「祐樹のお母様にも報告をした方が良いと思う。やはり、こういう場合は血の繋がったお母様が一番喜んでくれるだろうし」
 祐樹は一瞬凛々しい眉を寄せたものの、しぶしぶといった感じで携帯電話を取りに行った。
「あ、もしもし、オレだけど……」
 祐樹が手招きしてくれたので通話が聞こえるほどに密着した。
『怪我の具合はどうなの?聡さんに迷惑は掛けてないでしょうね?掛けていたら承知しないからね!』
 祐樹が広い肩を竦めて半ば笑いながら自分を見詰めてくる。
「掛けてない。それよりも学会に招待されてアメリカのニューヨークに行くことになった。それを知らせろと言われて仕方なく電話しただけで」
 自分と話す時よりも気を許しているのか割とぞんざいな感じなのも肉親という血の繋がり故だろう。
『学会?私が通っているクリニックの先生だって、学会のため休診とか普通にあるのよ?祐樹がサボって行かないだけじゃない?大学病院が忙しいとか何とか言って、あんたって子は……いつも何かしらの尤もらしい理由を付けてサボるクセが有ったもの。その才能だけは誰に似たんだか……』
 盛大なため息が素肌をほぼ密着させている祐樹と電話越しに同時に聞こえて、思わず大きな声で笑ってしまった。
「母さんと話していても疲れるだけなんで、彼に代わる。その方が母さんも嬉しいだろうし」
 広い肩を竦めながらも笑みを弾けさせた感じで携帯電話を手渡された。
『最初から聡さんが掛けてくれれば良いのに、気が利かないったら……』
 祐樹のことを「気が利かない」と評価するのはお母様だけだろう。病院関係者とか患者さんの信頼はすこぶる厚いので。
「もしもし、替わりました。彼の傷の経過は大変順調です。
 NYの学会なのですが、ただ聴きに行くのではなくて、今日の祐樹の見事としか言いようのない手術をたまたまNHKのカメラマンが写していたので、それを世界的権威の教授に推薦状を付けて映像も送ったところ、術式説明というか、どういう状況の患者さんにどういう処置を行ったかということを祐樹自らがNYの演台に立って世界中から集まる心臓外科の救急救命医に説明する役目なのです。
 心臓外科の救急救命に関わる医師達に、こういう処置を施したということを説明する役目でして、この学会で説明役をした日本の医師はウチの病院では北教授が五回、東大病院の教授が一回ですね。その他の国公立大学も教授クラスしか記憶にないです」
 電話の向こうで絶句とかため息などが聞こえているので一方的に話しを続けた。
『まあ、そんな重要な役目をウチの愚息が……』
 「愚息ってアンタが産んだんだろ」と祐樹がすねたような呟きを漏らしたが、明るい笑みを漏らしながらだったので、肉親の気安さなのだろう。
「はい。あまりにも手技が素晴らしかったので、推薦状を書かせて戴いた結果、招待状が届いたというわけです。ウチの病院では救急救命の権威でもある北教授に次ぐ快挙なだけに、是非お母様にも喜んで貰いたいとお電話をした次第です」
 こういう説明をしないと喜びを分かち合えないのが――それが良い悪いではなくて――一般的なのだろう。即座に喜びを分かち合える祐樹を恋人に持った自分はきっと世界一の幸せ者だと心の底から思った。
『それは……とてもお目出度いことだわね、愚息のために聡さんが推薦状を書いて下さったのね。本当に有難う。
 貴方達がテレビの画面に映らなくなったので、他のチャンネルも観ていたのだけれど、北教授のことは解説者がベタ褒めをしていたわ。
 そんな偉いお医者様――もちろん聡さんは別格よ――とウチの愚息が肩を並べるなんて……。それに東大病院の教授も一回きりしか呼ばれていないのでしょう?
 普通の勤務医が、そんな晴れがましい場所に出られるなんて……』
 心の底から嬉しそうなお母様の声が電話越しに聞こえてきて唇の笑みが深くなってしまう。
「普通の勤務医で悪かったな……。どうせ聡と『今は』比べ物にならないのは分かりきっていることだろ」
 祐樹がふて腐れたような声で小さく呟いたが多分お母様の耳には入っていないだろう。
『それもこれも皆、聡さんのお蔭です。あの後、ご近所からとか町内会の会長さんからとか色々な人が『テレビを観た。立派なお医者さんに育てられた田中さんは凄い』とか褒められたけれど、その褒め言葉は全て聡さんに伝えたかったのよ。
 至らない息子ですけれど、これからも宜しくお願いね』
 何だか泣き笑いのような感じの声が電話越しに聞こえてくる。
「いえ、私も不束者ですが、今後ともどうか宜しくお願いします」
 祐樹に電話を替わろうかと思って表情を確かめると「不要」というジェスチャーをされたので電話を切った。
 その途端、祐樹は愉快でたまらないといった感じで笑いを爆発させていた。
 変なコトを言ってしまったのだろうかと、祐樹の顔を少し不安げに見てしまう。ただ、暖かい笑いの空気は二人の間に流れている。
 何だか愛情を根底にした別の心の繋がりを持てたような気がする。











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しかも更新時間がマチマチになるという体たらくでして……。
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                   こうやま みか拝