「二人だけの内緒の話です。ただ、呉先生に後で聞かれる分には全く問題ありませんが」

 森技官から初めて贈られたあんなに大切かつ特別な指輪を貸してくれたのはとても嬉しかったが、自分の口から言うと何だか角が立ちそうな気もする。

 だから、その辺りは呉先生の判断に任せよう。

「首相がこのパーティにいらしたのは、人脈拡大のチャンスだと思ったのでしょうね。

 まあ、政治家なんて顔を売ったり握手をしたりするのが仕事の一部ですので。

 私の場合は官邸とかそういう公の場所に名指しで呼ばれるようなことが有れば、それは勿論駆けつけますが、未だ顔が割れていない感じなので、知らんぷりをします。

 こういうパーティに『人脈作り』のために出ているというのは正直褒められたことではないので。しらばっくれるのが最善ですよ」

 そういうモノかな?と思ってしまうが、省庁の事情とかには正直疎いので森技官がそう判断するのであれば良いのだろう。

「え?しかし、森ぎ……、いえ貴方の場合人脈作りが目的ではないですよね。

 単純に『友人に対する祝福のため』です。それはそれでとても嬉しいし、光栄に存じますが」

 厚労省の人間に恨み辛みを持っている人間がこの会場ではウヨウヨしているので、祐樹も「技官」という言葉を避けたのだろうが。

「それはそうなのですが、他人がどう考えるかなんて分からないですよね。

 斉藤病院長なども必死で取り入っていましたし……。まあ、気持ちは分からなくもないですけど。そういう思惑とか目論見とかには関わらずにお二人に祝福とお祝いの言葉を掛けるためだけに参ったので、それで充分です。

 あ、有難うございます」

 祐樹が森技官の美味しそうに飲み干した空のグラスにシャンパンを注いでいる。

 そのボトルを掴んだ男らしくて長い指を見ていると、シャンパンの酔いが身体の中を薔薇色に染めている今現在は何だかタガが外れたような感じになってしまって、あの長い指で身体を優しく、そして強く愛されたいなと思ってしまう。

 祐樹の指の感触はこの身体にまざまざと残っているし、その刻印めいた愛の仕草の熱が高まってあちこちを敏感にしている。

 インターネットでたまたま見た「女性の本音」とかいうエッセーだかコラムだかに「待ち侘びる気持ちで彼氏に抱かれたことはない」とか書いていた人が居たが、そういう気持ちは全く理解出来なかった。というか、祐樹に抱かれる――しかも今夜は「初夜」だ!――のは何時だって嬉しいし、特に予告されている愛の交歓の時は居ても立っても居られないほど待ち焦がれている。

「そう言えば先程、ウチの医局員が私達を包囲して下さっていましたよね。

 包囲というか医局単位で乾杯をしたのですが。あの包囲網を良く潜り抜けられましたよね?」

 祐樹が感心した感じと呆れた感じの半々といった表情を浮かべている。

 自分の身体の恥ずかしい変化のことに意識を集中させるとマズいことになりそうなので、祐樹と森技官の会話というか軽いジャブの打ち合いを聞いている方が良いだろう。

「ああ、あんなのは得意なのです。島田に頼んで公安とかのデモ排除に対する研修も警察大学校で受けましたから。

 実際にスクラムを組んだデモ隊役の機動隊員とかに対してこちらはそれを排除するようなやり方を学びました。そういうシュミレーションを繰り返しているので警察は強いのです。

 ついでに言えば、彼らのお得意のワザでもある『転び公安』の仕方も教えて貰いましたよ」

 祐樹が怪訝そうな表情を浮かべながら「転び公安……」と呟いているのを聞いて慌てて補足説明をした。

 森技官に冷笑的に解説されるよりも良いかと思って。

「そんなコトを今でもしているのですか?あれは学生運動が盛んだった頃に学生とかの活動家にワザと当たって大袈裟に転んだ後に、公務執行妨害罪で緊急逮捕とかそう言った自作自演めいた逮捕方法でしたよね。実際はグレーに近い方法だったと思いますが?」

 今のデモの場合は行う人がスマートフォンとかで動画を撮っていることが多いとどこかで読んだ覚えがある。

 だから、その活動家が実際に腕などに当たっていないので転びようがないという証拠は山のように出てくるらしい。

「ああ、今はダメですね。動画を多数の人が撮っていますので『不当逮捕だ』と認定されるのがオチです。

 権力による不当な弾圧とか直ぐに言いだしますからね、活動家の方も。

 それに、首相がこのパーティにいらっしゃった本当の理由も選挙活動の一環です」

 話がどんどんと逸れては行くが、そういう歓談の場だし、しかも自分と全然関係のない話しは――特に「披露宴」とか森技官に取って貰った「初夜」用の部屋などの幸せ過ぎて待ち遠しいものの、今言及されると身体の微かな疼きが広がってしまいかねないので――大歓迎だった。

「転び公安とはそういうモノでしたか。勉強になりました。有難うございます。

――大学入試の時に詰め込んだ転びバテレンしか思い浮かばなかったのでそれをうっかり言ってしまいそうでしたので助かりました」

 祐樹が耳元で囁いてくれた。ただ、その微かな吐息の熱さに心も身体も薔薇色に震えていたが。

「本当の理由とは?」

 森技官と呉先生は祐樹が自分に耳打ちするのを微笑みを浮かべながら見守ってくれていた。

 それに、お祝いが目的というのはどうやら100%真実のようで――相手が森技官なので言葉を額面通りに受け取るわけにはいかなかったのも事実だった――祐樹に対する口ゲンカっぽい発言もそれほどないし、普段よりも物凄く当たりが柔らかい。

「ずばり次回の選挙対策ですよ。京都は共産党と元民主の票田になっています。だからその牙城を崩しにかかる必要があるので、大学病院はそもそもが自民支持ですがその周りの人も取り込もうと言う目論見でしょうね」

 まあ、政治家は選挙に落ちるとダタの人になってしまうし、党勢拡大を狙うのも首相としての役割のような気がする。

 それに「披露宴」を楽しみたいという私的な思惑からすれば、斉藤病院長以下の公的な人達がそちらに流れているのは大変有り難いのも事実だった。

 だから(いらしてくださって有難うございます)としか思えない。

「ああ、そう言えば……」

 普段とは異なって満面の笑みを浮かべた森技官が祐樹へと視線を転じている。

 何を言い出すのか分からないものの、そんなに嫌なことではなさそうだったので一安心だったが。


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                             こうやま みか

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