「オレ……いえ、私で出来ることなら喜んで!!」

 久米先生は何だか柏木先生と呑みに行くような居酒屋さんの店員のような元気の良さで答えている。

 岡田看護師と首相との3ショット実現に――いや、久米先生のことだから首相は抜きでも良いような気がする――浮かれてハイテンションになっている感じだ。

「ウチの母とも意気投合したと思いますが、今でも話し掛けに行って大丈夫ですか?」

 祐樹のお母様は容姿よりも性格の方が遺伝(?)している感じだ。性格とかそういう精神に関係の有ることは学者によって遺伝説と生育説に分かれているので議論の余地があるが。

 祐樹も人懐っこい上に面倒見が良い性格だし、それはお母様譲りだと認識している。実際は辛辣な意見を持っていてもそれをオブラートに包むところとかも良く似ている。そのオブラートの包み方が物凄く上手いところなども。

「はい。私がというより、彼女の方がもっと意気投合したようですね。

 『ああいうお姑さんだったら一緒に住んでも良い』とか言っていました」

 それはつまり久米先生のお母様とは同居不可ということだろうか?と勘ぐってしまう。

 祐樹も同じ結論に達したのか、唇を魅惑的に吊り上げて皮肉な笑みを浮かべている。

 ただ、久米先生の場合、祐樹のそういう表情に慣れているようで気に留めた様子はなかったが。

「では、首相と撮影が終わった後に、ウチの母のテーブルに行って『次はどうぞ』とか何とか言って連れ出して――あ!そう言えば母の手の痺れは大丈夫でしたか?バタバタして忘れ果てていましたが……」

 半ば本気、半ば照れなのかも知れない。祐樹はマザーコンプレックスを持ってはいないようだが、やはり気にしてはいるようだ。まあ、育てて貰った恩も有るだろうし、祐樹が親御さんを気にしない人だとそちらの方こそ問題だろうと思う。

 世の中には虐待とかで親の資格がないと個人的に思ってしまうような人間が新聞紙上に溢れているけれども、祐樹のお母様は息子が同性愛者だと知っても、そして恋人の自分にもとても良くしてくださっている。

この頃はドラマでも同性愛者を扱ったモノもあったし、毒舌おねえキャラの男性がカミングアウトをした上でテレビにレギュラー出演をしているが、そのほとんどのケースが「親に勘当された」という過去を持っている。まあ、ドラマはフィクション部分も強いけれどもごくごく一般的な世間の人がどう考えるのかという一つの指針になると思っている。

 塩を撒かれても仕方ないと覚悟して初めて訪れた自分に対して、物凄く良くして下さったのは一生忘れないだろう。

 縁起でもない仮定だが、祐樹のお母様に万が一のことが有った場合に棺に取りすがって一番泣くのは自分のような気がする。

 実母が亡くなった時には覚悟していたということもあったし、今より感情が平坦だったこととか喪主としてしっかりしなければなどと考えていただけだったが。

「田中先生のお母様の手の痺れは神経由来かと個人的には考えています。詳しいことは念のために検査してみないと分からないですが。

 あくまでも問診と触診では、そんな印象を受けました」

 祐樹が微かにため息を漏らしていた。やはり「忘れ果てて」いなかったらしい。

 自分も物凄く安心したが、それを表情に出すことは出来ない。

「そうですか。『医師としての』久米先生は信頼出来るので、一安心です。

 それはそうと、ウチの母を総理大臣とツーショットの画像を撮って帰したいのです。

 ウチの実家の地方では『自民と共産しか政党がない。そして共産主義はソ連がそうだからけしからん!』とか考えている高齢者が多いので、その自○党のトップの方と写真が撮れたら親孝行になると思います。

 『テツ子の部屋』に教授と出ましたよね?あの時も、市長様や町長さんがウチのボロ屋に来て下さったとそれはもう嬉しそうでしたので」

 久米先生は怪訝な顔をしている。

「その程度であれば喜んでさせて頂きます。何ならこのパーティの主役の教授と田中先生も一緒に写ったらどうですか?

 その方が『列席者代表』って感じがする上に、主役のお一人がご子息だとご町内とかに自慢出来ませんか?」

 久米先生の「無邪気」な提案はナイスだった。祐樹は謙遜してボロ屋とか言っていたが、ごくごく普通の一戸建てで、その点は久米先生もスルーしてくれて良かった。

「ああ、それは良いですね」

 祐樹の声がより一層の快活さを帯びている。その上パチっと指まで鳴らしていたのは、自分と同じく「久米先生ナイスアイデア」と思ったからだろう。

「承りました。でもなんでソ連がダメなんですか?まあ、崩壊してしまった共産主義を嫌うのは分からなくもないですが……?」

 久米先生は素朴な疑問といった感じでふっくらと肉の乗った首を傾げている。

「ウチの母世代のもう一個上は第二次世界大戦体験者なのですよ。

 で、日本がポツダム宣言を受諾して、当時の昭和天皇が初めてラジオで直々に玉音放送をなさった後に条約を無視して当時のソ連が攻めて来たのです。

 アメリカとかとは最初から敵国なので『原爆はまあ、百歩譲って仕方ないことだ。広島・長崎の人には申し訳ないけど……しかし、ソ連は卑怯で寝返った裏切り者の国』みたいな認識が沁みついているようですよ」

 久米先生は納得したように頷いた。

「え?天皇陛下って普段はラジオで話さなかったのですか?ほら、今の天皇陛下とかは録画した映像だと思いますが『お言葉』が流れますよね……。

 あー、最初から敵だったのなら仕方ないですけど、降伏した後に攻めてくるとかそれは確かに卑怯ですよね。教科書でさらっと読んだだけなんで、ふーん!でしたが、当時の人からすれば確かにそう思いますよね」

 祐樹は岡田看護師がにこやかに差し出したグラスにシャンパンを注ぎながら「母が嫌がっても、それはタテマエに過ぎないので宜しくお願いします」と言っていた。

 岡田看護師はアクアマリンの微笑みを浮かべて頷いている。清楚で控え目な感じの外見だが、芯のしっかりした女性だと聞いているので大丈夫だろう。

「国民に周知させる方法が当時はラジオしかなかったらしいです。

 それに『天皇は神様』という扱いを受けていたので、当然ラジオなどに出るハズもなかったらしいです。

 生まれて初めて天皇のお声を聞いた国民は抵抗を止めて、敗戦を受け入れたとモノの本に書いてありました」

 それは知らなかったなと思いながら聞いていると、祐樹がシャンパンのボトルを手渡して来た。

 一体何の積もりだろうかと祐樹の輝く眼差しとか、シルクの鈍い光沢のスーツ姿をしげしげと見てしまった。

 何度見ても見惚れてしまうほどの恰好の良さで、この雰囲気にメガネと前髪を上げるという工夫を加えれば「人は見た目が10割」とか思っているアメリカ人医師の視線も強く引くだろうと思いつつ。

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