これは媚薬のせいとかじゃなくって、多分、いや絶対に相手がリョウさんだからだ。
 舞台衣装(?)を買い出しに行くという名目、ん?違うかな……きっと大義名分なのかも知れない……。
 でも、お父様と行く銀座のお店とかの周りでは綺麗なホステスさんとかと男性客が路上でいちゃついているのも見て知っていた。
 この街では相手が異性ではなくて、同性同士が「恋人」の距離感でイチャイチャしていても――まあ、リョウさんがカッコ良いので感嘆の口笛とか「キャっ」とかいう同性の通行人とはすれ違った。
 多分、銀座なんかだと容姿は問わないとゆうか、金払いの良いお客さんとか一部上場企業の代表取締役とか政治家、特に国会議員とかが一番の得意客だと聞いたことがあるので栞お姉さまほどの絶世の美人はそんなには居ないだろうけど、そこそこの美人さんを侍らしている姿は僕も見たことが有る。
 世間では高級クラブとかが並んでいる町として全国的に有名らしいけど、特に夜の銀座の場合はクラブのママとかホステスさんが主役のような感じだった。そういえば、栞お姉さまのお母さまも銀座出身とか聞いたことがあるような。
 ともかくそういう場所では女性と男性の「同伴」というかカップルが「普通」で男性が連れ立って歩いている時には「どこそこの店に行きます!」って顔に書いてあるような会社の重役達とかが多い。まあ、本当にVIP扱いされるには歩きではなくて運転手付きの車じゃないとダメだ!とかお父様は言ってらしたけれど。
 でも、この街では男同士の恋を夜の闇が包み込んでくれる優しさが有ることもあって――ちなみにリョウさんと歩いていてすれ違った同性の恋人同士っぽい人は何組も見た――リョウさんと二人して近い距離を歩いていると何だか本当の――といっても、本物どころか「いいな」と思った人すら僕には居なかった――恋人同士みたいでとっても幸せだった。
 普通に歩くだけというのも――栞お姉さまが家を出て以来、外出するのは殆どがお父様と一緒だったし、それ以外はお供の若い衆がボディガードになってくれていた――僕にとっては特別な体験だったけど、リョウさんという素敵でちょぴり意地悪な人と二人で出歩けるなんて本当に夢みたいな出来事だった。
 意地悪とゆうか、ショーの熱く甘い夢のような体験を思い起こさせる余韻みたいな感じで本当に嬉しかったんだけど。
 そして嬉しさ半分、恥ずかしさ半分といった感じだった。
 そして、胸のドキドキという音も「リョウさん・リョウさん」って音を立てているような感じだった。
 お店で摂取させられたお薬のせいではなくて、何だか甘酸っぱいような泣きだしたくなるような不思議な気分になるのは、きっとリョウさんと二人で居るからだろう。
 しかも酒場の従業員しか出入りしない路地に二人きりという、本当ならば殺風景過ぎてドラマなんかで「恋を語る場所」には絶対に選ばれなさそうな場所だったけれども、そっちの方が何となくしっくりと来る。
 何だか人目を憚って遇う恋人同士って感じで――まあ、リョウさんは何とも思ってないことくらい分かっていたけど――そっちにもドキドキだった。
 そしてジンと甘く疼く乳首とか、お尻の感じはリョウさんに「舞台の上限定」で愛された証だった。
 まあ、一回だけだと思っていたのに、もう一回だなんて神様がくれたプレゼントのような気がしたけれども。
「どうした……。もしかして中で出したのが零れて来たのか?」
 リョウさんが半ば心配そうに、そして後の半分は悪戯っぽいというか……僕の乏しい言葉の量では適切な言葉が思い浮かばない感じの複雑なニュアンスを浮かべて聞いてきた。
 僕が必死になって押し殺している快楽の火種をリョウさんは何故だか大きくさせようとしている感じだった。
 それに、こんなトコとはいえ、リョウさんと二人でHなことを言っている唇を見ているともっとヘンな気持ちになっていく。
 それに「リョウさん・リョウさん」と打つ心臓の音もリズムアップしたような感じだったし。
 お尻で感じるとか、何となく今のリョウさんには知られたくないような恥ずかしいようなヘンな気持ちになってしまっていて、二番目に気になることを言ってみた。
「ううん、そうじゃなくて……。何だか乳首が布地に擦れて熱く疼いてしまっていて……」
 乳首が感じるなんて――リョウさんにはゆっていないけど、お母さまの目を盗んで観た「そういう」動画の女の人みたいでビックリしているとゆうせいでもあったけど。
 それにリョウさんに舞台の上で執拗に弄られるまでは、体にそんなモノが付いていることすら忘れていた箇所がこんなに硬くなって布地をツンと押し上げては甘く熱く疼くようになるとは思っても居なかったし。
 リョウさんは可笑しそうな、そして何だか悲しそうなニュアンスも男らしく整った顔に浮かべている。
 そういう笑顔は本当にリョウさんに似合っていて、トクンと「リョウさん」と心臓が呼んでいるようなヘンな感じになった。
 そんな僕のことを何て思ったのかは知らないけど、リョウさんは子供に言い聞かすような感じの緩い笑みを浮かべてる。整った顔立ちだけにそれも物凄くカッコいい。
 そんな気持ちでいるのも何だか物凄く恥ずかしいような気がして、頭を振って「変な」考えを追い出そうと首を傾げた僕を見てリョウさんは真剣な感じで唇を引き締めている。
 そんな物凄くカッコイイ顔をされたら、目が離せなくなって首を中途半端に傾げただけになってしまったけど。
 まあ、リョウさんとのデート――多分そんな風に思っているのは僕だけろうけど、悲しいけど仕方ないし、世の中そんな風にうまくいかないことくらいは知っている。でも、今夜のショーの相手役にリョウさんが選ばれたことだけで一生分の運を使い果たしたような気持ちだった。
 それなのに、こんな路地裏で密会みたいなコトをしているだけで死んでしまいそうなほど幸せだったけど。どう言ったらこの気持ちを隠しきれるかと考えるのに必死だった。
 だって、リョウさんにとっては単なる舞台の共演者……というだけだろうから、この気持ちを伝えたら空気が重くなってしまうって分かっていた。

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