「ええ、もちろんです。以前お贈りした指輪――私の母からの譲り受けた物はまた別の付加価値が貴方に有るでしょうが――よりも更に貴方がつけるのに相応しいグレードだと自負はしています。それに貴方のこの細く長い指にはこういうシンプルなデザインも良く似合うと思ったので。
 普段使いに付けても差支えがないですし。既婚の医師、特に夫婦仲が円満なことをアピールしたい教授などは付けて入らっしゃいますよね?あれと同じです」
 ハート形のイチゴを作っていたためにより一層紅色に染まっている細く長い指と同じような紅色が端正で怜悧な容貌を歓喜の紅色に染められていくのも筆舌に尽くしがたいほど綺麗だった。
 本当に「初夜」を迎える初々しい花嫁――今時の女性ではなくて江戸時代とかの正真正銘の「初めて」といった薄紅色に染まった怜悧な表情を愛おし気に眺めた。
「ただ、私が未婚なのは周知の事実だが?
 祐樹は『選り好み過ぎて』とか『理想が高すぎて』などの理由でナースとかが諦めの気持ちでいることは知っている。ただ、私の場合はそういうわけでもないので……言い訳に困るだろう……貰えるのはとても嬉しいが……」
 最愛の人の紅色に染まった煌く眼差しの瑞々しさの中に戸惑いの光が宿っているのも、とても綺麗で思わず見惚れてしまった。
 それに最愛の人は自分が地位や名誉に拘る人ではないので全く気付いていないようだが――そういう点も含めて愛して止まない――祐樹のチョコ獲得数と比較して自分が少ないのでモテないと勝手に思い込んでいるだけで、実は隠れファンも多いけれども教授という「雲の上」の職階かつ、独身なので恐れ多いと自粛してしまっている女性が多いだけで祐樹と同じレベルの職階にとどまっていたら話は全く異なることを気付いていないだけだ。
 同じ教授職でも妻帯者かつある程度の年齢だったら「義理チョコ」の山で埋まるだろうが、最愛の人の場合世間的には適齢期――祐樹が必死に牽制している面もないではない――し、以前の職権濫用の忌々しい産婦人科の准教授のように職階が近ければ「教授職狙い」の女性の山が出来るだろうが、大学病院のヒエラルキー制度が色濃く残る職場なだけに一介の女性医師レベルやそれ以下の女性は「高嶺」過ぎてチョコすら渡せないことを多分自覚してはいないだろう。
 最愛の人の場合頭脳の働きは明晰過ぎて祐樹も敵わないと思ったことは多々あるが想像力とか情報分析力に欠けているきらいがないでもない。
 そういう点は祐樹が補えるので何の問題もないし、むしろもっと頼ってくれれば嬉しいと思うのは恋する男の贅沢すぎるワガママなのだろうが。
「職場で気付かれて、怪訝な目で見られた場合『愛を交わした約束の印の指輪です。ただ、実現は諸般の事情でいつになるか分かりませんが』と懐かしそうに、そして少し悲しそうに指輪を見つめて微笑めば相手はそれ以上その話題を突っ込むことはしませんよ。
 それでも更に聞いてくる人間が居たら『とても悲しそうで、そして曖昧な意味深な笑みを浮かべるながら指輪を見詰める』だけで大丈夫かと。貴方よりも職階の下の人間はそれだけで充分に黙るでしょう。多くは語る必要もないですし、貴方が黙って少し悲し気に微笑めばそれで充分です。
 受け取って頂けますか?」
 一見すれば何の変哲もない、そこらのブライダル専門店とかで売っているプラチナのシンプルな指輪だが、実際はかなり精緻に計算されつくした流れる水を模した模様が刻印されている逸品中の逸品だった。祐樹も同じデザインの指輪を一緒に購入したものの、病院で付ける積もりは毛頭ない。何しろAiセンター長の業務には差支えのなさそうな指輪だが、救急救命室ではいつ何時患者さんの搬送が有るか分かったものではない業務だし通称「凪の時間」には医師やナース達もそれぞれ思い思いに寛いでいるので指輪――しかも左手の薬指だ――が見つかれば詮索の的になろだろうし、柏木先生や久米先生辺りは容赦なく聞いてくるハズだった。それに本来の所属先の医局では一介の医局員に過ぎないし「香川教授の懐刀」としてある意味恐れられてはいるものの、反感を買っていないわけでもないので好奇心の目も――医師だけではなくナースからもだが――向けられていることも充分弁えていた。
「もちろん。喜んで受け取る。これは病院内でも付けていても構わないのならなおさら嬉しい。
 有難う、祐樹」
 紅色の眼差しが薄い涙の膜を浮かべている。ただ、その涙が薔薇色の歓喜に因るモノだと分かっているので、祐樹も極上の笑みを浮かべて苺の香りのする紅色の指に指輪を恭しく嵌めた。
「こちらも開けてみても?」
 本来ならば最愛の人が開けるべき包みだったが、苺色に染まった細い指の瑞々しい甘さをもっと見ていたくてそう提案した。
「ああ、もちろん。お揃いの……指輪……?」
 最愛の人の眼差しに水色の無垢な煌きがダイアモンドよりも綺麗に瞬いている。
「そうです。ただ、私は病院内では付けられませんが……。お揃いだと見抜く人間もいるでしょうし。それに詮索好きな医師に根ほり葉ほり聞かれますので。
 ただ、休みの日にどこかに出かける場合には――貴方のダイアとかルビーの指輪のように――身に付けます。
 実質上の結婚指輪として受け取って貰えますか?
 私も久米先生のことを『気が早い』とか『順序が異なる』とか言って揶揄出来ませんね。
 『初夜』に結婚指輪を用意してしまっている時点で……。
 それはそうと、柏木先生の結婚式の時に交わした約束を覚えていらっしゃいますよね?あの時の誓いの言葉をもう一度申し上げても良いですか?」
 あの時にはあれで充分だと思ってはいたものの、どちらかといえばマイナス思考の強い最愛の人のことを慮って若干変えようと思いつつそう提案した。


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バレンタイン編、待っていて下さる方がいらして嬉しいです!!
ただ、私のバカな頭が時系列を滅茶苦茶にしてしまったのを更に多くの皆様に晒してしまうようで大変気が引けるのですが(汗)とにかく、完結だけはします。暇を見つけての不定期更新になりますが宜しくお願いします!!

こちらは、諸般の事情で凍結せざるを得なくなった前ブログからの続きになりますが(私の作品としては)短いので、前が気になる方はこちらへ飛んで下されば嬉しいです!


ややこしくて申し訳ないのですが、書庫は「バレンタイン(クリスマスの後)」です。

こちらは「夏」→クリスマス→バレンタインという時系列です。(ただし辻褄が合っていないという致命的なミスをやらかしてしまったという黒歴史が……)18話まで有る話の続きになります。







最後まで読んで頂いて有難う御座います。
           こうやま みか拝