「裏技ですか?それはどのような」
祐樹の相槌に高木氏は何となく恥ずかしそうな笑みを浮かべていた。
「大したことでは全くなくて、店長の携帯電話の番号に掛けてみただけのことです。そういう私的な番号はどこにも当然載っていないので、簡単に繋がります」
確かにその通りなのだが、大型書店の店長さんの――高木氏の人脈を考えれば多分全国規模だろう――私的な携帯番号を全て知っているという点が単純に凄いと思ってしまう。
「ああ、なるほど、確かに携帯番号は、書店のホームページには載ってないですよね。コロンブスエッグというか逆転の発想ですね……」
祐樹も多分三店舗目が無事に終わって――しかも最後の「コアなファン(?)」向けの企画が大好評で終わったことも相俟っているのかもしれない――普段よりも大げさな言葉で褒めている。コロンブスの卵ほど難しい問題とは正直思えなかったので。ただ、それを指摘するほどの問題ではないので黙って笑みを浮かべているだけにした。
「……ありがとうございます。サイトに載せている電話番号には整理券の入手方法だとか、今からでもサイン会に行って大丈夫なのかなどの問い合わせがひっきりなしに掛かって来ている状態です。扱っている商品が商品だけに普段はそれほど電話もかからないのはこの書店でも同じなのですが、さらに輪をかけて電話がかかってきている状態で、電話対応専属になってしまった店員さんがなんだか待たせてしまってイライラしたお客さんに慣れないクレーム対応までさせてしまっているような感じですね。
あと、SNSでも拡散されていますので、それで興味を抱いたというお客様もいらっしゃるようですし……。
テレビ局の方は、明日がちょうど月曜日ということもあって、ワイドショーの枠で放映して貰えるようです。まあ、お昼の時間のワイドショーは旬のネタを求めて流動的なので、確約は取れないのが現状ですが、今のところ大丈夫だそうです。
あと、斎藤病院長に大盛況の動画を送ったら『そんなことなら是非』と陣中見舞いに意欲的でしたよ」
祐樹が今日二回目の「マジか?」と呟いている。ただ高木氏の耳に入るほどの大きさではなかったようだが。
「斎藤病院長が何時ごろいらっしゃるか分かりますか?――やはり、病院のトップとして相応しいのはサイン会の冒頭でしょうが……」
年末年始は例年祐樹と過ごしているので――どうせ手術室はお休みになる上に救急救命室勤務も細やかな特権で免除して貰っていた――旅行に行かない限り大晦日はゆっくりと寛いで過ごしていて、当然紅白歌合戦もチラ見程度だが観ている。確かに最初の歌手も大御所とも呼ばれるような超有名な歌い手さんであることも多いが、それよりも最後の人の方がさらに知名度が高いような気がする。ただ、祐樹が病院長を、いわゆる「大トリ」の時間帯に誘導しないように頑張っているのは「ごく一部の熱狂的なファンサービス」を病院長に見せたくないからだろう。
その気持ちは痛いほど分かるが。
そして、祐樹がお母様の目の前で――まさか来てくださるとは思ってもいなかったので嬉しい誤算だったが――ハグや肩を抱くといったことを自粛した気持ちも分かってしまった、今更になって。
「最も時間が読みやすい、そしてVIPに相応しい大人数の前で……ということを勘案した結果、次の書店で店長が開催を告げる時に病院長も激励の花束を渡すというのが最良かと判断しました。ほら、最後の方では確かに熱狂的な女性達は残っていますが、大人数という点では最初の方が見栄えがします。
本日最後のサイン会なので、お開きの時間は多少とも融通が利きますが、開始時間はほぼ定刻通りに始めます。病院長のように多忙な方には最初の時間を指定した方が良いかと思いまして」
高木氏のソツのない対応は相変わらずだった。
「それで大丈夫ですが……、ただ病院長の公用車が京都名物の渋滞にハマってしまっても、開始時間は延ばせませんよね?」
地震の時のことを思い出したのか、祐樹の口角が皮肉そうに上がっている。あの日も仕方のないことではあるものの、病院長は公用車の中から「全権委任」の院長命令しか出せなかったので。
高木氏はカーネルサンダース人形に良く似た感じの体型に相応しい笑みを浮かべていた。
「この書店でのサイン会が始まった直後に大盛況の画像をお送りしたら、直ぐに外出の用意をなさって駆けつける、自動車では時間が読めないので電車でとのことでした。
ですから間に合わないということはないかと思います」
斉藤病院長は病院の公用車でふんぞり返っている印象しか抱いていなかったので、電車などの公共交通機関を使う図というのは意外だったが、確かに日曜の夕方という点を考えると自動車よりも電車の方が時間も読み易い。
「ああ、失礼。知り合いの雑誌記者からの取材依頼だと思いますので席を外させて頂きます。店長室で休憩しつつお待ち下されば」
スマホの画面を見ながら高木氏が迷路のように入り組んだ書店の従業員用というかバックヤードの廊下を曲がって見えなくなった。
「病院長にあれだけの大盛況振りを実際に見せると、パーティで金の粉を撒くという私達の計画がより具体化しそうですね……。それに実際に読んだ人が多数カメラマンの前でインタビューに答えて下さっていたので、明日のワイドショーを観た方が突如として購買意欲に駆られるというのも充分見込めますし。
サイン会も上手く回って本当に良かったです」
祐樹が極上の笑みを浮かべて自分を見ている。
「そうだな……。祐樹のお母様も来て下さって本当に良かった。それに他にも懐かしい人がたくさん詰めかけてくれて、サイン会をして良かったと心の底から思った。
祐樹のお母様と言えば……ほら最後のナース達へのサービスにハグとかそういうのではなくて手の甲にキスをしてくれたのはどんな意味が有るのだ?」
従業員用の――多分本も台車などで運ぶのだろう――大きなエレベーターに乗り込んで店長室の階のボタンを押した。
「それを説明する前に、キスしても構いませんか?」
当然ながら二人きりの密閉された空間だ。そうでないと祐樹がそんなことを言うハズもないが。
「タバコを吸いに行かなくても良いのか?」
多分今の自分の笑みは会場に有った胡蝶蘭よりも活き活きとした笑みを浮かべているだろう。
「ニコチンよりも貴方の花のような唇の方が依存性も高いので……。貴方の唇の感触を先に補充したいのです」
祐樹の首筋に手を回して顔を上に上げると、祐樹の唇がしっかりと重ねあわされた。
確かに、祐樹の唇には自分も依存していると実感しながら、唇だけでなくて舌も絡める本格的な、そして刹那のキスに溺れてしまっていた。
祐樹の相槌に高木氏は何となく恥ずかしそうな笑みを浮かべていた。
「大したことでは全くなくて、店長の携帯電話の番号に掛けてみただけのことです。そういう私的な番号はどこにも当然載っていないので、簡単に繋がります」
確かにその通りなのだが、大型書店の店長さんの――高木氏の人脈を考えれば多分全国規模だろう――私的な携帯番号を全て知っているという点が単純に凄いと思ってしまう。
「ああ、なるほど、確かに携帯番号は、書店のホームページには載ってないですよね。コロンブスエッグというか逆転の発想ですね……」
祐樹も多分三店舗目が無事に終わって――しかも最後の「コアなファン(?)」向けの企画が大好評で終わったことも相俟っているのかもしれない――普段よりも大げさな言葉で褒めている。コロンブスの卵ほど難しい問題とは正直思えなかったので。ただ、それを指摘するほどの問題ではないので黙って笑みを浮かべているだけにした。
「……ありがとうございます。サイトに載せている電話番号には整理券の入手方法だとか、今からでもサイン会に行って大丈夫なのかなどの問い合わせがひっきりなしに掛かって来ている状態です。扱っている商品が商品だけに普段はそれほど電話もかからないのはこの書店でも同じなのですが、さらに輪をかけて電話がかかってきている状態で、電話対応専属になってしまった店員さんがなんだか待たせてしまってイライラしたお客さんに慣れないクレーム対応までさせてしまっているような感じですね。
あと、SNSでも拡散されていますので、それで興味を抱いたというお客様もいらっしゃるようですし……。
テレビ局の方は、明日がちょうど月曜日ということもあって、ワイドショーの枠で放映して貰えるようです。まあ、お昼の時間のワイドショーは旬のネタを求めて流動的なので、確約は取れないのが現状ですが、今のところ大丈夫だそうです。
あと、斎藤病院長に大盛況の動画を送ったら『そんなことなら是非』と陣中見舞いに意欲的でしたよ」
祐樹が今日二回目の「マジか?」と呟いている。ただ高木氏の耳に入るほどの大きさではなかったようだが。
「斎藤病院長が何時ごろいらっしゃるか分かりますか?――やはり、病院のトップとして相応しいのはサイン会の冒頭でしょうが……」
年末年始は例年祐樹と過ごしているので――どうせ手術室はお休みになる上に救急救命室勤務も細やかな特権で免除して貰っていた――旅行に行かない限り大晦日はゆっくりと寛いで過ごしていて、当然紅白歌合戦もチラ見程度だが観ている。確かに最初の歌手も大御所とも呼ばれるような超有名な歌い手さんであることも多いが、それよりも最後の人の方がさらに知名度が高いような気がする。ただ、祐樹が病院長を、いわゆる「大トリ」の時間帯に誘導しないように頑張っているのは「ごく一部の熱狂的なファンサービス」を病院長に見せたくないからだろう。
その気持ちは痛いほど分かるが。
そして、祐樹がお母様の目の前で――まさか来てくださるとは思ってもいなかったので嬉しい誤算だったが――ハグや肩を抱くといったことを自粛した気持ちも分かってしまった、今更になって。
「最も時間が読みやすい、そしてVIPに相応しい大人数の前で……ということを勘案した結果、次の書店で店長が開催を告げる時に病院長も激励の花束を渡すというのが最良かと判断しました。ほら、最後の方では確かに熱狂的な女性達は残っていますが、大人数という点では最初の方が見栄えがします。
本日最後のサイン会なので、お開きの時間は多少とも融通が利きますが、開始時間はほぼ定刻通りに始めます。病院長のように多忙な方には最初の時間を指定した方が良いかと思いまして」
高木氏のソツのない対応は相変わらずだった。
「それで大丈夫ですが……、ただ病院長の公用車が京都名物の渋滞にハマってしまっても、開始時間は延ばせませんよね?」
地震の時のことを思い出したのか、祐樹の口角が皮肉そうに上がっている。あの日も仕方のないことではあるものの、病院長は公用車の中から「全権委任」の院長命令しか出せなかったので。
高木氏はカーネルサンダース人形に良く似た感じの体型に相応しい笑みを浮かべていた。
「この書店でのサイン会が始まった直後に大盛況の画像をお送りしたら、直ぐに外出の用意をなさって駆けつける、自動車では時間が読めないので電車でとのことでした。
ですから間に合わないということはないかと思います」
斉藤病院長は病院の公用車でふんぞり返っている印象しか抱いていなかったので、電車などの公共交通機関を使う図というのは意外だったが、確かに日曜の夕方という点を考えると自動車よりも電車の方が時間も読み易い。
「ああ、失礼。知り合いの雑誌記者からの取材依頼だと思いますので席を外させて頂きます。店長室で休憩しつつお待ち下されば」
スマホの画面を見ながら高木氏が迷路のように入り組んだ書店の従業員用というかバックヤードの廊下を曲がって見えなくなった。
「病院長にあれだけの大盛況振りを実際に見せると、パーティで金の粉を撒くという私達の計画がより具体化しそうですね……。それに実際に読んだ人が多数カメラマンの前でインタビューに答えて下さっていたので、明日のワイドショーを観た方が突如として購買意欲に駆られるというのも充分見込めますし。
サイン会も上手く回って本当に良かったです」
祐樹が極上の笑みを浮かべて自分を見ている。
「そうだな……。祐樹のお母様も来て下さって本当に良かった。それに他にも懐かしい人がたくさん詰めかけてくれて、サイン会をして良かったと心の底から思った。
祐樹のお母様と言えば……ほら最後のナース達へのサービスにハグとかそういうのではなくて手の甲にキスをしてくれたのはどんな意味が有るのだ?」
従業員用の――多分本も台車などで運ぶのだろう――大きなエレベーターに乗り込んで店長室の階のボタンを押した。
「それを説明する前に、キスしても構いませんか?」
当然ながら二人きりの密閉された空間だ。そうでないと祐樹がそんなことを言うハズもないが。
「タバコを吸いに行かなくても良いのか?」
多分今の自分の笑みは会場に有った胡蝶蘭よりも活き活きとした笑みを浮かべているだろう。
「ニコチンよりも貴方の花のような唇の方が依存性も高いので……。貴方の唇の感触を先に補充したいのです」
祐樹の首筋に手を回して顔を上に上げると、祐樹の唇がしっかりと重ねあわされた。
確かに、祐樹の唇には自分も依存していると実感しながら、唇だけでなくて舌も絡める本格的な、そして刹那のキスに溺れてしまっていた。
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時間がない!とか言っていますが、ふとした気紛れにこのサイトさんに投稿しました!
いや、千字だったら楽かなぁ!!とか、ルビがふれる!!とかで……。
こちらのブログの方が優先なのですが、私の小説の書き方が「主人公視点」で固定されてしまっているのをどうにかしたくて……。
三人称視点に挑戦してみました!
宜しければ、そしてお暇があれば是非読んで下されば嬉しいです。
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更新時間が本当にバラバラになってしまうので、ヤフーブログの更新を呟いているだけのアカですが、ぶろぐ村や人気ブログランキングよりも先に反映しますので「いち早く知りたい」という方(いらっしゃるのか……)はフォローお願い致します。
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@mika_kouyama02
◇◇◇お詫び◇◇◇
実は家族が余命宣告を受けてしまいまして。それに伴い更新の目途も自分自身すら分からない状況です。
だいたい、朝の六時頃に更新がなければ「ああ、またリアルが忙しいんだな」と思って頂ければ幸いです。
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読者様も良いクリスマスをお過ごしくださいませ。
こうやま みか拝
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