いや、正確には最愛の人がすんなり伸びた腕に抱えている笹が入っていると思しき段ボールに――いやそんな安っぽい感じではなくて病院に見舞いとして持って来ても良いレベルの山形産のブランドが付いている「何とか錦」とかいう高級サクランボとかメロンが入っているような上等な紙で出来た「箱」という感じだったが――目が釘付けになった。
 普段は襟ぐりの深い上質なニットから伸びた白鳥のような首筋とかくっきりと浮き出ている鎖骨の窪みとかしなやかに長い指などに視線が行くところだったが、今日は一メートル以上有ろうかと思える高級段ボールに釘付けだった。
 祐樹が密かに購入した鏡はもっと大きかったが、それでも最愛の人が抱えている箱はどう見てもダストシュートに入りそうにない大きさだった。
 そう言えば最愛の人がお弁当以外にも患者さんからの差し入れの生ものの入れ物――伊勢海老とか祐樹が今日百貨店で買ったのよりも絶対に高価だと思われるステーキ用の肉とかそういう物は桐の箱と思しき物に入っていた、そう言えば――の箱や高価だが、その分嵩張っているモノの処分は一体どうしているのだろうかという疑問がわいた。
 祐樹のように長時間病院に居なければならないわけでもないので――と言っても職務は完璧にこなしている最愛の人だったが――この部屋に居る時間が長い人がそういう大きな物の処分をしているハズだった。
 ただ、重要なことは当然祐樹に相談してくる生涯に亘るパートナーだったが、そういう雑務をどうしているのかなどは聞いていない。
 最愛の人も特に報告する必要などないと思っているだろうし、実際そんな些細なことを聞いている時間もないのが現状だった。
「見事な笹ですね。そんなのが普通のお店に売っているのですか?
 ウチの実家の山には笹なんてパンダが数頭居ても食事に困らないほど勝手に生えていたので、適当に引っこ抜いて来ていましたが……」
 パンダと聞いて最愛の人の唇が笑みの形に綻んでいるのは目を射るようだったが。
「何かのテレビ番組で観たのだが、パンダの一日の笹や竹の消費量は10キロらしい。そんなに大量に植わっていたのか……祐樹の育ったM鶴市の山とかは……?」
 10キロも食べるとは知らなかったが、10キロ分の笹の量など当然想像がつかないので曖昧に笑った。
「多分そのくらいは有るような気がしますよ、多分ですが……。
 なぜなら私達は杉などの花粉症とは幸いなことに無縁ですが、そういうアレルギー持ちの中学の時の同級生などは『同志を募ってわんさか有る杉の木を全部切り倒しに行く!!』という野望に燃えていましたよ。もちろん実際にその計画は実行されませんでしたが……」
 いきなり「その上質な段ボールをどうやって捨てるのですか?」と聞くのは不自然過ぎるので雑談をしながら折を見て聞き出すつもりだった。
 テーブルの上に新聞紙を引いて上質なリネンのクロスに笹の樹液――何か違うような気はしたが笹が出す分泌液とか笹の葉の色が付かないようにした。
「箱から出してここに置いて下さいね。何なら手伝いましょうか?」
 笹飾りに相応しいくらいの充分な葉っぱの茂ったモノを最愛の人が器用に取り出している。
「いや、大丈夫だ。この程度の大きさなら一人で充分なので……。
 ほら、大阪のリッツでクリスマスに一階のロビーに飾られている本物のもみの木くらいの大きさだったら祐樹に手伝ってもらうしかないが……」
 確かに第二の愛の巣と呼ぶに相応しい大阪のホテルのクリスマスツリーは祐樹の身長よりもかなり高いので、あれは一人や二人で出来る物でもないだろう。多分業者さんに頼んでいるハズだ。
「じゃあ、私はコーヒーを用意しますね。ケーキとマカロンどちらが良いですか?」
 最愛の人が多分ハサミなどの必需品を取りに行くためにキッチンから出て行こうと身を翻していた。
 祐樹の言葉を受けて心の底から楽しそうな無垢な笑みを浮かべている。そしてその煌めくような瑞々しい笑みに見惚れてしまった。
「どちらにしようかな……。好きなのはケーキだし、先に食べておかないといけないのもそっちだろうが……、作業をするならマカロンの方が適当だし」
 流石に甘いものが好きだとはいえ、一気に全部を食べる気にはならないようで、心が躍る楽しい二択を選択しようとしている悩み顔もとても綺麗だった。
 その表情を見るだけで最愛の人の大好きな洋菓子店の行列に並んでまで買って来て良かったなと思ってしまう。
「確かにマカロンの方がこの場で食べるのに適していますよね。
 手も汚れませんし、パクっと口に入れることが出来ますし……」
 ケーキは――最近祐樹も食べられるようになったが――フォークを使わなければならないし食べるのに手間が掛かるのは事実だった。
 その点、小さくなって最愛の人に悲しげな笑みを浮かべさせていた過去も有ったが、逆に小さくなったマカロンの方が作業しながら食べるのに適しているような気がする。
「決めた。笹飾りの目途が付いたらリビングでケーキを食べることにして、ひとまずマカロンを先にしよう……。じゃあハサミとノリなどを持って来るので……」
 咲きたての花のような瑞々しい笑みを浮かべた最愛の人がキッチンから出ていく。その背筋をピンと伸ばした背中とか項の辺りで切りそろえた髪から覗く白磁のような滑らかな素肌に見惚れながら唇を開いた。
「了解です。ではマカロンをお皿に盛りつけておきますね。コーヒーと一緒なら私も食べられますので……」
 自然に唇に笑みが浮かんでしまうのを自覚しながら最愛の人にそう答えた。
 こういう何気ない日常を笑いながら過ごせる幸せを感じながら。



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    こうやま みか拝



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小説家になろう版 「気分は~」1stシリーズ 一気読みにどうぞ。かなり進んでいます。アメリカで執刀医になるまでを投稿しました

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