午後の手術も充分満足出来るレベルで無事に終了させて――多分モニター室から祐樹が見てくれていることも相乗効果をもたらしたに違いないが――祐樹が持参してくれたUSBメモリをパソコンに差し込んだ。
 祐樹に書き足して欲しい部分――心情表現を「それらしく」でっち上げることは自分にとって難易度の高すぎるハードルだった。ありのままの気持ちを再現することは充分可能だったが、斉藤病院長や高木氏が望むような「医師としての使命感に熱く燃えた」人物ではなくなってしまうことくらいは自分でも分かっていたので。病院に駆け付けたのも「恋人の安否を一瞬でも早く確認したかったから」という理由しかなかった自分はある意味医師としては失格だろうが、人間としては正しいような気がした。ただ、それをそのまま世間様に知らせて良いモノではない――には☆印を付けていたので、まず検索窓で☆を探すとゼロ件だった。
 祐樹が言っていたように、原稿は出来上がっているようだし久米先生も動員してPC画面では校正まで済ませたと聞いていたのでプリントアウトして紙媒体で読むことにした。
 論文を書かずに教授職に就いたという点でも異色の経歴を持っている自分だったが――そして旧弊な大学病院の中にしがみついて生きて行こうとする教授の中には快く思わない人間が居ることも知っていた、全く気にしていなかったけれども。ただ祐樹を教授職にするためには自分が斉藤病院長の後釜に就く必要が有ったのでこれからは義務ではなくて自発的に教授会にも臨もうと内心で決意を固めたが――PC画面のみのチェックだと漏れが絶対に出ることは経験上知っていた。論文数こそ多くなかったものの、学生時代は同級生のレポート作成を代行した経験はそれこそ山のように有ったので、その時学んだ経験則だったが。
 秘書に頼んでも良かったが祐樹と自分の共同作業なだけに、弾む気持ちで「印刷」をクリックする。
 ページをめくって――というか未だコピー用紙に印字されたものに過ぎないが――感嘆のため息を零してしまった。
 野口陸士への返信で祐樹がでっち上げの才能「も」多分に持ち合わせていることは知っていたし、それに何より自分へと紡がれた珠玉のような愛の言葉の数々からして語彙量とか表現力に長けていることも実感として知っていた積もりだった。
 ただ、祐樹の文章を読んでいると、地震の時はそんなことは考える余裕がなかったものの、祐樹が絡んでさえいなければ自分が考えて行動しそうなパターンがやや大袈裟ではあったけれども、見事に再現されていて読む者に違和感を与えないのは素晴らしい文才だった。
 あの地震の際に救急救命室の北教授が日本に居れば当然自分の出番はなかった――あるいは指揮下に入って救急救命行為を手伝った――だろうが、救急救命に生涯を捧げている北教授はおそらくこうは考えないだろうな……程度は自分でも想像は付く。北教授にはいささか後ろめたい気分で本のことは知らせていたが世界レベルで救急救命医として認知されているだけあって拘らない感じで祝福して貰っていた。
 でっち上げの名人は自分が知る限り森技官が筆頭だと思っていた。ただ彼の場合手術ミスの画像――自分は見ていない――を母校から貰ったのか職権を濫用して押収したのかは知らないけれどもその画像を編集しただけだ。まあ、根本には呉先生への健気な恋心が有ったので基本的に憎めないし、被害が呉先生限定だったし今の呉先生は大変幸せそうなので自分としては言及する積もりも毛頭ない。
 しかし森技官はいわばPCを使ったでっち上げ画像とか口で巧みに言いくるめるのは得意だろうが、文章でここまで表現出来るかは正直微妙だろう。官僚だけ有って書類仕事も得意そうだが、提出する文書に心情表現など出てこないだろうし。
 その点祐樹は「いかにも普段の自分が考えそう」なことを繊細かつ大胆な文体と迸る熱意を感じる躍動感のある文章が素晴らしい。いささか誇張されているのが――これは一応記録文なので――気恥ずかしくないと言えばウソになるが、圧倒的な心理描写で読む人間を惹きこんでいくのは流石だった。
 同業者――といっても知り合いではない――にはベストセラー作家も存在するし、医師と作家は親和性が高いのかも知れないなと頭の隅で思いながら「理想の、そして教授職に就いている医師としてのあるべき姿」について衒いを感じさせないで「尤もらしく」書いてある祐樹の意外な側面を垣間見た思いがして、ついつい「小説」部分をむさぼるように読んでしまった。
 「講談師見てきたようにウソをつき」というフレーズが頭の中を過るものの、出来映えとしては完璧な「理想の医師」を描き切っていたので。
 そして誤字脱字や文法の乱れなども――ワードの原稿なので文法的に間違いだとPCが判断した場合自動的に表示される便利な機能は有るだろうが――全くなくて内心で祐樹の「小説」に称賛の言葉しか思い浮かばない。地震の直後の突然の特別休暇のトパーズ色に煌めく二人の日々に野口陸士のお母様の件で彼女が最寄りだと思われる大学病院にメールを送りその返信も文才溢れるシロモノで二人して感心したり笑ったりしていたが、祐樹の文章の方が才能を秘めていると思えるのは恋人としての贔屓目ではないだろう。
 強いて言えば、自分の文章と祐樹の文章が異なり過ぎる点が気になったが共著なので問題はないだろう。
 最終校正の積もりで一回だけ読もうと――それだけで暗記してしまえる特技は持ち合わせていた――思っていたのに「小説」の魅惑に惹かれて二度も読んでしまっている自分に気付いて唇に淡い笑みが浮かんだ。
 これなら身内の縁とかのいわば義理で買ってくれる人以外の、一般読者も納得してくれる出来になっている――愛する者の贔屓目では決してない――ので今想定している部数がどれだけ伸びるか自分にだって想像がつかない。
 サイン会とかテレビ出演が更に目前に迫って来たような気がして薔薇色の煌めきが心の中に弾けては、また浮かんでくるのが止められない。












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