹が一番知っていたので覚えている前提で話した。

「ああ、もちろん。確か一年四ヶ月前に退院なさった人だろう?」

 食べ終わったお皿をごく自然な動作で片付けながら最愛の人は確信に満ちた表情で勇気を見ている。

「そうです。最も忘れられないエキストラの経験は平安時代の貴族の恰好をして、れっきとした俳優さんが演じる――もちろんセリフもある役にキャスティングされている中堅どころの人らしいですがあいにく私は知らない俳優さんでしたが――帝役の人の衣装の裾を持って付き従う役が回ってきたことがあるそうです。

 もちろん準備も大変ですよ。平安時代の貴族の恰好ですからね。それに重さもハンパなかったらしくて『平安時代の貴族はこんな重いものを着ていたのか……』と思ったらしいです。

 ああ、食洗器には私が入れますから貴方はコーヒーを淹れてくださいませんか?

 スクリーンに映し出されなかった悲劇の久米先生のエピソード、お聞きになりたいですか?」

 一応聞いてみたが、答えは決まっているような気がした。

 なんだか、森技官の火遊びが原因で様々な嫌がらせの対応をしたとか、森技官のケガとかの笑うしかないバタバタした時間が嘘のように最愛の人と居ると静謐な安らぎで心が満たされるような気がした。

 医局や救急救命室で――さすがにご遺体の死因を解明するAiセンターは静かだし座っていることが多いが――走り回っていることが多い祐樹にとって休日まで気ぜわしい思いで過ごしたくなかった。

 まあ、最愛の人とだけ居る時には全てが秩序立って静謐そのものといった感じだったが。

 それに大輪の花のような最愛の人の佇まいをみているだけで心は満たされるし。


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