「このまま、ここで、最後まで……」
言葉の区切りごとに、祐樹の指が布地を完璧に押し上げている尖りの側面部を左右に強く摘まんだ。
同時にコートの後ろに回した大きな手が情熱的に臀部全体を撫でる。
「ゆ……祐樹……して欲しい……けれども……ここでは……駄目だ」
いくら人の気配がないとはいえ、気まぐれな観光客とか自分達と同じような目的の恋人同士――もちろん異性の、だ――が来ないとも限らない。
その高いリスクを考えると、理性は止めようとする代わりに本能は逆の司令を出してくるのが人間の脳の不思議さだろうが。
「ここでは駄目ですか……。では、絶対に人が来ない密室ならば許して下さるということです、ね?それとも、絶対に人が来ないという条件でも大丈夫ですか……」
祐樹の低くて甘い声が夜のしじまに響いて、耳朶だけでなく鼓膜まで祐樹の舌で丁寧に愛されているような気がした。
「後者だ……な」
ここでなければどこでも良いような気がした。それに祐樹の普段の言動からして本当は自分の嫌がることは絶対にしないのも――思い込ませて後で種明かしをされることは多々あったが――文字通り身を以て知っていた。そういう意味でも頼り甲斐のある最高の恋人だったが。
「酔ったフリをしていて下さいね。この時期ならば、そういう人が他の季節とは段違いに多数居ますから」
いやに説得力のある強い声に、今朝未明までの祐樹の激務振りが偲ばれる。決して弱音を漏らさない人ではあったものの、その点をもっと汲むべきだったと紅色に蕩けた頭の隅で考えてしまった。
ただ、祐樹の場合は――特に自分の拙さをいやになるほど自覚している言葉よりも――愛の行為で告げるほうが説得力も満足度も高いのも。
「こちらに来て下さい」
祐樹の指がコートの腕をエスコートするかのように優しく促してくれた。
会場とは逆方向に歩き出したので、熱く甘く上気した顔を多数の人に見られないで済むという安心感と、布地を押し上げて切なく疼くあちこちの場所の火照りを鎮めようとする切迫感に祐樹を求める薔薇色の心がシーソーのように揺れた。
「メリケンパークのオ○エンタルホテルまでお願いします」
通りかかったタクシーに乗り込んだ祐樹は事もなげに運転手さんへと告げている。
オリエンタルホテルは海に突き出た感じで目立つ老舗ホテルだし、こんな催し物が有る時に予約なしで泊まれるとも思えない。
ただ、いつものデートの時のように予め決めていたわけでもなくて今朝のニュースで観て行ってみたいと言い出しただけだったので何故こんなに早く手配が出来たのか不思議だった。
二人の第二の愛の巣とも言うべき大阪のホテルは常連客扱いをしてくれるので多少の融通は聞いてくれるが、祐樹が運転手さんに告げたホテルにとっては初めての宿泊客のハズだった。
ルミナリエの会場以外でもイルミネーションがあちこちに際立っているのはクリスマスシーズン間近だからか、それとも神戸の街全体でルミナリエを応援しているかは分からないものの、タクシーの窓の冷たさが上気した頬に心地よくてついそちらに視線を遣ってしまう。
「予約をした田中です。あ、田中祐樹と申します」
フロントの前から少し離れた所で待っているようにと言われたので、柱の陰に佇んでいると、祐樹の滑舌の良い声が聞こえてきた。
フロントマンに「案内は大丈夫です。鍵だけ頂けますか」と言っていたのも訝しさが募るが、祐樹に任せれば大丈夫なことも経験上良く知っていた。
割と賑わっている――時期的にもそうだろうが――フロント周辺から頭一つ出ている祐樹の長身がこちらに足早に近付いて来るのを息を殺して待っていた。身じろぎしようものなら甘い声が出てしまいそうな気がして。
祐樹はスマホを見ながらも器用に人を避けながら歩み寄ってくるという、普段と同じような特技を見せながらだったが。
「お待たせしました。食事は未だ大丈夫ですか?」
ちょうど団体客が――言語からして中国の人達だろう――独特の喧噪さを醸し出してゆっくりと通り過ぎていくところだった。
「食事よりも……祐樹を……心と……身体、全てで……味わいたい……」
多分、北京語でかき消されて今の言葉は祐樹にしか聞き取れていないと信じたい。
「了解です。私も、聡の肢体全てを、食べてしまいたいくらいに愛していますので」
ごく低く告げられる求愛の言葉に背筋が震えて身体のあちこちの熱がより一層の光りを放つかのようだった。
ただ、祐樹の大きな手にはスマホが相変わらず握られていて、視線がそちらにも注がれていたのが不満というレベルではなかったものの、気にはなっていた。
「ああ、ここですね。やっとこれを弄る必要が無くなりました。これで最後ですから、もう少し待っていて下さい」
長い指がスマホを器用に操った後にポケットに仕舞った、いかにも用済みといった感じで。
そして部屋の扉を開けてくれて、その優雅な仕草に一瞬見惚れた後に祐樹の肩越しの景色に目を見開いてしまった。
言葉の区切りごとに、祐樹の指が布地を完璧に押し上げている尖りの側面部を左右に強く摘まんだ。
同時にコートの後ろに回した大きな手が情熱的に臀部全体を撫でる。
「ゆ……祐樹……して欲しい……けれども……ここでは……駄目だ」
いくら人の気配がないとはいえ、気まぐれな観光客とか自分達と同じような目的の恋人同士――もちろん異性の、だ――が来ないとも限らない。
その高いリスクを考えると、理性は止めようとする代わりに本能は逆の司令を出してくるのが人間の脳の不思議さだろうが。
「ここでは駄目ですか……。では、絶対に人が来ない密室ならば許して下さるということです、ね?それとも、絶対に人が来ないという条件でも大丈夫ですか……」
祐樹の低くて甘い声が夜のしじまに響いて、耳朶だけでなく鼓膜まで祐樹の舌で丁寧に愛されているような気がした。
「後者だ……な」
ここでなければどこでも良いような気がした。それに祐樹の普段の言動からして本当は自分の嫌がることは絶対にしないのも――思い込ませて後で種明かしをされることは多々あったが――文字通り身を以て知っていた。そういう意味でも頼り甲斐のある最高の恋人だったが。
「酔ったフリをしていて下さいね。この時期ならば、そういう人が他の季節とは段違いに多数居ますから」
いやに説得力のある強い声に、今朝未明までの祐樹の激務振りが偲ばれる。決して弱音を漏らさない人ではあったものの、その点をもっと汲むべきだったと紅色に蕩けた頭の隅で考えてしまった。
ただ、祐樹の場合は――特に自分の拙さをいやになるほど自覚している言葉よりも――愛の行為で告げるほうが説得力も満足度も高いのも。
「こちらに来て下さい」
祐樹の指がコートの腕をエスコートするかのように優しく促してくれた。
会場とは逆方向に歩き出したので、熱く甘く上気した顔を多数の人に見られないで済むという安心感と、布地を押し上げて切なく疼くあちこちの場所の火照りを鎮めようとする切迫感に祐樹を求める薔薇色の心がシーソーのように揺れた。
「メリケンパークのオ○エンタルホテルまでお願いします」
通りかかったタクシーに乗り込んだ祐樹は事もなげに運転手さんへと告げている。
オリエンタルホテルは海に突き出た感じで目立つ老舗ホテルだし、こんな催し物が有る時に予約なしで泊まれるとも思えない。
ただ、いつものデートの時のように予め決めていたわけでもなくて今朝のニュースで観て行ってみたいと言い出しただけだったので何故こんなに早く手配が出来たのか不思議だった。
二人の第二の愛の巣とも言うべき大阪のホテルは常連客扱いをしてくれるので多少の融通は聞いてくれるが、祐樹が運転手さんに告げたホテルにとっては初めての宿泊客のハズだった。
ルミナリエの会場以外でもイルミネーションがあちこちに際立っているのはクリスマスシーズン間近だからか、それとも神戸の街全体でルミナリエを応援しているかは分からないものの、タクシーの窓の冷たさが上気した頬に心地よくてついそちらに視線を遣ってしまう。
「予約をした田中です。あ、田中祐樹と申します」
フロントの前から少し離れた所で待っているようにと言われたので、柱の陰に佇んでいると、祐樹の滑舌の良い声が聞こえてきた。
フロントマンに「案内は大丈夫です。鍵だけ頂けますか」と言っていたのも訝しさが募るが、祐樹に任せれば大丈夫なことも経験上良く知っていた。
割と賑わっている――時期的にもそうだろうが――フロント周辺から頭一つ出ている祐樹の長身がこちらに足早に近付いて来るのを息を殺して待っていた。身じろぎしようものなら甘い声が出てしまいそうな気がして。
祐樹はスマホを見ながらも器用に人を避けながら歩み寄ってくるという、普段と同じような特技を見せながらだったが。
「お待たせしました。食事は未だ大丈夫ですか?」
ちょうど団体客が――言語からして中国の人達だろう――独特の喧噪さを醸し出してゆっくりと通り過ぎていくところだった。
「食事よりも……祐樹を……心と……身体、全てで……味わいたい……」
多分、北京語でかき消されて今の言葉は祐樹にしか聞き取れていないと信じたい。
「了解です。私も、聡の肢体全てを、食べてしまいたいくらいに愛していますので」
ごく低く告げられる求愛の言葉に背筋が震えて身体のあちこちの熱がより一層の光りを放つかのようだった。
ただ、祐樹の大きな手にはスマホが相変わらず握られていて、視線がそちらにも注がれていたのが不満というレベルではなかったものの、気にはなっていた。
「ああ、ここですね。やっとこれを弄る必要が無くなりました。これで最後ですから、もう少し待っていて下さい」
長い指がスマホを器用に操った後にポケットに仕舞った、いかにも用済みといった感じで。
そして部屋の扉を開けてくれて、その優雅な仕草に一瞬見惚れた後に祐樹の肩越しの景色に目を見開いてしまった。
【お詫び】
リアル生活が多忙を極めておりまして、不定期更新になります。
更新を気長にお待ち下さると幸いです。
本当に申し訳ありません。
お休みしてしまって申し訳ありませんでした。なるべく毎日更新したいのですが、なかなか時間が取れずにいます……。
目指せ!二話更新なのですが、一話も更新出来ずに終わる可能性も……。
なるべく頑張りますので気長にお付き合い下されば嬉しいです。
こうやま みか拝