「確かにウチの病院では『不適切』な関係かも知れません。しかし、世間の風潮では市民権も認められてきた結果、同性同士のカップルも事実婚と認めたり、差別してはいけなかったりと徐々に変わっていますよね。今でもそうなのですから、将来の病院長選挙の時に貴方と私の特別な関係を問題にするのは、差別主義者との烙印を押されるかと思います」
 祐樹の力強い言葉に思わず深く頷いてしまった。どうやら眉を上げたのは、不本意だからではなくて、言いたいことが有ったせいだったらしい。
 祐樹や自分は異なるが性同一性障害をカミングアウトして選挙に立候補する人とか、同性の恋人が居ることを芸能人が認めたり国賓として迎えた要人のパートナーが同性であっても、夫婦並みの部屋が用意されたりなどの配慮は年々広まりつつあるので、祐樹の指摘は正しいと思ってしまう。
 旧態依然の大学病院だが、それでも世間の風は取り入れられているようだし、そういう心配は、しかも斉藤病院長が学部長選挙に臨むのは10年ほど先なので――今の学部長に万が一のことが有れば別だ――それに伴って行われる病院長選挙の時には同性が恋人であってもその部分を攻撃してくれば、レイシストと呼ばれるようになる世の中に変わっているのかもしれない。
 今、祐樹は――吸う本数が激減したが――病院の敷地内は99%が禁煙エリアだ。
 政府も、そして厚労省もタバコの害を言い立てているし、それはそれで将来の医療費削減になるので物凄い勢いで喫煙場所が減っている。それに文科省も小学生の低学年の時からタバコの害について習うと医療雑誌に書いてあった。小学校低学年の子供が喫煙したいとは考えないので、父母が喫煙しているのを、子供を使って阻止しようという目論見だそうだ。
 場合によっては会社や上司命令よりも可愛い我が子に言われる方が効果的だからだそうだが。
 同じように同性同士のカップルも――喫煙ほど露骨ではないものの――社会の目が緩やかになっていくような感触を確かに感じる。
「そうだな……。その読みは正しいかと思う。
 政府とマスコミが裏で暗躍しているのかも知れない、な。
 14歳未満の子供の脳死判定から移植までが『美談』にされたのと同じような流れになっているような気もするし。あそこまで露骨ではないかもしれないが」
 今現在、国を挙げてのキャンペーンは愛煙者をなるべくゼロに近付けるというものと、ドナーになってくれる人を絶対に逃さないでおこうという意図が見え見えの「運動」だ。
 児童虐待が社会問題になっている今は、不幸にして亡くなった14歳未満の人が本当に虐待に遭っていないかどうかを先に確かめるべきなのに脳死と判断されて、死因をしっかり調べないまま急いで臓器を取り出して移植先を探すという流れになってしまっている。
「ああ、ドナー第一号になった女の子の時は、国家権力を総動員したとしか思えないほど気持ちの悪い報道でしたからね……。全ての新聞社が申し合わせたように一面トップ記事で『ご両親の英断』とか『我が子の臓器を使ってください』とデカデカと載りましたから。
 普通はあんなに新聞社の足並みが揃わないので、厚労省と政府が動いたのでしょうね。
 まずは虐待の有無を調べるのが先だったのに……。
 あの新聞を見ている親の中では『虐待死がばれずに、かつ自分も悲劇と英断の人』ともてはやされることに気付いたでしょうね。
 それに成人もドナーの成り手が居ないので、自動車の免許証だけでなく保険証や住基カードにも『ドナー希望』の有無を書かせるようにどんどん裾野を広げているのも事実ですし……。
 『美談』が掲載された後に、ほんの申し訳程度の大きさで『虐待死ではないことを証明してから臓器のドナーになる』と細かい字で書いてありましたが。
 まあ、臓器移植も夢のiPS細胞が実現段階まで漕ぎ付けることが出来れば下火になっていくとは思いますが。自分の細胞から作るだけに、拒絶反応ゼロですからね。
 貴方も山中教授にお会いになることもあるでしょうが、その時には激励してくださいね。
 『心臓外科も待ち望んでいます、熱烈に』とか何とか」
 祐樹が付け合せ――にしてはかなりのボリュームのある――キャベツの千切りを口に運びながら言った。
 ランチの時間は慌ただしいので素早く完食しないと午後がもたないので。
「後は、柏木先生の奥さんに聞いたのだが、祐樹が気にしていたグループラインのリーダーはウチの科の高平看護師らしい」
 ニンジンを大目に入れて彩りを加えた切り干し大根を唇に運ぶ。
「え?高平看護師、げっ!!マジかよ……」
 少なくとも祐樹が自分の前でこういう言葉遣いをすることはなかったので、内心驚いた。
 何かマズいことでも有るのだろうか?祐樹の話し方が変わるほどの。
 しかも、ゴマのドレッシングのたっぷりと掛かった千切りのキャベツを器用にお箸でつまんでいたのに、祐樹の身じろぎのせいでドレッシングが一滴、白衣の上に落ちそうになる。
 おしぼりが用意されていたので、咄嗟に掴んで白衣を汚す前に空中で受け止めた。
 ドレッシングの油分とかゴマの香りのついた白衣は祐樹に全く似合わないので。




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何も考えていなさそうで、そして主体的に動かなかった彼ですが、何故そういう風に振る舞ったのかを綴っています。
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こちらは不定期更新ですので、本当に投稿時間がバラバラですので、アプリのお気に入りに登録して頂くとお知らせが来ます!興味のある方は是非♪♪
<夏>後日談では祐樹が考えてもいなかったことを実は森技官サイドでは企んでいますので。





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といってもそろそろネタもないため――そして時間も(泣)
ノベルバ様で「後日談」の森技官視点で書いています。


覗いて下さると嬉しいです!
また、本日も向こうの更新は済ませました!
両方とも、独白部分は終わって物語が進みます。
森技官は「夏」の事件でキーパーソンでしたが、割と簡単に人をこき使ったり、のびのびと振る舞ったりしていましたが、実際は彼もかなりの苦労をしています。その辺りのことを書いて行こうと思っています♪

こちらのブログと違って隙間時間に書いたら即公開していますので、更新時間がバラバラです!

だから、アプリで読んで頂くと新着を知らせてくれるために読み飛ばしはないかと思います。宜しくお願いします!!


すみません!もう一話更新出来ないかもです。楽しみにして下さっている方(いらっしゃるのかな?)夜明け頃に更新がなければ「リアバタだ」と思って下さればと思います。

       こうやま みか拝