「私にとってこの世界で唯一無二の貴方に私の名前が載っていることが、ご自分のことよりも嬉しいと伺って天にも昇る気持ちですよ。
 それだけ私のことを大切に思って下さっている証拠なのですから。
 コーヒーは何時でも飲めますし、そして百貨店では何を購入するのかは存じませんが、きっと私用の物を買って下さるのでしょう?そちらが楽しみですので今回はコーヒーはナシに致します。
 さ、参りましょうか?ああ、トレーを返却して参りますね」
 祐樹の長い腕が一人分のトレーを持って店内へと軽やかに歩みを進めている。広い背中とか長い脚を――他の客に不自然さを感じさせないように気を付けて――惚れ惚れと見送った。
 この日のために厳選に厳選を重ねた祐樹の学会デビューのための服装のことや、そして(似合うだろうな)と思った一式――を試着した祐樹の姿を見てみたいというワクワク感が、薔薇色の幸福感に鮮やかな色を加えて胸の中にシャンパンの黄金色の泡が心地よく胸の中を弾いていく。
「え、この店ですか?貴方御用達のお店ではなくて……」
 僅かに戸惑った感じの声が並んで歩く祐樹の自分よりも高い位置にある唇から洩れた。
「色々考えたのだが、祐樹にはこちらのブランドの方がより相応しいと思って……。
 思いついた当初は同じブランドで色違いにしようと漠然と考えていたのだが、祐樹の全体的な雰囲気にしっくり馴染むのはこちらではないかと思って……。
 それに、日本でもそのきらいはあるが、アメリカでは着ているモノで判断されるし、祐樹の若さ――あちらでは見た目が若過ぎると減点対象なので――祐樹の溌剌さとかバイタリティ溢れる魅力を最大限に引き出す方が良いと思って。
 それに、森技官御用達のブランドよりもこちらの方がより『アメリカ人の正式な格好』として認知されているので」
 百貨店の――いわゆる高級ブランドだけが集まっているフロアは当然ながらそんなに買い物客も居ない――人の耳を気にせず会話が出来る。
「ああ、何となく貴方の意図が分かってきたような気が致します。
 学会用の服を買って下さるのですよね?
 あの折鶴勝負では――私が引け目を感じないように――学会用の服装を一式購入して下さる目的だったのですね。
 私はてっきり……」
 この階では、一つ一つの高級ブランドの店舗が独立して店を構えているといった感じなので、通路に出ている店員さんはいないし、何しろ単価が高いこともあってフロアを歩むお客さんらしい人も見たところ7人しか居ない。
「てっきり、愛の行為で私が望むような身体の位置をリクエストすると思っていたのだろう。
 それはそれで魅力的だが、今は祐樹が最高に学会で――悪目立ちではなくて――最も聴衆に対してインパクトを与える服装とか全体の雰囲気などを考えていた。
 神様がご褒美にくれたような休暇の日にアメリカから内々の招待が来た後からずっとどんな格好をすればあちらの学会で好まれるかを……」
 祐樹の黒曜石よりも眩い瞳の輝きが自分の瞳を射抜いている。そして唇には極上の笑みを刻んでいて、それだけで薔薇色の眩暈がしそうなほどの多幸感に包まれる。
「有難う御座います。
 もしかしてあの時に伊達メガネを買って下さったのも、その一環ですか?あの時は、何故こんなモノを買って下さるのか全く分からなかったのですが……。メガネをかけると実年齢よりも高く見えるな……と漠然と思っていたのですが、それ以上のことは――色々有り過ぎて――考えて居ませんでした。『ローマの休日ごっこ』の方が楽しかったせいもあって……」
 大阪梅田の出来事の中で自転車にただ乗っているだけなのに、あんな痴態を晒してしまったことを思い出してしまって顔から火が出るほどの恥ずかしさと、祐樹のたゆみない愛の仕草のせいで身体が祐樹だけに反応してしまうようになった誇らしさと相俟って魂までも上気してしまっている。
「トイレに行って顔を洗ってきても良いか?」
 頬が紅に染まっている――祐樹一人に見られるのは全く構わない――のを冷水を浴びて少しでも緩和したくて。
「いいえ、大丈夫でしょう。あの店はアメリカのエクゼクティブというか職業的に恵まれたポジションに居る人御用達ですよね。
 森技官のお気に入りのお店はハリウッド俳優なども好んで着ると何かで読んだことがありますので、柔らかい職業――もちろんその道ではトップを張っている人達です――にも向いているとか。しかし貴方が向かっている店舗はビジネスマンに好まれているとか。
 そういう服を選んで下さったのでしょう?
 ただ、値段はこのフロアに店舗を構えるだけあって、貴方御用達のフランス老舗ブランドとそう変わらないと。
 貴方にはピンと来ないかもしれませんが……。このフロアで買い物をする時にはそこいらの吊るしのスーツを買うのとでは客の興奮度が異なりますので、そういう意味で『普段と異なる』客には慣れていると思いますよ。
 それに個人的に貴方のそういうお顔を見ていたいというのも偽らざる本心です。ですからそのままで店に入りましょう」
 祐樹の潜めた低い声が脊髄を薔薇色の電流を伴って身体を奔っていく。
 その幸せな震えを周囲に分からないように隠しながらも祐樹と並んで店内に入った。
 頬が上気しているのも「高価」な買い物に興奮している風を装って。
「予約しておいた香川です。電話でお願いしていたものを試着しに来ました」
 フレンドリーな笑みを浮かべながらも慇懃無礼な態度で店に迎え入れられて、一通りの挨拶を交わした後でそう告げた。
「このスーツ一式ですか……。何だかお葬式のようですね……」
 祐樹が瞳の輝きをより強めながら唇には可笑しそうな笑みを刻んでいる。
 確かに漆黒の夜に似たスーツはお葬式の時に着用しても全く違和感はない。
「ネクタイの色でお葬式ではないとアピールする積もりで……。
 ネクタイは……」
 落ち着いた感じの中年男性が予め頼んでいたネクタイを数本ベルベット張りの革のトレー(?)に恭しく並べて捧げ持ってきてくれた。
「ネクタイは後で試着することにして、スーツとワイシャツを着てみますね」
 試着室に別のスタッフが恭しく捧げ持った漆黒の闇の中にも月の仄かな光が宿ったようなスーツと純白のワイシャツを持っている。どんなことにも物怖じしない祐樹はスタッフを執事のように従えながら試着室の方へと消えていった。
「如何ですか?」
 試着室の重厚なカーテンが開き、自分がセレクトした服に身を包んだ祐樹が姿を現した。
 その姿を見て、思わず感嘆のため息を零してしまっていた。











どのバナーが効くかも分からないのですが(泣)貼っておきます。気が向いたらポチッとお願いします!!更新の励みになります!!


◇◇◇


暑いですね。
熱中症とか夏バテにはくれぐれもお気を付け下さい。

私は仕事の忙しさに拍車がかかってしまいまして(泣き)更新頻度も下がりますし、その上いつ更新出来るかも全く分かりません。
リアル生活有ってのブログなので、気長に待って下されば幸いです。



最後まで読んで下さいまして感謝です!!

        こうやま みか拝