「いよいよ、明日ですね。待ちに待った『披露宴』は……」
 祐樹がブランチとして出した――金曜日から未明まで救急救命室勤務だったので――溶けるチーズを載せたフランスパンを入れたニオンスープの大きな皿にスプーンとフォークを忙しそうな感じで唇と皿へと往復させつつ、笑みを浮かべている。
 自分もやっと……という気持ちの方が大きいが、細々とした雑務が山のように振り掛かって来るのもむしろ嬉しかった。
 東京から帰った後に、シャンパンタワーがテーブル席に人数分のグラスを満たす時間を計算したり、病院長の式次第に変更を加えたりといった「楽しい」作業も通常業務の暇を縫って行ってきた。
「そうだな……。衣装などは決まっているが、持って行くものを纏めなければならないので、祐樹は出来れば……私室から出ないで欲しい」
 サーモンのサラダを口に運んでいた祐樹は、少し不満そうな感じの表情を浮かべている。
「ああ、色々とサプライズを用意して下さっているのですよね。
 そういう、良い意味での驚きは大歓迎ですし、事前に知っておくよりも披露宴の後の『初夜』のスイートでじっくりと確かめます。
 部屋は厚労省が用意して下さったのですよね、一番良いスイートルームを」
 元々森技官のクレジットカードを借りる予定で居たが、他人名義のクレジットカードを使用した場合に――相手が損失を被っているかどうかは関係なく――露見したら詐欺罪に抵触する上に、カードそのものが規約違反で使えなくなってしまうことに気付いた森技官は、お得意の弱みを握りの才能で事務次官から許可を取り付けてくれたらしい。
 ただ、部屋代は厚労省に支払う気ではいるが。
 そもそも、そんな利益供与を受けた場合は――いくら霞が関詣でをしているとはいえ、それはそれで些細な金額ではあるものの謝礼まで受け取っているし交通費だって出して貰っている、他の医師達が自腹を切って集まる催しなにに――これ以上の貢献を唯々諾々と聞かなくてはならないことくらい自分だって分かる。
 これ以上厚労省に借りは作りたくないので。
「予約はしてくれると聞いている。ただ、ちゃんと厚労省かそれが無理なら便宜を図ってくれた事務次官にお金は返す積もりではいる」
 祐樹が秀でた眉を怪訝そうに寄せた。フォークにはニンジンのグラッセを挿して口に運ぶ途中だったが。
「予約は厚労省でして貰っただけですよね?つまり宿泊客が誰かは分からないという状態を作り出すために、敢えて団体名で部屋を押さえただけですよね?
 だったらチャックアウトの時に、現金で支払ってしまえばそれで済む話しでは?
 信用の有る――つまり取りっぱぐれのないとホテルが判断した――団体名義で予約した場合は、普通請求書が送付されてそれを経理だかが……省庁の内部では何と呼んでいるのかは知りませんが、経理的な仕事をする課か部が当然有るでしょう……。
 その請求書が送られる前にこちらが払ってしまったら、そんな面倒なことはしなくても良いかと思いますが?」
 その考えはなかったので――自分が疎いだけかも知れないが――祐樹のナイスアイデアに眼を瞠ってしまった。
「なるほど……その手が有ったか……。祐樹に相談して本当に良かった。惚れ直すのは何度目かもう分からないな……」
 バターが程よく絡んだニンジンの甘さと赤さが身体中に沁みわたっていくようだった、祐樹の存在で。
「あれ?電話、着信していませんか?」
 祐樹は相変わらず目敏くて、テーブルの上に置いた自分の携帯の振動を教えてくれた。
「あ、祐樹のお母様だ」
 ディスプレイを見てそう告げるとあからさまにゲンナリした表情を浮かべてはいたものの、眼差しは春の陽射しのような暖かさに満ちている。
「ああ、そういえば、今日は市内のホテルに泊まるとか言っていましたね。『せっかくだからオーク○に泊まれば?』と一応誘ったのですが、勿体ないから良いとかで」
 祐樹の言葉を聞きながら電話に出た。
『ああ、聡さん。いよいよ明日ね。おめでとうございます。それでね、送って頂いたお着物を持っては来たのだけれども、最近腕が攣ってしまうことが有って……。一人で着られないかも知れないの……』
 え?と思った。
「腕が攣るのですか?具体的には?手だけですか?足には……。そして嘔吐などは有りませんか?」
 祐樹も心配そうな感じで聞いている。
 ちなみに、脳梗塞とか脳腫瘍のせいでそういう症状が現れることがある。そのことは救急救命室勤務のせいで祐樹も良く知っている。
 それに今は完治に近いとはいえ、腎臓の病歴もあるので――といっても腎疾患の場合に痙攣が関係しているという論文もレポートも存在しない――心配だった。
『腕だけです。嘔吐も一回もないです。
 ただ、こんな素敵なお着物を変に着ていたらそれこそ裕樹に迷惑が掛かるでしょう。もちろん、聡さんにも心配をかけることになります」
 お母様の年齢を考えると、家事などで腕を使い過ぎたのが原因の痙攣の可能性が高い。ただ、念には念を入れてMRIとCTで検査してから実家に帰って貰おうと密かに決意は固めたが。
「確かに、和服は紐とか帯の結び方が緩いとだらしない感じにしかならないですからね……。
 それはともかく、今どこに居るのか聞いて下さい」
 祐樹が安心した感じでテキパキと言った。脳梗塞などの可能性が低まったためだろうが。
「今、どこにいらっしゃいますか?」
 祐樹が素早く立ち上がってメモ用紙とペンを持って来た。
 見慣れた文字で「復唱して下さい」と書いてあった。こういうなぐり書きのような筆跡を見るのは久しぶりで、それだけで胸に熱いモノがこみ上げてくる。ただ、その甘やかな感傷に浸っている場合ではないことは分かっていたが。




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◇◆◇10連休中の更新について◇◆◇

あくまで予定ですが、毎日更新します。ただ、納骨と法事、そして一番厄介な相続に関する話し合いの会などが予定されていて、疲れ果ててブログは無理!という日が有るかもです。
済みませんがご了承ください。
 

 
 

◆◆◆お詫び◆◆◆


楽しみにして下さっていた方(いらっしゃるのか?)とも思いますが、誠に申し訳ありません!!
今後もこのブログは不定期更新しか無理かと思います……

ただ、アイパッドで隙間時間OKのこちらのサイトでは何かしら更新します。
下記サイトはアプリで登録しておくと通知が来るので便利かと思います。


勝手を申しましてすみません!!




◆◆◆宜しくです◆◆◆

ツイッタ―もしています!
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最近はブログ村の新着に載らなかったり、更新時間も滅茶苦茶になっているので、ツイッターアカウントをお持ちの方は無言フォローで大丈夫なので、登録して下されば見逃さずに済むかと思います!!宜しくお願いします。




◇◇◇お知らせ◇◇◇



あと、BL小説以外も(ごく稀にですが……)書きたくなってしまうようになりました。
本業(本趣味)はもちろんBLなのですが。

こちらでそういった作品を公開していきたいと思っています。




「下剋上」シリーズは一人称視点で書いていますので、他の人がどう考えているのかは想像するしかないのですが、こちらはそういう脇役がこんなことを考えているとか書いています。
今は、久米先生が医局に入れてハッピー!な話とかですね。

スマホで読んで頂ければと思います。その方が読み勝手が良いかと。

落ち着くまでは私ですら「いつ時間が空くか分からない」という過酷な(?)現実でして、ブログを更新していなくてもノベルバさんには投稿しているということもあります。
なので、お手数ですが「お気に入り登録」していただくか、ツイッターを見て頂ければと思います。



更新サボってしまって申し訳ないです!!
山積みのすべきことがまだまだ残っておりまして、四十九日とか納骨とか体力と気力が……。
更新出来る時は頑張りますが、不定期更新となります。すみません!!

最後まで読んで頂いて有難う御座います!!
 

       こうやま みか拝