「問題はコロッケですよね。キャベツの千切りなどは二日や三日水を張ったボウルなどの容器に入れて冷蔵庫で寝かしていても大丈夫でしょう。
 それに、タコの形をしたウインナーや、菊の花みたいな卵焼きも鮮度などは気にならない類いの料理ですよね」
 カニクリームコロッケが予想はしていたものの大絶賛だったので二人で考えていた、そしてこの二人もきっと無邪気な小学校の頃に――森技官にもそんな時期が生物学的には有ったに違いないが想像も出来ない――遠足で食べた懐かしさも思い出して貰えるようなお弁当の献立も捨て難い。
「え?菊型の卵焼きにタコさんのウインナーですか……。懐かしいですし、それに教授が作られるのでしたら是非そちらも食べてみたいです」
 呉先生のスミレを彷彿とさせる顔に春の日光が当たったかのように輝いていた。
「ウサギさんのリンゴは付きませんかね?」
 森技官らしくない「可愛い」反応に三人の笑い声がリビングに響き渡った。
 森技官が素でそう言っているのか、それとも場を盛り上げようとの意図からなのかイマイチ良く分からない。以前ならば、人格というか思考回路の複雑さから後者だろうなと容易に察しはついたが、この事件を通して海千山千の腹黒タヌキこと斉藤病院長の感想でもある「良い人」というのが意外にも的を射ているのではないかとも思い始めてきたので正確には不明だった。確かめる気持ちにはなれなかったが。
「リンゴが茶色くなる酸化作用は塩水に漬けておけば防げるので、お二人が作り置きに抵抗がなければ、お結びを含め前日に作っておきますけれど……」
 最愛の人の言葉がリビングの和気藹藹とした空気に彩りを添えた。
「リンゴのウサギさんに塩味がついていたのはそういう理由でしたか……。何故このリンゴだけそういう味がするのかと子供心に不思議だったのです。ただ、ウチの場合キッチンの仕事は母の役目と決まっていたので、ええ『男子厨房に入るべからず』という家風で、そういうことも聞けなかったので。
 私達は賞味期限切れの食材やお弁当などでも、匂いとか感触が変でなければ平気で食べますのでその辺は大丈夫です」
 アルマーニのスーツがこんなにも似合う森技官の口から――恐らくはコンビニで買うと思しき――お弁当、しかも賞味期限切れなどの庶民的な単語が出てくるのも普通に可笑しい。
「『男子厨房に』って、じゃあ、お姉さんは料理も仕込まれていたのか?」
 呉先生がスミレ色の笑みを浮かべて無邪気に聞いている。
「姉ですか?ええ、もちろん料理もキチンと仕込まれていましたよ。そのくせ勉強もしないとならなかったので、私だけ特別扱いの依怙贔屓だとか色々言って来ましたね。幼い頃は。その姉の脅威を論破しようと試みたのが思いのほかに上手く行ったので、それからですかね……武道は最終手段で、それ以前に口で勝てるならばその方が楽だと気付きました。
 口と頭を動かして、それでもダメな時には柔道や剣道で学んだ技で勝負しようと考え始めたのは」
 ――何だか森技官の生育歴を聞いてあれだけの口が回る原点がお姉さんの存在だというのが意外過ぎた。一人っ子の祐樹にはピンと来ないが幼い頃の兄や姉の存在というのはそういうものなのだろう、多分。
「お弁当の件はもう大船に乗った気分で教授にお任せしますので、その前の夜には大阪の港でも関西空港でもどこでも良いですから広大な空間と海の空気を満喫して来て下さい。
 良い気分転換になりますよ。出来れば、ベンツから下りて二人でそぞろ歩きをすることをお勧めします。
 海の風に当たって、月明かりとか夜景を眺めながら背伸びをしたり、こう胸を反らして大きく息を吸っては吐くという動作をしたりと……田中先生と5分だけでも行ったら良いかと思います。
 その後は思う存分、夜の海とか港だか空港だかを二人して楽しんで見て下されば」
 呉先生のアドバイスはきっと意味が有るのだろう。試しに呉先生が実践してくれた呼吸法を行ってみると、何だか気持ちがすっきりとしたような気がした。
「あ、本当ですね。背筋を伸ばして――というよりも背伸びの動作でしょうか――とにかくこうすると何だか新鮮な気持ちになるというか」
 ヨガのポーズ――といっても習ったこともなければ深い知識が有るわけでもない――が西洋医学の研究者によって見直されているという現状も考え合わせれば多分、そういったリラックス法が精神科では伝授されているのだろう。
「あ、痛っ……今肩と背中がボキッと音を立てて」
 自然な流れで呉先生の指導の下に三人が同じポーズを取っていたら、森技官の男らしい眉が大袈裟に顰められていた。
「それは、肩コリだろう。ずっと机に座ってPC作業をしたり電話したりで肩と腰に負担が掛かり過ぎているだけだろうな……。
 マッサージ屋さんとか鍼灸院に行った方が良い」
 呉先生が割と真剣な感じでアドバイスをしていた。
「マッサージなら、ゆ……田中先生が上手い……」
 最愛の人の花のような唇を慌てて手で塞いだ。
「それは内緒にしていて下さい。他の人にする積もりは毛頭ないので……」
 耳元に囁き声を落とすことにする。紅く染まった耳朶がとても綺麗だったが。
「では、来週の土曜日楽しみにしています。詳しい行先などが決まったら直ぐに連絡しますね。
 そして、予想を遥かに凌駕した美味しい食事を振る舞って頂いて有難う御座いました。
 本当に片づけを手伝わなくても……了解です。
 あ、田中先生、例の件も併せて宜しくお願い致します」
 帰り際にふと思いついたように言った森技官だったが、多分最も言いたかった言葉だろう。
「了解です。では夜の道には気を付けて。ああ、森技官の武道の冴えを以ってすればそんなに怖くはないのですよね。
 では、おやすみなさい」
 玄関で二人の来客を送った後に、キッチンに戻る途中に自然な感じで指を絡ませた。
「あの二人が満足してくれて良かったな」
 最愛の人の笑みが先日よりも生気に満ちているような気がしてとても嬉しかった。
 その笑いの形を覚えていて欲しくて、口づけを落とした。




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