最愛の人は「料理は良い気分転換になる」と言っていたが、確かに他のことを考えながらでも出来るし、緻密に包丁を捌いていると良い意味で集中出来た。
 包丁とメスは広義では同じかもしれないが、メス捌きには患者さんの命が掛かっている分気が抜けない。
 その点包丁は間違って切ってしまったら最悪もう一度やり直せばいいだけなのである意味気が楽だった。
 最愛の人の作ってくれるハンバーグは確かに最高の美味だ。
 しかし、ハンバーグの色はごくごく一般的な色なので――当たり前だが――最愛の人ほど凝った料理は出来ないが、彩りを足してみるのはどうだろうと思いついた。
 ジャガイモの白に人参の赤は確定として、他には黄色とか緑とかを加えてみたらどうあろうと。
 ただ、冷蔵庫に黄茹でたら黄色になるモノはあいにく入っていなかった。
 レモンが入っていたものの、皮を使うのも初めてだし加熱したらどんな色になるのか想像もつかない。
 お得意の(?)グーグル先生に聞いてみようか……とも思ったがPCは台所に置いていない。
 周囲を見回すと最愛の人のスマホが目に入った。
 祐樹のように最愛の人のスマホには「医局員に見られたらマズい画像」が保存されているわけでもなく、しかも最愛の人がスマホを手放すのは手術の時だけで、執刀医を務めているにも関わらず一介の医局員のように大部屋(?)ではなくて個室のシャワー室や脱衣所の使用権限があるのは教授職だからだ。
 そして「祐樹に隠すことは全くないから」という理由でパスコードを教えて貰っている。
 ラインとかそういうプライベートなやり取りを見ることにはかなり抵抗感が有ったが、グーグルで料理の仕方を検索した程度ならばそれほど心も痛まない。
 キュウリも茹で方次第では綺麗な緑色になることも、そして人参と一緒に茹でる方法もネットのクッキングサイトに載っていた。
 その通りにすればいいのだから本当にネットというのは便利なモノだと心の底から思った。
 人参やキュウリの切り方も漏れなく書かれている。ジャガイモは以前茹でたことがあるので大丈夫だろうし。
 ミネストローネスープ――食物繊維が十全に摂ることが出来るようにワザと野菜は大きく切られているし、野菜はそれで充分賄えるので彩りだけに特化しようとしてレシピ通りに茹でた。
 熱々のハンバーグに最愛の人が小鍋で作っていたソース――ちなみにこれは今最愛の人と楽しくお喋り中の母のレシピに忠実に再現してくれていて、祐樹にとっては「お袋の味」――いやそれよりももっと美味しいかも知れない――物だった。
 熱々のミネストローネをスープ用の深皿に、そしてハンバーグは人参の赤とキュウリの緑――初めてトライしてみたが、我ながら翡翠を溶かしたような綺麗な色に仕上がったと充分満足の出来る出来栄えだった――とジャガイモを大阪のリッツでたまに行くフレンチ料理のシェフの盛り付けを参考にして配置した。もちろんそのお店にはハンバーグというメニューは存在しない。
 そして、最愛の人が大好きなパンも温めていたので、それもバターを添えて食卓に並べた。
「出来ましたよ。冷めないウチに召し上がって下さい」
 キッチンから大声を出した。
 リビングで話していると思しき最愛の人の所まで行っても良かったが、母と最愛の人が何を話しているのかは聞かない方が良いような気がする。
「分かった。今から行くので、あと三分だけ待っていて欲しい」
 怜悧な声も弾んでいるのは祐樹の母と話していたせいだろうか?
 呉先生の薔薇屋敷で焼きティラミスを食べているので空腹ということは有り得ないだろうから。
「分かりました。飲み物は日本茶で良いですか?それとも貴方には負けますが、コーヒーを淹れておきましょうか?」
 多分祐樹の母にも電話越しに聞こえるだろう声でそう聞いてみることにした。
 最愛の人は食事中でも気分次第でコーヒーを飲む人だったので。
「ハンバーグだから、コーヒーを頼む。祐樹の淹れてくれたコーヒーは私にとって最高の味だからな……」
 そう言われると照れてしまう。多分主観というか刷り込みで美味しく感じられるのだろうが。
 料理の腕はからっきしの呉先生だったが、コーヒーの淹れ方は物凄く上手い。
 その呉先生直伝のコーヒーを祐樹好みにしたものを飲ませてくれる最愛の人のコーヒーは多分、喫茶店で出してもお客様からお金を取ることが出来るレベルだ。
「祐樹、最後の仕上げを任せて悪かったな……。え?キュウリがこんなに鮮やかな緑色をしているのを初めて見た。
 これは茹でたモノなのだろう?」
 キッチンに入って来た最愛の人は驚いたように目を瞠っていた。
「彩りがもっと有った方が良いかと思いまして……。 
 冷蔵庫の中で緑色の野菜がこれしかなかったのです。
 あ、上手く茹でるコツを貴方のスマホでグーグル検索を勝手にしてしまいました。
 その点はお詫びいたします」
 いくらパスコードを教えて貰っているとはいえ、勝手にスマホを弄るのは何となく後ろめたい。
「いや、別に祐樹に見られて困るようなモノはスマホの中に『も』入っていないので、それは別に良いのだが。
 緑色の野菜までは思いつかなかったが……あ!そういえば」
 そう言いながら嬉しそうな笑みを浮かべて椅子に座っている。
 「そういえば」の次はどんな言葉を紡ぐ積りなのだろうか?



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