『京都駅の……ええと、グランヴィアとかいうホテルの入口近くです』
 確かに土曜日の雑踏と思しきノイズが電話の向こうから聞こえてきた。
 それに祐樹のお母様の声も、今は普段通りの感じで身体に異常があるようにも思えないのが嬉しかったが
「グランヴィアホテルの入口付近ですか……」
 祐樹の指示通り口に出すと「替わって下さい」と強い口調で言われた。
「お母様、お電話替わりますね」
 返事も聞かずに、電話を祐樹へと渡した。
「ああ、母さん。そこに居て。いや、荷物も多いだろうから、フロントの近くに待合用の椅子が置いてあるハズだからそっちに移動しても良いけど。
 今から車で迎えに行くので、京都の道路はいつも渋滞しているので少しは時間が掛かるかもしれないけど、そこから動かないで欲しい。グランヴィアに着いたらまた電話する。
 いや、良いって。そのくらいの親孝行はさせてもらうよ……」
 祐樹が電話を替わったのは――確かに自分も迎えに行くという言葉が口から出そうなほど頭を占めていたのも確かだったし――自分ならお母様も遠慮があるだろうし、この際実の息子の裕樹の方が強く出られるという判断だろう。
 実の母親のように親身に接して貰っているとはいえ、やはり血の繋がりのない自分にはこんなに強い口調で言えない。
「と、いうことで、今から母を迎えに行って来ます。貴方は明日の準備を」
 祐樹が財布とキーホルダー、そして携帯をポケットに入れていた。
「いや、私も一緒に行って良いか?
 ほら、祐樹は運転に手を取られるだろうし、万が一のことを考えると――考えたくはないが――もう一人居た方が良いだろう?」
 祐樹は逡巡するような眼差しを一瞬だけ浮かべてはいたものの、直ぐに笑みを浮かべてくれた。
「一緒に来て下さった方が私としても有り難いのですが、準備の方は大丈夫ですか?」
 呉先生を始めとして色々なモノを貸してくれたり下さったりした「準備」は、ほとんど出来ていた。その一つ一つを眺めたり感傷に耽ったりしたかっただけだったということを今は内緒にしておこう。
「それは大丈夫だ。今最もすべきことはお母様を迎えにいくことだろう?
 少し待ってくれ。着替えるので」
 祐樹はポロシャツにチノパン姿だったが、自分は室内着として常用している襟ぐりの深いニットで、別にそれがおかしいわけでも、そして祐樹の唇で付けられた紅い情痕が見えるわけでもなかったが――愛の交歓はお互いの多忙さもあって、東京のレジデンスルームが最後だった――何となく面映ゆい。特にお母様に見せるのは。
「分かりました。せっかくの前日なのに申し訳ありません」
 薄手のニットを脱いでクリーニングから返って来たばかりのコットンシャツに着替えた。
「いや、結婚式の前日とか当日にバタバタしない人の方が少ないらしいので、むしろ喜ばしい」
 ボタンを手早く留めながら口を動かした。
「まあ、そうでしょうね……。火の始末とかは大丈夫でしたよ。
 もう出掛けることは出来ますか?」
 スラックスの中にシャツを押し込みながら頷いた。
「で、母ですが、どうしましょう?マンションに泊まってもらいますか?」
 天気のいい土曜日ということもあり、道路は祐樹の言った通り渋滞している。
 それをウンザリとした感じで眺めた後に祐樹は、赤信号で車を停めてこちらに首を巡らしていた。
「それでも良いが、和服の着付けが出来る人が居ないのが難点だな……。しかもウチには客用の寝室もないし……」
 祐樹はポケットからタバコとライターを取り出している。
「吸っても良いですか?」
 頷くと、パワーウインドウのボタンを操作して窓を開けた後に火を点けた。
「客用寝室の件は私の個室のベッドで充分ですよ。しかし、着付けとなると確かに困りますよね。
 貴方も浴衣や初詣とかに着る男性用のはご自分で着付けていらっしゃいますが……」
 祐樹もその条件は同じだが、男性用と女性用では帯の結び方も異なるし、一瞬だけならインターネットか本で――買う必要があるが――調べて再現出来るような気はしたものの、パーティが終わるまで――ちなみに三時間の長丁場だ――保たせておけるかどうかは全く自信がない。
「長岡先生に」
「長岡先生は……無理だろうな……」
 同時に口にして、お互いが困惑と絶望の声を漏らした。彼女の不器用さは自分だけでなくて祐樹も良く知っている。
 和服姿の彼女を見たことは有るが、あの見事な帯の結び方などは絶対にプロの手を借りているだろうから。
「母はどこのホテルに宿泊予定だったか知っていますか?」
 気を取り直したような感じで祐樹が聞いてきた。
「東横インだと仰っていた……」
 そんな狭いビジネスホテルではなくて、オ○クラとかのいわゆるシティホテルを取ると言ってみたのだが――もちろん言葉を選んで――笑って謝絶された。
「そうですか……。母は、息子の私を見て貰えば分かると思いますが、節約出来るところは徹底して切り詰めるタイプですからね。
 ただ、ビジネスホテルだと着付けのサービスはしてないでしょうし……。
 オーク○の部屋が空いていれば、そちらに着付けサービス付きで泊まって貰うのが無難ですよね。
 それに、ああいう格式の高いホテルなら提携している医者が必ず居ますので、万が一の時も安心ですし」
 祐樹が外に向けて紫煙をたなびかせている。
「そうだな……。特に明日のパーティの前泊組の、斉藤病院長の医学界関係の知り合いも泊まっているハズなので、医師の人口密度はホテルの中でも高いだろうし、その方が良いだろう。先に部屋を押さえてからお母様に告げるというのが無難だな」
 祐樹が輝く瞳に可笑しさの色も混じらせている。




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あと、BL小説以外も(ごく稀にですが……)書きたくなってしまうようになりました。
本業(本趣味)はもちろんBLなのですが。

こちらでそういった作品を公開していきたいと思っています。




「下剋上」シリーズは一人称視点で書いていますので、他の人がどう考えているのかは想像するしかないのですが、こちらはそういう脇役がこんなことを考えているとか書いています。
今は、久米先生が医局に入れてハッピー!な話とかですね。

スマホで読んで頂ければと思います。その方が読み勝手が良いかと。

落ち着くまでは私ですら「いつ時間が空くか分からない」という過酷な(?)現実でして、ブログを更新していなくてもノベルバさんには投稿しているということもあります。
なので、お手数ですが「お気に入り登録」していただくか、ツイッターを見て頂ければと思います。




更新出来る時は頑張りますが、不定期更新となります。すみません!!

読者様は10連休お楽しみ下さいね!!
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       こうやま みか拝