数秒で決めろという方が無理な問題なことは祐樹も分かっているのだろう。そして本当にインタビューを頼めるかどうかはテレビ局の人の判断だ。たた、記者らしい人もカメラマンの横に居たので大丈夫のような気がしたが。多分、高木氏が根回しをしてくれたのだろうが。
「藤宮さんはいかがですか?彼女なら、私よりももっと話せると思います。それに上司の言葉には絶対だとの固い信念を持っていらっしゃいますので、たとえ厚生労働大臣直々の命令が有ったとしても却下しそうです」
 組織人としてはどうかと思う勤務態度だが、確かに彼女は厚労省そのものよりも森技官に――仕事の面に限定して――心酔しているのも事実だった。
「え?彼女も来てくださるのですか?そしていつ知り合いになられたのですか?」
 地震の時にトリアージ要員として大活躍してくれた彼女だったが、それはたまたま神戸に任務で来ていただけだったと記憶している。そして長岡先生も病院に駆けつけてくれたが、メインロビーではなくて黒木准教授の指揮下に入って入院患者さんを診ていたハズなので。
「申していませんでしたか?東京に行った時に、岩松に付いて霞が関に参った時に知り合いになりました。先方の方から『柏木先生の結婚式に来て頂いて』などと挨拶を交わしまして、厚労省でもこのサイン会には動員命令が密かに下っているようでこの書店に来るとの連絡がありました」
 藤宮さんは柏木先生の奥さんの従姉妹なので結婚式でも顔を合わせていたハズで、そのことをうっかり忘れていた。
 彼女なら確かにそういうインタビューでも臆せずに答えてくれそうな気がする。
「それをお願いして良いですか?後でキチンと上司に報告してマズいようであれば放映させませんので」
 何だか幸せのドミノ倒し現象が自分の身の回りに咲き誇っているような気がした。背景の胡蝶蘭の花よりも綺麗に、そして瑞々しく。
「では。その件――あ、他にも本を読んだ上で購買意欲が出そうな感想が言える人が居ればどんな人でも構いませんので、そういう人が会場にもし居れば、長岡先生の判断で指示をお願いしますね、頼みましたよ――平井さんから高木氏に連絡出来るように何とかしてみます」
 高木氏がサイン会のアシスタントとして連れて来てくれた女性は既に檀の上に立って祐樹と自分のテーブルと少しだけ離れた小さなテーブルの前に黒子のような感じで佇んでいる。
 ただ、祐樹や自分は壇の上で平井さんと話したことはないのに――というか話せる状況にない――祐樹はどうやってインタビューの件を伝えるのだろうかと思いながら壇上へと向かった。
「これより香川教授・田中先生のサイン会を始めさせて頂きます」
 高木氏の指示で――ということになっている――ボランティア有志が会場内の整理に入っていたので目立った混乱がないからかもしれないが、先程の店の店長よりは余裕の有る感じの挨拶だった。
「あの、少し良いですか?サイン会の前に香川教授が皆様に挨拶をしたいと申されていますので、マイクを少し貸して頂けませんか?」
 ――そんな話は聞いていない、聞いていないが多分、サインを求めるお客さん達が壇上に来る前に祐樹が平井さんへ高木氏への伝言をお願いするための時間稼ぎだろうことは容易に想像出来た。
「もちろんです。では香川教授、ご挨拶をお願いします」
 新井店長はにこやかにそう言ってハンドマイクを手渡してくれた。
「京大附属病院の香川と申します。本日はお忙しい中お集まりいただいて誠に有難う御座います。国民の皆様にも防災意識が高まる中で、このような本が少しでも助けになればと思いまして――」
 横目で窺うと案の定祐樹は平井さんの方へと自然な感じで歩み寄って潜めた声――といってもマイクを使った自分の声に皆の耳だけでなく視線も集中している感じだったので誰も不審に思っている感じではない――囁いている。平井さん自身もこの壇の上から離れることは出来ないが、会場内の殆んどの人が持参してくれた花束やお菓子の差し入れを店員さんに運ばせるという役目が有るので、その人に伝言させる積もりだろう。
「ですので、この本をお読みになって良かったとか、ためになったとのご感想をお持ち頂けたら、友人・知人にも是非買って読んで頂けるようにとお勧め頂ければ幸いです」
 祐樹の言葉に平井さんが頷いたのを見て、締めの言葉に入った。
 お辞儀をすると、拍手や声援の声が熱狂的に響いて、書店の中ではなくて何だかライブ会場――自分は行ったことはないが、ユ○チューブなどで見た記憶はある――のような雰囲気になった。
「香川教授からご挨拶を賜りました。では、これからサイン会を始めさせて頂きます」
 祐樹もごくごく平静な表情で隣に立って、眼差しで「伝えました」という意味のことを伝達してくれる。
 壇上に来た大学生と思しき一団の先頭の人にサインをして握手する。この流れはもう慣れきった動作になってしまっているので自然に笑みを浮かべることも出来た。
 直ぐ隣に座っている祐樹の方へとその男性が足取りも軽やかに歩み去ると祐樹は思いがけない行動に出たので内心驚きつつ次の人に笑みを浮かべてサインを続けた。
 祐樹の一言一句、そしてその意図するところを察しようと全身で息を殺しながら。




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