「ですよね?長時間のフライトとか時差も有りますし、それに飛行機の代金だってバカにならないですから、一度行ったのならとことん回ってみたいと思いますよね?
 最低四か国、しかもヨーロッパだって広いのですからホテルも毎日違う所になりますし」
 祐樹の言いたいことを何となく察したのだろう。赤ワインのグラスを優雅に傾けながら最愛の人も話に入って来た。
「ホテルが替わるということはスーツケースを毎日キチンと荷造りして、次のホテルでまた一から出すという作業が加わるわけですか……。
 それに、昼間から、いやノイシュヴァンシュタイン城って確か近くの山からしか日本人がお馴染みの全景は見ることが出来ないらしいです。
 ですから、朝イチで出発して山の中で写真撮影した後にお城の中の見物をしないといけないらしいですよ、あっと――あくまでドイツ出身のかつての同僚に聞いた話ですが……」
 最愛の人が慌てたような感じで付け加えたのは、久米先生の主観では祐樹と「彼女」がお城を含むロマンティック街道でのデートを楽しんでいるということになっているからで、その件に関しては最愛の人は関係ないとさり気なく強調したかったからだろう。
 そういう配慮は言葉で直球勝負しか出来なかった昔の彼とはまるで別人のように変わってくれていることを示していて、何だか微笑ましい気分になった。
「そうです。しかもお城見物――いや、あの絢爛豪華さというか、中世のドイツ風?いやワーグナーの曲の見事な具現化は一見の価値ありですよ。
 本当に妖精や英雄、そして神様が佇んでいても全く不思議ではないような神話の世界に浸れます……」
 最愛の人の若干華奢な肩が揺れているのは、祐樹がノイシュヴァンシュタイン城に行ったこともないのにまるで見て来たように語っているのが可笑しかったのだろう。
「ただ、日本のお城もそうですが、真面目に観光したら一日掛かります。
 それを言うなら、ベルサイユ宮殿はパリから40キロ離れているので、その距離も考えないとなりませんね。まぁパリを中心にしてルーブル美術館とかベルサイユ宮殿とかは回れますのでスーツケースはホテルに置きっぱなしで良いでしょうが。
 ただ、セーヌ川のディナークルーズとかエッフェル塔に上ろうと思ったらホテルの滞在時間なんて睡眠時間以外はほとんどないというのが実情らしいですよ」
 黒木准教授はビールのグラスを片手に、そしてもう片方は生ハムを美味しそうに食べながら興味津々といった感じで話を聞いていたが、堪り兼ねたような感じで話に入って来た。
「新婚旅行に、一国一都市滞在ならともかく……。そんなタイトなスケジュールで観光に回っていたら、体力的にも精神的にもキツいですよ。
 田中先生が仰っていたようにホテルの部屋に帰って来ても次のホテルに移動するためにスーツケースに必要なモノを入れる時間が余計にかかりますし、それが終わってベッドに倒れこむのがオチですね。
 そういう弾丸旅行みたいな感じの体力勝負となってきますから『ハネムーン』の甘い時間なんて無理です。
 どうしてもヨーロッパに行きたいのなら、とことん観光旅行を楽しむだけとか、ショッピングしかしないとかそういう明確な目的が有った方が良いです。
 私は杉田師長とは直接お話しする機会がほぼないのですが、彼女の名言『あれもこれもしようとするな!優先順位を間違えないで!!』でしたっけ?救急救命室でも至言だと思いますが、ヨーロッパ旅行でもそうですよ。
 私が若い頃は――何だか年寄りみたいですが、それはお許し下さい――予算的にも頑張って良いホテルと完璧なスケジュールを立てたヨーロッパ新婚旅行を敢行して、そのせいでお互いがお互いの欠点というか余裕のなさからくるケンカばかりしてしまって成田に帰って来た時点で離婚決定とかいうカップルがたくさんいたようです」
 久米先生と岡田看護師を交互に見ながら教え諭すような感じで言っている。
 多分だが、久米先生は思いつきだけで突っ走るところがないわけでもない。そういう性格だからこそ先に注意をしておかなくてはならないと思ったのだろう。
「やだ!これって新婚旅行の話だったのですか?
 新婚旅行はハワイかモルディブかバリ島とかを漠然と考えていました……。ほらリゾートというかゆっくりと優雅な時間が流れていくでしょう?
 普段は時間に追われてバタバタしていますよね?お仕事だからそれは仕方ないのですが。
 でも、そういう日常だからこそ、新婚旅行という一生に一度きりの大きなイベントには緩やかな時間の流れを素敵な伴侶と楽しみたいなと思っていたんです」
 アクアマリンの透明な眼差しがうっとりとした光で煌めいているようだった。
 まあ、祐樹もこの「披露宴」が終わって「初夜」も無事に済ませたら「新婚旅行」は香港に行こうと二人で決めていた。リゾート地ではないものの、ペニンシュ〇ホテルのスイートからは一歩も出ずに二人きりで過ごす甘い時間は物凄く楽しみにしている。
「あ、バリ島は止めた方が良いと聞きましたよ?」
 最愛の人が、珍しく何だか奥歯に物が挟まったような感じで話に乗って来た。
「それはまたどうしてですか?極上のリゾート地みたいな素敵なお部屋とか、そしてそのお部屋から直接出られるプライベートビーチまで有って二人きりで海で遊べるらしいですけど……」
 久米先生は何だか鼻血が出そうな感じに紅潮させた顔に満面の笑みを――しかも何だか下心が有るような、そしてお得意の妄想中のような感じだったが――浮かべている。
 ま、プライベートビーチと聞いて下心を抱かない男性は居ないだろうが。
 祐樹だって、そんな場所に最愛の人と行ったらすることは一つだけだろうから。
 それに、女性用の水着とは異なって最愛の人の場合、上半身は素肌を露出するモノしかない。
 ベッドで散々愉しんだ後のツンと尖ったルビーの煌めきが滑らかな素肌に映えてとても綺麗だろうなと思ってしまう。
 燦燦と降り注ぐ太陽と宝石よりも青い海と白い砂に囲まれた二人だけの空間なので、そこでも愛の交歓に雪崩れ込んでも大歓迎してくれそうな気もしたし、解放感から普段以上に感じてくれるかもしれない。



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今日は市役所と法務局そして、銀行巡りをしていました。
右も左も分からない仕事(母から継承した代表取締役兼お茶くみ)なので、毎日バタバタと過ごしています。
疲れ果てて寝落ちするかも知れないのですし、更新も途切れるかも知れませんが何卒ご理解とご寛恕下さいますようにお願い致します。

   こうやま みか拝






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