「有難う御座います。開けてみても構いませんか?」
 祐樹の瞳がサンタクロースの贈り物を貰った子供のような無邪気な感じで輝いている。
 普段――というか職場での――の割と鋭い感じのする光も惚れ惚れするが、今回浮かべてくれた輝きだけで若干の睡眠時間を削った甲斐が有ったと思う。
「もちろん。気に入ってくれればとても嬉しい」
 丁寧に青いリボンを解く祐樹の瞳がやや怪訝そうなのは吟味したとはいえ市販のラッピング素材――ブランドなどの「会社」が顧客のために大量に作ったものではない――ことが分かったからに違いない。
「へえ……。とても綺麗な色ですね。それにとても暖かそうです。底冷えすることで有名な街に住んでいますから救急救命からの帰路などには重宝しそうです」
 祐樹が手に取って肌触りを試している。恋人が最も気温の低い時間帯に帰宅することを慮って長めかつ幅広に編んでいたのだが、その隅々までじっくりと眺めている。唇には最高の笑みをそして瞳にはやや不審そうな輝きを宿しながら。
「これ……、タグというのですか?ブランド名とかが分かる小さな毛糸ではなく他の布地で出来ているものが有りません。
 もしかして……」
 祐樹の目が一際鮮やかな輝きを放った。
「そうだ。宿直室で休めば良いにも関わらず律義に帰宅してくれる感謝を込めてと、真冬でも風邪を引かないようにと祈りを込めて私が編んだ」
 祐樹の表情がフラッシュでも浴びたようにパッと明るく輝いた。
「手作りですか……。筆舌に尽くしがたいほど嬉しいです。本当に有難う御座います」
 マフラーを大切そうに持ったまま頭を深々と下げられてこちらの方が慌ててしまう。
「いや、そこまで喜んで貰えるとは思ってもいなかった。というか、むしろそういう系統のプレゼントは嫌いな人だと思っていたので」
 何だか身の置き場に困るようなあからさまな歓喜の表情を浮かべた祐樹の眩しすぎる笑顔で見詰められてしまって薄々予測はしていたもののこんなに喜んでくれるとは嬉しい想定外だった。ベートーベンの第九が祐樹の背後から流れて来るかのような錯覚すら覚えてどうして良いか分からず――そう言えば凱旋帰国直後から祐樹と晴れて恋人同士になるまではいつもこんな気分だったのを思い出してしまう――良い意味で途方に暮れるだけだったが。
「ああ、他ならぬ貴方から頂けるなら話は別ですけれども……基本的に手作りは苦手ですね。想いを込めて貰えたことが逆に重荷に感じてしまって。
 しかし、貴方からは全く別です。生涯に亘ってのパートナーになる最愛の恋人からこんなに精緻なマフラーを貰える私は幸せ者です。
 本当に有難う御座います。編み物の経験まで……まさか有るとは思っても居ませんでしたが……」
 愛おしげかつ嬉しそうな瞳でマフラーを見詰めている祐樹を見て本当に作って良かったと心の底から思った。それに人生のパートナーとかそういう類いの言葉が祐樹の確信に満ちた口調で言われる度に心が薔薇色に震える。
「いや、編み物はしたことがない。そもそも高校までの授業でしか家庭科関連のことはしていないので――それは祐樹も同じだと思うが――その中に編み物は含まれていなかったな……男女ともに」
 祐樹が納得と感嘆の入り混じったような光を湛えて見詰めてくる。
「では初めてでこれを?手先の器用さはよくよく存じ上げていましたが、まさかこれだけ完成度の高いものを作れるとは……。プロ並みでしょうね、きっと。
 しかし毛糸の売っているコーナーにいらして下さったのでしょう?まさか秘書やハウスキーパーの人には頼み辛いですからそれはないかと。足を踏み入れたことはもちろん有りませんが、女性ばかりのような気がします」
 輝くような笑みの中にもどこかこちらを慮っているかのような光が混じった。
「女性達から微笑ましそうな眼差しで見られたな……、普段街中などで見詰められるのとは明らかに異なっていて内心とても困惑したが、呉先生の説明を聞いて納得した」
 祐樹が興味深そうに相槌を打ってくれている。スヌーピーに出てくるライナスの毛布みたいにしっかりと、そして愛おしげにマフラーを手に取ったまま。
「ウチの病院では考えられないことだが……。ほらニュースなどでも取り上げられている、男性の育児休暇……あの流れで出来た育メンの一人に間違えられたらしくて」
 祐樹はテンションが上がっているのか堪えかねたように大きな笑い声を響かせた。
「年齢的には……確かに……。ただ、『世界の香川』とか……『病院の至宝』と呼ばれている……貴方が……ですか」
 ひとしきり陽気な笑い声と共に途切れ途切れに伝えられて。ただ自分の言動で祐樹をこんなに大笑いさせた経験がなかったのでそえはそれで嬉しかったが。
 祐樹が笑わせてくれることは多かったがその逆は悲しいほど少ないのを密かに気にしていたので。
「しかし、一点だけ困ることが……。貴方もご存知のように私の職階ではプライバシーという概念がないでしょう。事実久米先生のスマホのお気に入りのゲームに悪戯したのは他ならぬ私です。スマホという個人情報の宝庫ですらそんな扱いなのですから、後は推して知るべしなのです。タグがないことに気付かれたら絶対詮索されます。ま、彼女が編んだで良いといえばそうなのですが」
 そこまでは気が回らなかった自分の迂闊さを愛おしそうに指摘されてどうしようかと必死に頭を回転させた。











 リアバタに拍車がかかってしまいまして、出来る時にしか更新出来ませんが倒れない程度には頑張りたいと思いますので何卒ご理解頂けますようにお願い致します。
 
【お詫び】
 リアル生活が多忙を極めておりまして、不定期更新になります。
 更新を気長にお待ち下さると幸いです。
 本当に申し訳ありません。




        こうやま みか拝