「――ここだけの話、病院長が絶対に隠し通さなければならない、いわゆる墓場まで持って行く類いの話を父は知っています。具体的なことは私にも話しては貰えませんでしたが、私が中学生の頃だと思うのですが、週に一度の我が家の一家団欒の――つまり」
 清水研修医が何を説明するのかは分かっている。
「清水家では一家全員が揃うというのはなかなかないのですよね。ご家族で、しかもあんなに大きな病院を経営なさっているのですからある意味当然かとも思います。良いか悪いかという論評はさて置いて。
 それで週に一回全員が集まる日を予め決めておいて、その日には何が何でも集まる日というご家庭内の習慣が有るのでしたよね」
 清水研修医は実年齢に近い明るい笑顔を初めて浮かべている。今までは挨拶から岡山に居るという友人の話と病院内の件を畏まった、そして冷静な感じで話していた。
 どちらかというと――顔の造作などは全く異なってはいるものの――医局で元気一杯といった振る舞いをしている久米先生と同じような表情だった。
 ただ、久米先生と清水研修医の実家は開業医という点では同じだが、病院の規模が天と地ほどの差があるので久米先生の方が屈託なく育った感じだ。
「教授がそんな些細なことまで覚えていて下さっていたのはとても嬉しいです」
 本当は何曜日かまで悉く暗記していたが、それを言ってしまうと何だか清水研修医に特別な気持ちを抱いているように誤解されるような気がしたのでそれは伏せていた方が良いだろう。自分の記憶力は祐樹に褒めて貰うだけで充分だった。ただ、その断片的な情報を活用する能力はあいにく持ち合わせていないが、祐樹がその点をカバーしてくれるので問題はなかったし。
「――ウチに相談なのでしょう、今思えば。第一応接室は家族や使用人も許可なく入ってはならないという決まりが有って、そこに割とちょくちょくいらっしゃるお客様でして、その後は勉強を見て下さったり、もう少し幼い頃には遊んで貰ったりしていました――『今日の用件は生きるか死ぬか、腹を括った感じだった。沈むかも知れないが……身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれといった感じだな……。こちらに累は及ばないように配慮はしてくれると約束したが、最悪の場合一蓮托生だ』と父にしては珍しく母に真剣な顔で言っていたことが有ります。その次の週には父も晴れやかな表情だったのでうっかり忘れていましたが、今思えばかなり危ない橋――法律とかそういう問題ではなくこの病院のことだったかと。法律問題ならウチの父を巻き込むことはないでしょうから」
 そういう話を多分幼年期から聞かされて育ったのが清水研修医の「帝王学」なのかも知れない。その頃には全く分からない話でも後に思い返してみれば腑に落ちることもたくさんあると祐樹が言っていた。自分は母が病弱だったし無口な人なのでそういう経験はなかったが。
「ああ、なるほど……。口の固さは信頼していても、頭が上がらないような秘密の共有をしているわけですか。
 ウチの病院への寄付などの貢献度の他にそういう武器をお持ちでしたならすんなり通るような気もします。
 それに、外科の催し物の――その節は本当にご協力とそしてたゆまぬ努力を有難う御座いました――時に何となく感じたのですが、病院長は各科の縦割りをなくそうという意向をお持ちのようなので……乗って来て下さいそうですね」
 専門分野に特化した大学病院なだけに――その分高度な医療を提供出来るが――科ごとの連携が殆んどないのも実情だった。ただ、人体の全てが解明されているわけでもないので、他科との情報共有が活発に出来るようになって欲しいというのも本音だった。
 祐樹が激務に激務を重ねてまでバイパス手術に使える未知の大動脈を探してくれているのは大変嬉しいが、それで身体を壊しても何にもならないので是非他科の情報も欲しいという側面もある。
 それに自分にとって医師としての祐樹も物凄く重要だったが、それよりも優先順位が高いのはやはり「生涯に亘るパートナー」なので健康で居て欲しいと切実に願ってしまう。
「しかし、斉藤病院長に提出するのが前提なら……この旧態依然とした病院のことなのでタテマエとホンネが異なるかも知れませんよね……」
 清水研修医が呟くように言った。
「確かにそれは有るかと思います。好きな人間はともかく好感度が低い人間――例えばですけれど本当はゼロの箇所にマークなりチェックなりを入れたいとしても、おまけというか……心理的ストッパーが働きますよね。特に病院長がチェックするとなると……」
 自分にはゼロを付けたくなるような教授は居ないし、そして祐樹からは愛おしそうな笑顔で「鈍い」と散々指摘されていたがその程度のことは分かる。そんなある意味手加減というか本音を隠したままのアンケート用紙が果たして役に立つのだろうかと思ってしまう。発想は素晴らしいし、是非とも実施したいのはやまやまだったが。




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