祐樹と付き合い始めた頃から割と最近まで(祐樹はこういうプレゼントを嫌いそうだ)程度の認識はずっと持ち合わせていたが、今の祐樹なら意外と喜んでくれるかも知れない。
 その一心で、周囲の女性客の「驚いた感じの」視線を受けつつPCで閲覧したサイトのアドバイス通りの量を祐樹に似合いそうな色で揃えていくのは楽しいと言えば楽しい作業だった。
 色とか材質とか細さなどが多種多様に並んでいる売り場に女性客しか居ないのは想定内だったが、手に買うと決めた物をたくさん持って歩いているとこれまでに経験した――そしてその当時は全く気付かなかった――「異性に向ける好意的な眼差し」ではなくて「羨望」とか「尊敬」の眼差しで見られるのも内心意外だった。羨望とか尊敬の眼差しは厚労省に行った時などに同業の医師から良く受けているのでその程度のことは分かる。こちらが知らない人間でも先方は自分の経歴とか勉強熱心な人間は手技の画像まで見てくれているからある意味納得出来るが、この売場では「たまたま紛れ込んだ物好きな男性客」としか認識されていないハズで何故「尊敬」めいた視線を受けるのかが分からない。
 ただ、この場の女性達は皆満ち足りた幸せそうな仄かな笑みを浮かべていて、唯一の男性である自分にチラリと視線は向けるものの、商品の方を熱心に見ている感じが新鮮で良かったが。
 祐樹に似合いそうなモノを厳選して、色とりどりのモノを持つ自分の顔と左手の薬指を交互に見て納得めいた表情を浮かべた年配の女性の穏やかで慈愛に満ちた微笑みを浮かべられて内心怪訝な思いが過ったが。その女性に会釈めいたものを返してから指輪と商品の関連性について思いを馳せるものの、経験値も知識も少ない自分には全く分からない。
 これらの材料を使って無事に出来上がった時――祐樹が喜んでくれた場合にのみ――聞いてみようと内心で思った。何しろ祐樹の方が世間知も高いし年配の女性――患者さん限定だが――との他愛のない話しで盛り上がれるという特技を持ち合わせているので。
 予想していたよりも遥かに嵩張ってしまった紙袋――デパートのロゴマークの入ったごくごく普通のシロモノだが――中に何が入っているかは他人には分からない安心感と先程までの異物感を払拭出来たことに内心安堵しながらそそくさと売り場を後にした。
 今日の目的の一つは無事達成出来た細やかな達成感と共に、行きつけのフロアまで下りる。
 普段はその店舗に一直線に向かって必要な物を購入するだけだったが、今日はPCで予めチェックしていた数店舗に入って、品物を見比べるのも楽しい。
 それにこのフロアは独立した店がそのブランドに相応しい重厚感とか落ち着いた雰囲気を醸し出しているし、自分の着ているスーツ――祐樹がネクタイを解いてくれたとはいえ――がどのブランドの物なのか店内スタッフは一目で見抜いたようで、控え目で穏やかな笑みを浮かべて迎え入れてくれるのも居心地が良かった。先程のフロアでは場違い感満載だったが、このフロアを一店舗ずつ回ってどれが最も祐樹に相応しいかだけを基準にあれこれと思案するのもとても心弾む体験だった。
 嵩張る紙袋の中の物――それを無事に完成させても――祐樹が気に入ってくれるかどうかは未だ分からない。気に入ってくれなくても良いので使ってくれればそれで充分だという気もするが、今までは祐樹からの贈り物を「気に入って下されば嬉しいです」的な言葉と共に喜んで受け取ってきたが、こちらが贈る方に回ると「気に入って貰えるかどうか」が物凄く気になると実感してしまった。
 祐樹もこんな気持ちで指輪とかアクセサリーを選んでくれたのかと思うと何だか離れていても心が通い合っているようで心は季節に関係なく春風で満たされるような気がした。
 ただ、こちらの階の店舗――今日は下見なので購入予定はないものの――で選んだ物は間違いなく気に入って貰えそうな気がする。
 ただ問題は祐樹と一緒にこの店に来るという約束――祐樹は思いっきり誤解しているが――を取り付けるためには折鶴勝負に勝たなくてはいけない。
 祐樹も――持ち前の負けん気の強さも相俟って――救急救命室から攝子や鉗子を即座に調達して久米先生の特訓にかこつけて一生懸命復習というか練習をするだろうし、もともとの才能は祐樹の方が上なので油断は出来ない。
 「この店のこれにしよう」と心に決めて取り置きを頼んで店から出た。ポケットチーフなどの小物に至るまで自分の理想通りの発色の良さと上品さを兼ね備えていて、祐樹にはとても似合いそうなお店――PCのサイトでも気に入ってはいたものの、実際の商品を見てからでないと安心出来ない――を発見出来て本当に良かった。
 ただ、問題は祐樹をこの店に連れて来られるかどうかに掛かっている。
 祐樹だって例の神憑り手技の画像の解説スピーチの原稿を英語で書くなどの準備に抜かりはないものの、アメリカの学会の講演壇に立つ人間がどのような服装をすればよりいっそう説得力が増すかなどの――あの国では内容はもちろんだが、外見とか身なりも日本以上に重要視される――細かい配慮が出来るのはアメリカでの勤務歴のある自分こそ誰よりも適任者だろう。
 手技の合間を縫って学会にも割と真面目に参加しておいて本当に良かったとしみじみ過去の自分を褒めてやりたい気持ちになった。
 その頃から祐樹のことは片想いの対象だったが、まさかその本人のために色々と用意出来る身の上になれるとは当時の自分には思いも寄らない幸福さを噛みしめつつ百貨店を出て病院に戻るためにタクシーに手を上げた。
 嵩張る紙袋も期待と不安が込められた愛情のびっくり箱のような存在で、出来上がるまでは祐樹には絶対に内緒にしておかなければならないと甘やかな清涼感が心を満たしていく。
 独りで買い物をすることは多かったものの、ごくごく事務的な買い物しかしてこなかっただけにこんなに楽しいと思ったことは過去に一度もないような気がする。祐樹と一緒の時は常に楽しかったが。











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        こうやま みか拝