「それは大歓迎だ。喜んで付き合う」
 祐樹の隠れ家は――ちなみに、病院の敷地内では「喫煙禁止」という病院長命令が下りたので、職員用の出入り口の門近くの灰皿も撤去されている。ただ、喫煙者でもある病院長の厚意で門の外側、つまりは敷地内ではないように装って患者様を含む外部の人間バレないように喫煙スペースがこっそりと新設されている――もともと病院の敷地内から外れた寂れた神社とか人目には触れないような場所を探して通っているのは知っていた。
 人見知りを全くしない上に如才なく付き合う性格の持ち主だったが「独りになりたい」と思った時のためにそういう隠れ家を用意しているのは知っていたし、その祐樹が見つけ出した秘密の場所に招待されるのは自分だけだ。
 その特別扱いに笑みが深くなってしまう。
「百合香ちゃんに『白衣の王様』だと言われた時にはかなりショックを受けましたが……。お祖父様の頑固さ具合が報道通りなら、似ているかも知れませんね」
 白衣姿の祐樹は自販機の前に佇んでいる。
「この気温ですから温かい飲み物の方が良いでしょう。何になさいますか?」
 ホットの「午後の紅茶」も捨て難かったが、風邪防止のためにもビタミンGが入っている柚子のドリンクを選んだ。祐樹は相変わらずブラックコーヒーだったが、多分考えるのが面倒くさいのだろう。
「二人が白衣の王子様に認定されたお祝いです」
 祐樹行きつけの春になると桜の花が見事な小さな神社の境内は相変わらず人は居ない。
 京都には名だたる神社も数多く有るが、こういうガイドブックには載らないような無名の神社も多い。
 その電灯がチカチカ瞬いている境内で、祐樹がコーヒーの缶を掲げたので自分のペットボトルを触れ合せた。
「祐樹のコミュニュケーション能力というか、雑談力は流石だな。見習いたいと心の底から思った」
 最愛の祐樹に微笑みながら正直な感想を述べた。
「え?マンガのトリビアはともかく、百合香ちゃんの弁膜症が完治すれば彼女も『外交』要員として駆り出されます。何せ、元総理大臣の孫で現役政治家のご令嬢ですので。
 他ならぬ貴方が執刀なさるのですから、成功は約束されたのと同義です。
 初対面の学識も豊かな大人や子供を問わない外国人には――先方から話題を振られたなら別ですが――シェイクスピアや『源氏物語』の話題が無難です」
 祐樹がタバコを唇にはさんでライターを点けると、祐樹の男らしく端整な顔が笑みを一際輝かせているのが分かって、それだけで笑顔が深くなった。
「その笑顔は咲き初めた薄い紅色の薔薇のように活き活きとしていて、とても綺麗ですね。
 元々、私好みの怜悧で端整な、そして大輪の花に似た佇まいの持ち主でしたが、最近は惚れ直してしまうほど、生気に満ち溢れている笑顔を浮かべて下さるようになったのでとても嬉しいです。
 それはともかく、シェイクスピアとかの古典の知識とか――私もうっかりしていましたが――イギリスの格調高い英語を学んでいる百合香ちゃんにアメリカ英語を披露してしまうのを避けて下さって有り難く思います。
 私の英語はご存知の通り思いっきりアメリカ風なので、その発音を教えてしまうのを避けて下さって良かったです。
 そういう知識はアメリカでの滞在生活中の経験とか色々な国の患者さん及びそのご家族などと実際に会話した貴方だから分かることなのでしょう。
 それに、彼女が娯楽として読んでいる推理小説でも、シャー○ックホームズ物の英語版――確かあの小説にもイギリスの貴族がたくさん出てきたように記憶しています――そういうお貴族様の英語は間違いなくクイーンズイングリッシュですので、その点は貴方にお任せしても良いですか?」
 先程は英国風の発音を調べようと咄嗟に思ったのだが、祐樹の称賛の響きが混ざった言葉を聞きながら、アラブの王族とかの英語が母国語でない方達は――そして莫大な富を持っていて、豪華客船などもお小遣いで買えるような人だ――例外なくクイーンズイングリッシュを学んでいたし、完治祝いに招待された時にはその言語で話しかけて下さっていたので、あれを真似れば良いだけだと気付いた。
「ああ、その件については任して貰えればと思う。祐樹の役に立つことが出来て本当に嬉しい」
 薔薇色に弾む気持ちのまま言葉を紡いでいると、祐樹がタバコを深く吸う度に明るさが増して、祐樹の笑みが太陽に似て輝いている。
「話を戻しますが。
 百合香ちゃんとは充分以上に雑談で盛り上がっていましたよ。
 彼女も感銘を受けた感じでしたし……。
 ああいう風に患者さんの好きなモノとか、興味が有ることについて語ればそれで良いのです」
「ああ、好きなモノで思い出しましたが、泥の川に突き落とされてしまった久米先生にはフォローが必要ですね……。
 柏木先生の奥さんに連絡を取らなければ……。
 あれしきのことで仕事に支障をきたすほど凹むような久米先生ではないと信じたいのですが、イマイチ不安が残りますので……」
 医局の影の束ね役の祐樹だけあって、目配りも抜かりがないといった感じだった。ただ、業務量が――出版に関係する一連のイベントの参加はあくまでも業務外だが、こちらの都合を患者さんに押し付けることは絶対に避けたい――増えていることも事実だった。
「久米先生の件なら、私が力付けようか?」
 祐樹の仕事を減らすべくそう言うと、明らかにタバコの煙で噎せた咳をしながら祐樹が苦しそうに言った。




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◆◆◆お知らせ◆◆◆

時間がない!とか言っていますが、ふとした気紛れにこのサイトさんに投稿しました!
いや、千字だったら楽かなぁ!!とか、ルビがふれる!!とかで……。
こちらのブログの方が優先なのですが、私の小説の書き方が「主人公視点」で固定されてしまっているのをどうにかしたくて……。
三人称視点に挑戦してみました!
宜しければ、そしてお暇があれば是非読んで下されば嬉しいです。

「エブリスタ」さんというサイトで、もちろん無料です!!
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他、前ブログで連載していた「洋館の堕天使」も移しています。「作品一覧」をクリックかタップで見られますので、良かったら♪



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最近はブログ村の新着に載らなかったり、更新時間も滅茶苦茶になっているので、ツイッターアカウントをお持ちの方は無言フォローで大丈夫なので、登録して下されば見逃さずに済むかと思います!!宜しくお願いします。



◇◇◇お詫び◇◇◇

実は家族が余命宣告を受けてしまいまして。それに伴い更新の目途も自分自身すら分からない状況です。
だいたい、朝の六時頃に更新がなければ「ああ、またリアルが忙しいんだな」と思って頂ければ幸いです。
◇◇◇お知らせ◇◇◇

エブリスタ様に投稿してみて、痛感したのですがヤフーブログは「ルビが打てない!!」という仕様なのは仕方ないのです。しかし、このブログで連載中(現在は休止中です、すみません)の「蓮花の雫」はルビが打てないのは(個人的に)物凄く辛いので、全部エブリスタ様に持って行った上で、再開したいと思います。
楽しみにして下さっている方がいらっしゃるのかどうか分かりませんが、【蓮花の雫】のみ、続きはエブリスタ様単独で書きたいのでご了承とご理解を頂けたらと思います。
【追記】
取り敢えず、このブログで書いていた分を再掲という形でゆっくり移して行きます。
隙間時間に作業しています。エブリスタ様の方がやはり使い勝手も良いので(加筆修正も加えています)全ての記事を向こうに移した後はこちらのブログからは削除したいと考えて居ます。
https://estar.jp/_novel_view?w=25307809

良かったら覗いて下さいませ。

あと、BL小説以外も(ごく稀にですが……)書きたくなってしまうようになりました。
本業(本趣味)はもちろんBLなのですが。

こちらでそういった作品を公開していきたいと思っています。



こんなお話も投稿していますので、興味を持った方……いらっしゃるのか??はスマホで読んで頂ければ泣いて喜びます!!

興味が有る方は是非!スマホの方が読み易いので、オススメはスマホ経由です。

風邪が長引いていて、家族の入院している病院にも行けない今日この頃なのですが、やふーブログの更新は出来れば二話!最低でも一話を目標に頑張ります。

ただ、お医者様から「急変も覚悟しておいて下さい」と言われているので、綱渡りな更新になりますがご了承ください。

私の都合で更新時間がバラバラになってしまっている上に、「にほんブログ村」はシステムの移行とかで新着記事が反映されたり、されなかったりです(泣)
基本毎日更新しますので「人気ブログランキング」でチェック頂くか、まめにこちらをご覧いただければと思います。
寒い上にインフルや風邪が流行っていますので読者様もお身体ご自愛ください。
 
◆更新がお休み頂いたり飛び飛びになってしまったりして申し訳ありません。◆

余命宣告を受けた家族の容態が急変したりで、動員が掛かるもので……。
当分はこんな感じでしか更新出来ないことをお詫び申し上げます。

       こうやま みか拝