「女性に申し上げるのは憚られる内容でして……。本当にお知りになりたいのでしたらグーグル検索などをなさってください」

 検索をして事実を知るのであれば、それは彼女の自己責任というか、祐樹がセクハラをしたという事実すら無くなってしまう。

 一流ホテルのバーに相応しい長さのテーブルクロスの下で最愛の人が感心したような感じで祐樹の指の付け根から先端までを強く握っては離すという些細ではあるモノの、医局員の前では大胆過ぎる愛の仕草をしてくれるとは思ってもみなかったが。

 ただ、遠藤先生だって心の弾みで――医局への迷惑とか女性がいるという配慮もかなぐり捨てて「暴挙」を仕出かそうとしたのも何となく分かる――あんなことをやらかしたのだから、医局員というかこの場に集っている人のテンションは爆上がりなのだろう、人知れず指を絡めている最愛の人や祐樹も含めて。

「分かりました。この飲み会が終わればスマホを使って検索エンジンで探してみます」

 久米先生が慌てた感じで「いや、そこまでしなくても……。そういえば田中先生の彼女さんは来ていなかったみたいです」と岡田看護師の腕を引っ張って音量を落とした声で告げている。祐樹の彼女の件は人間ホルマリンの話題を有耶無耶にしたい久米先生なりの機転だろう。

「ひと昔前ですが、外科医の世界って完全な男社会でしたし体育会系のノリが珍しくなかったのですよ。

 だから遠藤先生もその古い慣習でついついやらかしてしまいそうになったのでしょう。

 ま、レッドカード宣告はしましたからこれ以上の悪ノリはしないと思いますが……」

 黒木准教授が取り成し顔で最愛の人に告げていた。

 「一昔前」が文字通りの意味ならば確か10年前ということだろう。

 祐樹も最愛の人も医局には当然居なくて、学生だった時期なので男性社会かつ女性禁制みたいなノリだったハズだし――今でも女性の外科医はそんなに多くないしウチの大学病院の外科医は男性ばかりだ――看護師などは医局の飲み会には参加しないという不文律が有ったと聞いている。

 ま、だからこそ黒木准教授はその「痛い」宴会芸の数々を見て来たのだろうなと。

 そして人間ホルマリンという名前を聞いて慌てて止めて下さったことにも物凄く感謝だった。

 歩く三大無礼講に医師も入っていると道後温泉での医局慰安旅行で聞いていたものの、実感はなかったが――実際宴会の時には秩序正しく盛り上がっていただけだった、まぁ騒がしかったかも知れないが――昔は下半身露出とかが「当たり前」だったとしたら普通の人の顰蹙を買いまくりだろうな……と思ってしまう。

「有難うございます。あのような宴会芸はお店だけでなくて女性にも不快ですからね……。それに下半身を露出しての宴会芸などウチの医局には相応しくないでしょう。喜んで見るような人は居ないと思いますし……」

 最愛の人が黒木准教授に深々と頭を下げている。

 祐樹も性的嗜好は少数派で、同性にしか「そういう欲望」は抱かない。しかし、久米先生のような異性愛者と異なって女性の胸が大きければ大きいほど良いし、グラビアアイドルが肌も露わにとか胸には何も着けずにいるのをニマニマと見る!というような趣味はあいにく持ち合わせていない。

 だから男性器を見せられても祐樹は何とも思わないし最愛の人だってそうだろう。そういう点で多数派の嗜好を持っている人間とは異なると思っている。

 ま、祐樹が母親に隠れて読んだ――隠しておいたハズが見つけられてしまっていたのは想定外だったが――「そういう雑誌」は「行為」のハウツー本としてのみ活用していただけだったので、そこに載っている男性モデルにムラムラした覚えは皆無だった。

 最愛の人はそういう雑誌を手に取ったことすらないのは火を見るよりも明らかだった。

 指をこっそりと繋いでキュっと強く握っては小刻みに動かしたりしている最愛の人は祐樹の愛情の象徴をこよなく愛してくれるが、それは祐樹の身体の一部だからだ。それ以外の「そういうモノ」を見ても――しかも学生時代などは献体されたご遺体を使っての解剖実習も有るし、そういう場合は当然衣服を着けていないので、女性でも男性でも裸は見慣れている――別にヘンな気持ちになったりはしないだろう。

「まあ、泥酔という言葉を辞書で引けばその人の写真が載っているような状態になってしまった、恨み重なる人間にはね……「ちょんまげ!」とか言って男性器を頭の上に乗せて盛り上がると共に意趣返しをしようとする人間も居ましたね。今だとスマホで直ぐに写真を撮ることも出来ますが、昔はガラケーだったので容量も少なくて、しかも撮影に手間が掛かったのでそういうことをする人間は居ませんでしたが」

 黒木准教授が半ば呆れたように、そしてもう半分は懐かしそうな表情だった。

 「ちょんまげ」は多分、武士の髪型のことだろうが頭の中央部にアレを乗せるのは正直勘弁して欲しかった。

 ただ、祐樹も「医局の小姑」という異名も囁かれているので、他人事ではなかったが。

 しかし、黒木准教授は「そういう」下品な行為を嫌っているのは本日医局の皆の知るところとなったので、したくてたまらない人間がいたとしても自粛してくれるだろう、多分。

「お、田中先生恋人さんが来られなくて残念だったな……。せっかく――いや一生に一度かも知れない――晴れ舞台だったのにな」
 柏木先生の言葉を聞いた最愛の人が祐樹の指を強弱をつけて握ってきた。「可笑しい」とか「祐樹の尤もらしい恋人設定に皆騙されているのだな」というほどの意味だろう。

「ただ、見たところ田中先生よりも、久米先生のほうがガッカリしていたぞ……。

 バリバリの商社レディなんてそうそう拝めるものでもないからな、久米先生的には。

 ま、田中先生はいつでも会えるから別に良いって感じだな……。

 香川……教授は赤ワインか。ささ、お酌を致しますので……」


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