「花園の真紅の花びらから白い蜜が滴っているようで、とても綺麗ですね」
 今まで花園の中を確かで熱い質量で満たしていた祐樹の愛情と欲情の楔が引き抜かれて、その部分から零れ落ちた白く熱い真珠の雫が太ももへと滴っていく感触すら薔薇色の悦楽に変わっていく。
「立てますか?今度はこちら向きで」
 祐樹の甘く熱い眼差しが確かめるように顔に当てられるだけでシャンパンの泡のような細かい悦楽が心の中で弾ける。
「大丈夫だが……?」
 「し残したこと」が何かは分からないものの、祐樹とこうして二人きりになっている時が一番幸せな宝石のように煌めく、そして甘い蜜のように心と身体を溶かしていく時間なのは確かなので祐樹の言葉通りに立ち上がった。
「愛の交歓の痕跡を肢体のあちこちに残して、甘く薫る素肌の聡が一番綺麗でずっと眺めていたいのですが、『御礼』をするのを忘れていました。
 推薦状を書いて下さったことや、学会発表用の原稿の推敲をお願いしたでしょう?
 つい恋人としての気安さから図々しく頼んでしまいましたが、本来ならば教授職の方にモノを頼むにはそれ相応の御礼が必要なのです」
 大学病院勤務歴――少なくとも研修医とか医局員としての経験は皆無だ――からして祐樹の方が病院の慣習というか因襲を良く知っているのでそういうものなのだろうかと思ってしまう。
 昨夜から一睡もしていないだろう祐樹が眠っている暇つぶしが第一の目的だったので割と軽い気持ちで書いた推薦状だったが、祐樹にはそうは思われていない感じだった。
 それにアメリカ時代の経験とか人脈を使えば英語の推薦状を書き上げることとか然るべき人間に送り付けることは自分にとっては簡単な作業で、そんなに労を要することはしていない。アメリカの医学会の方が日本の何かしら面倒な旧弊さを未だ頑なに残している学会よりも自分にとっては親しみやすいシロモノだった。それにメインはNHKのカメラマンがたまたま撮っていた神憑り的な手技の画像だったので、自分の推薦文はむしろ「おまけ」のようなもので、そんなに感謝されるほどのことをしたという自覚も全く持っていなかった。
 それにこの話が教授執務室で交わされているならまた話は別だが、第二の愛の巣のホテルの密室だし、しかもこの部屋に居る時は「愛の時間」と決めているようだったので「御礼」も堅苦しい話にはなりそうにない。
「私はお金など……。それより祐樹の愛が欲しい」
 甘えるような声で小さく本音を呟いた。充分愛されている実感はあるものの、さらにと望んでしまうのはワガママかもしれないが。
「金銭に恬淡とした人なことは充分承知しています。ただ、教授の推薦状、しかも差出人が他ならぬ貴方なので、物事がスムーズに運んだことも事実でしょう?世界レベルで名医と認知されている日本の医師はそう多くはないハズです。そういうことも考え合わせると金銭で支払うのは無理なので、愛情と身体で支払います」
 絨毯が敷き詰められている床に座ったままの祐樹が凛然とした表情と熱い眼差しで見上げてきた。
 「身体で支払う」というのはつまり、愛の行為の続きなのだろうと思うと甘い予感に心に薔薇色の雫がシャンパンの泡のように弾けては湿った素肌を熱く染めていく。
 足を折った形で座りなおした祐樹が足元に跪く格好になって、意外さの余り呆然と立ち尽くしてしまう。告げるべき言葉が見つからなくて、唇が空回りしてしまうもどかしさを久しぶりに実感した。
「ゆ……祐樹っ……そんなことは気にしなくてもっ。あっ……」
 足の指に恭しく唇を触れられたかと思うと足の指の付け根に向かって舌が這わされた。
 心だけでなく身体ごと愛してくれる祐樹との夜を重ねたせいで――しかも祐樹は愛の仕草が物凄く上手だ――足の指の付け根も弱い箇所なのは知ってはいたが、こういう格好では愛されたことがなくて、驚き交じりの甘い声が上がってしまう。
「ゆ……祐樹っ……。そんなことはっ……しなくて良いのでっ」
 実力に相応しいプライドの高さを――逆に自分は手技以外に矜持を持てるモノがないことを祐樹に指摘されて暖かい笑いを浮かべられたことは有った――持ち合わせている祐樹がある意味屈辱的なことをしてくれているという奇妙な背徳感と高揚感で足の付け根の悦楽が背筋から頭に薔薇色の細い閃光を放って背筋が仰け反った。
「最愛の聡だけにしか、こういうことは致しません、よ。
 聡にはそれだけの価値が有ることをいい加減自覚して戴きたいです。私が跪く相手は地球上で聡一人ですので」
 濡れた足の指の付け根に熱い息が掛かることすら薔薇色の悦楽が背筋を奔って脳を甘く溶かしていく。
「それ……気持ちは良いがっ……。ベッドの上で……続きをっ」
 背筋が傾ぐせいで身体のバランスが取り辛い上に普段なら支えてくれる祐樹の腕は――怪我で使えないという現実もあったが――床に付けたままだったので、覚束なさの余りにそう強請ってしまった。
「ベッドでは……御礼にはならないでしょう……。ああ、こちらへ来て下さい」
 何事にも目敏い祐樹に思っていたことを見抜かれたのか、上半身を起こした祐樹の右手が恭しく差し出された。
 ベッドの中だったら、自分もお返しの愛の行為が可能だったのに……と思うと少しは残念な気もしたが、祐樹の甘いエスコートに身を委ねた。











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本日は【二話】更新を目指しますが、二時間を目途に更新されなかったら「力尽きたんだな」と思って下されば幸いです。

 
ちなみに時系列的には「夏」→「震災編」です。


最後まで読んで下さいまして有難う御座います。
                    こうやま みか拝