何だか自分達の輪をチラチラ見ている――あくまでも失礼にならないように配慮されているのは分かるが――病院関係者、主に医師は何だか物凄く羨ましそうだった。

 祐樹曰く「ウチの医局運営とか団結力、そして風通しの良さは病院イチ」ということで、他の医局の羨望の的らしい。

 自分としてはごくごく当たり前のことをしているだけだと思っている。そして黒木准教授とか柏木先生、そして何より祐樹が敢えて自分が嫌われ役を買って出てくれている。

 「香川外科の小姑」という「汚名」まで被って。

 まあ、祐樹はそんなウワサなどは笑い飛ばしているし、歯牙にもかけないメンタルの強さも有るのは知っているが。

 祐樹が人知れず精神に傷を負ったのは井藤元研修医が引き起こした例の事件だけだった。

 あの時のことは――渦中に居る時にはそんな悠長な気持ちには到底なれなかったが――今ではほろ苦い、祐樹が大好きなゴディバのチョコのカカオ85%の味が同時の心境のようで、今ではそれが自分でも食べることが出来るミルクチョコのバーに時間と共に変化したような感じだった。

 それは祐樹も同じだと思う。といっても祐樹の場合は85%のカカオのチョコが大好きなのはまた別問題で、いわば比喩のような感じだった。

 だから「香川外科の小姑」というウワサを本人の前で言った人間が居ても「香川外科の小姑ですが何か問題でも?」と切り返していると聞いていた。 

「もう、貴方ったら、本当に……。こっちだと言ったでしょ?」

 長岡先生が岡田看護師と共にこちらに歩み寄って来ているのを視界の隅で捉えながら、柏木看護師がビールの注がれたグラスをご主人から奪い取って、ウーロン茶と思しきグラスにほぼ無理やり交換している。

 運動神経とか手先の器用さが最も求められる手術室ナースだけに、ビールもウーロン茶も零れていないのは流石だった。

 そういう、文字通りの「夫婦漫才」に医局の皆が一斉に好意的な笑い声を上げている。

 祐樹と二人で十字架を背景にして雛壇に並んで座るというのは生涯で一度きりの晴れ舞台だったし、薔薇に金と銀の粉が舞い散っては宿るような幸福かつ豪奢な気持ちでいっぱいの幸せを味わっていたが、医局の皆に囲まれて「公的な」祝福を受けるのも違った意味で嬉しい。

 会場に漂う料理の香りとか、程よい喧噪に包まれて、そして何より祐樹が隣に佇んでいることが。

 医局の中はもちろんのこと、病院内では祐樹が遠慮して――何しろ手術スタッフは実力の有る人間しか選んでいないが、医局内ヒエラルキーに関しては基本年功序列だ。だから祐樹も医局内では一介の医局員でしかない。

 その件で祐樹は「公的」な場所では一歩下がって歩むのが普通だった。

 それが黒木准教授を始めとする医局員全員の前で二人して肩を並べて立っている。それだけで心の中の薔薇の花弁が――実際にそんな薔薇の花吹雪などは起こらないのも知ってはいた――空中にたくさん舞い散っているような気持ちになる。

 アニメなどで――そんなに興味を持って観ているわけではないが――薔薇の花弁が宙を舞っているのと同じような風景が心の中で再現されているような多幸感だった。

「久米先生に黒木准教授を総理の前に連れていく役目を振っていたのはどういうわけだ?」

 柏木先生が「呑ませてくれよぉ!」とか「ダメです。貴方はウーロン茶でも酔っぱらえるでしょ?」などと夫婦漫才を繰り広げていたので医局員はそちらに注意を向けているのを良いことに祐樹に聞いてみた。

「ああ、久米先生がアクアマリン姫とスリーショットをお願いした時に全く物怖じしていなかったのです。そしてウチの母を案内して写真をお願いした時も無邪気な屈託のなさと共に、太っ腹タヌキ先生とかその御親友も内心オドオドしているのが見ている私でも感じたので、当然老練な政治家でもある総理は当然見抜いていらっしゃるでしょうね。

 その点久米先生は怖いモノなしといった感じで近寄って行ったので、却って新鮮に映っているハズです。

 だから、あんなに目をキラキラさせて『そーり!お写真をお願いします!』とか言った方がOKの出る確率は120%だと思いますし、職業上の笑みではなくてごくごく自然な笑みで准教授と奥様との写真に納まるのではないかなと思いまして……。

 ほら、ああいうポジションに居る人って阿諛追従などは慣れっこでしょう。そういう肩肘張ったというか、ガチガチに緊張している人間に頼まれるよりも、久米先生のように無邪気な感じで頼んだ方が良いと思いまして。

 ほら見て下さい」

 祐樹も医局の皆の注意が柏木先生とその奥さんの漫才(?)に行っていることを素早く察知したに違いない。

 自分でも気が付くレベルなので祐樹が分かるのはある意味当然だろう。

「岩松氏が今、名刺を渡して挨拶していますよね?

 貴方よりも私の方が彼との接点も多いですが、あんなに緊張しまくっている姿を見るのは初めてです。

 ま、そっちの方が普通なのかも知れませんが……。

 久米先生は持ち前の天然さが有るので――ま、これも諸刃の刃ですが、ね――首相もリラックスして撮って下さると思います。

 バカとハサミは使いよう……といったところでしょうか?」

 祐樹の言葉が心地よく耳朶に流れてくる。

 心の中までが薔薇色に染まるような、そして低い声が夜の闇を彷彿とさせるような感じだった。喩えて言えば夜の薔薇園に行って薔薇の芳香を色濃く宿した空気に身を晒していて、所々に有る照明が大輪の見事な薔薇を照らしているような。

 そして祐樹は久米先生のことを「困った弟」みたいな感じで思っているのは知っている。

 だから「バカ」というのは言葉の綾だということも。

 そして、確かに岩松氏はカチンカチンに緊張しているのを遠目で見てとってしまった。

 祐樹は執刀医としてのキャリアを積むために――と言っても公にはされないが――岩松氏の病院にお邪魔している。自分が厚労省詣でをする度に祐樹も同行していると見せかけて、実は岩松氏の病院で執刀をしてからの合流ということも多かった。

 手技向上のためには場数を踏むしかないので苦肉の策だったが。その時に岩松氏とも話すのだろう。

「なるほどな……。久米先生は何と言っても怖いもの知らずな面があるから、そう言われてみれば適任かも知れない。

 黒木准教授も首相と一緒に撮った写真が双方笑顔なのも望ましいかも……」

「皆様お待たせ致しまして申し訳ありません。わざわざお呼びいただき本当に嬉しいです」

 高価――なのだろう、良く分からないが――訪問着に身を包んだ長岡先生が、岡田看護師を従えてこちらのスペースへと歩み寄って来た。




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