お客さんには、まだ僕が快楽の余韻で頭の中が真っ白というか、白い、そして恥ずかしい液を飛び散らせている真っ最中の快楽の頂点に居ると必死に見せかけて、リョウさんに目配せを送った。

 すると、リョウさんは直ぐに気付いてくれて、僕にだけ分かるように「聞いている」みたいな眼差しを送ってくれた。

 何だかリョウさんとあんなに奥まで繋がったせいで――しかも物凄く物凄く気持ち良かった!!――心まで通じるようになれた「錯覚」を覚えた。

 こんなにカッコ良い上に――多分行為も巧いんだろう、僕には分からないけど。ただ、リョウさんが舞台に上がってくれなかったら力任せにお尻の穴に挿れられていたんだから多分上手なんだろうな――Hも凄いなんて僕なんかを相手にしなくてもいっぱい抱いて欲しい人が居るんだろうし、恋人だって居るんだろうな……とは思ってしまった。

 シンデレラは王子様が迎えに来てくれたからハッピーエンドで終わるけれど、僕の場合は12時の鐘と共に元の台所――ああ、そっかぁ、家に居たらまたこんなことをされる舞台に引き出されるんだろうな、だったらシンデレラみたいに台所にも帰れないんだ。

 そんなことを思うとさっきまで悦くてヨクて堪らなかっただけに、心の中にポッカリと穴が開いてズーンと落ち込む。

 それを必死に押し隠してリョウさんにこっそりと囁いた。

「お客さんの個人情報を入力させていたでしょ?

 そしてこの店のスタッフ達はコトを始める時にタブレットをタップして、どの人としたのかを絶対に入力するんだ……。その人数が多いほど、請求されるお金が増えるっていう仕組み……」

 事務連絡みたいに言ったらリョウさんが納得したみたいな表情になった。

 そして教えてくれて有難うなのか、それとも業務連絡をしていることを隠すためかは分からないけど、僕の身体の感じる場所を――特にジンジンと熱く疼く乳首だったのはとっても嬉しい――指で愛してくれて、そのヨさに身体がビクビクって震えた。

 達したばかりで敏感になっているのかな?って思う。僕が手でこっそり弄って出した時にはそんなことは全然なかったんだけど、ユリさんが「すれば病み付きになる」って前に言っていた意味が分かったような気がした。

 王子様のキスを夢見心地に受けていたら、「オレオレ詐欺」で物凄く儲けているとお父様が嫌そうに言っていた他の組の組長が蛇のような眼で僕の身体を見ているのが分かった。

 警察ではなんていうのかとかは知らないけどご高齢の人に息子を騙って電話を掛けて老後のための資産をマルっと取ってしまうのが「オレオレ詐欺」だ。

 お父様の組では――こういうショーもするけれど、今日はそれがたまたま僕だっただけで、舞台の下で愉しんでいるのが分かるユリさんとかそういう慣れた人間が行っている。違法と言えばそうなんだけど……。ただ、店にピンハネはされるとはいえ収入もかなり美味しいと聞いているし、それに何より好きなコトをしてお金を儲けることが出来るので、ご高齢の人を騙して、しかもその先の人生に必要なお金を騙し取るのとは違くないのかなって思う。

 僕も最初の人なら物凄く怖い思いをしただろうし、こんなに気持ちが良い体験にはならなかったし、もしかしたらお尻の穴が裂けちゃっていたかも知れない。

 でも、僕の場合は物凄くラッキーなことにリョウさんが相手をしてくれて……すごく幸せだったし、物凄く感じた。だからユリさんが嬉々として舞台に上がるのも分かるような気がした。

 その点、ご高齢の方は退職金とか年金とかで暮らしていて、纏まったお金を取られたら仕事先とかも見つからないとか聞いている。

 中にはそういう詐欺に遭ってしまって、お金がまるっきり無くなって自殺した人とかも居るらしいし。

「いくら儲かろうが、人の道に外れたことはしない」というのがお父様の信念だった。ただ、栞お姉様のお母様が「姐御」として君臨した場合はああいうこともするのかもしれないなって思ってしまう。

「二次会は始まった……という認識は当然持ち合わせている。

 そしてその功労者が舞台の上の二人だということも。

 ユキ君、もう一度入札して、お相手をチェンジするというのはどうだろうか?」

 「オレオレ詐欺の元締め」をしている組長が僕の身体を蛇の舌を思わせる冷たい視線で舐めるように見て、そして薄くて酷薄そうな唇には残忍な笑みを浮かべて言っている。

 王子様のお城を逃げるように出たシンデレラは元の質素な服で台所仕事をしよう!と思っていたんだろうけど、僕の場合は元には戻れずに今度はあの人とショーをするのかと思うと物凄く怖い。

 でも、僕には断る権利なんて当然ないし……。

 怖くて怖くて震えてしまった。あ!そうか、目を瞑ってリョウさんに抱かれているって思ったら良いのかな……。でも、こういう行為をした僕にはハッキリと分かったことがある。

 肌の香りとか、体つきとか――そしてあの人の男性の象徴なんて見たことがないけど――リョウさんのおっきくて熱くて逞しいのと、僕のとでは全然違う。それにユリさんとか、他の男の人のもさっき押し付けられた。みんな違っていたので、リョウさんに抱かれているって思えないだろうな……って。目を瞑っていても、僕のお尻の穴はリョウさんのモノの感触を鮮明に覚えてしまっているのだから。

 今はもう繋がっていないけれど、未だ挿っているような気がしている、空虚な穴は。

「チェンジは許しません。現在の最高入札者はまだ私です。

 ただし、お客様の要望にもお応えするのも重要です。ユキ、もう少し手荒に扱われても構わないかしら?」

 栞お姉様がシェイクスピアの劇のような重々しさで宣言してくれた。

 ――もしかして、お姉様が助けてくれるかも!!――


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      こうやま みか




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