クリスマス・イブに同じ系列の大阪のホテルのレストランを訪れたことは何回か有ったが、雑誌とかテレビとかで騒いでいるほどの混雑ではなかった。このホテルの価格帯の問題なのかそれとも「大人の上級の隠れ家」的な雰囲気に敷居も高く感じられるのかは自分には見当もつかない問題だが、バレンタインという「女性から男性にチョコを贈って告白をする日」という初々しさに満ちた日に――しかも平日だし――ホテル利用客は少ないらしいのが何だか密会めいていて心が薔薇色の泡が弾ける。
「いつも二人でチェックインするでしょう?
 まあこうして『非日常』の雰囲気を漂わせた廊下を二人で歩くとか、先程のロビーで人待ち顔で佇む貴方を見ているのもとても素敵なのですが……、先にどちらかがチェックインして部屋番号だけをメールで送って……部屋で愛を確かめ合った蜜のような濃密な時間を過ごした後にこっそり部屋を出ていくという他愛のない遊びなのですが。
 不倫の恋というか禁断の関係めいて何だか淫靡な感じが深まるかと」
 そういう趣向――不倫の恋自体はそれほど興味もなければ関心もなかったが――祐樹と愛の行為だけを愉しむ「イベント」なら大歓迎だ。
「部屋で待つ役は私がしたいな……。いや、それでは道後の時のように待ち焦がれて……居ても立ってもいられなくなる可能性があるので、メールを送って貰う方が良いかもしれない」
 隣を歩む祐樹の男らしく端整な横顔を見詰めながらあれこれと「愛人ごっこ」の計画を考える時間も蜜のように甘くて宝石のように煌めく大切な時間だった。
「この部屋ですね……。どうぞ」
 重厚な木材と思しきドアを祐樹が開けてくれる。ホテルの廊下はまだ「公共」の場所だが、このドアを潜れば二人きりの愛の空間だ。
「有難う」
 熱く溶けたチョコレートのように疼く身体の奥とか布地を押し上げて期待に震えている小さな尖りを妙に冴え冴えと意識してしまって、頬がさらに紅に染まっていくのを自覚しつつ、一歩部屋の中に踏み込んだ。
「そういえば肝心なことを忘れていました……。食事はどうしましょう?」
 恋人としての祐樹は完璧主義の傾向が強く出るが、今回はどうやら「入手不可能」なチョコのせいで調子が狂ってしまったのか、それともあんなに拒んでいた執務室での愛の交歓を許したせいなのかは分からないものの、割と規則正しい自分の生活時間帯では「夕食」の、そして患者さん次第という面も強い救急救命「センター」勤務のランダムな食事に慣れている祐樹との差だったのかも知れないが。
「食事よりも……祐樹が欲しい……。ずっとそう思っていた……」
 魂の奥からこみ上げる甘い情動のままに言葉を紡ぎながらコートを床へと落とした。
「世界中でたった一つだけのチョコを用意して下さった聡の愛情もとても嬉しくて天にも昇る気持ちなのですが、そうして甘く誘って下さる聡の存在そのものがチョコよりも匂いやかに薫り立って私を惹き付けて離さないのをご存知でしたか?
 チョコの包装よりも……聡の服を脱がすほうがよほど楽しみです。ベッドルームに参りましょう」
 口づけを交わしながらお互いの衣服を乱していく。ただ器用な祐樹の手には鈍い黄金色のチョコの箱がずっと存在していたが。
「せっかく祐樹のために用意したチョコだしっ……それに……今年はまだ包装紙の在庫があったので良かったが……来年からはこのピンク色の包みではなくなる可能性の方が高いっ……ので……」
 お互い生まれたままの姿になってベッドへと重なり合って崩れ落ちる。ただ祐樹の手は愛の手管に満ちていて薔薇色のため息を零しつつ、チョコに添えられていた手紙の内容を予め伝えた。
「え?来年も用意して下さるのですか。私だけのために……」
 ベッドサイドに置いた黄金色の箱が恭しく開けられた。
「来年だけではなくて……祐樹が要らないと言う年まで贈り続ける積もりだ……が……」
 紅色に煌めく包装紙からチョコを大切そうに出して口に放り込んだ祐樹は直ぐに唇を重ねて来た。
 ついでに紅色の包装紙を手に胸の尖りを強く弾く。
「あっ……」
 薔薇色の嬌声を紡ぐ唇を唇で塞がれて、すぐさま開けるようにと唇が唆してきた。
 チョコの中に入っている甘いリキュールがどちらの口の中に溶けだすのかを試す積もりらしかったが。
 甘いチョコを直ぐに祐樹の口へと返した。出来るだけ祐樹の口の中に有る時間を多く作りたくて。
 祐樹の滑らかな素肌の重みを感じながらチョコレートの甘美さを二人で楽しむという行為に背中が撓っていく。それにお互いの腹部で存在を主張している愛情の象徴もしとどに蜜に濡れては零れ落ちていたし。小刻みに身体を揺すり上げながら交わすキスの甘さはチョコレートの極上の甘やかさよりも自分を夢見心地にさせてくれる。
 それにチョコよりも熱く蕩けた身体の奥が祐樹を求めて妖しく動いていくのも。
 二人の口の中の熱さのせいで溶けたチョコの香りが寝室に媚薬のように薫り立って、素肌が奏でる水音と共に愛の湿度を上げていく。
 脆く崩れそうなチョコを祐樹の口へと移動させた。
 甘くて香りも豊かなリキュールを祐樹に味わって欲しかったので。











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すみません、リアルで少しバタバタする事態になってしまったので、更新お約束出来ないのが申し訳ないです!!






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        こうやま みか拝