「大丈夫そうでしたよ……知り合いの知り合いは日本国内でも充分に治療は可能だそうです。
 あと、森技官はキッチンで食器洗いをしているようなので戻って参りました。
 呉先生、すみませんがとても美味しいアイスティのお代わりを頂いても構いませんか?」
 森技官とは呉先生にはとても見せられないエイズ患者の患部の写真を森技官に見せるというタテマエになっていたのでそれらしきことを告げた。
 ホラーやスプラッタが苦手な呉先生はそんな写真は絶対に見たくないと言っていた。それも医師としてはどうなのか?とは内心思ったが、祐樹だってメンタルヘルス的なコトは全く分からないし、森技官が自業自得のメンヘラと関わった挙句の果てに呉先生にまで巻き込んでいた事実も有ったのできっと「生兵法は大怪我の基」ということわざが正しいのだろう。それに精神科とか産婦人科の専門的な知識はあいにく祐樹だって持ち合わせていないのである意味仕方のないことなのかもしれない。 
 医師免許さえ持っていれば、そして専門分野に特化した大学病院勤務でなくてクリニック経営を志そうと思えば――と言っても最愛の人と祐樹の専門は心臓外科なので初期投資がかなり必要なので最愛の人の財力ではなくて少なくとも祐樹の今の資金力では到底無理だし、医師会経由で銀行から融資を募っても多分無理だろうが――精神科は投薬さえマスターすれば大丈夫な分野だ。患者さんとのコミュニケーションに「だけ」は自信を持っているので。
 呉先生の場合は大学病院に愛着を持っているという理由で――今この部屋に居る三人のうちで最も病院に対して忠誠心を持っているのは間違いなく呉先生だ――残ってはいるが、呉先生が独立しようと思ったら祐樹などよりもハードルはかなり低くなる。
 ただ、小耳に挟んだ話では精神科が専門でもなかった医師が患者さんを――つまりはお金を払ってくれるお客さんという意味だが――増やそうと心療内科「も」診ますという例は内科の医師には居るらしい。
 祐樹だって――あいにく学生時代にバイト出来るほどの時間の余裕はなかったので他業種のことは身を以っては知らないが――色々な「お客さん」が来た方が経営的にも店が儲かるという程度のことは分かる。
 だから内科・外科・心療内科と――まあ、心理的な問題で身体症状が出てしまうことも有るらしい。例えば会社に行こうとすると下痢が酷くなったり頭痛がしたりなどは会社に行きたくないと身体が訴えていることの方が多いというレポートを医学雑誌のネット版で読んだ覚えも有った――間口を広げている医師も多数居るとか聞いている。患者さんに寄り添った医療がしたいという高邁な理想を持っている医師も中には居るらしいが、単に患者さん=顧客を増やしたいだけの人も多いとか。
「田中先生の知り合いの知り合いが日本で治療を受けられるのは良かったですね。
 アメリカに渡る旅費もバカにならない金額でしょうし、エ…エ…エイズ発症した方なら空気感染はしないとはいえ、同じ飛行機に乗るのも嫌と根強い差別心とかで隔離めいたことも飛行機の中でも行わなければならないとも聞いています。もちろん患者さんやご家族の金銭的負担で。
 それだけではなくて、日本には当たり前に有る国民健康保険とか、ウチの病院は文部科学省共済組合が健康保険の母体ですけれど、二割とか三割負担ですよね。経済的に困っている人とかは一割という例とか、さらには医療費免除ということも充分有り得ますし、精神科の場合は精神障碍者自立支援法で一割負担なども使えますが……。それは置いておくとしてもアメリカにはそんな制度がないので全額負担なのでしょう?ね、教授」
 先ほどまで祐樹に向けていた困り切った表情を今の最愛の人は浮かべていなかった。
 多分話題が大幅に変わったせいと、アメリカでの職歴があるのは三人の中では彼一人なので実体験に基づいた話が出来るのも勿論最愛の人しかいなかったからだろう。
「そうですね。日本のような健康保険制度がある州も有りますが原則無いですね。
 ほら、日本でもがん保険とか三大疾病保険みたいに生命保険会社が売り出している保険が有りますが、そういうタイプの保険に入る人はかなり多いです。
 しかし、患者さんを診る前に支払い能力の有無を確認して、全額払えないような人には受診拒否とか普通に有ると聞いた覚えが有ります。
 幸いといっては何なのですが、私の居た職場は心臓外科の権威とされていた病院なだけに最先端の技術や手技を提供する代わりに料金も強気設定でしたので、一括でポンと払えないような方はそもそも来られなかったのですが。
 そういう点でも日本はある意味恵まれているな……とも思いますが、その反面どの医者が診たり手術をしたりしても同じ料金ですよね?
 手技の上手い下手に関わらず。そういう点では自由競争ではないので、これからも手技に自信が有る医師は外国に行くほうが正直年収も一桁、いや三桁くらい違ってくると思います。
 まあ、私の場合は祐樹が大学病院に在籍しているだけで充分に幸せなので待遇に不満は感じないのですが。
 それに充分過ぎるほどの収入は幸いにも既に稼ぎましたし、今の給料だけでも生活は充分過ぎるほど出来るので不満などもないですが。
 催促して申し訳ないのですが、祐樹と森技官は多分日本の病院とアメリカの両方に連絡を取ったり専門的な話を関係各所とか二人で話し合ったりしたと思われますので喉も乾いていると思います。
 だから、アイスティをお願いしたいのですが……?」
 最愛の人がそう言ってくれたのは祐樹がアイスティのお替わりを頼んだからという理由も有っただろうが、先ほどの困り顔の原因が呉先生との会話の中に有ったに違いないので祐樹のアドバイスを呉先生抜きで貰いたいという思惑もあるのだろう。
 それが何なのか全く見当も付かなかったが。


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最近円の値動きが気になります。もう少し円安に振れそうなので、ちょっとばかり買ってみようかと思っています。





最後まで読んで下さいまして誠に有難うございます。

今はサービスを中止したヤフーブログ時代からの読者様がどれくらいいらっしゃるか分からないのですけれど、私は昔から海外でブランド品(といっても正規店では無理です)を値切るのが割と得意だという話を後書きでお知らせ(?)した過去が有ります。一緒に海外に行った友人は当然知っているのですが、取締役になってくれた弟はそういう一面を全く知りません。
そして、コロナの打撃でウチの会社が貸している某牛丼チェーン(森技官がお気に入りのお店です)から「賃料をまけて貰えないか?」的な手紙が来たのでウチの会社の取締役でもある弟に(個人事業主ですが、職人さんを5人も抱える建築業のトップです、一応)「こんな手紙来た」と知らせました。すると「幾らくらい値切られるんだろな?ま、オレなら5パーセントオフにする自信あるけど」と言外にお姉ちゃんはそこまで無理だろ的なラインが返ってきました。
5%に値切れば良いんだろ?と思った私は「ウチも母が亡くなって相続税とかもありますし……どのくらいの値引きですか?」と聞いたら「10パーセントをお願いしているのですが、御社の事情も分かりますし、無理なことはお願い出来ないですね……。しかもその店舗は売り上げも有りますし」と何だかあっさり話は「賃料値下げナシ」に落ち着きそうでした。ただ、ここは恩を売っておく方が長期的にも良いだろうと「出来る限りの値下げをして協力したいので、3%ダウンだと何とかなります!」と言ったら物凄く喜ばれました。
ここだけの話、そもそも3%と言っておいて、妥結点は5%にしようと目論んでいたのです。
そして弟に「交渉したら3%になったよ」とラインをしたら物凄くビックリされました。
いや、何事も経験ですよね。
ちなみに香港に一緒に行った友達にもその話をしたのですが、エルメスの時計を値切りまくって購入し、次の日に正規店に行った時に溜め息をついていた過去を共にした友達は「ああ、そんくらいは出来るだろうね……」と軽く納得してくれましたが。

そういう折衝とかもしないといけないので(交渉の前には準備もそれなりにする)更新が飛び飛びになってしまうことも多いかと思いますので、その点はご理解下さると嬉しいです。あと一話、何とか頑張ってみたいと思いますが、寝落ちしそうな予感がひしひしと……

   こうやま みか拝










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