「ゆ……田中先生、これは凄い……な」
 それは自分でも知っているシャンパンのメーカーのCMで、シャンパンタワーの煌めきと古城の中と思しきパーティ会場に金の吹雪が螺旋階段から散っているという、豪奢ではあるものの、重厚で荘厳さに満ちた空間を醸し出している。
 この企業は――日本人が最も好むブランドとしても名高いフランスの鞄などのメーカーも傘下に入っているだけに――広告にもお金をかけているのだろう。
「確かにこのような感じにすれば、ホストクラブのような軽佻浮薄な感じとか成金趣味のようなモノにはならないので、病院長もイエスと言う可能性が高くなりますね。
 次の書店で熱狂ぶりをその身で体感して頂いて、その余熱と余韻が冷めやらぬうちにこの画像を見せればその気になって下さいそうです。こういう場合は勢いで決めてしまった方が良いかと思います。
 雑誌社の方々の取材も入っているのですよね……。そういうのも病院長は大好きですから、よりいっそう説得がしやすく……と、ああ、私達はサイン会が有りましたよね。
 お願い出来ますか?」
 店長に挨拶をした後にリムジンへと乗り込んだ後も何回も動画を再生してしまう。
 パーティ会場のオー○ラには螺旋階段がないのが残念だが――その点大阪の第二の愛の巣とも言うべきホテルの方がこの画像に相応しい絵になるだろう――その辺りは何とか演出で乗り切ろう。
 斉藤病院長も――何しろ大学のトップである学長しか執筆依頼が掛からないと実しやかに言われている日本経○新聞の「ワタシの履歴書」にこんなにも早くオファーが来たのは高木氏の人脈のお蔭なので――ムゲには出来ないだろうし。
「まさに幸せのドミノ倒しみたいですね……。幸せという本来は目に見えないモノがこうして次々と具現化していく様子は。
 このシャンパンタワーの頂上から私達二人が黄金色のお酒を注げるのですね……。しかも『金の吹雪』が舞い散るという演出は是非とも実行したいので、どうか斉藤病院長への説得も宜しくお願い致します」
 祐樹も熱の籠った声で、高木氏へと頼んでいる。
「承りました。こういう画像を見せた方が斉藤病院長も説得しやすいですよね。後はつつがなくサイン会を終わらせることだけに集中してください。 
 後顧の憂いは――憂いではない歓喜でしょうが――私にお任せください。
 おお、あんなに列が店の外にまで出来ているとは」
 高木氏の嬉しそうな声に車窓に目を遣ると、確かに書店の前には画期的な新製品の売り出しの時のような行列が歩道に出来ている。
「あれ?何だか前の三店舗と雰囲気が異なるような気がしませんか」
 祐樹も書店側に近い自分の方に身を乗り出して眺めていて、その確かな感触と熱に頬が更に上気してしまっていた。ただ、その指摘を受けた後に見ると確かに先程の書店とは異なる感じだった。
「え……。ああ、男女比率の問題ではないでしょうか?車道の関係上、迂回していたので良く目に入ったのですが、スーツ姿の男性が多い感じがします。今までは女性の色とりどりの洋服の方が目立つこともあって男性はくすんで見えましたが。
 ただ、一般作家の先生のサイン会の場合は男性客の方が多いのです。しかし、スーツ姿というのは……。これが平日だったら会社帰りというパターンも考えられますが、日曜日なのにこれだけ背広とかコートが目立つというのも不自然ですね……」
 動体視力も我ながら良いと自覚している自分は正解に気付いた。リムジンが書店近くまで来たせいで速度を落としているからかも知れないが。
「ああ、あのスーツ姿の人達は皆病院の関係者ですね。事務局の人間とか、一度来て下さった先生方も混じっています」
 祐樹が腑に落ちたという感じで頷いている。
「斉藤病院長が向かっているという情報を掴んだか、もしくは病院長が再動員令でもかけたのか……どちらにせよ、病院長に対して点数稼ぎをしたいという人が集まっているような気がします。事務局の人達は休日返上した――良いのです、あの人たちもそういうハードな仕事をさせて現場の苦労を味わって貰いたいと常々思っていました――帰り道に違いないです」
 そう言えば、残業が有ればこの時間になるなと思える時間帯だ。
 書店の裏側に車が停まったので、高木氏はカーネルサンダース人形のような体型にも関わらず敏捷な感じで勝手に下りた。リムジンなら運転手さんがドアを開けてくれるまで待つのが普通だと思っていたものの「時は金なり」を実践している高木氏なのでその程度の横紙破りは許されるらしい。
「斉藤病院長は店長室で待機なさっているそうです」
 書店の人と慌ただしそうに会話している――ただ何となくおどおどした感じから店長ではなさそうな感じだった――高木氏は運転手さんがドアを開けてくれるのを待ってから下りた祐樹と自分に教えてくれた。
「了解です。店長室へと案内お願い出来ますか?」
 汗をかく季節ではないものの、会場の熱気のせいかもしれない汗だくな感じの主任に――とネームプレートに書いてあった――頭を下げた祐樹が言った。
「本来ならば店長直々、いえ、こんなお客様の数ですと本社に居る社長が出迎えるのが筋のような気もしますが……。対応に追われておりまして失礼するとのことです。病院からのボランティアの方が着いたのでとても助かっています。重ね重ね申し訳ありません」
 非常時に力を発揮するタイプ――祐樹などがまさにそうだ――ではないのだろう、この主任は。
「こちらこそどうか宜しくお願い致します。木村主任」
 笑みを浮かべて挨拶しつつ、もはや勝手知ったる――どうやら書店の裏側は皆同じような造りらしい――裏口へと急いだ。
「どうして私などの名前を……ああ、名札ですか……」
 焦っている感じが――自分の医局には居ないが――どこか初めて手術室に入って何をすべきか分からなくてパニクっている研修医のようだった。やはり木村という人はのんびりと本を売っているのが性格的に合っているような人らしい。
「いやあ、香川教授、そして田中先生ここまでの盛況振りとは私も驚いたよ」
 店長室へ入ると上機嫌を絵に描いたような斉藤病院長に出迎えられた。
 ただ、その次の言葉には呆気に取られてしまったが。




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       こうやま みか拝