「良いのです。せっかくの『二次会』ですので、これは是非ともお祝いに参加しなくてはと思いまして」
長岡先生が凛と背筋を伸ばして言い放った。
「あのう、お飲み物は何になさいますか?」
岡田看護師が気を利かせたような感じでウエイトレスのように聞いている。
「えっと、貴女は……?私は、」
長岡先生と岡田看護師の接点は殆どないので――医局も異なるし、その上医師と看護師というヒエラルキー的問題もあったので仕方ないだろうが――怪訝そうな表情を浮かべているのも仕方ないだろう。
「存じ上げています。長岡先生ですよね?香川教授とご一緒に帰国されたとても優秀な内科の先生……。
そして先輩のナースがみんな長岡先生のファッションを――と言ってもそんなにお金は掛けられませんけれど――真似しようと必死で雑誌を見ているんです。
直接お会い出来て、しかもお話し出来るだなんて畏れ多くて……でも、とても光栄です。
って、私などが声をお掛けしても宜しかったでしょうか?」
長岡先生のカオスな部屋の惨状とか、時々突飛なことを仕出かして最愛の人に電話を掛けて来るとかいう裏の面があることを当然岡田看護師は知らないので眩しいモノを見る憧れの眼差しで見ている。
「長岡先生、シャンパンで宜しかったですか?
今、香川教授の恋バナを伺っていましたが、アメリカにも縁が有る人がお相手みたいで……もしかしてご存知の方でしょうか?」
ベテランナースの貫禄か、岡田看護師ほどには恐れ入っていない柏木看護師がそう聞きながらフルートグラスを手渡している。
マズイかもしれないと内心でハラハラしてしまった。長岡先生は二人の真の関係を知っている数少ない病院関係者の一人だったので。
最愛の人もそう思ったのか、繋いだ手が汗の雫を零しているのが分かった。
「有難う御座います。この、ルイ ロデレール クリスタルもとても美味しいので大好きです。
改めまして教授、そして田中先生本日は本当におめでとうございます」
凛と背筋を伸ばして優雅な感じでフルートグラスを掲げた長岡先生に最愛の人がワイングラスを触れ合わせていた。
その澄んだ音が鈴よりも綺麗に会場の中に溶けていく。急いで祐樹も「左手」でフルートグラスを掲げた。
多分テーブルクロスの下で何をしているのか察したのだろう、長岡先生が綺麗にルージュを塗った唇に暖かい笑みが浮かんだ。
透明で涼やかな音が三重に奏でられる。
最愛の人のルビーを溶かしたような赤ワインの味は分からないが、長岡先生と祐樹が飲み干したシャンパンのオレンジの酸味が喉に心地よく弾けている。
「この席は――節度を守る必要は有りますが――無礼講なので、柏木看護師とか久米先生の婚約者の岡田看護師とも乾杯をして頂ければ嬉しいです」
長岡先生は――私生活ではかなり滅茶苦茶なことを仕出かして最愛の人に泣きついてくる「困った妹」的なところもあるけれども――病院内の仕事は超が付くくらい有能だし、持ち前の財力プラス婚約者の岩松氏のバックアップもあると聞いているのでいつも最先端のファッションに身を包んでいる。まあ、彼女も客観的に見れば美人の部類に入るのでそれと相俟ってナース達のファッションリーダー的な人気もあった。
そういうウワサは祐樹が最愛の人に教えていたせいもあって、彼女たちをさり気なく紹介したのだろう。
「ああ、柏木先生の奥様ですか。結婚式に呼んで頂いて有難うございました。あの時は貴女が主役でしたのであまりお話しも出来なかったので、このような機会に恵まれて本当に良かったです」
如才ない感じで優雅に微笑みながらグラスをシャランと鳴らしている。
「いえ、あの節はご多忙中にも関わらずいらして頂けて本当に嬉しかったです。
今日もお話し出来るとは思ってもいなかったのでとても光栄です」
柏木看護師も長岡先生につられたのか上品な笑みを浮かべている。
「貴女が岡田看護師ですか?お噂はかねがね聞いております。
久米先生は――あくまで第三者的な意見ですが――香川外科で田中先生に次ぐ有望な医師だと思っていますので、そんな修行中の彼をサポートして下さいね。これからも宜しくお願い致します」
久米先生は鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべていた。
祐樹も次代の脅威として密かにライバル心を燃やしていたのも事実で――といっても手術室の外では何だか可愛くてしかも困った弟のような気がしてあれこれと面倒は見てきた。
最愛の人が長岡先生のことを「困った妹」に接するような態度を取っているのと同様に。
二人とも兄弟がいないせいも有るのかもしれない。
ただ、長岡先生がそこまで見抜いていたとは思わなかったので、その点だけは驚いてしまったが。
長岡先生が岡田看護師と乾杯をしているのを幾分狼狽したような挙動不審な感じで見ている久米先生は想定の範囲内を超える高評価に戸惑っているのだろう、多分。
「長岡先生はドンペリニオンのロゼでしたか?そういうのを呑まれているイメージが有るのですが。
それに久米先生ってそんなに凄い外科医になる素質が有るのですか?
私は単に人柄とか性格の良さが好きなのですが……」
アクアマリンの清浄な光の眼差しに驚きの煌めきが混じっているような気がした。
「久米先生の手技の冴えは末恐ろしさを感じますね。まあ、執刀数をこなしてからではないと何とも申し上げられないのですが。
ただ、今のところ潜在能力は医局で一番かなと個人的には思っていました。田中先生は既に執刀医として目覚ましい手技をこなしているので、顕在化したと個人的には思っていますが……」
最愛の人の薄紅色の唇が極上の笑みの花を咲かせているのが印象的だった。
そしてテーブルクロスの下で付け根まで繋いだ手をしっかりと絡ませ合っているのも。
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最後まで読んで下さいまして誠に有難うございます。
小説更新と並行して「心は闇に~」の手直しとかを趣味の時間をほぼ費やして行っています。
こちらも読んで頂ければ嬉しいです。
こうやま みか拝
長岡先生が凛と背筋を伸ばして言い放った。
「あのう、お飲み物は何になさいますか?」
岡田看護師が気を利かせたような感じでウエイトレスのように聞いている。
「えっと、貴女は……?私は、」
長岡先生と岡田看護師の接点は殆どないので――医局も異なるし、その上医師と看護師というヒエラルキー的問題もあったので仕方ないだろうが――怪訝そうな表情を浮かべているのも仕方ないだろう。
「存じ上げています。長岡先生ですよね?香川教授とご一緒に帰国されたとても優秀な内科の先生……。
そして先輩のナースがみんな長岡先生のファッションを――と言ってもそんなにお金は掛けられませんけれど――真似しようと必死で雑誌を見ているんです。
直接お会い出来て、しかもお話し出来るだなんて畏れ多くて……でも、とても光栄です。
って、私などが声をお掛けしても宜しかったでしょうか?」
長岡先生のカオスな部屋の惨状とか、時々突飛なことを仕出かして最愛の人に電話を掛けて来るとかいう裏の面があることを当然岡田看護師は知らないので眩しいモノを見る憧れの眼差しで見ている。
「長岡先生、シャンパンで宜しかったですか?
今、香川教授の恋バナを伺っていましたが、アメリカにも縁が有る人がお相手みたいで……もしかしてご存知の方でしょうか?」
ベテランナースの貫禄か、岡田看護師ほどには恐れ入っていない柏木看護師がそう聞きながらフルートグラスを手渡している。
マズイかもしれないと内心でハラハラしてしまった。長岡先生は二人の真の関係を知っている数少ない病院関係者の一人だったので。
最愛の人もそう思ったのか、繋いだ手が汗の雫を零しているのが分かった。
「有難う御座います。この、ルイ ロデレール クリスタルもとても美味しいので大好きです。
改めまして教授、そして田中先生本日は本当におめでとうございます」
凛と背筋を伸ばして優雅な感じでフルートグラスを掲げた長岡先生に最愛の人がワイングラスを触れ合わせていた。
その澄んだ音が鈴よりも綺麗に会場の中に溶けていく。急いで祐樹も「左手」でフルートグラスを掲げた。
多分テーブルクロスの下で何をしているのか察したのだろう、長岡先生が綺麗にルージュを塗った唇に暖かい笑みが浮かんだ。
透明で涼やかな音が三重に奏でられる。
最愛の人のルビーを溶かしたような赤ワインの味は分からないが、長岡先生と祐樹が飲み干したシャンパンのオレンジの酸味が喉に心地よく弾けている。
「この席は――節度を守る必要は有りますが――無礼講なので、柏木看護師とか久米先生の婚約者の岡田看護師とも乾杯をして頂ければ嬉しいです」
長岡先生は――私生活ではかなり滅茶苦茶なことを仕出かして最愛の人に泣きついてくる「困った妹」的なところもあるけれども――病院内の仕事は超が付くくらい有能だし、持ち前の財力プラス婚約者の岩松氏のバックアップもあると聞いているのでいつも最先端のファッションに身を包んでいる。まあ、彼女も客観的に見れば美人の部類に入るのでそれと相俟ってナース達のファッションリーダー的な人気もあった。
そういうウワサは祐樹が最愛の人に教えていたせいもあって、彼女たちをさり気なく紹介したのだろう。
「ああ、柏木先生の奥様ですか。結婚式に呼んで頂いて有難うございました。あの時は貴女が主役でしたのであまりお話しも出来なかったので、このような機会に恵まれて本当に良かったです」
如才ない感じで優雅に微笑みながらグラスをシャランと鳴らしている。
「いえ、あの節はご多忙中にも関わらずいらして頂けて本当に嬉しかったです。
今日もお話し出来るとは思ってもいなかったのでとても光栄です」
柏木看護師も長岡先生につられたのか上品な笑みを浮かべている。
「貴女が岡田看護師ですか?お噂はかねがね聞いております。
久米先生は――あくまで第三者的な意見ですが――香川外科で田中先生に次ぐ有望な医師だと思っていますので、そんな修行中の彼をサポートして下さいね。これからも宜しくお願い致します」
久米先生は鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべていた。
祐樹も次代の脅威として密かにライバル心を燃やしていたのも事実で――といっても手術室の外では何だか可愛くてしかも困った弟のような気がしてあれこれと面倒は見てきた。
最愛の人が長岡先生のことを「困った妹」に接するような態度を取っているのと同様に。
二人とも兄弟がいないせいも有るのかもしれない。
ただ、長岡先生がそこまで見抜いていたとは思わなかったので、その点だけは驚いてしまったが。
長岡先生が岡田看護師と乾杯をしているのを幾分狼狽したような挙動不審な感じで見ている久米先生は想定の範囲内を超える高評価に戸惑っているのだろう、多分。
「長岡先生はドンペリニオンのロゼでしたか?そういうのを呑まれているイメージが有るのですが。
それに久米先生ってそんなに凄い外科医になる素質が有るのですか?
私は単に人柄とか性格の良さが好きなのですが……」
アクアマリンの清浄な光の眼差しに驚きの煌めきが混じっているような気がした。
「久米先生の手技の冴えは末恐ろしさを感じますね。まあ、執刀数をこなしてからではないと何とも申し上げられないのですが。
ただ、今のところ潜在能力は医局で一番かなと個人的には思っていました。田中先生は既に執刀医として目覚ましい手技をこなしているので、顕在化したと個人的には思っていますが……」
最愛の人の薄紅色の唇が極上の笑みの花を咲かせているのが印象的だった。
そしてテーブルクロスの下で付け根まで繋いだ手をしっかりと絡ませ合っているのも。
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