「ウソをつき通すにはある程度のリアリティを混ぜる必要がありますので、私の頭の中に思い描いている『理想の恋人』――性別は当然異なりますが――は大輪の紅い薔薇を彷彿とさせる美人で、しかも控え目では有りますが理知的な人というイメージです。
 その上、仕事は大変出来るものの、それをひけらかさない謙虚でストイックな感じを見る者に与えるといった控え目さも持ち合わせた恋人像を聞かれる度に答えていますよ。
 もちろん、他ならぬ貴方のことですが。
 この女優さんよりももっと綺麗ですね……。何度も申し上げている通り私は面食いですから、その辺りももっと自信を持たれても良いかと思います。貴方は自己評価が低すぎるのです。しかしその逆よりも更に好ましいのは言うまでもないことですので……。
 明日の百貨店は仰せの通り何も言わずにお付き合いしますが……」
 祐樹の真剣かつ真摯な瞳の輝きに悪戯っぽい光が加わった。
 言葉に出して具体的に好きな点を挙げられると幸せ色の煌めきの泡が胸の中で大きく膨らんでは弾けていく。その気持ちをなるべく笑顔に乗せて伝えようとしたが、上手く伝わっているかは自分でも自信はなかった。
 ただ、何事にも目敏い上に世界で一番自分のことを分かってくれている祐樹なので、気持ちを読み取ってくれているという安心感めいたものも芽生えているのも事実だったが。
「そうして貰えると有り難いな。一切口出しはナシという方向で……」
 見た目よりも柔らかい祐樹の唇が笑いの形に口角を上げてくれているのをうっとりとしながら見上げていると、おもむろに顎を持ち上げられて触れるだけの口づけが降ってきた。
「承りました。待ち合わせはいつものカフェで良いですか?
 そして、百貨店での用事が済んだら少しの間だけ私の散歩に付き合って頂けたら嬉しいです」
 悪戯っぽく微笑む祐樹は職場で絶対に見せない類いの少年めいた感じが強くなる。
 頼りになる医師として患者に慕われている祐樹の凛とした姿も大好きだったが、プライベートで垣間見せるこういう表情は自分だけの特別なモノだと思うとよりいっそう薔薇色の幸せ色に包まれてしまって、何でも言うことを聞きたくなる。
 明日は二人だけのお祝い――祐樹に報告していない数々とか渡せていない手作りのマフラーも含めて――色々と準備はしていたものの、少しだけなら大丈夫だろう。
 夕食は自宅で摂るということも告げているので祐樹も遠出を考えてはいないだろうし。
「それは構わないが……。嵩張るに」
 「荷物を持っているが構わないのか」と言いかけた時に祐樹のポケットからダースベイダーの着信音が鳴り響いた。
「すみません。あちらに向かわなければ……。貴方は逃げませんし、逃がさない自信も有りますが……。私を待っている患者さんは命が危ない状況なので……。
 折り鶴有難う御座います。一生モノの宝物が増えてとても嬉しいです。
 では明日、例のカフェで」
 白衣の裾を鮮やかに翻して控室を出た祐樹の広い背中が視界から消えるまで見送って自分も祐樹が折ってくれた折鶴をこの上もない幸せな気持ちで眺めた後にポケットに丁寧に仕舞った。
 きっちりと定時で上がれる――黒木准教授では対応出来ないほどの容態急変などのごく一部の例外を除いて――自分とは異なって患者さんに捉まったり医局の影の束ね役の関係上相談事を受けたりする関係上遅れるのは仕方ない祐樹のために普段よりはゆっくりした足取り――ただし人目がなければスキップしたい気持ちを抑えながら――京都の中心街を歩んでいると大型書店がやけに目に入ってきた。
 京都の地図は当然暗記しているし、書店は好きな場所の一つなので普段でも自ずと目に入ってきてはいたが、今頃大学病院の出版科の人達が必死で製本作業に勤しんでいるに違いない本が本屋さんに並ぶどころか、これらの書店で祐樹と二人並んでのサイン会を催せるのかと思うと感慨もひとしおなので。
 あの書店は確か一階の広場、こちらの書店は二階のバルコニーと、以前は全く他人事のように眺めていた著名作家のサイン会の様子をまざまざと思い出して、あの場に座れる、しかも生涯でただ一人のパートナーと思い定めているかけがえのない祐樹と並んで……と考えると思わず唇に笑みを浮かべてしまう。不自然ではない程度ではあったものの。
 昨日手術控室で別れたきり、今日の予定は何一つ話す時間がなかったので祐樹の散歩がどのようなモノかは全く分かっていなかったが、祐樹だって百貨店に連れて行かれて何を買うのか知らせていないので条件は同じハズだし、そもそも祐樹は自分の嫌がることどころか気が進まないことも何一つ強いられたこともなかったのでその点も信頼している。
 どんなサプライズなのかは祐樹と合流してからのお楽しみとして取っておこうと思いながらいつも待ち合わせに使っているカフェに着いて無難にコーヒーを注文してから屋外の席へと座った。この辺りは待ち合わせ場所として二人の間では定着しているので、大体の位置は祐樹も分かるだろう。
 昼前に届いた国際外科学会の機関誌を機械的にめくりながら祐樹を待つことにする。
 祐樹が出席予定の学会も載っていて、講演者の名前に「Yuuki Tanaka」という文字と略歴に視線が釘付けになって、思わず笑みを浮かべてしまっていたら、肩を控え目に叩かれた。
「お待たせ致しました。ああ、もう告知されているのですね……」
 オーダーせずに直接テーブルに来たのだろう。祐樹の満面の笑みが真夏の太陽よりも眩い輝きを放って自分を包み込んでくれるようだった。
 視線は自分と本に交互に注がれていたが。
「いや、祐樹と一緒にどこかへ行くのが楽しみで待ったという自覚はないな……。
 それに祐樹の名前がこの機関誌に載っているのは初めてなので、自分のこと以上に嬉しかったし。
 飲み物はオーダーしなくても良いのか?」
 別に急ぐ理由はない――お祝いの食事は既に用意してあって温めるモノだけを大急ぎでオーブンやレンジで用意すれば事足りる。
 祐樹はチラリと腕時計に目を落とした後に自分だけを見詰めて唇を笑みの形のままで開いた。この店で何回も待ち合わせをしているというのに、会うたびに鼓動が高まるのはどうやら一生続きそうだったが。
 時間を気にするようなことでもあるのだろうかとやや怪訝に思いながら祐樹の返答を待った。










 リアバタに拍車がかかってしまいまして、出来る時にしか更新出来ませんが倒れない程度には頑張りたいと思いますので何卒ご理解頂けますようにお願い致します。
 
【お詫び】
 土曜日しか更新の時間が取れません……。それまでは原稿書く時間がホントにないもので……。しかもさらに激務の予定が……(泣)
 更新を気長にお待ち下さると幸いです。
 本当に申し訳ありません。