「宜しいのですか?私達は前泊している病院長のお客様にご挨拶に伺うだけの用事しかありませんが、香川教授や田中先生は明日のパーティの主役ですので、何かとお忙しいでしょう? 
 そんな貴重なお時間を割いて頂くのも申し訳ないような気が致します」
 清水氏は通りかかったホテルマンを呼び止めて、何やら話している。普通にお茶を飲む場所を変えるだけだと思っていたのだが、どうやらそうでもなさそうだ。
 まあ、ホテルマンと話しているので、このホテルから離れる気はなさそうだが。
 少し離れた場所で清水研修医がやや案じるような感じで聞いてきた。病院長の親友として、そして京都一の私立病院の経営者としても大物政治家とか医学界の重鎮と交流する絶好の機会なので、このホテルに来たのだろう。
「それは別に構わないです。ただ、私達も明日の大切なお客様のご機嫌伺いに参っただけですから。
 ただ、また連絡が有ればそちらに向かわないとならないので、その点は先にご了承頂ければと思います」
 祐樹のお母様は大丈夫そうだったが、久米先生が診て異常が有れば連絡をしてくれるだろう。そうなればそちらを優先するのは「私的」な問題では有るが、優先順位は最も高い。
「はい。教授ほどの方になると色々とお忙しいのは父も良く存じていますから。
 父は上席に――本人は当然だと思っていたようですが――私までテーブル席を用意して下さったのが香川教授だと知って狂喜乱舞していました。
 研修医、しかも精神科所属にも関わらず、あんな上席に座って良いものかとも思いましたが、まあ真殿教授の御機嫌を損ねても知ったことではないので……」
 ハッキリと物事を言う点も外科医に向いている。それに清水研修医は最初会った時とは別人のように明るい表情に変わっていたし、精神科には未練がなさそうだ。
「一応精神科所属の呉先生もテーブル席に呼んでいるので、真殿教授の怒りの矛先はそちらに向かうでしょうから大丈夫だと思いますよ。
 清水先生のお父様が病院長と親友だという話は教授会では常識なのですよね?」
 祐樹も――お父様が居る間は遠慮して丁重かつ親しみのこもってはいるものの、型通りの挨拶しか発言していないのはお父様の居る「公的」な場所だからだったのだろう――救急救命室で共に勤務しているので遠慮せずに会話に加わってきた。
「そうだな。知らない教授はいないだろう。教授会で最もウワサに疎い私が言うのだから間違いはない。
 真殿教授も研修医としてではなくて、あの病院の御曹司として上席に座っていることは軽く納得してくれます」
 今までは義務というか職務の一環として仕方なく出席してきたが、病院長選挙に臨むと決めた今となっては積極的に関与していこうと内心で思いながら。
 それに、祐樹と一緒に居れば――とても贅沢な悩みだと自覚はしている――明日のことを考えたり、過去のことが胸に去来したりして涙腺が決壊しそうになりそうなので、ある意味「公人」として振る舞える場所の方が有り難い。
「そうですか?それなら良かったです。ただ、呉先生も病院長の密かなお気に入りですし、それに主役の一人でもある教授と個人的にもお親しいことも真殿教授は知っていますから大丈夫でしょう」
 清水氏は支配人まで呼びつけて何だか交渉中なので、こちらはこちらで世間話が出来ている。
 そう言えばこの廊下にも明日の招待客が――主に斉藤病院長が呼んだのだから直接の面識はないものの、医学界の専門誌で見た顔とか政治家などは新聞などで見た顔――こちらに会釈や目礼をしながら歩んでいく。当然向こうもそういうメディアを通して知っているだけなので話しかけるのは明日にしようといった感じだった。
 呉先生が――まだまだ真殿教授に含むところは有っても――精神科での出世は諦めて不定愁訴外来というブランチ長で充分満足していることも知っていたので、呉先生的にも真殿教授を怒らせることくらいは何ともないのも知っている。
 それに真殿教授も自分の医局では絶対権力者だろうが、呉先生だけでも充分な戦闘力を持っている上に明日は森技官まで一緒に居るだろうから却って喧嘩を売ったほうが面白い展開になりそうだ。まあ、お互い常識を弁えた大人なのでパーティの会場ではそんなことにはならないだろうが。
「そうですね。それに呉先生と同じテーブルには私達ともとても親しい厚労省の技官が一緒に居ますから、そんなところで内輪の悶着なんて多分見せないと思いますよ」
 祐樹も森技官と呉先生連合が真殿教授との舌戦を開始した方が面白いという感じの悪戯っぽい眼差しで自分を見た後に真顔になって清水研修医に告げていた。
 同じことを考えられるというか、以心伝心めいたものが以前よりも深くなっているような気がして真紅の薔薇の花に銀の雪が降りしきるような多幸感を覚えた。
「お待たせ致しました。ささ、こちらへどうぞ」
 清水氏がキーを持って近付いてきた。
 わざわざ部屋まで取ってくれたのだろうが、病院にMRIをポンと寄付出来るような人なので、それが「普通」なのかも知れない。
 それにアメリカ時代には全額実費かつ一括払いの患者さんしかあの病院には受け入れて貰えなかったということもあって国際的な富裕層の財力は知っていたので、そこまで抵抗はなかった。
 それこそ自家用ジェットや豪華客船だとしか思えない船を自己所有しているような人々が多かったし、御礼として豪華な船で一流ホテルのグラン・シェフを引き抜いての料理などを振る舞って貰ったことも度々有った。
「香川教授、本当に愚息のことを引き立てて頂き有難う御座います。
 それに、次期病院長兼医学部長選挙に出馬予定とか。そして、その件を愚息に漏らして下さって本当に有難うございます。
 そこまで信頼されているとは……親として感無量です」
 ホテルのスイートルームに特別に設えられた大きなテーブルにはアフタヌーンティ一式とかカナッペなどが所狭しと並んでいた。
 そのせいであんな時間が掛かったのだろう。といっても、自分の常識では物凄く手際が良いと内心で感心していた。
「シャンパンで乾杯で宜しいでしょうか?」
 清水氏が心の底から嬉しそうな表情で自分を見ていた。そっと横目を使うと祐樹も眼差しで了承を伝えてきた。




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あと、BL小説以外も(ごく稀にですが……)書きたくなってしまうようになりました。
本業(本趣味)はもちろんBLなのですが。

こちらでそういった作品を公開していきたいと思っています。




「下剋上」シリーズは一人称視点で書いていますので、他の人がどう考えているのかは想像するしかないのですが、こちらはそういう脇役がこんなことを考えているとか書いています。
今は、久米先生が医局に入れてハッピー!な話とかですね。

スマホで読んで頂ければと思います。その方が読み勝手が良いかと。

落ち着くまでは私ですら「いつ時間が空くか分からない」という過酷な(?)現実でして、ブログを更新していなくてもノベルバさんには投稿しているということもあります。
なので、お手数ですが「お気に入り登録」していただくか、ツイッターを見て頂ければと思います。




更新出来る時は頑張りますが、不定期更新となります。すみません!!




 

       こうやま みか拝