【この話は披露宴直後のお休みの日の些細な出来事を書いたものです。実は昔書いていたのをこの際公開することにしました。】
 

「へえ、京都でも同性のカップルを家族と認める条例が出来そうな感じですね?」
 ようやく出版関連の行事が一段落して、二人してまったりとした「お家デート」の時間を過ごしていた祐樹は地元の新聞の地方欄まで目を通す機会に恵まれていた。
 祐樹最愛の恋人は世界で一番美味しいと思ってしまうコーヒーとそして「披露宴」の後の「初夜」で食べた焼きティラミスを形よく盛った皿をリビングへと運んで来てくれている。
 そのコーヒーカップとクリスタルのお皿を甲斐甲斐しく並べながら怜悧な感じに引き締まった薄い唇に仄かに笑みの花を咲かせているのも見ていて飽きないというか、毎回見惚れてしまっている。
「そうなのか?しかし、認められると言っても他の先行自治体と同じレベルだろう?」
 祐樹最愛の人は――今でこそやっと信じてくれるようになったものの、最初の頃は「愛情という形のないものは信じられないし、移ろっていくものだろう」とずっと言っていた――そういう「形」のあるモノに関してもっと積極的になるかと思いきや、何だか全然関係のないニュースを聞いたような感じの笑みを浮かべている。
「それはそうなのですが、興味ないですか?二人きりの結婚式とか挙げることが出来るホテルも神戸に有ると聞きましたし、そういう場所で『私的』な結婚式を挙げて、その後家族として認めて貰うっていうのもアリのような気も致しますが?」 
 「私的」とわざわざ断ったのは、斎藤病院長が張り込んでくれた――と言ってもまさかの首相のご来臨まで有ったので最後の方はグタグダな展開になってしまっていたが、そちらの方が良かったと今は思える――病院主催のパーティを「披露宴」と呼んでいたからだった。
 まあ、それも無事に終わって、その後は「初夜」もつつがなく終えたので良かったとは思っていたが。
 後はお正月休みに香港に「新婚旅行」という名目で行くことになっているだけだった。
 「初夜」の時は最愛の人が色々と集めて身に着けていたものを一つずつ取り去っていくという楽しさと、そして「初夜」に相応しい初々しさで心が一際弾む「儀式」というか「行事」だったが。
「え?しかし、家族と認定されれば、どちらかが病気になった時などに便利かと思うのですが?」
 一時は養子縁組の――ちなみに祐樹の世界での「養子縁組」というのは「結婚」と同義語になっている――話も出たことが有ったが、姓が変わることとか病院の内では二人の真実の関係を知っている人が限られているし、これ以上増やすことはないという意見からその件は打ち切りというか棚上げ状態になっていた。
「冷めないうちに飲んだ方が良いと思うが?」
 もっと喜んでもらえるとばかり思っていたのに、意外にもそうではなかったので不思議に思った。
「頂きます。貴方の淹れて下さるコーヒーを飲むだけでこの上もなく幸せに思います。まあ、朝は必ず淹れて下さるのですけれど、休日にお茶菓子まで添えて……というのは中々ないですからね」
 香り高いコーヒーを一口飲むと、体の中、いや心の中までがコーヒーの香ばしい香りで充満してこの上もなく幸せな気分になれる。
 外でのデートも大好きだったが、こうやってマンションの中で二人、特に何もせずに過ごす休日も捨てがたい。
「美味しいです。これは、呉先生の匠の技を超えましたね。
 私好みの味に色々工夫して下さっているでしょう?」
 もともとは呉先生の淹れるコーヒーが祐樹の好みの味だった。しかし、そのことを知った最愛の人が呉先生に教えを請うた上で更に祐樹好みの味に工夫してくれたこともとても嬉しい。
 コーヒーの湯気を頬に当てているだけで気分が安らいでいく。
 もともとコーヒーは鎮静作用よりも覚醒作用の方が多いのは知識としては知っていたし、救急救命室などでは――まあ、効かないことの方が多いが――眠気覚ましに使われているのも事実だった。
「ほら、家族でないと万が一の事態になった時に傍に居られないとかそういった不便さは有りますよね?
 ウチの病院でも――と言っても貴方の秀逸過ぎる手技のお蔭でウチの科では皆無ですけれど――ご臨終間近の患者様の元に行けるのは家族とか血縁者に限られるでしょう?
 そういう特権めいたものって欲しくないですか?」
 祐樹的にはどちらでも良い。
 何故なら祐樹の母は血を分けた実の息子よりも息子が選んだ恋人の方を気に入っている。祐樹に万が一のことが有れば、あの人のことなので「息子です」とか言い張りそうな気がする。
 だから――と言って別に先に死ぬとかそういうことは考えていないが――自分の身に万が一のことが起こった場合は何とかなりそうな気もする。
 別に自慢するほどのことではないが、祐樹の方が最愛の人よりも他人を言いくるめるとか、咄嗟の機転という点では勝っているのも事実だった。
 そしてその才能(?)が母譲りなのだなという自覚はある。
「ああ、そのことか?搬送される病院って大体決まっているだろう?ウチの救急救命室は『来る者拒まず』が杉田師長のモットーだが……」
 厚労省指導で目まぐるしく変わる病院改革の波に翻弄される医療現場だったが、確かに救急搬送が緊急を要する患者さんの受け入れ「だけ」をしていれば良いのが大学病院だった。
 ただ、そういう総ベッド数とか救急救命医が何人以上とかの基準を満たさない病院には搬送されない仕組みになっている。
 ただ、それがどういう意味を持つのかいまいち分からなかったが。
 焼きティラミスの香ばしい甘さがコーヒーと絡まって口の中で二重に奏でられるような気持ちと何だか――些細なことなのでどうでも良い問題ではあるが――はぐらかされた気分になった。



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最後まで読んで下さいまして有難うございます!
バレンタイン企画とか出来ないので、以前ちまちま書いていたものを公開しようと思いました。
多分、バレンタインまでには終わります。
             こうやま みか




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