こういう雑談は、少なくとも患者さんとのラポール(信頼関係)を築く有効な手段でもあり、そして手術の際にはラポールが高ければ高いほど良好な結果が得られるというレポートも有る。執刀医としてもこの会話には参加すべきだろう。
「コンビニなどで売っていますが、百合香ちゃんの場合はあまり行かれないでしょうね。
 あれはあれで美味しいのですが、毎日食べると流石に飽きます」
 実際のところ、カップうどんはともかくとして作り溜めをしていたカレーを朝はパンに塗って、昼はパンに挟んで食べそして夜はご飯にかけて食べることを毎日繰り返しても個人的に何の不満も抱かなかったし、他人もそうだと思い込んでいた、祐樹と住むようになるまでは。
 ただ、病院一の激務をこなす祐樹が――本来は病院の宿直室で仮眠を取るほうが合理的だし、むしろ自分のマンションに律義に帰宅してくれるのは個人的に嬉しいものの――睡眠時間を確保するために病院に泊まり込む生活を始めるという「万が一」が有れば、手の込んだ料理を作るようなことはしないし、カレーで一週間の食事を賄うだろうが。
「コンビニエンスストアには割と行ったことがあります。病気が判明する前ですけど、父に連れて行ってもらって。『赤いき○ね』も見たことは有りますが、実際に食べたことはないです……」
 国会議員でも地元民との交流を殊更大切にしていると聞いたことはある。お父様は多分百合香ちゃんを連れて行くことで、会話に幅を持たせるとかそういう目的が有ったのかもしれない。政治家である限りは、有権者の支持を得る草の根運動的な、地元回りも重要な活動だ。特に百合香ちゃんのお父様は党の顔として選挙期間中はそれこそ全国を秒刻みで飛び回ると雑誌で読んだことが有るので、地元の票は「日常生活」にかこつけてこまめに回っていらっしゃるのだろう。
「それなら……」
 祐樹が職業上の「慈愛に満ちた」笑みと、滑舌の良い話し方で話を進めている。
 ただ、この話は割と有名だし、自分も話に加われそうで良かったと思う。マンガの話――この先、お父様やお祖父様がいらっしゃらなければという前提だが、必ずその話になるハズで、そうなったら自分は話に参加出来ないので、ラポールの構築をもう少し進めておく方が良いだろうなと思いつつ祐樹の話に百合香ちゃんと同じく耳を傾けた。
「関西で販売されているのと、関東のでは味も違いますので手術が無事に終わった後に関西土産として持って帰って、関東のと食べ比べをするのも面白いかと思いますよ。インスタント食品ですらそういう味の違いを出すほどに関東と関西では違いますので」
 百合香ちゃんは興味深そうに聞いていたし、口元に浮かぶ笑いも以前とは打って変わった感じの子供らしい感じだった。
「マンガも読みました。とても面白かったです。絵で描いてある分、手軽に読めました。
 ただ、いくつかの点が疑問で……」
 百合香ちゃんはレースの室内着に相応しい愛くるしい笑みと知的好奇心めいた瞳で祐樹と自分を交互に見ている。
 マンガは書店でパラパラとめくっただけなので、自分に答えられるような知識はあいにく持ち合わせていない。
「一点目は、主人公が麻酔を使う場面が何度か出て来たのですけれど、麻酔って医師以外でも扱うことが出来るのでしょうか?」
 祐樹が、こっそりと目配せを送って来た。ラポール構築のために答えてくださいという意味だろうと判断して口を開いた。
「医師でも麻酔科の専門医でないと扱えません。外科医の私達ですら扱えないのが現状なので、それ以外の人間が扱ったらダメですね。
 ただ、マンガとか映画では『絶対に無理だ』と常識的に思うようなことでも話しの都合上か何かだとは思うのですが入れて来ますので、その一環ではないでしょうか?
 そういう疑問とか矛盾を持って調べると割と面白いですよ。
 それに、テレビドラマの場合にリアリティを重視すれば、放映時間的に収まりにくくなってしまいます。
 時代劇などでは、人を斬った刀を即座に鞘に収めている場面しかないのですが、実際には血液や油分が鉄でもある刀に付いたままなので、その後使えなくなります」
 6歳の女の子が時代劇を観ているかどうかは接点がないために分からないが、百合香ちゃんは、華麗なる政治家一族の一員なので色々な世代の人とも話す機会を持っているだろうな……と判断したから言ってみたら、案の定無邪気な称賛の眼差しで自分の方を見てきた。
「そういうモノなのですね……。良く分かりました。
 先生方とお話しているととても楽しいです。
 もう一点、スケートボードで車道を走っているシーンがたくさん出てきたのですが、あれも本当はしてはいけないことなのでしょう?」
 運転免許は持っていないが、常識的に考えてダメだろうと思う。ただ、医師国家試験の結果待ちの暇を持て余して六法全書は暗記したが、道路交通法は六法全書に含まれていなかったので、眼差しで祐樹に合図を送った。
「それはダメですね。警官に見つかったら大変なことになりますし、事故った場合は命にも関わるので絶対にしてはならないことです。
 車道を走ることが出来るのは自動車やバイク、そして耕運機――ご存知ですか?」
 百合香ちゃんの自宅は横浜に有るし、お父様の選挙区も同様だ。祐樹は都会に住んでいる彼女が耕運機を知らない可能性を想定したのだろう。
「はい。乗ったことはないですが、田んぼや畑などを耕す機械ですよね。図鑑で見ました」
 多分だが、心臓疾患のせいでベッドに居る時間が多い彼女は本で知識を吸収しているのだろう。家庭教師の先生を自宅に招いているようだったが。
「ああ、ご存知でしたか?あれも一応は車両と見做されるので普通に道路も走ることも可能です。しかし、確かそんなにスピードが出ないので、人間の数よりも馬や牛の数の方が多いような田舎ではともかく、それ以外の場所では迷惑極まりないかと思います」
 耕運機が先頭をノロノロと、いや、牧歌的な感じで走っていて、その後ろを普通の車が走っている有様を想像したのだろう、百合香ちゃんも無邪気な笑みをふんだんに振り撒いている。
 その笑顔をもっと活気に満ちたモノにするためにも、弁膜症の手技は万全を尽くそうと密かに決意を固めた。
 ノックの音が花束で飾られている病室に響いた。
 時計を見なくとも16時ジャストだと分かったので、ご家族一同がいらしたようだった。




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<夏>後日談の教授視点をこちらのサイト様にちまちま投稿しています。
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何も考えていなさそうで、そして主体的に動かなかった彼ですが、何故そういう風に振る舞ったのかを綴っています。
興味のある方は、是非♪♪
PCよりも、アプリの方が新着を通知してくれるとかお勧め機能満載ですし、読み易いかと思います~♪
こちらは不定期更新ですので、本当に投稿時間がバラバラですので、アプリのお気に入りに登録して頂くとお知らせが来ます!興味のある方は是非♪♪
<夏>後日談では祐樹が考えてもいなかったことを実は森技官サイドでは企んでいますので。





◆◆◆バレンタイン企画始めました◆◆◆

といってもそろそろネタもないため――そして時間も(泣)
ノベルバ様で「後日談」の森技官視点で書いています。


覗いて下さると嬉しいです!
また、本日も向こうの更新は済ませました!
両方とも、独白部分は終わって物語が進みます。
森技官は「夏」の事件でキーパーソンでしたが、割と簡単に人をこき使ったり、のびのびと振る舞ったりしていましたが、実際は彼もかなりの苦労をしています。その辺りのことを書いて行こうと思っています♪

こちらのブログと違って隙間時間に書いたら即公開していますので、更新時間がバラバラです!

だから、アプリで読んで頂くと新着を知らせてくれるために読み飛ばしはないかと思います。宜しくお願いします!!

PCの前でのまとまった時間は取れなくなってしまいましたが、アイパッドなら何とか隙間時間で記事を作成出来るので、すみません、このブログの更新頻度は減りますが、ノベルバ様の方では香川外科の面々がどのように教授や祐樹を見ているかを書いています。

今は久米先生視点(医学部生時代)を投稿しています。
https://novelba.com/publish/works/884955/episodes?page=1



読んで下されば嬉しいです。

いやぁ……。ヤフーブログが終了するとは……。

一応、FC2ブログに移行しようと試みましたが(前ブログのはどうにか完了しました)このブログが何故か引っ越せないんです(泣)

まあ、もうしばらく猶予期間もあるので、色々なブログを見てからお引越しを決めようかなと思っています。

しばらくはヤフーに居ますが、キリの良いところで新ブログ会社に切り替えるか、小説投稿サイト様だけに頼るか考えます。

私のPC音痴のせいで、FC2ブログお引越しが、旧「腐女子の小部屋」は無事完了したのに、こっちのは何故か記事が0という。

旧ブログは(ざっとしか見ていない)記事は無事みたいなので、宜しければ覗いて下さいね。



季節の変わり目なので、読者様もお身体ご自愛ください。

【力尽きなければ、本日二本目の記事を2時間後を目途に上げます。】
本日も読んで頂きましてありがとうございます。
     
  こうやま みか拝