「ゆ……祐樹、祐樹が帰着点と考えていることは……単なる補助線かも知れない。
 全てが終わった後で、なるほどと思うようなことが多々あると思う。今言えるヒントはその程度だな……」
 夕方の夜の闇にも関わらず祐樹の力強く輝く瞳とか自分よりも僅かに高い体温を発する長身――もちろん自分を惹き付けて止まない太陽の光に似たオーラは一回り大きくなった感じで健在だった――にごく僅かな未練を感じて言葉を紡いでしまっていたが。
 補助線を一本引くだけで数学的には全く異なる数字が出る程度のことは――少なくとも理系の勉強をした人間であれば容易に理解出来るハズで――祐樹も経験則として知っているだろう。
「それは楽しみにしています。二人きりで纏まった話しが出来るのはまたしばらく来ないでしょうが……、貴方の気配とか貴方の存在は魂の一部のように確実に私の中に存在していますので、物理的に離れていても精神的にはより強固に繋がっているような気が致します。
 手術中も貴方の水の流れるような手技を頭の中で再現している私が居ます。
 頭では貴方の手技のタイプが私には御手本にならないことも分かっているのですが、ほぼ無意識に、です。それだけ影響を受けてしまっているのですね……。
 ただ私向きと思しき手技をなさる錚々たる外科医の指導も貴方のご厚意で学ばして貰っていますので、私なりにその美点だけチョイスして『私の最上の手技』を生み出そうと目論んでいます。
 いわばハイブリッドですが『私にしか出来ない術式を編み出すという目標も出来ました。
 それも貴方という偉大な先達がいらっしゃったからで……、プライベートでは熱烈な恋人、そして仕事面では良きライバルとして認めて貰うように日夜心掛けています。
 貴方の隣に堂々と立てるような外科医を可及的速やかに目指しますので、それまで待っていて下さいね」
 祐樹も同じようなことを考えてくれていることとか、たゆまぬ向上心がいささかも衰えていないことなどを言葉よりも雰囲気とか低くて力強い声の響きで感じることが出来て魂が震えるような、甘い気持ちで声が弾む。
「いずれ祐樹に抜かれる日が来るだろうが……、それまで私の良い所だけを真似するなり改善するなりして吸収して……不要だと祐樹が判断した部分は綺麗さっぱり消去して欲しい。
 今の望みはそれだけだな、あくまでも公的な立場で言うと……。個人的にはずっとこういうふうに一緒に居てくれるのだろうから。どんなに忙しくても、そして居る場所が離れていたとしても、祐樹の存在は私の魂の中にずっと輝き続けていることだけは忘れないで欲しい」
 自分が微塵も考えたことのなかった、これ以上の出世という選択肢の話しは今の時点で内緒にしておこう。病院一の激務――他の職種だったら労働基準監督署辺りに駆け込まれるような労働時間だが、医師は権利追及をしてはならないという不文律が世間にも存在するのも厳然たる事実だったし、そもそも関係省庁に駆け込むという発想自体が皆無な業界なので――これ以上仕事量を増やしてはならないことくらいは分かる。それでなくとも本を発行するという祐樹の発案で始まった業務のせいで時間が更に削られていたので。
 夜の闇の中でも燦然たる輝きを放つ祐樹の存在を確かに、そして身近に感じられるだけでこんなに幸せなのだから。夜空を焦がすような感じで輝きを放つ祐樹というかけがえのない存在と一緒にいられる歓びで魂までもが宙に浮いていくような気がした。
「生涯を共にしたいと思ったのは貴方が生まれて初めてですし、その気持ちは重くなることがあってもその逆は存在しません。
 それにウチの病院で執刀医を務める度ごとに貴方の偉大さが身に沁みて分かるようになりました。助手をしていた時とは異なった視点とか観点で拝見すると己の至らなさを恥じ入るばかりです。
 ですから『いずれは』という話でしょうね……仕事面では。
 プライベートな関係は――何よりミステリーツアーのような帰着点がどこにあるのか、補助線をあれこれと考えて楽しく過ごすという短期計画も加わりましたし――おとぎ話に出てくるような、そして全く信じていなかった『そして二人は永遠に幸せに暮らしました』というエンディング以外は考えていないので大丈夫です。貴方も私も心変わりをするとは到底思えないので。
 っと、そろそろ行かないと本当にマズいので、活力の源を下さいね」
 慌ただしい口づけを交わしている瞬間が永遠の時を刻むような錯覚を覚えた。唇から祐樹の確かな愛情が饒舌過ぎるほどに伝わってくるようで。
「では、貴方はゆっくり休んで下さいね。
 お互い身体が資本なのですから。では他にも私を必要としている患者さんの元に行って参ります」
 急かすような救急車のサイレンが木立の中を切り裂くような感じで鳴り響いている中で慌ただしく束の間の別れを告げる祐樹の声と陽光を彷彿とさせる生気に満ちたオーラに包まれて干天の慈雨のように潤っていく気持ちで満たされながら繋いでいた指を離した。夜の闇が濃くなった中で祐樹の白衣だけが夜目にも鮮やかに翻っているのを視界から消えるまで佇んで目で追ってしまうのは仕方のないことだろう。
 ずっと祐樹という唯一の太陽に魅了されてきた――そして有り難いことに祐樹からも存分に愛されているという一生分の僥倖をふんだんに浴びせかけられている――自分だったので。
 一応はポケットに入れている携帯電話が着信を告げた。タイミング的に祐樹からの電話でないのは明らかだったが、そう多くない自分に電話を掛けて来そうな人間の中で誰だろうと思いながら画面を見た。










 リアバタに拍車がかかってしまいまして、出来る時にしか更新出来ませんが倒れない程度には頑張りたいと思いますので何卒ご理解頂けますようにお願い致します。
 
【お詫び】
 多分ですが、次回更新は土曜日になります。それまでは原稿書く時間がホントにないもので……。
 更新を気長にお待ち下さると幸いです。
 本当に申し訳ありません。




        こうやま みか拝