最愛の人が家に居るだろう時間帯に固定電話に掛けてくるのが祐樹の母だったし、実の息子よりもその永遠の恋人の方を気にかけていることも知っていた。 
 まあ、それなりの信頼関係は有ったので、血を分けた息子のことは分かり切っているからかも知れないが、それよりも『実の息子』以上に気を遣っている最愛の人と話すのが楽しいのだろう、多分。
 母を喜ばせるためにこの人を選んだわけでは全くなかったが、それでも母が気に入ってくれた方が好ましいのも確かだった。
「分かった。お母さまと話せるのはとても楽しいので。
 祐樹が野山を駆け回ってケガをした時のエピソードなども聞けたら良いな」
 部屋のドアと鍵を閉めてから唇を軽く重ねた。
 お帰りのキスと手を繋いで廊下を歩くのはもう習慣になっていたのでごくごく自然な流れだった。
 さて、母に何と切り出そうかと考えながら付け根まで絡めた指のひんやりとした感触を楽しんでリビングに入った。
「コーヒーでも飲むか?」
 体調管理とか感染症予防も仕事の一環なので、帰宅したらうがいや手洗いは習慣になっている。
 心臓外科の場合は、その人の心臓冠動脈の狭窄が問題なだけで、それは血管に堆積したコレステロールが原因だ。だから他人には伝染しない。
 ただ、大学病院の共用スペースではどんな細菌やウイルスを持った人が来ているか分からないし、実際ノロウイルス集団感染で脳外科が甚大な被害を受けて一時的に閉鎖されたという過去の事例も有ったのも事実だった。ノロウイルスが全く関係ない脳外科で集団感染したのかはナゾだったが、戸田前教授の医局運営の杜撰さは「夏」の事件で判明したのでさもありなんと今では思っている。
 その点、ウチの科ではインフルエンザに罹った場合は即座に自宅待機を言い渡されるシステムになっているからそういう医局内パンデミックは起きていない。少なくとも祐樹の知る限りは。
「いえ、呉先生のお屋敷で飲み過ぎるほどコーヒーや紅茶を飲んできましたし、今は良いです。貴方の淹れて下さる最高に美味なコーヒーは食後の楽しみに取って置きます。
 食後のデザートに呉先生から貰ったお菓子も一緒に食べましょうね」
 一緒には食べるが、量は最愛の人が多いのもいつものコトだった。
「分かった。では私は夕食の準備をするので……」
 最愛の人が作ってくれる食事は何を食べても美味しい。
「楽しみにしていますよ。私は母にご機嫌伺いの電話をします。
 多分、貴方にも替われとワガママを言うと思うので、夕食の支度の邪魔をさせてしまいますが、それでも良いですか?
 手を止めたらマズい時には及ばずながら交代しますので指示をして下されば嬉しいです」
 白磁のように滑らかな頬に唇を落とす。
「分かった。祐樹は『及ばずながら』のレベルではないと思うのだが。一人でもキチンとした本格的な料理も作ってくれるようになったし……」
 最愛の人の少しでも助けになればと始めた料理だったが――同棲するまではコンビニで買って帰るか定食屋とかで食事を済ませていた――実際に作ってみると化学の実験みたいで割と楽しいし、もともと手先は器用なので包丁さばきも慣れれば面白かった。
 仕事で使うメスの持ち方と包丁では全く異なるので、黒木准教授などは奥さんに台所だけでなくて家事一切を任せているようだった。
 まあ、黒木夫人は専業主婦だし――この業界では柏木先生とか未来の久米夫妻のように看護師と結婚して世間で言うトコロの「寿退社」をした場合は専業主婦がデフォルトだし、看護師を続ける場合には共稼ぎになるので家事は分担するのが「常識」になっているものの、矢張り女性の方が家事分担率も高いという専らのウワサだった――「横のモノを縦にも動かさない」とかいう黒木准教授の分まで頑張っているのだろう。
 それに病院の「常識」では医療従事者を配偶者にしている人間は「妻を養っていくのは夫の役目」という旧態依然なモノだった。
 奥さんが薬剤師とか看護師として働くのは良いが、スーパーやコンビニなどで働いていると分かった瞬間に「何故か」悪いウワサが院内を駆け巡る。
 「職業に貴賤はない」というコトワザ(?)は病院内ではなかったことにされている。
 最愛の人は自炊歴も長いし、料理も家事もずっとして来たので嬉々としてこなしてくれているのは祐樹的には助かるが、勤務時間の長さはともかく集中して手技をこなすと精神的・身体的疲労も相当なモノなので、率先して手伝うようになったら、いつの間にかハマっていたというのが正直なところだった。
 キッチンで夕食の準備をするために軽やかに動き回っている最愛の人に「電話を掛けて来ます」と言い残して部屋を出て、さて、どこで掛けようか?と思案した。
 食事の準備をしている最愛の人はリビングや寝室に入って来ないのは知っていたが何かの拍子にふと入室してくる可能性もゼロではない。
 そう考えるとやはり祐樹専用と最愛の人が勝手に決めていて祐樹の許可がないと入って来ない部屋の方が良いだろう。
 スマホを持って本来ならば子供用として使用しそうな個室に入った。
 この辺りでは最も高価なマンションはファミリータイプなので、子供部屋と言っても広い部類だろう。
「あ。母さん。俺だけど俺!久しぶり」
 いきなり生命保険の話をするのはどうだろうか?と思いながらそう語り掛ける。
「ああ、タカシ?どうしたの?珍しいじゃないの?あなたが電話を掛けて来るなんて……」
 は?タカシ?一瞬掛け間違えたかと目が点になって思ったが、番号をタップして掛けたわけではなくて、スマホの登録履歴から掛けていた
 知る限りタカシなんて居ないし、祐樹の恋人のことは「サトシさん」と呼んでいる。
 まあ、タカシと聡は似ていないこともないが、割と頻繁に電話している上にそんな言い間違いをするだろうか。




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最後まで読んで下さって誠に有難う御座います!!

色々としなければならない仕事が山積みで、しかも最近の天候不順で少しダウン気味です。

更新も頑張る積りですが、力尽きてしまったら申し訳ないです。

    こうやま みか拝
















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